ELIGHBLE BLOODS 第6話
【神瞳 翼という存在】




昔々、とても大人しい男の子がいました。

男の子の両親はとても仲が良くありませんでした。

だけど男の子は、そんな両親を必死に好きでいようとしました。

両親がケンカすると、必ず男の子は止めようとしました。

「邪魔だ」と蹴られても、「あっち行ってなさい」と言われても。

だけど所詮は子供。

男の子は家を追い出されてしまいました。

そういうとき、男の子ははいつも行く場所がありました。

おじいちゃんの家です。

おじいちゃんはいつも笑顔で迎えてくれます。

男の子もおじいちゃんの笑顔が大好きでした。

おじいちゃんの膝の上に乗って、両親のことを相談します。

おじいちゃんはニコニコしながらいつもこう言います。

『翼がそうなるように一所懸命にやっていれば、いつか報われる日は来るさ。だって、『神瞳 翼』、お前の名前は天使なんだからな』

男の子はそれを聞いて、笑って頷いてからおじいちゃんの膝から降りてペコリとお辞儀します。

そして自分の家に向かって走りました。

自分の大好きな両親の仲直りをさせるために。



だけど、やはり現実は厳しかったのです。

大好きだった男の子のおじいちゃんは病気で死んでしまいました。

男の子はうんと泣きました。

まだ『死』ということを詳しくは知りませんでしたが、もう一緒にお話できなくなるということだけは教えられました。

初めて、男の子は『死』の悲しみを実感しました。



ある日、男の子が商店街の福引で当てた懸賞で、海外に行けることになりました。

男の子の両親も喜びましたが、男の子はもっと喜びました。

両親の仲も、これで良くなれると思ったからです。

旅行の日、両親そろっての笑顔を男の子は始めて見ました。それを見て、男の子もとても嬉しそうに笑って家を出ました。

だけど、それが幸せの始まりでもあり、終わりでもありました。



バララララララ―――――……!!!

まるでミシンで布を縫いつけるときのような音が飛行機内を響かせました。

男の子はそれがなんなのかわからず、ただ怯えて泣きじゃくるだけでした。

やがてイライラした声を上げて、一人の覆面をかぶった人が男の子に向かって何か叫びました。

すると男の子の両親が、必死に男の子を宥めました。

男の子は怖かったですが、大好きな両親が言うからには安心だと、泣くのをやめました。が、

バララララララ―――――……!!!

また、あのイヤな音が男の子の耳の中を木霊しました。

すると、男の子の両親の口から悲鳴が上がりました。

そして、男の子の体に紅い…暖かい液体が降りかかります。

男の子は何がなんだか分からなくなってしまいました。

お父さんとお母さん……死んだ?

おじいちゃんと同じ……もう会えない……話せない……あの、大好きな笑顔も見れない。

男の子は力無く横たわっている両親に向かって叫びました。が、

「静かにしろって言ってんだろうが!オラ!ガキも黙ってろ!さもねぇと―――殺す

そのとき、男の子は死にました。

肉体的にではなく、精神的に。

その後、奇跡的に救助された後、男の子は自分の名前を変えました。

『神瞳 翼』から、大好きだったおじいちゃん。『水原 貴則』から取って、『神瞳 貴則』に……

このときから『翼』と書かれた人生の手帳をしまい込み、『貴則』と書かれた新しい手帳に、男の子は新たな人生を書き込み始めました。

『翼』と書かれた人生の手帳を開くのが、とても怖かったのです

だけど、男の子は決めていました。

恐怖や憎しみ、そのときに生まれたすべての負の感情を乗り越えられたとき、『翼』と書かれた人生の手帳に、『貴則』の手帳のこともすべて写して、また書き始めようと。

男の子はただ逃げるのではなく、戦いながら逃げることにしましたのです。

いつかは乗り越えられる、自分という強敵を倒せることを信じて………




「…というお話だ」
 ここは『神瞳貴則』の部屋。時間としては、叉紗が住み着くことに決定した直後。
 今、彼の前には三人の人の姿がある。

「神瞳、そんなことが…」
 悲しそうな、多少の哀れみを含んだ表情をしている、並木美奈。
「神瞳、かわいそう〜。うぅっ!」
 涙を流し、自分の事のように悲しみを感じている叉紗。
「………」
 一人黙って何も言わない俺、神崎龍司。
「まあ、そんなこんなで色々在ったが、今の俺は『神瞳貴則』だぜ?」
 明るく言う神瞳を前に、俺はゆっくりと口を開いた。
「お前は、それで良いのか?神瞳」
「それで良いのかって…どういう意味よお兄ちゃん」
 聞き返す美奈をちらりと見やってから、俺は次の言葉を口にする。
「お前のやっている事、それはただの現実逃避だぞ。名前を変えた所で、所詮過去を切り捨てられるものじゃない」
 俺の言葉に、神瞳は小さく頬を硬直させた。
 そして神瞳が返答するよりも早く、叉紗が俺に指を突きつけてきた。
「神崎!そんな言い方って無いじゃないか!貴則の気持ち、神崎に分かるって言うの?」
「じゃあ、お前には完全に理解できているとでも言うのか?神瞳の気持ち、感情、その他のこと全てを。他人の事を…理解できるとでも本気で思っているのか?」
 俺の、つい叫ぶような声で出してしまった問いに、美奈の顔が曇るのが気配で感じられた。叉紗も返答に詰まり、一瞬動きを止める。
「っ…で、出来ないよ!出来ないけどでも…」
「叉紗、いいからやめとけ」
 俺に掴みかかろうとしていた叉紗を止めたのは、神瞳自身だった。
「確かに、現実逃避だな。ああ、これ以上ねぇって程に現実逃避さ。だけどな、センパイ」
 神瞳は笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「さっきも言ったろ?俺は逃げまわるつもりはねぇんだ。心の整理がつくまで、一時的にじいちゃんの名前を借りてるんだよ。ただ、事態が事態だしよ。大きすぎて、簡単に整理できるようなもんじゃねーからな。いつまで掛かるかわかんねえ」
 そう言って、神瞳は肩をすくめてみせた。
「ま、ゆっくりやるさ。それに、今の俺は独りじゃないんだしな」
「そうか」
 俺は静かに頷いて、その言葉に意見を返した。
「どうやら、俺が心配する必要は無かったようだな。お前は、もう自分なりの答えを手にしているんだから。名前で呼べる時を待っているぜ、神瞳」
「そっか?そう言ってくれるとちったぁ楽かな?」
「お兄ちゃん…」
「うーっ。なんか納得いかないなぁ」
 悲しそうな目をする美奈と複雑そうな顔をする叉紗の前で、俺と神瞳は笑みを見せ合っていた。


「お兄ちゃん」
 その日の帰り道。後ろを歩いている美奈が俺を呼び止めた。
「どうした?美奈」
「うん…」
 聞き返した俺に、美奈は押し黙ったまま言葉を続けようとしなかった。
 俺は軽くため息をつき、進路を美奈の家から横に逸らす。
「公園にでも行くか?」
「…うん」
 美奈は、ただ黙って後をついてくるだけである。

 そのまま、神瞳と共に始めて戦ったあの公園に来た。
「…で、何なんだ?」
 ベンチに腰掛けて聞いた俺に、横に座った美奈は十分な時間を置いてから言葉を投げかけてきた。
「お兄ちゃん…あたしの事も理解できない?」
「は?」
 俺は美奈の言いたい事が理解できず、彼女の顔を覗き込んだ。
「お前、何か悪いものでも食べたのか?」
「違うよっ!そうじゃなくて…っ!」
 言い返そうとして、俺と目が合ったことが気になったのか、美奈が自信なさげに目をそらした。
「今日、お兄ちゃんが言ってたじゃない。他人の事を理解できるとでも思っているのか、って」
「ああ。言ったな」
 俺は美奈から視線を外して座りなおし、そのまま空を眺めた。
 そろそろ、夕焼けが空を埋め尽くそうとしている。
「つまりお前は、俺が美奈を理解していないのか、言い換えれば信用していないのかって聞きたいのか?」
「そう…なる、よね」
 自分でも自信なく頷いて、美奈がうつむいた。
「お兄ちゃんが中学に行ってる間の事はある程度は教えてもらったよ。人を信用できなくなるのも分かると思う」
 そのままの姿勢で、美奈は呟くように続けた。
「だけど、それじゃあ何も始まんないよ。身近な人だけでも信用しなきゃ…」
 俺はそれ以上聞かず、ベンチを立ち、そのままその場を離れた。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
 後を追ってきた美奈を振り返り、俺はできるだけ本心からの言葉を選んで言った。
「お前に心配されなくても、俺は美奈を疑ったりしていないさ」
「お兄ちゃん…その言葉、信じてもいいんだよね?」
「ああ。…さて、さっさと帰らないとおじさんとおばさんに怒られるぞ」
「うん!」
 美奈が笑顔を浮かべるのを待ってから、俺は美奈の家に向かって歩みを再開した。



「…そうか。まだ確保できないのか。しかし、キミたちで敵わないなんて…なかなか強力な能力を持っているようだね、彼らは」
 ここは薄闇が支配する、そう広くも無いであろう部屋。その中で男が一人、携帯片手に会話している。
「叉紗?…ああ、それくらいどうという事はないだろう。彼らの能力を考慮したとしても、あれくらいのハンディキャップは必要さ」
 その男は一度薄く笑みを浮かべ、次の言葉を口にする。
「そういえば、『先生』の件も忘れないでくれよ。…ああ、そうだな。キミたちには期待しているんだからね」
 そこで電話を切り、男は凍りつくような笑みを浮かべた。
「いいじゃないか。面白い人材を拾えそうだ」

 神瞳と神埼に、次の一手が迫ろうとしていた。

続く
 



あとがき

にいたか:ど〜も、にいたかです!
神瞳:さてさて、今回は何処を突っ込んでやろうかね?
にいたか:ちょい待て!
叉紗:じゃ、最初のあの絵本チックなの……・・何?
にいたか:うぐ……っ!
神瞳:なんっかびみょ〜に変なんだよなぁ〜
叉紗:まあまあ、こんな作者なんだし………ね?
にいたか:俺に同意を求めんな。それって俺のことじゃねーのか?
神瞳:なんだ、認めてんじゃん。
叉紗:や〜い、ヘボ作者!
にいたか:(こ、こいつらいつか殺す!)で、でわデジデジさんどーぞー。

デジ:はい、と言う訳でバトンタッチしてデジデジです。なんだか私が書くと叉紗さんがマジメキャラになっちゃってる気がして。
並木:マジメじゃダメなの?
デジ:うーん。もっと天然な感じが出せれば良いかな、と思っているんですよ。
神崎:ところで、今回のお前の担当範囲についてなんだが…
並木:ちょっと表現が分かりにくいと思う。
デジ:そうかな?まあ、あそこは神崎さんの言っている事と現実の行動にギャップを感じて欲しいな、と思って書いたところですしね。
並木:あ、そう言うことね。
神崎:? お前ら、何を言っているんだ?
並木:あー、お兄ちゃんは気付かなくっていいから。しばらくクール続けてて。
神崎:……
デジ:それでは、ネタバレになる前に退散いたしましょう。
並木:またね〜
神崎:…納得行かないんだが……

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