ELIGHBLE BLOODS 第1話
【覚醒・神瞳 貴則の場合】



 
「おーっす!」
 比較的に学生がちょうど集まり始めると思われる予鈴が鳴る直前の時間に、俺は教室中に響くんじゃないかというほどの大きな声で挨拶した。すると、教室にいるほとんどのクラスメイトは俺に挨拶を返してくれた。うん、良い朝……でもないか。アレの所為で………まぁ、過去のことは忘れような。
 俺は自分の机に向かって歩きながら、その近くのクラスメイトとも軽い挨拶を交わしながら自分の席にカバンを置いた。そして席に座ると、無意識のうちにため息が俺の口から漏れた。あれ?自分のことながら珍しいな。
「よう、珍しいな。お前がため息をつくなんて」
 すると、俺の真正面に一人の男が近寄り、話しかけてきた。こいつの名は『三橋 玲(みつはし あきら)』。俺のバンドのメンバーの一人。
「ああ、自分でも驚きだぜ」
「今日は雹でも降るんじゃないか?」
「なんなら台風が来て学校早退させてもらいたいけどな」
 俺が笑いながら言うと、玲も微妙にはにかんだ笑顔になりながらも応える。
「ボクは……」
「あっ……そうかそうか。キミは只今青春してるんだったなぁ〜♪学校が早退になったら会えないもんなぁ〜♪」
 俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてやる。すると、玲は面白いほどうろたえ始めた。ハハハ、相変わらず分かりやすい奴。
「お、ボクは別に並木さんのことなんか―――」
「おやぁ〜?俺は『並木』なんて固有名詞を語った覚えは無いんだけどなぁ〜♪」
 俺は意地の悪い笑みをさらに深めて玲の顔を覗き込んだ。もう玲の顔は真っ赤っ赤で、耳まで赤くなってやがる。ああ〜面白い♪
 そんなうろたえている玲をカラカラと笑いながらバカにしていると……
「おい」
 俺の肩をポンと誰かが叩いてきたので、クルリと向きを変えてそいつを見ると、そいつは180cmは軽く越え、頭はゴリンな大男だった。ハッキリ言って、こんなダサイ知り合いを持った覚えは無いぞ?誰だこいつ?
「フーアーユゥー?」
 俺が首を傾げながら尋ねると、そいつはニヤリと笑って俺の胸倉を掴んで無理矢理イスから立たせやがった。
「お前、『風神の神瞳』だろ?」
「イエス アイ アム」
 俺はともかく、向こうは俺のことを知っているらしい。どーにも、仲良くなろうとして来たわけじゃなさそうだけどな。ケンカのときに使われる俺の通り名で呼んでるし。
「ちょっとツラ貸せや」
 そう言うや否や、そのゴリン(仮)は俺をズルズルと引きずって教室を出ていこうとする。うむ、俺への用はケンカかいな。
「玲ーっ、浅木ちゃんには遅れるって言っといてくれよぉー!」
 教室から出ていく寸前、俺は担任の教師への言伝を玲に任せておいた。玲なら、その辺のことは安心して任せられる。何処かのおてんば娘とは違ってな。
 さて、こいつ…いや、こいつらかな?まぁ、俺にケンカ売ろうとするバカをかたづけた後はどうやって時間潰すかな?………屋上にでも行くかな。
 
 
「うううぅーーー……」
「い、いてぇーよぉ……」
「うぐ………」
 よ、弱すぎるぞこいつら。3人がかりでこの弱さかい?こりゃ普通の不良以下じゃねーか。よく今まで他の奴にボコボコにされなかったなぁ。こいつらは強運だけは強いのか?
「なぁ、俺の勝ちだよな?だったら、もう俺には近づくな。この約束破ったら……分かってるよな?」
 俺が倒れている3人のうち、大将らしき長髪の奴の髪をグイと掴んで無理矢理顔を起こし、その顔を覗き込みながら尋ねる。すると長髪(仮)は痛みで流した涙をボロボロとさらに勢いよく流しながらコクコクと怯えた表情で頷いた。
 それを見て、俺は殺気を無くした笑みを浮かべてやると、長髪(仮)もそれで気が抜けたのか、そのまま地面に崩れ落ちた。
「さぁーて、屋上でお昼寝タイムとしますかなぁ〜」
 そう言って俺は、手を後頭部の方で組みながら、屋上へと歩を進めた。その様子を見ている二人の影に、そのときの俺は薄っすらと気がつきながらも、どうせいつものケンカの視察野郎たちだと思い、特に気に入れないままだった。
 そいつらが、この先俺の人生を大きく変える人物だということも知らずに・・・・・・
 
 
 まだ朝の時間帯なだけあって、涼しい風が俺の頬を撫でる。
 ここは屋上の階段室上。俺の特等席でもある。
 ホントは屋上は生徒だけでなく、教師まで立ち入り禁止なだけに、普段から人影が無いに等しい。だから、俺はよくダチを誘ってここで昼飯を食ったり昼寝したりしている。もちろん、後で見つかったときの場合の言い訳もちゃんと考えてあるんだよね。『匍匐前進(ほふくぜんしん)で入ったぜ』って。嗚呼、我ながらなんてナイスな言い訳なんだろう。
 そんなこんなしている間に、1時間目の授業を知らせるチャイムが俺の耳朶を撫でた。そっか、もうそんな時間かって、アレから20分も経ってないのかよ?
「まったく、あの野郎ども口だけだったなぁ…ホント暇つぶしにすらならない弱さだったもんなぁ」
「だったら、アタシが遊んであげるよ」
「あ゛?」
 独り言だったつもりで口に出した言葉に返事が返って来たことに、俺は驚きながらもガバッと、横にしていた体を起こして周りを見渡す。あれ?誰もいないぞ……空耳か?マズイなこの年で空耳は。
「フフフ、下よ。下」
 下と言われ、俺は首だけ下に下げて階段室の中を覗き込む。するとそこには、濃茶髪の髪を腰まで伸ばした、いかにも高飛車な性格が覗える面持ちをした女が腕を組んで突っ立っていた。う〜ん、なんかイヤな予感。
「どーなーたー?」
 とりあえず、知らない奴なので尋ねる。もしかしたら俺のファンかもしれないな。でも、知らないもんは知らないんだし、訊くしかないんだよな。
「そうね、あなたが名乗ってくれたらいいけど」
 ………想像通りに高飛車だこのアマ。
「あんたが声かけて来たんじゃねーか」
「そんなの関係無いわよ。レディに対してそれはないんじゃないの?」
「レディっつーのは、もっとおしとやかな奴のことを言うんだよ。この高飛車!
 『高飛車』という部分に反応してか、そいつは顔を伏せてプルプルと震え始めた。マズイ、ツボに入って泣かしたか?謝った方がいいのかな?いや、逃げよーかなぁ?
 そう考えた瞬間、俺の頬を何かが掠めた。頬の一部が熱くなり、俺は急いで顔を上げて頬のその部分に手を当ててみる。出血していた。が、それほど深くはなく、薄皮1枚切れた程度で済んでいた。なんだ?何があったんだ今?
「フフフ、今の顔、良かったわよ」
 俺は驚いて声のする方を見る。すると、下の階段室の入り口の方からさっきの女の頭が現れ、次に顔が現れ………全身を現した。
 宙に浮いてる?………いや、よく見ると足の下にある鉄扇が浮いているようだった。どちらにしろシュールってことは分かる。なんだ今日は?厄日かよ!
『何故か飛来する看板と、空飛ぶ鉄扇に乗った女性にご注意ください』ってか?くだらねぇパーティージョーク通り越して、場がシラけるぜ。
 いや、まてよ……?
「あっははー。どーやらここは夢の中みたいだな。さて、そろそろ起きないと……」
「は?何言ってんのあんた?その頬が痛くないっての?」
 どうやらこの女。現実逃避しようとする俺の邪魔をしたいらしい。
「なんて性格の悪い女だ」
 言ってから「ヤベっ」と口を手で抑えたが、どうやらすでに手遅れのご様子。嗚呼、俺の悪いクセ『思ったことをすぐ口にする』が炸裂。相手のストレスを100増加…って、盛大に現実逃避してる場合じゃねーっ!!
「あんた一遍死になさぁーい!!」
 性悪女の怒りに声と同時に、俺の顔目掛けて鉄の太い針が飛来してきた。その針には誰も手をつけていないのに……だ。
「なななななな……」
 気づけば俺は、震える指で階段室の上に突き刺さった鉄の針を差しながら『な』の字を連発で口から出していた。だって、こんな状況見たら普通はそうなるって。
「あれ?まだキミって覚醒してないんだ。へぇ〜、じゃ、さっきのお返しとして、お仕置きしちゃおっかなぁ〜♪」
 女がニヤリと、意地の悪い笑みを俺に向ける。嗚呼、さっきの玲の気持ちがようやくわかった気がする。出来れば知りたくなかったけど。
 俺の頬の筋肉が一気に引き攣る。冗談じゃねー!あんなの喰らったら即死だっつーの!
 とにかく逃げるが勝ちというすばらしい言葉に従って、俺は素早く体を横に回転させて階段室の上から降りた…と言うか、落ちた。わざとだが痛いな。とにかく、着地は成功させたのでそんなに体にダメージは無い。
 そしてそのまま体の筋肉が悲鳴を上げるのを無視して、昇降口までスパートを駆ける。いくらなんでも、学校内であの超能力を使うわけが無いと確信しているからなのだが、ここで思いも寄らぬ事態になってしまった。
 ガチャガチャガチャ!!
「なっ!?」
 ドアノブを握って何度も左右に捻ったのだが、まったく扉は開く様子が無かったのだ。よく見ると、向こう側から南京錠を2つ使い、厳重に締められていたのだった。しゃ、シャレになんねぇー……
 俺の顔から、一気に血の気が引いていくのが自覚できた。くそぉ……なんかないのか?俺が助かる方法は………
「無駄な抵抗だってことは分かったかしら?」
 俺の背中に、あの女の高飛車な声がぶつかる。さすがに背中に針刺されるのは勘弁なので、すぐさま反転してドアを背中に押し付ける形となる。高飛車女の、嫌味な笑みが俺の顔のすぐ真正面に現れる。もう少し近づいたらキスまで行きそうなほど近くにだ。
「フフフ、よく見たら可愛い顔してるじゃない。少し痛めつけたらこの『小林奈津美(こばやし なつみ)』様の下僕にでもなってもらいましょうかね」
 ………やけに説明的口調なところは、あえてツッコミ入れないようにしよ。
 それにしても、自己紹介のつもりなのだろうか?とにかく、俺はその声に背中を凍るような思いをした。なんというのか……こういうのの相手は、生理的に受けつけないのかもしれない。
 不意に、奈津美の少し長めの爪が俺の首をツツッと撫でた。その爪の冷たさと、何をされるのか分からない恐怖に、俺はビクリと体を震わせた。
 だが、それと共にチャンスだと思った。
 俺は素早く奈津美の俺の首を撫でている方の腕を掴み、自分のほうに引き寄せるのと同時に、その鳩尾に膝蹴りをくれてやった。
「かはっ……!」
 奈津美の肺の中にあった空気が吐き出されるのが分かると、俺はそのまま蹴り上げた左足を地面に戻して軸とし、側頭部に右の回し蹴りを綺麗に叩き込んだ。
 奈津美の体がグラリと揺らぎ、俺から見て左側に倒れようとした……が、
  ドンッ―――……!!
 鈍い音と衝撃が、一気に俺の体中に駆け巡り、意識が一瞬ホワイトアウトする。俺は何が起こったのか理解出来ないまま膝に力が入らなくなる。意識が戻ると、視界はコンクリートの地面だった。あと、分かるのは腹部から伝わるジンジンと響くような痛みだけ。
「な…あぁ……」
 なんとか顔を上げてみると、そこにはさきほど見事な蹴りで昏倒した……いや、昏倒していなかったな。とにかく、あの奈津美が拳を握って立っていた。
「いたたた……あんた顔に似合わず強いのねぇ。能力が覚醒してたら完全に1発でやられてたわ」
 頭を少し振りながら、奈津美は誉めているのかいないのか、微妙な言葉を俺に向かって言う。だが、俺はハッキリ言って信じられなかった。
 俺の最高の蹴りだったんだぞ?なんで倒れない?こいつはバケモンか?
 すると奈津美は、なにか気づいたような表情になり、俺の薄紫色の髪を掴んで、俺の顔を覗き込むようにして言葉を尋ねてきた。
「あっ、別にあんたが弱いわけじゃないのよ。ただ、あんたもそうだけど、能力を覚醒させると、普段は30%ぐらいしか出せていない人間の全体能力を、100%まで無条件で引き出せるようになるのよ。だから、あんたもさっさと覚醒しなさいよ。能力の種類も気になるんだし」
 覚醒?……能力?……なんのことだ?俺にもそんな超能力やバカ力を手に入れることが出来るってのか?
「早くしないと、殺すよ」
 ―――――……!!!
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
「うわぁーん!お父さん!お母さん!」
「大丈夫だよ翼。絶対にお前だけは助けるからな」
「だから、安心してね」
「………うん」
 バララララララ―――――……!!!
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「お父さんーーーっ!!お母さんーーーっ!!」
「静かにしろって言ったろうが!オラ!ガキも黙ってろ!さもねぇと―――」
 殺す―――……
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
 俺はゆっくりと立ち上がった。自然と、さっきまで体中を駆け巡っていた恐怖も抜けていく。代わりに、体中から何かが湧いて来るのが分かった。そして、頭の中に直接何かが入り込むような感覚に襲われ、頭の中にある情報が流れ込んできた。
「あーっ、俺ってば、なんか理解できちゃったな。っつーか、悟ったね」
 奈津美が不思議そうな顔をして首を傾げる。そんな奈津美に向かって、俺は手の平を突き出す。そして……
  ドンッ―――――……!!
 奈津美の体が『く』の字に曲がり、後方に勢いよく吹き飛んだ。そしてそのまま網のフェンスに体を叩きつける。その顔はさきほどの余裕の笑みではなく、驚愕に満ちていた。
「あ、あなたまさか、あの一瞬で……」
「ふぅーん。俺の能力ってのは『コレ』か」
 俺は手首を軽く回転させると、その腕に小さなつむじ風が発生した。さきほどの奈津美をふっ飛ばしたのも、風の塊を腹部にぶつけたからだ。
 俺の能力は『風』らしい。『風神』の異名と重なっちまうとはな。まったく、偶然ってのは怖いモンだぜ。
 再び奈津美に視線を向けると、奈津美は痛みに多少顔を歪めてはいるが、あきらかに笑っていた。まだ、俺はこいつの能力を理解したわけじゃない。油断にひとつが、死に繋がるな。……久々に、マジになれそうだぜ。
 俺は、体中の血液が沸騰するような感覚を覚えた。なんていうのか……そう、血が騒ぐカンジだ。歌ってるときよりもワクワクする。こういう感覚、俺は好きだな。
 いつの間にか、俺はニヤリと笑みになっていた。それを見て、奈津美も口を開く。
「どうやら自分の能力も理解出来たようね。作戦第1段階終了だわ。それなら、手加減する必要は無いわね。さっさと意識失ってもらうわよ」
「上等。じゃ、俺はお前を叩き潰して、俺を襲った理由でも吐いてもらうとしますかね」
 奈津美は懐から十数本の鉄の針を取り出す。俺は右手を胸の前へ、左手を腰の位置に置いて構えた。そして、俺と奈津美の間の間合いは少しずつ狭まっていく。
「マジで行くわよ!」
「刻み込んでやるよ!俺の風と心のBeatをなぁ!!」
 
 
  こうして、俺の第1ラウンドは始まった。
 
 
続く



あとがき
 
にいたか:やれやれ、やっと1話終了ですなぁ。
神瞳:やれやれじゃねーっての。これからが重要、インポータントなんじゃねーか!くぅ〜っ!燃えるぜぇー!
にいたか:HAHAHA!次回はデジデジさんの番だからな。お前の出番なんか知らん!
神瞳:What!?まぁ、しかたないか。あ〜あ、テンション下がっちまったなぁ。
にいたか:そう言うな、せっかくこんな大舞台SSの俺側の主人公になれたんだ。もっとテンション上げて行こうぜぇ!
神瞳:『Hey!Yo.mother fucker 声を聞いたか………』
にいたか:『Deep Impact』かぁ。なかなかテンション上がる歌だよな。
神瞳:っつーことで、これからも……
にいたか:よろしゅーお願いします!でわ、にいたかからの第1話はこれまで!
にいたか&神瞳:次回もよろしくー! 

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