悠久組曲+α外伝 黒の少年と白の少女



ここは悠久学園から続くとある路地、薄暗くなった道を一人の女生徒が走っていた。
「もー!ルシードさんを追いかけてたら時間がなくなっちゃった。明日の予習も終わってないのに〜。」
急ぎ足で夜道を行く彼女は、上空から何かが落下してくる音を耳にして空を見上げた。
「・・・え?」
その物体を目にして、彼女は動きを止める。
 (ズズゥゥゥ・・・・・ン)
上空から飛来したそれは、熊を毛深くして爪を鋭く伸ばしたような格好、いわゆる魔物と言われるような物体であったのだ。
「な、なによこれ!」
突如現れた魔物に、彼女は絶叫に近い声をあげる。
そこで初めて彼女に気付いたのか、魔物の黄色く濁った瞳が彼女を捉える。
「な・・・何よ!私に文句でもあるって言うの?」
強気な言葉を発する彼女だったが、次に聞こえた音で身体を硬直させてしまった。
 (ズズゥゥゥ・・・・・ン)
「ま、まさか・・・」
おそるおそる後ろを振り向くと、そこには目の前の熊と同じような物体が出現していた。
広くは無いその路地を、彼女を追い込むように近づく魔物たち。
「こっ、来ないでよ!」
彼女が叫ぶが、それで魔物の動きが止まるはずも無い。
目の前まで迫った魔物が、その鋭い爪を振り上げる。
「イヤッ!ルシードさん、助けてぇっ!」
彼女がしゃがみ込んで頭を抱えた時、
「おらぁっ!」
突如聞こえた見知らぬ声とともに、先に現れた魔物が切り伏せられる。
動きを止めるもう一匹の魔物を目指し、その人物が切りつける。
「月破斬!」
たった二回の攻撃だけで魔物を真正面から切り伏せ、その人物が彼女を振り返る。
「大丈夫か?アンタ。」
「・・・あっ、はい!ありがとうございました!」
一応礼を言った彼女だったが、その人物の格好を見てなんとも言えない表情になる。
(ニンジャみたいな覆面に、黒装束、しかも黒くて長いエルフ耳・・・何なの?この人)
「アンタが無事ならそれでええわ。ほな、気ぃつけて帰りな。」
「は、はぁ。」
そのまま、黒装束のエルフは壁を飛び越えて姿を消した。
「・・・ホントに、誰?今の?」

「ほんとにほんとなんだってばぁ!」
悠久学園にいるにもかかわらず違う学校の制服を着ている少女がルシードに向かってうったえている。
「はいはい、夢でも見たんだろ。」
「ちがうよー本当に見たんだって。こーんな大きな怪獣をね覆面をした変な人がばばばーんってやっつけて私を助けてくれたのー。」
昨日の出来事を体で表現(一人芝居)をしながらうったえ続ける。
「わかった、魔物の事は信じよう・・・だが何で覆面がでてくるんだ?」
「しらないよ、耳が長かったからエルフの人だと思う。おかしな喋り方だった。」
「おまえ・・・アニメの見すぎなんじゃねーの?ヒーローもんとかの。」
「何で信じてくれないの?」
「現実離れしてるから!覆面かぶったやつがそこらへんうろついてたら騒ぎになるだろ。」
ルシードは魔物がいた事よりも覆面なんて怪しい格好をしたやつに助けてもらった事を信じていないのだ。
「あ、午後の授業がはじまっちゃう。私行くけど・・・本当にいたんだからねー!!」
そういい残して少女はさっていった。
「覆面か・・・」
ルシードはふとなにか心当たりがあるような気が・・・・とそこまで考えたがややこしい事になりそうなので思い出すのはやめた。

「まったく・・・ルシードさんったら・・・なんで信じてくれないのよ。」
少女ことフー・アンディストは不満そうに中庭を歩いていた。
「ほんとにいたんだから・・・覆面かぶって黒いエルフの耳の人・・・あんな感じの・・・」
自分の15メートルくらい先にいる人物を見ながらぶつぶつと呟く。その人物はいきなりフーに話しかけてきた。
「怪我はなかったか?」
「え・・・何でですか?」
あった事もない人にいきなり怪我はなかったかなどと聞かれ途惑う。
「いや、ないならそれで良いんやけどな・・・」
「何で見ず知らずの人に私の身のことを聞かれなきゃいけないの?」
「あ、そうやった・・・ばれるとやばいもんな。」
「はあ?」
「とにかく怪我がないんならいい。」
「あの・・・ちょっと・・・」
フーが呼び止めているのにもかかわらずその人物は足早にさっていった。

(あー、肩凝る)
無意味に腕を振り回しながら、ダークエルフらしき男子学生が廊下を歩いている。
今は放課後。彼も部室へと向かっているのだが、そこに付く前に見知った顔と出会った。
「お、先輩。何しとんや?」
「お前を待ってたんだよ、フォシル。射撃部二日連続で休みやがって。今日来なかったら家に乗り込むつもりだったんだぞ?」
「いや、行きたかってんけど最近忙しゅうてさ。」
「またあれか。あの仮面はやめたほうが・・・」
ルシードがそこまで喋った時。
「あっ、ルシードさーん!」
フォシルの背後から聞こえた声で二人の視線がそちらに向く。
「もう。部室に居なかったから心配したんですよ・・・って、あ!」
近づいてきたフーが、フォシルの顔を指差して大声をあげた。
「この前の変な人!」
「へ、変な人ぉ?」
あまりと言えばあまりな形容詞に、フォシルが額に怒りマークを付けながら訂正する。
「俺は、フォシル・ラーハルト!変な形容詞で呼ぶな。」
「えー、でも私名前知らなかったんですから仕方ないじゃないですか。」
「せやかて変な人ってのは…」
「おい、お前ら。」
横から来たルシードの声に二人がそちらを向くと、少し怒ったような顔でルシードが立っていた。
「人を無視して、口論してんじゃねえよ。」
とまあこんな変な会話で、今回の主人公であるフーとフォシルの運命的な出会い(?)ともいえる顔合わせが訪れた。

「で、フォシルさん・・・あなたは覆面をかけたヒーロー(仮)はいると思いますか?」
フォシルの目をじーっとみながら真顔で問う。
「いやー、それはどうやろうな・・・たしかにいたらかっこいいと思うけど・・・」
「実はですね・・・昨日こーんな大きい怪獣におそわれて、覆面かけた人が助けてくれたんです。」
少し間があり・・・
「でも・・・すっごく怪しかった・・・なんてったって覆面ですよふ・く・め・ん!」
「だからそんな奴いたらおかしいっていったるだろ。」
ルシードが途中で話に入ってきた。
「なぁ、フォシル。」
そして何かありげににやりと笑う。
「そんな事あらへんって、顔を隠し名を名乗らんなんて正義の味方特有の登場じゃないですか。」
「ねぇ・・・フォシルさん・・・なんで覆面が名前名のらなかったの知ってるんですか?」
変な所でするどいフーは不思議そうに聞いた。
「何でだろうなーな、フォシル。」
「何でですか?」
真実を知っているルシードはフーをさらにあおる。
「そういえば、その覆面ってダークエルフの耳だったんだろ。偶然だなーお前もダークエルフだよな。」
「あ、ほんとだ。」
おい!気付いてなかったのか。
「それはやな・・・」
「それは?」
「お、俺も助けられたんや。その覆面かぶったやつに。」
「でもさっきどうだろなーって否定してたじゃないですか。」
「正義のヒーローやで、秘密にしといたろうと思ってな。」
「ふーん、優しいんですねフォシルさんって。」
「それほどでもないわー(この子が単純でよかった・・・)」
フォシルが一息ついて、
「ほんまかっこよかったな、そう思うやろ?」
「全然かっこよくなかったです!(断言)むしろ言うならダサかった。」
その言葉はフォシルの心(プライド)を傷つけたようだった。
「そ、そーか。ダサかったか・・・・・・」
フーから目線を逸らし、フォシルは目に涙を浮かべている。
「お、おいおい。フォシル。」
「どうしてフォシルさんが落ち込むんですか?」
突然落ち込むフォシルに、ルシードは呆れ顔で、フーはとても驚いた顔で聞くが、
「いや、気にせんといてくれ。どうせセンス無いねんから・・・フフフフ・・・」
「気にするなって言われても・・・ねえ、ルシードさん。」
「まあ、馬鹿には付き合わん方が良いかもな」
「馬鹿って、先輩きついっすねぇ。」
そんな取り止めのない会話の途中、
 (チャラララ〜チャーラーラッチャラ〜)
「あ、FFの勝利のファンファーレ。」
「あ、俺やわ。」
胸ポケットから携帯を取り出し、フォシルがメールチェックをする。
「まーたや。先輩、ゼファー先生がミッションルームの手伝いせぇって。ちょっと行ってくるわ。」
携帯をしまい、フォシルはルシードの声を聞くより早く廊下を走り出す。
「あっ、フォシルさん!部活は出ないんですか?」
「まあ、勘弁してーな。ほなな。」
こちらに片手を振っただけで走り去るフォシルを、ルシードが険しい表情で見送る。
「あいつ・・・」
メールを見たフォシルの目が鋭くなったのを、ルシードは気が付いていたのだ。
「? あの、ルシードさんどうしたんですか?」
「あ、いや。何でもねえ。」
不思議そうに見上げるフーに、ルシードはあいまいな笑みを向けた。
「おい、射撃部の練習見にくるか?」
「はい!」
ルシードとフーはそのまま部室に向かい、フォシルはミッションルームに走った。
「で、先生。場所は?」
「学園から北に200メートルの道だ。すこし学園に近いが、今動けるやつがお前しかいないんだ。」
「分かっとる。何かあったら連絡くれや。ほな。」
短い遣り取りの後、フォシルは教室を飛び出していった。

学園から北200メートル地点、フォシルは魔物とそこにいるはずのない人物の姿を見た。
「おっかしいなー、か弱い少女がピンチに陥っていると言うのに・・・」
魔物を前にしているというのになぜか冷静なフーがいたのだ。
昨日の事が嘘のように平然とその場に立っている。
「何であいつがいるんや?」
不思議そうに首をかしげるフォシルの肩を何者かがたたいた。
「先輩!」
「すまないフォシル。あいつを射撃部の練習に連れて行こうとしたらちょうどお前が門から出て行くところでな『ああー、フォシルさんだー。あの人絶対あやしいんだよねー・・・よーし、後つけちゃえ!』とかいって先回りしてこのありさまだ。全然後なんかつけてやしねー。」
「なんであんなに冷静にしとるんや?魔物も暴れとるけどフーには指一本触れてないし・・・」
「きゃぁーーーっ!」
さっきまで平然としていたフーがいきなり叫んだ。魔物が襲いかかってきたのだ。
「いやーっ!ルシードさーん!!!」
自業自得とはこのことを言うのだろうがそんな事をいっている場合ではない。
「なぁ先輩、ここで助けにいったら正体ばれてまうやろか?」
「さあな、あいつがお前を疑っている事は確かだが、お前が覆面じゃないのかと疑っているのか別の事を疑ってるのかはわかんねーな。変なところで鋭くて基本的鈍感単純だからな。」
「五分五分やな・・・」
少し迷ったフォシルだが、
「・・・まあ、他人のピンチを放っておくわけにもいかんし」
そう割り切って魔物とフーの間に割り込んだ。手には、既に刀が握られている。
「うらぁっ!」
力任せに切りつけ魔物の出鼻をくじいたフォシル。そこまでやって、ふととあることに気が付いた。
(やべ。今日覆面つけてへんのやった・・・)
今更そんなことを思い出しても遅いのだが、とにかく後ろに向かって大声を上げる。
「先輩!フー連れてこの場を離れてくれ。ここは俺が何とかする!」
「しゃーねーな。ほれ、こっちに来い。」
「ルシードさん、それにフォシルさんも?」
ルシードに軽々と抱え上げられながらも、フーは先ほどまで姿を探していたフォシルを驚いたように見ている。
「ル、ルシードさん!フォシルさんを置いて行って良いんですか?」
「あぁ?お前が心配することじゃねえ!あいつなら大丈夫だよ!」

暴れるフーを押さえ込んで、ルシードの姿が見えなくなった。
その事を確認して、フォシルは改めて魔物と向かい合う。
「正確な数は三匹か…今回は覆面無しやし、瞬殺で終わらせたるわ!」
そう宣言したフォシルは刀を地面に突き立て、続いて目を閉じて両手を頭上でクロスさせた。
そのまま動かないフォシルに痺れを切らして魔物たちが攻撃を加えようと近寄ってきた時、
「消し飛べ!グラビティキャノン!」
フォシルの腕から解き放たれた超重力場が魔物すべてを跡形も無く消し飛ばした。
「・・・ふぅ。これでええな。」
ため息と共に声を出したフォシルに、今はあまり聞きたくなかった声が届いた。
「すっごーい。」
疲れた顔でそちらを向くと。そこには案の定、驚いた表情のフーが立っていた。
「あーんな大きな魔物を一瞬で倒しちゃうなんてすごいですー。」
「や、えーとな・・・これは・・・」
「これだけ強かったらもミッシュベーゼン主催もちまき大会も大量ですよね。」
「「は?」」
フーの口から出た意外な言葉にフォシルとルシードは驚く。
「もちまき大会って・・・そんなものがあったんか?」
「ええーっ、違うんですか?いそいそと学園から出て行くものだから私てっきりそれに行くのかと思いましたよ。違うんなら何で急いでたんですか?」
「それはやなー・・・」
「フォシルがもちまきにいくのが何であやしいんだ?」
「えー、だって部活サボってまで行こうとしたもちまき大会だよ、お菓子とかいっぱいまかれるんだよきっと!そのことを内緒にして独り占めしてるのかなーと思ったの。」
彼女はやはり鈍感だった。
「じゃあもちまき大会は行かないんですね。」
「そんなもんいくにきまっとるやろ!」
「ほへ?」
「で、どこでやっとるんや?」
「え・・・ミッシュベーゼン・・・・」
「うし、はりきっていくかー!」
「あのっ・・・」
フーが何かいいたげにしているが気にせずミッシュベーゼンへと向かった。
「あ・・・・もちまきは二時間後なのに・・・まあいっか、ね、ルシードさん。」
「さあな・・・・」

次の日
「フォシルさーん!昨日のうらみかくごしてくださーい!!!」
「すまんかったて!」
「謝っても許しませんよ!なにが『すぐ戻ってくるからここでまっとけ』です!そのままおいて帰るし・・・しかもルシードさん連れてー!!!夜まで待ってたんですよー!!!」
「待っとけゆーたのは先輩やろ!」
「・・・・・・・そうだけど・・・やっぱりフォシルさんが悪いんですー!!!」
「いいがかりやー!」

この日の悠久学園に彼の叫ぶ声と彼女の怒る声が途絶えた時は授業中だけだったとかそうでなかったとか・・・


<あとがきの間>

デジ:はい、という事でやってまいりました合作4作目。片方の作者、デジデジです。
フー:もう片方のフーです。
デジ:フーさん、今回はお疲れ様でした。なんだか色んな所を押し付けてしまったみたいで。
フー:まったくですよ!いろんな事押し付けちゃって・・・って押し付けられましたっけ?
デジ:え?そりゃもう。私が詰まったら即まわしたり・・・・・・
   ま、まあこの際忘れましょう!
   さて!今回のフォシル君はフーさんの世界にお邪魔したことが一番のポイントとなりますけど、フーさんの方は何かありますか?
フー:うーん・・・悩むところですね。やっぱり餅まき大会事件!(謎)
デジ:あそこで何があったのでしょうかね。確かに謎ですな。
   と言う事で(唐突だなオイ)、そろそろ閉めましょうか?
フー:了解です。それでは私がしめのお言葉でも・・・ここまで読んで下さりありがとうございました。私からの今回のおまけは『餅まき大会事件の真相』となります。
   それではみなさま〜また次の機会に会いましょう。
二人:さようなら〜。

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