ELIGHBLE BLOODS 第5話
【Round 2】



 
 とりあえず俺たちは、お互いの状況を話し合うために近くの公園のベンチに座った。もちろん、逃げようとジタバタ暴れている叉紗は、バイクの荷造り用に装備してある縄でベンチに縛り付ける。
 そして並木を挟むように俺と『お兄ちゃん』が両サイドに腰を落とす。叉紗の隣には、もし逃げようとしても武器を作らずに一瞬で対処出来る俺が座っていた。
「で、どっから話す?」
 俺は『お兄ちゃん』に向かって尋ねる。『お兄ちゃん』はしばらく腕を組んで考えた。まぁ、こんな非現実的なことをどう話したら分かり易いかなんて、ちっとやそっとじゃ思いつきもしないだろうが。
 やがて、『お兄ちゃん』がゆっくりとだが、口を開いて話し始める。
 いきなり毒電波が流れてきたとか、毒電波を流してきた奴と体育館に行ったこと。そしてそいつと戦いの最中に炎の能力に目覚めたこと。そして、そいつを倒したときにそいつが言った言葉。『適格者』。
 俺も大体の内容は同じだった。ただ違うことと言えば、俺は呼び出されたわけじゃないし、性別が女だってことだけだ。そのことを、なるべく分かり易く説明した。
 俺も『お兄ちゃん』も、分かり易いように話したつもりなのだろうが、こいつぁ常人には理解出来ないだろうな。ゲラゲラ笑われて冗談扱いされて、はいお終いだ。
「そ、そんなことがあったんだ……」
 い、一瞬で信じやがった!?
「おい、今の話聞いてなんとも思わなかったのか?」
 『お兄ちゃん』が怪訝そうな顔をしながら並木に尋ねる。俺も同感。
「だって、さっきの見たら信じるしかないじゃない」
 並木はさも当然と言った風な態度でサラリと応える。俺と『お兄ちゃん』は驚きの顔を見合わせる。が、途中で無性に笑いたい衝動にかられ、吹き出した。
「あははははは!これじゃ俺らがバカみたいじゃねーか」
「確かにな」
 『お兄ちゃん』も苦笑しながら俺の意見に同意する。
 すると、
「やい、お前ら!」
 縛られて身動き出来ない叉紗が、俺たちに向かって話かけて来た。なんだ?話仲間に入れて欲しいのか?
「ボクをこんなことしてタダで済むと思ってるの!?今だったら見逃してあげるからさっさとこの縄解いてよー!」
 俺は『どうする?』という感情を込めた目で隣にいる二人に目を移す。が、『お兄ちゃん』の方は『好きにしろ』で、並木の方はと言えば、
「飼いたい!」
 質問違うっつの。
「うぬ、だったら俺の質問に嘘無く答えろ。そうしたら逃がしてやる」
 俺はベンチから立ち上がり、叉紗の目の前にまで移動する。叉紗は反抗的な目で俺を睨んだが、その瞳の奥には怯えがあることを、俺は見抜いていた。
 なので、ここはちょっとしたジョークをば、
「スリーサイズはいく―――」
 バキィ―――――……!!!
 質問の途中にて俺の質問は無理矢理中断される。並木の拳が俺の頬を完璧に捕らえたのだ。視界が急激に変化し、頬からジンジンと痛みが伝わって来た。
 視界を空からベンチの方に戻すと、そこには鬼のような形相をした並木と、驚き度100%の『お兄ちゃん』があんぐりと口を開いているのが見えた。
「いってぇー!グーで殴りやがったな!」
「当たり前よ!あんたのその質問はセクハラよセクハラ!同じ乙女として許せないわ!」
「コレはちょっとしたアメリカンジョークだっつーの!あっ、メキシカンジョークの方が良かったのか?」
「あんたってやつわぁ〜!」
 もはや一触即発といった雰囲気の中、『お兄ちゃん』は睨み合っている俺と並木のことなんざ無視して、無視されて悲しさプラス怒りの表情をしている叉紗の前にまで歩み寄った。
「あいつらのことはほっといてだ、これから俺の質問に嘘無く答えるんだ。いいな?」
「………分かったよぉ〜」
 ついに叉紗は観念したような声を上げてうな垂れる。どうやら『お兄ちゃん』の気迫に押され負けしたらしい。
 それを聞いてから、『お兄ちゃん』は口を開く。
「まず1つ目だ。お前は誰の命令で俺たちを狙った?」
「知らない」
 叉紗の応えに、『お兄ちゃん』はピクリと顔を一瞬しかめた。
「嘘無しで…と、言ったはずだが?」
 静かな口調だけど、その言葉の裏の殺気に叉紗は体をブルリと震わせた。人間でもあるが、その数倍は強いだろう動物の本能が『こいつは危険だ』という信号を発している。
「ほ、ホントに知らないんだよぉ。お腹空かせたボクにゴハンをくれる代わりに、キミたちを襲ってって頼まれたんだもん。仮面被った声の変な人に」
 『お兄ちゃん』は「ふぅ」とため息をついた。ここまでの徹底ぶり、おそらく知能犯の仕業だということを確信して。
 そして俺たちに視線を移し、さらにもうひとつため息……って!
「なんなんだよ『お兄ちゃん』!そのため息はよぉ!?」
「『お兄ちゃん』はやめろ!」
 真っ向から否定されてしまった。しかたがないな。
「えぇ〜!?じゃ、『龍ちゃん』」
「却下!」
「じゃ、『龍兄ちゃん』」
「フザケるな」
「『あにぃ』」
「死にたいのか?」
 あっ、なんかこめかみ辺りに怒りマーク出しながら炎の槍構えてるぅ。マズイ、ピンチだ。ちょっとしたインディアンジョークだったのになぁ。
「冗談だって、センパイ」
 俺はニカッと笑ってセンパイに笑いを含めた声で言う。するとセンパイはまたまたため息なんて行為をする。なんか、俺ってどんな風に思われてんだろ?
「ちょっと神瞳!まだ話は終わってないんだからね!」
「あっ、お前いたんだっけ?」
 ちょっと話に入れなかったぐらいで怒りだす並木に、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながらそう言ってやる。案の定、並木は顔を真っ赤にして逆上する。
「し・ん・ど・う〜〜〜!!!」
 並木の拳と蹴りの嵐を、俺はスッスッと苦無く避けていく。やがて、スタミナ切れで並木が肩で息をしながらベンチに腰を落とす。
「お、覚えておきなさいよね」
「ヤだ。1秒で忘れる」
 俺はペロッと舌を出しながら言うと、並木は「くぅ〜…」と、悔しそうな声を上げて俺を睨みつけてくる。へっ、だ。
「おい」
 声のした方を見ると、そこには公園の中心…街灯の当たらない闇の中に向かって目を細めているセンパイの姿があった。こうして見ると、結構凛々しく見える。実際凛々しいんだろうけど。
「分かってるって」
 俺もセンパイと同じ方に、ポケットに手を突っ込みながら見やる。すると、
 ヒュン―――……ッ!!!
 風を切るような音と共に、疲れて反応が遅れそうな並木と、縄に縛られて動けない状態の叉紗に向かって何かが飛来してきた。が、
「狙うコースが……」
「バレバレなんだよ!!」
 センパイの炎の槍での一撃と俺の回し蹴りによって、飛来してきたものは勢いを無くし、地面に叩きつけられる。それはつららのような氷の刃と、料理で使う金串よりも一回り大きい鉄の針だった。
 それを見て、並木と叉紗の表情が凍りつく。
「美奈。猫娘を連れてその辺の木の影にでも隠れていろ」
 センパイはそう言いながら、手にしている炎の槍を構える。俺はポケットに手を突っ込んだまま、首を回して骨をコキコキと鳴らす。
「まったくしつこい奴は嫌われるぜ」
 ウンザリした声で呟きながら、俺は襲撃してきた闇の中に呟いた。すると、二つの影が姿を現す。
 
 
「まさか、こんなにもあっさりと捕まるなんてね」
「だから言ったろ?あんなの役に立つわけねーって」
 氷の刃を飛ばしたのが相澤、そしてこの鉄針を飛ばしたのが…小林奈津美、か。
「こうもすぐに姿を現すとはな、正直思っていなかったが」
 目の前に立つ相澤をにらみつけるが、相澤は涼しい顔をしている。
「いや、ホントはもうちょっと後にしようって思ったんだがな。明日になったら忘れるだろ?神崎」
 相変わらず、とぼけた奴だ。
「さて。私たちも暇な訳じゃないからね。さっさと用件を済ませるわよ」
 小林が宣言し、右手に数本の鉄釘を納める。
「てめーの能力はもう分かり切ってんだよ。敵わないってのがわかんねえのか?高飛車!」
「た…貴則ぃっ!」
 神瞳に針を投げようとした小林を、なぜか相澤が止めた。
「奈津美、お前は神崎の相手を頼む、そう言っておいたはずだったよな?」
「そ…そうね。分かったわ」
 無理に冷静を取り戻した小林が、俺に向けて針を構えた。
「へー。するってぇと、俺の相手は毒電波か?」
 挑発する神瞳に、相澤が軽く笑みを向ける。
「よろしくな、『翼』君」
「!……てめぇ…」
 翼?誰の事だか知らないが、神瞳の表情から笑みが消えた。
「神瞳。相澤は強いぞ、気をつけろ」
「あ、ああ。分かってるってセンパイ♪」
 笑顔を取り戻して言い返して来た神瞳に多少不安を感じつつも、俺は視線を小林に戻した。
「さて、始めるか」
 俺は右手を振り、炎の槍が風を切る音が生じる。
 それを合図にするかのように。神瞳と相澤、俺と小林の戦いが幕を下ろした。
 
「はっ!」
 迫り来る鉄針は、俺の槍の前にことごとく打ち落とされる。
「俺をなめているのか?」
 半分怒った口調になった俺に、小林は笑みで返して来た。
「なめてるのはそっちじゃないの?」
 次の瞬間、地面に落ちていた針が再び浮かび上がった。
「遠隔操作も出来るのか。少しはやるようだな」
 背後から迫った針を勘だけで回避し、俺は左手を突き出した。
「『FlameShoot』」
 生み出された炎の玉を追う形で走り、小林との間合いを詰める。
「女に傷を負わせるのは主義じゃないんだが…場合が場合だからな」
 間合いギリギリで繰り出した槍先が、小林の腕をかすめ――
 ギィィン
 何か、硬いものに阻まれて俺の槍が停止した。
「私の能力、理解していたんじゃないの?神崎」
「いや、やはり過小評価だったようだな」
 俺は受けられた槍を戻し、今受け止めた物体を一瞥した。
「工事現場にある鉄板か。そんなに大きな塊も動かせるとは、正直言って驚いたぞ」
「あらそう?それじゃあ、驚きついでにおとなしく負けてくれると嬉しいんだけど?」
「悪いが、それは出来ない質問だな」
 攻め込もうとした俺に、またも数本の針が迫る。何処から来るのか分からないとは、厄介な攻撃だな。
 
 俺と小林の戦いが持久戦に入ろうとした時、小林の背後で風が動いた。
「『Slash Beat』!」
「なっ!」
 寸前で気付いた小林が回避して、風の塊が俺の横をすり抜けていった。
「神瞳!卓斗はどうしたのよ!?」
 驚きの声をあげる小林に、神瞳が余裕の笑みを返した。
「俺の本気の風が、氷ごときで受け止められるかよ。接近戦に持ち込んだら俺のもんだぜ」
 そう言いながら神瞳が指差す先、そこでは相澤が木に背を預けて昏倒している姿があった。
 神瞳。俺が思っていたよりも強いな、こいつは。
「さて、残るはあんただけだぜ?」
「あっと…神瞳」
 拳を構えようとした神瞳を呼び止め、俺は背中の方を指さした。
「さっきから固まったままのあの二人の事を頼む。小林の相手は俺一人で十分だ」
「んな事言って、ドジんなよセンパイ」
「ああ、心してかかろう」
 快く了解してくれた神瞳に感謝しつつ、俺は意識を小林に戻した。
「そんな…卓斗があんな一瞬で…?」
「驚く気持ちはわかるが、神瞳の強さは本物だ。一度戦ったあんたなら気付いているだろ?」
 問い掛けた俺に、ようやく我に返った小林が苦笑で返して来た。
「そうね。さすが『風神の神瞳』の異名を持つだけの実力はあるようね。ならせめて…」
 小林は言葉の途中で、上空高くに数十もの針を次々と飛ばした。何をする気だ?
「せめて、一矢報いないとね!」
 まさか!
 その針の狙う先を悟り、俺は急いで振り返った。
「神瞳!」
 俺の声に、叉紗の縄を解こうと背を向けていた神瞳が振り返り、驚愕の表情を浮かべた。
 数十の針は、まっすぐ叉紗と美奈を狙っている。
 距離からして、俺の能力では阻止も出来ない。
「ちっ!くそったれがぁぁぁっ!」
 神瞳が絶叫を上げるような声でさけび、恐らく可能な限り広範囲に風の壁を生み出した。
 その壁に針雨が突き刺さり…
  ズガガガガガガガガッ
 まるで十数台の削岩機で一気に岩盤を削っているかのような轟音を立てた。
 それがようやく収まって、俺が美奈たちの所に戻ってきた時には。
「…一本だけ、抜けてきやがったぜ?」
 叉紗の眼前数センチまで迫っていた針を左手のひらで阻んだ神瞳がいた。
「…神瞳?」
 まだあっけに取られている表情の美奈の呼びかけで、神瞳がその場に膝を折った。
「神瞳!大丈夫か?」
「ああ、これくらいどうってことねぇ」
 駆け寄った俺にそう返しはしたものの、彼の手のひらには深々と針が突き刺さっていた。
「ぐっ…つあっ!」
 何とか自力で抜き取ったが、その傷跡からはすぐに処置しなければ左手に支障をきたすほどの傷である事には変わりは無いようだ。
「この傷、どこかで手当てしないとまずいぞ。下手をすると左手が使いものにならなくなるかもしれない」
「ええっ!じゃ、じゃあ早く救急車を――」
「待って!」
 携帯を取り出そうとした美奈を、縄を解かれ終えていた叉紗が止めた。
 そのまま、神瞳の左手を取る。
「くっ…な、何しやがんだ…?」
 痛みを必死に堪えて聞く神瞳に何も言わず、叉紗が傷口に右手をかざした。すると…
 ポゥ…
 叉紗の身体を優しいオレンジの光が包み、それが右手に集中していく。
 やがてその光が消え去った頃には、神瞳の手のひらから痛々しい傷跡が消え去っていた。
「これは…」
「凄い……!」
 こんな事ができるとは思っても見なかった俺と美奈は素直に驚きの声をあげ、神瞳も目を見開いて自分の左手を握ったり開いたりしてみている。
「すげーな。叉紗、お前こんな事が出来んのか」
「へへー」
 嬉しそうな顔をして、神瞳を見上げる叉紗。
「神瞳がボクの事守ってくれたから、そのほんのお礼の気持ちだよ?」
「………サンキューな」
 そう言って神瞳は、優しい笑みを浮かべながら叉紗の頭を撫でた。
 なんとなく『惹かれる』。そんなカリスマ性を帯びた笑みで……
 
 この出来事をきっかけにして。
 神瞳の家に叉紗が居座る事になる。美奈はひたすら羨ましがっていたが、神瞳も「家族が出来た」とまんざらでもない様子だ。
 
 余談だが…小林と相澤にはこの隙にきっちり逃げられ、俺は美奈から説教を喰らった事だけを追記しておこう。
 
続く



あとがき
 
デジ:さて、今回から二人で一話形式と言う事で。それぞれのコメント付きのあとがきですね。
神崎:少し時間が掛かったな。もっとも、悪いのはデジデジの方だがな。
デジ:ええ、もう本当に。素直にごめんなさい。
並木:あたし、一人ですっごくひまなんだけど、何か考えてるわけ?デジデジ。
デジ:か、考えてますよ。…多少ならね?
神崎:(あてにならんな)
デジ:さて、それではにいたかさんにバトンタッチしましょうか。どうぞ〜。
 
にいたか:あっはは〜、なんだか大変な部分ばっかりデジデジさんに任しちゃったよーな気がすんだけどなぁ。
神瞳:お前が書いたの初めの方だけじゃん。
叉紗:あ!こういうのって『他力本願』っていうんだよね!?
にいたか:うわっ、キッツ!
神瞳:だけど、ホントのことだもんなぁ(邪ニヤリ)
叉紗:そうそう。
にいたか:チミたち、もっと生みの親をいたわってくれんのか?
神瞳:まぁ……政治家的表現で言えば『善処する』ってとこか?
にいたか:駄目じゃん!俺的に言えばそれって『しない』っていうのと同じ意味なんだけど。
叉紗:細かいことは気にしなぁ〜い♪
にいたか:細かくねーっつの!
神瞳:さてさて、次回はどーなることやら……
叉紗:心配で夜も寝られないよ。
にいたか:(嘘だ…叉紗の言ってる事、絶対嘘だ!)
神瞳:じゃ、次回もよろしくっつーことで。
叉紗:まったねー!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送