ELIGHBLE BLOODS 第9話
【正常ならざる日常】



「三橋くん、ちょっといい?」
「えっ?」
 とある金曜日の二時間目の休み時間。三橋玲は声をかけてきた相手を慌てた様子で見やった。
「な、なに?並木さん」
 彼の横に立っているのは、三橋が密かにあこがれているクラスメート、並木美奈である。
「ちょっと、先週のノート見せて欲しいんだ。家の都合で学校に来れなかったから。ダメかな?」
「あ、う、うん。いいよ。ボクのでよかったら。……はい」
 両手をお願いするように合わせて頼む並木に、三橋は顔が赤くなるのを自覚しながらノートを差し出す。
「ありがとー!三橋君のノートって丁寧だから読みやすいんだよね。あ、お昼までには返すから」
「い、急がなくていいから」
 自分の席に戻っていく並木を見送り、三橋の口元に笑みが浮かぶ。が…
 (ごいん)
「でっ!?」
 いきなり後頭部を張り倒され、机に突っ伏した。その張り倒した人物は…
「よぉ、玲。なーにニヤけてんだよ?」
「あ、神瞳か…何でもねーよ」
「そーか?俺が見る限り、」
 話しながら、神瞳貴則が三橋の前の席に座る。
「憧れの女の子にノートを貸せてハッピー、とか思ってる青春真っ只中な青少年に見えんだけどなぁ〜?」
「…見てたのかよ。悪趣味だな」
 ニヤついた顔でそう言った神瞳を、三橋は嫌なものでも見るような目つきで見返す。
「まあそうとんがんなって!悪かったよ」
「お前の場合、その言葉は本心なのか分からねー。飯おごれ」
 憮然とした表情で言った注文に、神瞳が反抗する。
「はぁ?なんでテメーなんぞに飯をおごらにゃなんねーってんだよ!」
「俺の精神的苦痛に対する慰謝料だよ。四の五の言わずにおごれ」
「やだね」
 呆れ口調でそう言って、神瞳は自分の席に向かった。
「なあ、頼むよ神瞳。今月金ねーんだよぉ」
「金ねぇって…玲、お前先週あったライヴの代金は?」
「あんなもん、機材の調整終わらせたら残りはカスみたいなもんなんだよ。いーよな、ボーカルは金かかんねーんだから」
「ふっ。羨ましければ敬うがよい!」
「へーへー。しんどうたかのりさまはおえろうございますよ。…だから飯おごれ!」
「お前、ケンカ売ってんのかよ?…まあいいや。今日だけだぜ?」
「サンキュー!助かるぜ!!」
 二人がそんな話をしていると、神瞳の目の前の席でノートを写していた並木が振り返った。
「あ、そだ。神瞳、あの服どうだった?」
「あ?…ああ、あれか。結構気に入ってるぜ。センスも良いしな」
「でしょでしょ?あたし料理の腕とデザインセンスには自信あるんだ」
「そだな。お前の弁当、毎回絶品もんだか…」
 言葉の途中で飛んできた消しゴムを目の前で受け止め、並木に投げ返す神瞳。
「ま、今度も頼むわ」
「仕方ないわね。駅前の激辛カレーね?」
「りょーかい」
 神瞳との会話を終え、並木はノート写しを再開する。
 その時になって、神瞳は真横から突き刺さる殺意に意識を向ける。
「ん?どーした玲」
「神瞳……」
 その眼を見ただけで石化するかのような凄まじい形相をした三橋は、神瞳のまん前に顔を近づけた。
(お前、さっきの会話はなんなんだ!?)
(さっきのって…ああ、並木とのやりとりか?)
 囁くように怒鳴っている(?)三橋に合わせて、神瞳も小声になる。
(ま、まさかお前…並木さんと付き合っ…)
「はぁ?なんでそーなるよ!?」
 飛躍しすぎな感じもする三橋の問いを、神瞳は大声で否定してしまう。
 周囲の目が集まるが、それも少しずつ散っていく。
 まあ、最後まで胡散臭げな表情で振り向いていたのは並木だったが。
(とにかく、なんでそうなるんだよ?)
(なんでもなにも、今のはデートの約束なんじゃねえのかよ!?)
 器用に小声で絶叫を続けている三橋に、神瞳はデコピンを食らわした。
「ばーか。この前叉紗の服を買いに行ったときのことだよ。女物の服は今一わかんねえから、たまたま会場で顔合わせた並木に手伝ってもらった、それだけだ」
「なんだよ。叉紗ちゃんの服か。驚かせるなよな、全く……」
「お前が勝手に騒いだだけだろーが。…ほれ、浅木ちゃんがきたぜ?席もどれ」
 神瞳が扉を指差すと、殆ど同時に扉が開いて担任が入ってくる。
「はい。授業始めるわよ」


 今朝から、誰かに観察されている。そんな感覚を覚えつつ、神崎龍司は校庭を見渡した。
「…気に食わない」
 そう呟いた神崎は、横から来た視線で我に返る。
「何が気に食わないって?神崎。わたしの授業に文句でもあるって言うんじゃないだろうな?」
「…いえ。ありません。ごめんなさい」
 慣れていなければ硬直してしまいそうな笑みを浮かべる担任兼四時間目の教師である葛城静香の問いに、神崎龍司は素直に謝った。
「そうか?なら、今の所を前行って解いてみ?」
「…はあ」
 教科書を持って前に出ようとした神崎だが、その眼前に葛城の手が差し出された。
「授業、ちゃんと聞いてれば教科書なくても分かるだろ?手ぶらで行って来な」
「…まじっすか?」
「おう。まじもまじ、大マジメ!」
(この人は、苦手だ…)
 そんな事を思いつつも、神崎は教科書を置いて笑顔を浮かべる葛城の横を通って黒板に向かった。

「災難だったわね、神崎君」
 授業が終わってすぐ、斜め前の席にいた黒沢瞳が声をかけてきた。
「…そうか?いつものことだろ」
 冷たくそう言った神崎は、席を立って廊下に向かう。
「あ。神ざ…」
 話をしようと口を開いた黒沢だったが、神崎に立ち止まるつもりが無いのを見て口をつぐんだ。
 少し寂しげな表情を浮かべた黒沢だったが、
「瞳?どうしたのよ」
「あ、ううん。何でもないの…」
 通りかかった親友の声に笑顔で返して、黒沢は自分の席に戻った。

 

◆◆◆     ◆◆◆     ◆◆◆


 昼休み、食堂に神瞳と玲は向かい合わせに設置された椅子に腰掛けていた。
 神瞳の手に持たれたある物体を見ながら、玲は目をランランと輝かせている。まるで楽しみにしていたオモチャを目の前にした子供のようだ。
 だが、そんなことを言えば速攻で拳が飛んでくる為に、神瞳は喉まで出かかっていた言葉をなんとか飲み込む。
 普段からこういうことには慣れていなかったために、少々苦労したが。
 そのまま手に持っている物体を左に動かせば、その南国の海を思い浮かばせる透き通った水色の双眸が同じ方に寄る。
 今度は右に、玲の視線は逆側に移動した。
 ……おもしれぇ。
 浮かび上がりそうになる揶揄を含んだ笑みをなんとか隠しながら、神瞳は手に持っている物体―――並木 美奈のお手製弁当を左右上下絶え間無く移動させていく。
 やがてその行為が数分間続いたところで、ようやく反論してくれない玲に虚しさを感じ、弁当を差し出すと、いつもだったら考えられないほどのスピードで手から引っ手繰る。
 どうやら弁当に夢中で他の事は目に入らないらしい。なんて純粋なダチなのだろうか。
 込み上げてくる笑いの衝動を抑え切れず、神瞳は腹を抱えて失笑する。
 だが、そんなことはお構い無しの玲は丁寧な手付きで弁当を包んでいるバンダナを解いていく。そう、慎重過ぎる故にかなりの遅いスピードで。
 先ほど自分の手から弁当を引っ手繰ったスピードは何処から出たのかと突っ込みたくなるが、今はそれよりも目の前にいる友人の異常に近い恋心に呆れの感情しか浮かんでこない。
 ふと、自分には感じた事の無い感情をバカにする自分が、急に腹立たしく感じた。
 確かに、自分はこれほど他の誰かを好きになったことが無い。好きになったといっても、所詮は友人レベル。同性もほとんど変わらない。
 クラスメイトの並木だって、目の前にいる親友だって、別に弁当を作ってくれても感謝のひとつで終わってしまう。叉紗が作ったら逆に怒るであろう。
 自分ってもしかしたら嫌な奴か? と思い自嘲を漏らすと、今度は目敏くそれを見た玲が問いの視線を投げ掛けてくる。
「べっつにぃ。純愛君は素晴らしいねって思っただけだからぁ〜」
 自嘲をそのまま揶揄の笑みに置き換え、神瞳は自分の分の昼食を買おうと券売機の前まで移動する。
 ズボンの後ろポケットから財布を取り出し、中身を覗いてみると結構寂しいものがあった。
 バイトもろくにせず、遊びまわっているのだから仕方の無いことなのだが、どうも納得がいかない。
 『未成年は飯がタダになりゃいいのに!』などと身勝手極まりないことを心中でぼやきながら、財布の中身の1/3を使ってから揚げランチの券を購入する。
 コインを入れるときになるチャリンチャリンという音が、こういう時だけは妙にイラ立たしい。
 まるで金欠な自分を嘲笑っているように聞こえるから。
 男女のざわめきをBGMにしながら、神瞳はゆっくりと自席に戻ると、そこには地獄が待っていた。
 いや、地獄というのは比喩。
 正確には並木 美奈が仁王立ちで、しかも自分のことをものすごい睨みを利かせていたのである。
 思わず、手にしていたトレーがずり落ちそうになるのを慌てて直す。
「し〜ん〜ど〜う〜! あたしが楽しみにしてた激辛コロッケ食べちゃったでしょ!? どうしてくれるのよアレ楽しみにしてたのに!」
 怒りのオーラというのは常人にも見えるものなのかと思い、即座に否定する。
 そう言えば自分は既に常人ではなかったのだ。
 とにかく、今この場のピンチを切り抜ける為の作戦会議が開かれた。


『作戦その1 とにかく誤ってみる作戦』
「ゴメンな。ホンット悪かったよ。もうしねぇから」
 この言葉に対する向こうの反応はおそらく、―――ストレス発散という影の目的を持った鉄拳制裁。

『作戦その2 反論作戦』
「うるせぇな。いつものことだし気にすんなよ。そんなんだからボーイフレンドの一人もできねぇんだよ!」
 この言葉に対する向こうの反応はおそらく、いや、間違い無く―――鉄拳制裁13連発。

『作戦その3 男気作戦』
「俺が完全に悪かった。俺も男だ、好きにしろ」
 まちがいなく、―――瞬獄殺。


 結局、どれをとっても痛覚というものを感じる結果となってしまう。
 しかも『激』付きの可能性が特に高いのは、並木の背後にただよう怒りのオーラがそれを象徴している。
 打開策がこの3つしか上がらなかったことも結構情けない事だが、そんな自分なのでしかたがないと割り切る。が、なんの解決にもならないのは事実。
 やがて美奈の顔に笑みが浮かぶ。しかし、怖いのは何故だろう?
 背後に漂う怒りのオーラは変わらず、神瞳を威嚇するかのように風も無いのに漂っていたりする。まさに、人類の神秘。
 色々と策を練ってはみたが、やはり自分はこういう事には向いていないということを自覚するという結果だけが残った。
 こうなったら、なるようにしかならない。
 並木が発する殺意のオーラを見て硬直する周りの連中のことなどは眼中に入れず、ふと、玲の反応が気になった神瞳が視線をずらしてみれば、そこにはこちらのピンチを知ってか知らずか、幸せそうに顔の筋肉を弛緩させまくって弁当にがっついている玲のツラが飛び込む。
 とりあえず、その幸せヅラに拳のひとつを想像の中にて叩き付け、再び視線を正面―――並木の方へと向ける。
 溜め息とみせかけて緊張をほぐす吐息をしてから、神瞳は並木の肩に腕を回した。
 親友に話しかけるようなその馴れ馴れしいと言っていいほどの行為に、硬直していた連中にヒビが入り、玲は2段飛ばしで砕け散っていた。
「悪かったって。なっ? だってお前が『絶品だ絶品だ』って自慢するからどんなモンなのか気になんじゃん。だからちょっと食ってみたんだけど……」
 そこで一旦区切りをつけ、横目でチラリと並木の表情を覗いて見れば、殺気がこもった瞳と真正面からぶつかる結果となる。
 一瞬、苦笑を浮かべそうになるがそれを堪え、神瞳は再び会話を続けた。
「でさ、美味かったぜ、すっごく! お前が自慢するのも分かるぜアレ」
 明るい笑みを向け、神瞳は声を必要以上に大きくして話した。
 ここはさっさと話題を話尽くして違う話題へと移行する作戦だったのだが、焦りの余り触れてはいけない話題にまで口を出してしまったと気付いたのは、その直後であった。
 ゆっくりと神瞳の腰に片手をしっかりと巻きつける並木を、神瞳は不思議そうに眺めていたが、次の瞬間には余裕の笑みが消え、諦めにも似た笑みへとそれは変わっていた。
「言いたいことは…それだけ?」
 『何処から出した?』という問いの言葉を息と一緒に飲み込む音が脳に響く。
 並木の右腕はしっかりと、捕らえた獲物を逃がすまいとカニのハサミの如く絞めつけ、その左腕には神瞳にとっては見慣れた物でも、周りの平和ボケしている連中にはお初にお目にかかろう代物―――釘バットが握り締められているのが視界にクッキリハッキリこれでもかというほど入る。
「随分とレトロな武器を選んだな」
「でも、威力はお墨付きよ。こんなこともあろうかと夜なべして作ったのぉ〜(はぁと)」
「そらまた、準備の良いことで」
 にこやかに天使の笑みを浮かべる顔とは裏腹に、その首から下からはまるで別人。凶器を握り締めたバケモノが存在していた。
 猫撫で声というのが、これほど嫌なものだということに神瞳は初めて気付く。これでまた、いらない知識のひとつが頭にインプットされる。
 が、ここで黙っている神瞳ではない。
 伊達に『風神』などとは呼ばれてはいないので負けるわけにはいかない。いや、負けるはずが無い。これはもはや二人にとって男と女の戦いと化している
「上等じゃん♪」
 神瞳の顔にも笑みが浮かぶが、それを見た連中はまたもや固まる。
 冷や汗が背中を伝うのがハッキリと自覚できる周りの観客たちの心配を他所に、まるで何も知らない人物が訪れでもしたら、仲良く抱き着いているようにも見えるこの状態に揶揄を孕んだ笑みを浮かべる事は間違い無いだろう。
 が、今の二人を見たら誰も『仲が良い』とは言えない。絶対に、だ。
 周りの連中の頭に『ビックブリッヂの死闘』が流れ始める。しかもかなりのハイペースで。
「あ、あの…キミたち……」
 勇気有る一人の男子生徒がタジタジながらも二人の傍へと歩み寄る。
 周りにいる生徒たちのウチの数人が緊張に唾を飲み込む。
「ンだコラァ!?」
「なによ!?」
 刹那、関係の無い第3者が割り込んできたことによって、二人の怒りの矛先は邪魔者と判断される勇気有る男子生徒へと移る。
 あまりの気迫に―――あえて勇者と呼ぼう―――勇者は2,3歩後ずさりするが、周りの目もあってなんとか踏み止まったものの、言葉が口から出ない。
 まるで魚が呼吸でもしているかのように小さく口パクするだけの勇者を見て、さらに二人の怒りにとり付かれた悪魔の怒りに拍車をかけるだけであった。
「ンだテメェ、ハッキリ喋れ!」
 叫びながら神瞳が勇者の胸倉を掴み、手首を返して吊り上げる。
 怯えた勇者の顔を睨みながら、その手に力を少しずつ抜いていく。
 やがて床と足が密着したと同時に、勇者はその場にへたり込んで後ずさりして逃げていくのが二人の視界の端に入るが無視。
 そのまま神瞳も並木の方に視線を戻す。
 いつの間にか、二人は密着状態から離れていた。
 おそらく、勝負する気があることに気付いた並木が、神瞳は逃げることはないだろうと思ったからだろう。
 腕まくりして対峙する二人を止める者はもうここにはいない。
 これからケンカを勃発しようとしている二人にしては幸いな事、観戦側としては緊張の為に手に汗を握ってその行く末を傍観。
 一番困っているのは気の弱い生徒たちと、二人を止めようにも止められない教師数名。
 ……火花が散った。


 ―――もはや子供のケンカである。
 床の上でお互い、自分に有利なマウントポジションの取り合いの為にゴロゴロと転がり回っていたのだった。
 先程と同じように、見様によっては勘違いする輩も現れるかもしれない。
 ……そう、例えば。
 今、食堂に足を踏み入れたばかりの神崎龍司など……

 

◆◆◆     ◆◆◆     ◆◆◆
 


 少し遅れて食堂に到着した神崎は、そこに一歩足を踏み入れ、180度回転したい気分にさらされた。
 床の上で取っ組み合いのけんかをしている、某知人二人が、嫌でも目に入ってきたからである。
(へ、平常心だ平常心!あいつらは俺とは関係ない生物だ!)
 そう言い聞かせながら何とかキツネソバの食券を購入したのだが…
(〜ったく!)
 振り向いた途端に視界に入ってきたそれに、ため息一つついてから近づいていった。出来るだけ、殺気を押さえるよう努力しながら。
「お前ら、こんな公衆の面前でラブラブ状態か?」
 一時的に上になっていた並木の襟首を掴み、神崎は悠々と彼女を持ち上げた。
「きゃっ!ちょ……って、お兄ちゃん!?」
 いきなり上に揺れた視界に入った見慣れた顔に、並木は驚愕の表情を浮かべた。
「あぁ!?…って、先輩じゃねえか」
 彼にしてみればいきなり現れた神崎を睨んでから、神瞳が立ち上がる。
「先輩で悪かったな、神瞳」
 別段とがめる口調でもなかった神崎だったが、それ以上聞かずにその場を離れようとする。
「お、お兄ちゃん!降ろして、降ろしてってば!」
 左手にぶら下げた並木を無視して、キツネソバの受け取りに向かう神崎。トレイを受け取ってから、やっと並木を地面に降ろした。が…
「待て、こら」
 速攻で神瞳に飛び掛ろうとする並木の頭をわしづかみにして止める神埼。
「放してーっ!今日こそは、あの小生意気な神瞳と決着を付けるんだから!」
「黙れ。少しは頭を冷やせ。たかが激辛惣菜食われたくらいでそこまで取り乱すな」
 空いている席に向かいながらの神埼の声に、並木はゆっくりと振り返る。
「…たかが…激辛惣菜ですってぇ!!!」
「あ?文句あるのか?」
 掴みかかろうとした並木は、不機嫌極まりない表情の神埼の視線に射抜かれて動きを止めた。
「お兄ちゃん…恐い…よぉ」
「知るか。昼飯を邪魔されたら誰だって機嫌が悪くなるだろうが?」
「だって…あたしも食べ物の怨みだったら積もり積もってエベレスト越えるくらいに持ってるもん」
「あーはいはい。分かったからさっさと飯食え。時間なくなるだろうが」
「…はぁーい」
 全然納得していない様子で並木が頷き、一応券売機の方に向かう。それを見届けた神崎は、横からの視線に気が付いてそちらを向いた。そこには…
「なんだ。神瞳か」
「俺じゃ悪いのかよ、先輩」
 憮然とした表情の神瞳に手で謝って、彼が使っていたテーブルに座る。
「で、また昼飯か」
「まあな。反応が面白いもんでついつい…」
「相変わらず、歪んだ友情だな、お前らは」
 自分の横に座った神瞳に苦笑を浮かべた頃、粉々に砕け散っていた玲が復活してきた。
「お、おい。こいつ誰?」
 並木を呼び捨てにしていた事が気になるのであろう玲は、訝しげな表情で神崎を指差している。神崎は一瞬不機嫌そうな表情をしたものの、平然と返した。
「俺は神崎龍司。並木美奈とは従兄妹にあたるな」
「あ、ああ!あなたが並木さんのお兄さんですか!ボク、並木さんのクラスメイトで三橋玲って言います!」
「?…あ、ああ。そうなんだ。よろしく」
 何故に敬語、とか考えていた神埼だったが、神瞳の楽しんでいるかのような瞳を見て何となく察しはついた。
(こいつも、無茶な奴に惚れたな)
 などと思いつつ。


 結局視線の主は確認できなかったが、久しぶりに平和な一日であった。


 あとがき

にいたか:ども、『人生って辛いのね』をつくづく実感させられた、にいたかです。
神瞳:おいコラ、お前何言ってんだよ?
にいたか:フッ、チミにゃ一生かかっても分からん問題だろうさ。
神瞳:なんだそりゃ? 言え(命令形)
にいたか:ザケンな。そんなことより今はあとがきだぞ。
神瞳:チッ、後で聞き出してやる。
にいたか:(無視)さて、今回は『ほのぼので行きましょう』というデジデジさんの提案にて書いたのですが、見事やっちゃいましたね。『釘バット』
神瞳:バカじゃねーのかお前?
にいたか:うるせぇ! 好きなんだからいいんだよ!
神瞳:それはそれで問題がありすぎだろが。
にいたか:やかましいわい! さてさて、今回はこの辺にしておきましょう。
神瞳:……なぁ、これってあとがきとは言わないんじゃ―――……
にいたかで:(さらに無視)でわ、デジデジさんどーぞー!
 
デジデジ:はい。長らくお待たせいたしました。エラブラ第9話でございます。
並木:っていうか、デジデジから書き始めるとどうしてこんなに遅れるわけ?
神崎:まず一つ。デジデジが真新しいキャンパスが苦手な事。
デジ:くっ…
神崎:そして二つ。コイツ書き出したら止まらないから何処までも果てしなく書いてしまうらしい。
並木:しかも発表できないようなチャチイ文章をね。
デジ:…お前らぁ…今に見てろよ。
神崎:さて、そんな事はどうでも良いとして。次はどうするんだ?
デジ:うーん…まだ決定事項ではないんですけど、できれば今回出番が無かった人たちにスポットを当てられたらな、と考えてます。
並木:叉紗ちゃんとか先生とかだよね?
デジ:そうなりますね。
 それでは、皆様。次回第10話でお会いしましょう!
神崎:またな。
 

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