悠久legend特別編2 交じり逢う刻、3人の騎士


 暇な春休みを過ごしていたおり。散歩の途中シュウに出会った。
「ようシュウ」
「あっ、ロフェルさん」
 ホワイトデー以来あまり学校に行ってなかった俺はシュウに会うのも久し振りだった。家はそんなに離れていないのに。
「珍しいな。お前一人か」
 どうも俺にはシュウとトリーシャで1セットと言う考えがあるようだ。
「そう言うロフェルさんだって珍しく一人じゃないですか」
 それはシュウも一緒らしい。俺はパティと1セットと思われているようだ。
「おや?何やってるんだ、二人共」
 そこへキャルが現れた。
 そう言えばこの3人だけで集まるのはあの事件以来じゃないだろうか。
「俺達3人だけとは珍しいな」
「そうですね。あの時以来です」
 3人とも同じことを考えていたようだ。
 そう。俺がまだこの学園に転校してきてまだアリサさんの家にあまり慣れてなく、パティとはいきなり殴られた事もあり仲も悪くあまりなじめなかった頃、俺が転校してきてから一週間も経たないうちにシュウやキャルと出会った事件が起こった。
 いつまでも忘れる事は出来ないだろう。あの事件。

 俺がこの学校に転校してきてからもうすぐ一週間が経とうとしている。その間に出来た友達と言えばアレフ・コールソンと言う3年の奴だけだ。
 このアレフとの出会いがおかしなものでナンパされた事から始まる。
 俺の髪は腰ぐらいまであるし女に間違われた事も1度や2度ではない。芝居で女役もした事だって何回も在る。
「そこの彼女」
 最初声を掛けられたときは俺を呼んでいるとは思わなかった。
「キミだよ君」
 振りかえるとそこにはアレフの姿があり俺の顔を見たとたん驚いていた。
「お、男……」
「そうだよ。ロフェル・クォーラル。れっきとした男だ」
「くっそぉ。この俺が女の子とヤローを間違えるなんて」
 このときのアレフは本当に悔しそうだった。
 この出会いが縁で俺とアレフは友達となった。
「ロフェルくん。もう朝よ起きなさい。早くしないと学校に遅れるわよ」
「う〜ん。アリサさ〜ん、あと5分……」
 早く起きなければとわかってはいるのだが、はっきり言ってまだ寝ていたい。これが実家だったら有無を言わさずじいさんにたたき起こされていたがここにはじいさんもいないのだ。
「仕方ないわね。後5分したらまた起こしに来るから」
 そう行ってアリサさんは朝食の準備をしに下へ降りていく。
 結局、俺が起きたのは15分後だった。
「朝が弱いのどうにかならなんねえかな」
 自分自身に愚痴りながら学校への道を急いでいたその時パティとであった。
「やっばぁ。朝練も間に合わなかったのにそれに加えて遅刻なんかしたらリサ先生にどれだけしごかれるかわかんない」
 担任のリサ先生はとても厳しく俺は遅刻するたびに廊下に立たされ放課後顧問をしている剣道部の練習に付き合わされていた。
「アレ、あんたこの近くに住んでたの?」
「ああ、悪いかよ」
「別に悪いなんて言ってないでしょ。過ぎた事をいつまでも根にもっちゃって」
「あのなぁ、理由も言わずいきなり殴られたら根に持って当然だろ」
「まったく男のくせに」
「男も女も関係あるかぁ!」
 その時だ初めてシュウと出会ったのは。
 一人アパートの部屋から出て学生にパティが声をかける。
「何シュウ。あんたも寝坊したの?」
「パティ先輩」
 どうやらパティの知り合いらしい。見かけからいって同学年とは思えないから剣道部の後輩だろう。

「パティ先輩」
 寝坊して時間は遅いはずなのに何故かパティ先輩がいる。パティ先輩は剣道部の先輩(俺より数段強い…)だ。
「ハハ、そう言うパティ先輩もですか?(んっ?…あの人は誰だ?)」
 パティ先輩の隣のその人、これがロフェルさんとの初対面だった。しかしその後がまた壮絶だった…
「その人は?……あ、パティ先輩の彼氏ですか?」
 バキィッ
「うぉぁっ!!」
 目にも止まらぬスピードでパティ先輩の鉄拳が俺の頬に叩き付けられた。朝の眠気が一発で覚めたのを覚えてる。
「誰が彼氏なのよ!!誰が!!」
「いたたた……そんな本気で殴らなくても(ほ、骨が…)」
 パティ先輩は口より先に手が出る。この頃からそういう人だ。
「おいおい、本当にすぐに手が出るんだな」
「あんたが彼氏なんて言われちゃ当然よ」
「だからって俺の時みたいにすぐ殴るのか?」
「ほんとにいつまでも根に持って!男らしくないわね!!」
「だからな!!」
 朝の静寂が二人の声に破壊される。しかし、人生とは先が見えないものだ。つくづくそう思う。
「……え〜っと、かなり取り込み中みたいですけど」
「なによ!!」
 かなり邪険なパティ先輩。また殴られるかと俺は身構えていた。
「(怖っ…)だ、だから…遅刻」
「あっ!!何で早くそれを言わないのよ!!」
「(そんな無茶苦茶な…)」
 そんな訳で俺達は走り出した。走っても間に合う保証は無いけど…
「ったくもう、あんたと付き合ってたらきりがないわよ!!」
「そりゃこっちの台詞だ!!」
 ロフェルさんそしてパティ先輩は走りながらも口論を続けている。
「(器用な人達だ…)」
 俺もそんな事を考えながら走っていた。と…
「おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はロフェル・クォーラル」
「俺は八尾月 シュウ、って言っても名簿の名前は違うんですけど」
「どういう意味だ?」
「まぁ、いろいろ有りまして、俺の『本名』はこっちなんで」
「そうか。まっ、よろしくな」
「こっちこそ」
 走りながら(全力疾走)の自己紹介。恐らく異様な光景だっただろう。
「あんた達、早くしなさいよ」
 そのまま俺達は走り続け、やっとの思いで悠久学園へ辿りついた。
「まだ時間前みたいね。何とか間に合ったわね」
「何とかな…」
 微妙に息切れしつつ歩いて校門を潜る。この時間なら遅刻はギリギリセーフだ。しかし…
「ふぅ…でも疲れましたね…」
「ずっと走りっぱなしだったからな」
「ですね……あ〜なんか…朝から走ったから眠く…」
 そして疲れた俺は勉強意欲を打ち消してある所へ向かっていた。ある所へ
「どうした?どこへ行く気だ?」
「ハハ、ちょっと保健室へ」
 保健室へ行く気だったのだ。走った意味がない気もするが、俺はそういうことは考えていなかった…
「それじゃあ」
「なんだ?本気か、おい」
「ほっときなさいよ。止めるだけ無駄なのよね」
「どういう奴なんだあいつは?」
「一人暮し初めて弾けちゃったみたいね」
 そう、高等部一年から俺はかなりのサボリ魔だ。保健室の常連という所か。
 とにかく俺は保健室の恋しい仮眠ベットへと向かい、ロフェルさんとパティ先輩はそのまま教室へ向かっていった。

 俺はその時保健室にいた。
 サボりじゃないのかって?違う違う。
 昨日顧問のバーシア先生に引っ張られて行った買い物の帰り、ちょっとケンカに巻き込まれて怪我をしたんだ。
「おいキャル。怪我をしたからって、お前のそれ只のかすり傷だろうが」
「まあまあ。細かいこと言うなよルシード」
 た、確かに…いちいち保健室に来るほどのものでは全然無いんだけど…まあ、今朝は眠かったんだよ。
「しっかしルシード。これだけ良く保健室に入り浸っていて、どうして授業について行けるんだい?」
「ハッ。その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」
「まあ、俺の場合は試験前に詰め込んでるからな」
 と、そこに保健室の扉を開けて入ってくる人物がいた。
 見た目からして…高1くらいか?
「あ、あれ?…なんだか朝っぱらから混んでるな…」
 小さく呟いたそいつは、ルシードに向かって軽く挨拶をした。
「おはようございますルシードさん」
「ようシュウ。なんだよ辛そうだな」
 片手を上げて返したルシードが言ったように、そいつは心なしか顔色が悪いようだ。
「いや、ちょっと遅刻しそうだったんで走ってきたんですけど校門をくぐったら力が抜けちゃって」
「なんだよ。それで結局サボりか。走った意味無いんじゃねえの?」
「ハハハ…」
 そんな会話をしながら一つの椅子に座った後、シュウはこちらに顔を向けてきた。
「え、えーと…」
「ああ。俺はルシードと同学年で名前はキャレイド・グリアール。まあ、皆はキャルって呼ぶけどな。あんたは?」
「あ。俺は八尾月シュウって言います。いま高1ですね」
 八尾月シュウ…これがこいつと出会った場面だったな。まあこの時はこんなに長く関係が続くとは思っても見なかったが。
 が、実は俺は名前だけは以前から知っていたのだ。情報通と知りあいだと、こういうことは良くある。
「ああ。君がシュウ君か。ローラが言っていたよ。この学園には格好いい人がたくさんいるって」
「ええっ、そんな。俺なんてまだまだですよ」
 まあ、こうやって謙遜するところはあまり変わっていなかったか。
「そんな事無いさ。ローラの秘密手帳に名前が載っているくらいだから自信を持て。…あ、それとも」
 俺は笑顔を向けて聞いてみた。
「もう本命がいるからどうでもいい、とかか?」
「ちっ、違いますよ。な、何言ってるんですか」
 その対応を見る限り、ウソは言っていないようだったな。
「さて。そろそろ一時間目の終わる頃だろう。教室に行くか?」
「そうだな。たしか次の時間はリカルドのおっさんだからなサボる訳にもいかねえな」
「あ、それじゃあ俺も失礼します」
 立ち上がった俺とルシードにあわせて立ち上がったシュウを入れて、俺たちは保健室を後にする。
 この後に起こる事件など露も考えずに。

 4時間目も終わりに差しかかっている。授業はバーシア先生の外国語だった。
 ついこの間まで俺は外国に居たのだからんなもん楽勝だってんだ。ヒアリングでも書き取りでもなんのことはない。
 それにしてもやはりこの時間帯は腹が減る。
 退屈なので周りを見るとこの前俺を怖がったシーラって娘は真面目に授業を受けている。隣に居る凶暴女パティは……居眠りしてやがる。
「パティ、この例文を訳して。パティ?」
 おいおいバーシア先生が呼んでるぞ。しょうがねえ……。
 起こしてやろうと身を乗り出して頭をツンツンと。
「おい起きろよお前。バーシア先生が呼んでるぞ」
「うっ…う〜ん。うるさい」
 ひ…左ストレート!
 まさか起こそうとしただけで殴られるとは思ってなかったため受ける事も避ける事もできず吹っ飛ばされる。
 そして吹っ飛ばされた場所が悪くロッカーに突っ込んだ。
「大丈夫?ロフェル」
「大丈夫ですか。ロフェルさん」
 バーシアとシーラが来て起こしてくれたのだがロッカーに突っ込んだときに頭を切ったらしく血が流れていた。
「シーラ。ロフェルを保健室へ」
「はい。わかりました」
 そのまま俺はシーラに案内され保健室へと連れていかれた。
 保健室にはトーヤ校医が居た。
「見ない顔だな。どうしたんだ?」
「この前私達のクラスに転校してきたロフェルさんです。事情があってロッカーで頭を切ってしまい」
「ふむ。見せてみろ」
 しみる!しみる!傷を見て消毒する先生。
「しばらくはベッドで安静にしておくことだ。シーラ、お前は戻って良いぞ」
「はい。ロフェルさん、パティちゃんの事はごめんなさい。パティちゃんには私から言っておくから、でもパティちゃんには悪気は無いのよ」
「悪気が在ったらやり返してるよ。だから安心しろ」
「ありがとうございます」
 シーラは教室へ戻っていく。パティじゃないけどなんだか眠くなってきたな昼休みまで寝るか。
「ふぁ〜あ………」
「あ、やっと起きましたね」
 起きるとそこにはドクターの姿は無く代わりに緑色の髪をしたドクターと同じメガネをかけている女の子の姿があった。
「さっきパティさんやシーラさんもお見舞いにきたんですよ。あなたは寝てましたから起こさないで帰りましたけど」
「誰?」
「あっ、私中等部3年のディアーナ・レイニーと言います。あなたの事は先生から聞いてます」
「俺は高等部2年のロフェル・クォーラル。それでドクターは?」
「先生は用事が在って出ていますけど」
「ふ〜ん。それじゃ昼飯でも食べてくるか」
「あと5分でお昼休み終わりですよ。ランチももう売りきれたんじゃないですか」
 何?慌てて時計を見ると1時半ちょっと前。確かにこの時間ではランチが残っている可能性は少ない。
 いや、だがアリサさんなら俺が来ない事を不信に思って取り置きしているかもしれない。
「食堂まで行って来る」
「あまり激しい運動をすると傷口が開くって先生が言ってましたよ」
 ディアーナの声を無視して、急いで食堂に向かう。
「アリサさん。まだランチ残ってますか?」
「どうしたのロフェル君?頭に包帯を巻いて」
「えっ?あ…コレはちょっと転んで怪我をしまして。でもたいした怪我じゃないですから。それよりもランチ残ってます?」
「ええ、あなたの姿が見えないから何か遭ったのかしらと思って取っておいたわよ」
「ありがとうございます。アリサさん」
 アリサさんの作ったランチにありつけた俺は保健室へ戻った。
 朝出会ったシュウじゃないが今日はこのままサボっちまおう。
 保健室には先ほどのディアーナの姿は無い。ドクターもまだ戻ってきてないようだ。
 カーテンを開けベッドに入ろうとすると何故かそこにはアレフの姿があった。
「なんでお前がここに居るんだよ?」
「おまえこそ」
「どうしたんですか?アレフさん」
 隣から顔を出したのはシュウだ。
「あっ、ロフェルさん」
「なんでお前も居るんだよ」
「俺とシュウはただのサボりだ。それでお前保健室に何の用なんだよ」
「俺はどこかの凶暴女に殴られて怪我したんだよ。今は食堂にランチを食べに行ってただけだ」
「もしかして凶暴女って…………」
 ガシャーン!
 おそらくパティかと尋ねようとしたシュウの言葉は何かの破壊音によってさえぎられた。
「何だ?」
 3人とも何かと思って窓を覗くと数台の武装した車が校舎へと乗り込んでいた。
 ………なんだか無性に嫌な予感がする。

 ガシャーン!
 その音が響いた時、俺は窓際の席で授業中だった。
「…?」
 ふと窓の外を覗いた俺は、非常に嫌なものを目にして顔をしかめた。
「あれは…なんでございましょうか?」
 その時授業をしていたハメット先生が、俺の横から校庭を眺めている。
 と、その時、
「ちっ、テメエ等動くんじゃねえ!撃ち殺すぞ!」
 いきなり、教室の扉を開けて男が2人乗り込んできた。
 そいつらが武装していることに気が付いた俺は、窓を素早く空けて教室を飛び出した。
 ちなみに、ここは2階。俺がぎりぎり飛び降りられる高さだな。
「お、おい!ガキが1人逃げたぞ!」
「放っておけ。どうせここからは出られやしないさ」
「は、はい?何が何でございますか〜!」
 後ろに響くハメット先生の声を無視して、俺はとりあえず保健室へと走った。
 そこなら、ルシードがいる可能性があったからな。あいつなら何かと力になってくれる。
「はあ…はあ…」
 全力で保健室に駆け込んだ俺を迎えたのは……
「あっ、キャルさん…でしたっけ」
「お前こんな所で何をしてるんだよ!」
 今朝出会ったシュウとアレフ、それと一度見たことのある顔の奴がいる。
 確か、ロフェルとか言ったか。頭に包帯を巻いている。
「おいあんた。あの武装車両は何なんだ?あそこから何人も武器を持った奴らが降りてきたんだが」
 俺は息を整えて、極力冷静に言った。
「詳しくは分からないが、校舎の中に武装した大人が何人も押し入ってきたみたいだ。俺の教室にも入ってきたんで、とりあえずルシードに助けを求めようと思ってここに来たんだけど……」
 顔ぶれを見渡して、俺はため息をつく。
「どうしてこんな時だけ授業を受けているのかね。ルシード君は」
 今まで何かを考えているようだったアレフが、急に俺の肩を掴んだ。
「おいキャル!じゃあ何か?お前は他の生徒を放っておいて逃げてきたのか?」
 俺はアレフの腕を振り払い、軽く睨み返す。
「俺は無用な争いを避けたいだけだ。女の事しか考えられないお前に言われたくないね」
「な…んだとこらぁ!」
「ちょ、ちょっとアレフさん!今はケンカしている場合じゃないですよ!」
 俺に殴りかかろうとしているアレフを、シュウが慌てて止めに入る。
「(ここにルシードが居なかったという事は、今頼りに出来るのは俺1人ってことか)」
 そう考えた俺が保健室を出ようとしたが、その眼前にロフェルが立ちはだかった。
「……何だ?」
 少し不機嫌な俺が睨んだが、ロフェルは怯んだ様子も見せずに言ってきた。
「お前、キャルだっけか。1人で殴りこみに行く気だろ?」
「ああ。だったらどうする?」
「1人で行かせるわけには行かないな。相手の人数はざっと数えただけでも十人を超えているんだぜ」
「じゃあ、君に何か策があるのか?ロフェル」
 自己紹介もしていない俺に名前を呼ばれて少し意外そうな顔をしていたが、ロフェルはすぐに答えた。
「まあ、これといって策があるわけじゃない。ただ、ここには4人もいるんだぜ考えりゃ何か出来るだろう」
 ロフェルの言葉に、俺は苦笑いを浮かべながら椅子に座った。
「確かに、正論だな。相手の目的が解かれば対処の仕方も決定するからな」
「でも、こんな学園を襲撃するなんて…何が狙いなんでしょうか?」
「うーん…手っ取り早く校内放送でもしてくれれば分かりやすいんだがな」
 不安そうにしているシュウにアレフがそう言った。全く。自分も不安なくせに、無理して明るくしているなアレフは。
「まあ校内放送なんて手段はテロリストの決起表明でもない限り…」
 ロフェルの言葉の途中で、保健室のスピーカーから男の声が聞こえてきた。
『この学園にいる全生徒に告ぐ!この学園は我々“物言わぬ柱”が制圧した。
 我々の目的は、現在政府に拘留されている我らがリーダーの開放を求めることだ!
 外部に逃亡したいものは逃げるがいい。ただし、俺たちは武器を持っている。廊下で出会ったときは容赦なく射殺する!』
 なんてお約束なことをしてくれるんだあいつら…
 俺は顔を引きつらせながらも、掃除用具入れの中からモップを取り出した。
「テロリストの場合は、現段階で指揮をとっている人物を最優先に叩く、合ってますかロフェルさん?」
 傍らに置いてあった鞄から竹刀を取り出しながら聞くシュウに、ロフェルは軽くうなずいている。
「まあ、間違ってはいないな…ところでキャル。お前何をやってるんだ?」
「ん?武器造り」
 短く答えた俺は、取り出したモップから布の部分と金属の留め金を取り外し、残った棒部分を軽く振り回してみる。
「…まあ、多少軽いがこれで良いだろう」
 俺はその棒…簡易作成した棍を右手に持って、3人の顔を見渡した。
「さて。俺はこれから単独行動をしたほうが良いと思うんだか…皆はどう思う?」
「やっぱ4人そろって行動をしたほうが良いんじゃねえの?」
「いや、2人1組で行くべきだと俺は思うがな」
 ちなみに、上から俺、アレフ、ロフェルの意見だ。
「なんだよ。結局全員の意見が違うじゃないか…そうだ!」
 俺はまだ意見を言っていないシュウに視線を向ける。
「シュウ。君はどう思う」
「えっ、俺ですか?…そうですねぇ……」
 シュウは少し迷った後、こう告げた。
「まだ警察も動いてない。俺達だけで行動するとして、あんまりまとまって行動するのもどうかと。かと言って単独行動も考え物……」
 正論だが、結局どうなのだろうか?
「まずは指揮を取っている人物がどの校舎に居るかを確認する目的で、丁度四人ですし、中等部、高等部、大学部校舎、職員棟に単独で潜入する。と」
 食堂や体育館にいる可能性も捨て切れないが
「しかし、かなり危険な方法だな。一網打尽にされるよりは良いが」
「なら決まりだ」
「単独で行動して連絡はどうするんだよ。携帯使うのか」
「ま、それしかないだろうな、番号を教えとこう」
 アレフの携帯案に対してロフェルがそう言ってそれぞれ携帯を取り出した。俺も携帯をシュウは学割付きの格安携帯を取り出す。
「俺の番号は…」「俺は…」
 という訳で俺達はそれぞれ携帯番号を交換し、必要とあれば連絡を取り合う事にした。
「それじゃ、行くとするかな」
「そうだな」
 そうして俺達は保健室を抜け出し、身を潜めながら静まりかえった校舎へと向かった。

「(ああは言ったものの、見つかったら終わりだな。まぁいいけど・・・)」
 アレフさん、キャルさん、ロフェルさんと別れた俺は竹刀を握り締め、足音を掻き消して慎重に歩く。ちなみに俺が向かうのは中等部校舎、保健室の裏から教員棟の裏まで周り、すぐ隣に建っている中等部の校舎に入る
 カチャ…
「……」
 潜入には思いの他楽に成功。廊下に人の気配は無い。生徒達はどこに行ったのだろうか?とにかく俺は神経を尖らせ、人の気配を探る。
「……(んっ?)」
 少し先の廊下の角から人の気配を感じ、足を止め、耳を澄ます。
「定時連絡、異常は無し」
『了解』
「もう一度確認したいんだが」
『くどい。女だろうがガキだろうが見つけたら撃ち殺せ』
「…了解」
 どうやら奴らは互いに連絡を定期的に取り合っているようだった。
「(厄介だな…)」
 無闇やたらに犯人を倒せば俺達の存在がバレる。かと言って見つからないように動くのも不可能、か?
「(さて、どうしたものか………まあ、ここは覚悟を決めるか)」
 俺は竹刀を強く握る。その時だった。俺は背中に硬く冷たい何かが当たるのを感じた。
「!!」
 振り返ろうとするがその硬い何かを当てている人物は背後から俺の首に腕を回し動きを止めると小さく耳打ちする。
「(騒ぐんじゃねえ、こいつで撃ち抜かれたくなけりゃな)」
「ッ…」
 俺は理解した。その硬いものは拳銃の類、この距離で撃たれれば一溜りも無い。
「……」
「(わかったら大人しくこっちへ来い)」
 俺が大人しくすると背後の人物は俺の首から腕を引いた。しかしこっちへ来いとはどういう事だろうか?仲間はすぐ側にいるのでは?
「…?」
「(さっさと来い)」
 そんな疑問を持ったが抵抗できない俺は背中に銃を付き付けられ、言われるままに近くのトイレに連れ込まれた。
「……」
「ったく、何やってんだお前」
 突然、背後の人物はそう言うと俺の背中から銃を離した。
 チャンスとばかりに俺は背後の人物から距離を取る。しかし…
「!!」
 その人物を眼にした俺は呆気に取られた。その人物は赤い瞳と薄い紫色の長い髪を後ろで束ねた……そう
「ルシードさん?!」
「大声出すなバカ」
「あ、すみません…」
 てっきり捕まってたものだと思ってた。まあ、ルシードさんが易々と捕まるとは思えないけど…
「しかしまた乱暴なことを……その銃どこから持ってきたんですか?」
 ルシードさんが持っているのはサイレンサー付きの拳銃。用意周到だ。
「昔にゼファーから貰ったんでな。あいつに聞け」
「って、本物ですか?」
「あ?当たり前だろ?」
「(銃刀法違反!!あの人、教師なのか?)それを俺に突き付けなくても…」
「お前があいつを倒そうとしてるからだろうが」
「はぁ……」
「奴らの定時連絡は大体30分毎みたいでな。下手に動けねぇんだよ」
「って、そこまで調べたんですか?」
「ああ、だがよ警察が動き出したらもっと間隔は短くなるだろうな」
 そこまで既に計算しているらしい。やっぱりこの人は只者じゃない…
「で?お前以外に動ける奴はいるのか?」
「ロフェルさんとキャルさん、アレフさんも。そう言えばルシードさん以外には?」
「わからねぇな、探せば誰かいるかもな」
「そうですか。……それで、どうするんですか?」
「奴らの頭を探さねぇとな」
 ルシードさんも考える事は同じらしい。
「やっぱりそうですか」
 とその時だった…
 バン!!
 扉が乱暴に開き、自動小銃を構えた男が姿を現す。見つかった!!
「!!」「チッ!!」
「お前ら何をしている」
 冷たくそう言いながら男は引き金に指を掛ける。この距離じゃ俺の竹刀は間に合わない。
「フン、恨むなよ」
 男が引き金を引く………絶体絶命
「くっ…」
 バスッ バスッ
 銃声が2回響く。だがその銃声は何かおかしい。静かな銃声だ。
 次の瞬間に気が付くと自動小銃を構えていた男は床に倒れ、一方のルシードさんが銃を構えていた。ルシードさんが銃を撃ったのだ。
「……って、マジですか?ルシードさん」
「ったく、しょうがねぇな」
 銃を下ろす『あ?不可抗力だ』と言わんばかりのルシードさん。殺したのだろうか?俺はとりあえず倒れた男を調べる。
「……防弾チョッキを着てるみたいですね。って、普通死にますが…」
「そいつ等の装備を確認しておいたからな。殺しはしねぇよ」
 ホントに用意周到な人だと思う。しかし躊躇い無く撃つとは…
「……過激」
「あ?とにかくそいつ動けねえようにして、使える物とかパクっておけ」
「窃盗を?」
「立て篭もりよりはマシだ」
「それもそうです、ね」
 という訳で窃盗を正当化した俺達は防弾チョッキを剥ぎ取り、自動小銃、ついでに持っていた手榴弾(!)を奪う。
「(危ない物ばっかりだ)さて、これは?」
「防弾チョッキはお前が付けろ手榴弾も持ってろ。銃は俺が使うぜ」
「わかりました」
 自動小銃をルシードさんに渡し、俺は防弾チョッキを制服の下に着、手榴弾を懐に仕舞う。防弾チョッキは意外と嵩張らないので動きに支障は無いようだ。
 とその時、男のトランシーバーから声が響いた。
『おい、どうした?』
「!!(タイミング悪いな…)」
『応答しろ』
「(どうしますか?)」
「(あ?決まってるだろ)」
 思いの他冷静なルシードさんは何を思ったかトランシーバーを手に取り…
「異常無し」
『了解』
「……マジですか」

 高等部へ潜入している俺はまず自分の教室へと向かう。
 キャルやシュウは結構行けると思うんだが問題はアレフだよな。アイツ特に喧嘩慣れしてるって訳でもないし女が絡むと強いんだけどな。
 携帯の着信音『世界なんて終わりなさい』が鳴る。やばマナーモードにするのを忘れてた。
 教室から犯人が飛び出してきた。手には銃身を短くしたショットガンを持ってるしこの間合いじゃ避けられない。
「た、助けてください。トイレから戻ってきたらなんか大変な事になっていて……ぼ、僕死にたくないないです。嫌だぁ、死ぬのは嫌だぁぁぁ………お願い、お願いぃぃ」
 涙ながらに訴える。演技にかけては一番自信が在る残念ながらこの学校には演劇部は無いが作ろうと思ってるほどだ。だいたい、半分演技じゃないし。
「わかった。命だけは助けてやる教室へ入っていろ」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
 犯人にしがみつく俺。ホント良かったぁ。興奮のため頭の傷口が開いて包帯が赤く染まっていたのも良かったのだろう。
 ロープで縛られ放り出される。
 教室には犯人がもう一人とかなりの生徒が集められていた。どうやら、他のクラスの生徒もいるみたいだ。ちょっと待てシーラの姿は在るけどあの凶暴女が居ない。どう言う事だ?
「なあシーラ。アイツはどうした?」
「パティちゃんの事?わからない、パティちゃんを入れて何人かが連れて行かれたの」
 連れていかれた?テロリストの定法から言ったらやばいじゃねえか。こりゃ警察が来る前に方をつけなきゃな。
「シーラ、俺が事を起こすから伏せてろよ」
「ロフェル…くん?」
 確かここをこうして…こうやって。ああしてこうして。
「あのぉ、俺達殺されるんですか?そんな、この若さで死にたくないですよ。お願いですから助けてください。お金だったらいくらでも差し上げますから。俺の実家金持ちなんですよ」
 まったくこれじゃ自分だけ助かろうとした挙句殺される三流の役だな。
 足だけを動かしてすがり付こうとする。
「うるせえんだよ、そんなに殺されたいのか」
 ショットガンの銃口が狙いを定める。
 今だ!!
 先ほど結び目を解いたロープを取り犯人の腕を取りそのまま投げ飛ばす。そして血にぬれた包帯でもう一人の犯人の腕を絡めとり銃を撃ち難くするとそのまま犯人の元へ飛び鳩尾へと肘を打ち込む。
 気絶した二人の犯人も念の為手足の関節を外しておいたから大丈夫だろ。
「俺が外に出たら机や椅子を窓や扉に積んで誰も入れないようにしておけ。それでもやばいと思ったらカーテンを一繋ぎにして窓から脱出しとけ」
「ロフェル…くん」
「俺はこんな事には慣れてる。まかしとけ」
 教室を出るとがたがたと机を積んでいる音がする。ひとまず大丈夫だろう。
「えっとショットガンに防弾チョッキ・手榴弾二つベレッタが一丁。戦利品はコレだけか」
 犯人の持ち物を確認していると背後で気配がした。ベレッタを構えて振り向くとそこにはリカルドのおっさんの姿があった。
「銃をしまってくれないか?ロフェルくん」
「なんだおっさんか。やっぱ無事だったみたいだな」
 リカルドのおっさんはここでの数少ない知り合いの一人だ。このおっさんは俺のじいさんの古い知り合いで何度か会ったことがあるし娘のトリーシャとも面識が在る。最もトリーシャの方は覚えてないだろうが。
「しかしさすがロズウェルさん仕込みの腕だね」
「好きで仕込まれたわけじゃないけどな」
 俺のじいさんロズウェルは代々続く忍者の家系とか元スパイとか凄腕の刑事で凶悪犯を何人も逮捕したとか、どれが本当の事やらわからないがとにかくめちゃくちゃ強いのは確かだ。そしてまだ小さなガキの頃格闘技やサバイバル能力、銃器爆弾の扱い方など無理やり仕込まれた。そんなじいさんと古い知り合いなのだから、このおっさんも只者じゃなくめちゃくちゃ強い。
「逃れたのは君だけかね?」
「いや、アレフとシュウとキャルって奴もいる。シュウは中等部にアレフは職員棟にキャルは大学部に別れてる。そう言えばおっさんトリーシャは大丈夫なのか?」
「教師側にも私とゼファー先生とリサ先生が行動している。生徒でもルシード君やルーくん、ヴァネッサ君、エル君、アルベルト君が行動していると聞いたが」
 ヴァネッサもかあいつは従姉ながらいまいち頼りないんだが。
「そっか。それじゃここは任せるぜ」
「何処へ行くきだい?」
「食堂。教室にいた奴らが少ない事といい嫌な予感するんだよ」
 俺の嫌な予感と言うのは外れたためしがない。

「犯人さん。頼むから居ないで下さいね」
 あぁ〜、何で俺がこんな目に遭うのかな。こんなに日ごろの行いが良いのに。
「おい、アレフ」
 だけど俺の助けを女の子達が待っているんだ。ここで良い所を見せれば好感度UP。
「おい」
 しかし他の奴等も心配だよな。キャルは確か薙刀部、シュウは剣道部だけどロフェルの奴特に何かやってるって聞いた事も無いし。
「おいって言ってるだろ」
「わぁ〜、アルベルト」
 振り向くとそこにはアルベルトの姿があった。
「さっきから呼んでるだろうが」
「し〜、声が大きい」
 まったく。犯人に見つかったらどうするんだよ。
「そこにいるのは誰だ?」
 ヤバイ。
「逃げるぞアレフ」
「誰の所為で見つかったと思ってるんだよ!」
 まったく、よりによってこいつと出会うなんて運がねぇー。

「………」
 別行動を取ることになった俺だったが、まだ大学部校舎に着いていなかったりする。
 まあ、保健室を出てすぐに学校の外壁沿いに進み始めたため遠回りすることとなってしまったからだが。
 壁際に生える木々を隠れ蓑にしながら進んでいるが、どうやら校舎内にしか犯人たちは居ないようだ。
「誰も居ないんだったら真っ直ぐ大学部に向かえばよかったんじゃないのかな…?」
 ただ遠回りするだけの結果となってしまったことに苦笑していると、突然真上の木が大きく揺れた。
「!」
 とっさに大きく跳び退り、棒を構える俺の前に、少しは顔見知りの奴が現れた。
「やっぱり君だったのね。キャル君」
「あ、ヴァネッサさん…」
 木から下りてきたのは右手に小型拳銃を持ったヴァネッサだったのだ。
「ヴァネッサで良いわ。それより、どうしてここに?」
「今から大学部の校舎内に入ってテロ集団の頭を見つけるためさ。そっちも同じだろう?」
「まあね。じゃあ、一緒に行きましょうか?」
「いや。俺のほうは何とかなると思うから食堂か体育館に向かってくれないか?こちらの人数の都合で探せていない場所だから」
「…分かったわ。お互い気をつけましょう」
「ああ。…じゃ」
 ヴァネッサと分かれて間もなく大学部にたどり着いた俺はそのまま校舎内へと侵入する。
 1階を回ったが特に何も無かったため、すぐに上へと向かった。が…
「もう。1人で大丈夫だって言ってるでしょう?付いて来ないでよ」
「そんなわけに行くか、バカ。逃げたらどうするんだ?」
 2階廊下を、2つの話し声が通り過ぎる。
 3階の踊り場まで駆け上がって身を伏せた俺の前を、銃を背中に突きつけられた女生徒が歩いていく。
 どうやらトイレに向かっているようだが…緊張感の無い奴だな。何処のどいつだ?
 トイレの前に立って周囲を警戒している犯人を見ていた俺に、少し考えが浮かんだ。
「はいはい。終わったわよ〜」
 犯人がトイレからでてくる女生徒の方を振り向いたその時、素早く踏み込んだ俺の棒が男の後頭部を直撃した。
「な、ん…」
 気絶した犯人を引きずって女トイレに連れ込んだ後、そこで装備品を奪うことに。
 その作業を手際よく行っている俺の横で、女生徒は目を見開いて驚いている。
「ちょ、ちょっとあなた。何をしているのよ」
 こわごわ訊ねてくる女生徒に、俺はちらりとだけ視線をやって答える。
「武器の調達と変装の準備」
 それだけ告げた俺は犯人の服を全て剥ぎ取ってそいつの持っていたロープで腕と足を結んだ。
「まあ、これで動けないだろう」
 俺はトイレの1つに入って服を着替え、装備を確認する。
「(ライフルが1丁に拳銃が1丁、手榴弾が3個…こいつらは俺には扱えないな。他には…警棒か。こりゃいいや)」
 トイレから出ると、先ほどの女生徒が待っていた。
「ああ。何も言わなかったのに待っていてくれたのか」
「まあね。変装したって事は、私が捕まっていた教室に入って救出してくれるんでしょう?じゃあ、私が案内しないとね」
「へえ。見かけによらず頭の回転が速いな」
「まっ、失礼しちゃうわね。私は橘由羅よ。由羅でいいわ」
「俺はキャレイド・グリアール。キャルだ」
 握手を交わした俺と由羅は、教室へと向かった。
 演技とはいえ人に銃を突きつけていると言うことに罪悪感を覚えないでもなかったが、まあこんなことは今回限りだろう。
 ガラガラ…
「遅いぞ!何処まで行っていた」
「…悪い」
 教室に入ったキャルに怒鳴りつけた犯人が、ライフルを生徒たちに向けて脅している。
「(ここに居るのは一人か…)」
 それだけ確認した俺は、そいつに近づいて言った。
「なあ。ちょっと頼みがあるんだが」
「ん?…ぐあっ!」
 俺が視野の外部から繰り出した警棒が、犯人の腹にめり込んだ。
「このまま、気を失っていてくれないかな?」
 帽子を脱ぎ捨てた俺は、そのままそいつを縛り上げた。
「みんな、大丈夫か?どうやらテロリスト達は校舎内にしか居ないみたいだ。ここでおとなしくしていてくれ」
「ちょっと待って」
 そのまま教室を出ようとした俺に、由羅が声をかける。
「私も一緒に行くわ。銃くらいなら使えるから」
 進み出てくれた由羅に、俺はさっき手に入れた銃を渡した。
「由羅は、ここ残って、ここに居る人たちを守っていてくれ。…頼めるか?」
「…仕方が無いわね。分かった」
 由羅はおとなしく銃を受け取ってくれた。…俺には、銃なんて使えないからな。
 そのまま大学部の中を捜したが、どうやら頭の居る雰囲気じゃないな。ここは。

 キャルが大学部校舎を後にした頃、再び中等部校舎。ここは1−A教室前。室内には近くのクラスの生徒が一まとめに集められている。その教室を気配を消して中を覗く人影が二人…
「(……どうですか?)」
「(二人だな。後ろに一人に黒板の前にも一人だな)」
 ルシードそしてシュウだ。
「(ガキの前で銃を使うのもなんだがな、行くぜ)」
「(じゃあ俺は黒板の奴をあっちから、ルシードさん、合図お願いします)」
「(おう)」
 教室のドアというものは基本的に前後二つある。足音を掻き消してそれぞれのドアに付く二人。
「(行くぜ……)」
 ルシードは小さく呟くと、左手を僅かに掲げ…………降ろす。
 ガァァァンッ
 勢い良くドアが蹴破られた。犯人にしてみれば突然の襲撃。
「!!」
「なんだてめぇっ!!」
 犯人の二人は驚愕する。がそれも一瞬、次の瞬間に黒板の前にいた犯人は頭に硬い物を叩き付けられ、床に崩れ落ちた。
「意外と他愛も無い、な」
 そんな倒れた犯人の男を見下ろす竹刀片手のシュウ。と…
「このガキが!!調子に乗るなよ!!」
 そんなシュウに向かって教室の後ろにいたもう一人の男がライフルを向けようとする。しかし…
「そこまでだな。大人しくしろよ」
 何所からとも無くルシードが男の眉間に銃口を付き付ける。
「て、てめぇ……」
「おっと、動くんじゃねえよ。ガキの前でこいつを使いたくねぇんでな」
 銃を付き付けるルシードの眼は本気だ。紅い瞳が鋭い眼光を放つ。
「2、3質問に答えてもらうぜ」
「だ、誰が…」
「あ?」
「……くっ……わ、わかった。答える」
「じゃあ聞くぜ。お前らの頭はどこにいる?穏便に済ませたいんでな、よろしく頼むぜ」
 拒否権は無いと言わんばかりのルシード。男を確実に威圧する。そんな様をシュウは倒れた男を動けないようにし、蹴破ったドアを元に戻しながら他人事のように見ている。
「(しかし、恐ろしいルシードさん…)」
 実際、他人事なのでしょうがないが。とにかく彼は辺りを見回す。
「……あ〜」
 ドアを修理すると彼はとりあえず一人の少年に声を掛ける。紫の髪の下手をすると女の子に間違われそうな少年。リオ・バクスターだ。後にミッション授業で知り合いになるのだが…
「えっ?」
「俺達が出ていったら机でドアにバリケードでも作って入れないようしておいてくれ。突破されるかもしれないけど多少の時間稼ぎにはなるだろう。突破されたら下手に抵抗するなよ」
「は、はい」
 その少年は少し怯えているようだ。それもそうだ。目の前でいきなり犯人とは言え男が殴られ、後ろでは銃を付き付けられているのだから。彼から見れば犯人より突入してきた二人の方が恐ろしいかもしれない。
 と、一方のルシードは既に男への質問を手短に終わらせ、男を動けないように縄で縛っていた。相変わらず手際が良い。
「おい、シュウ行くぞ」
「場所はわかったんですか?」
「ああ、食堂だ。こいつが嘘言ってなけりゃな」
「(食堂、盲点だった…)…ちょっと待ってください」
 シュウはポケットから携帯を取り出し、どこかへ掛ける。
「………えっと、もしもし、キャルさん?」
『確か、シュウだったな?どうした?』
「どうやら指揮を取っている人物は食堂にいるみたいで、今どこですか?」
『好都合だな。俺はもう食堂に向かってる』
「もう向かってるんですか?それじゃあ俺達も後から行きます」
『俺達?』
「今そこにルシードさんが」
『ルシードか。あいつがいれば頼りになるな』
「同感ですね。それとアレフさんに連絡を」
『わかった』
 電話はそこで切れた。と、シュウは再びどこかへ掛ける。
「………もしもし、ロフェルさん」
『何だ?』
「今どこですか?犯人の頭は食堂にいるみたいなんで」
『やっぱりか』
「は?」
『今、食堂だ。ヴァネッサもここにいる』
「マジですか」
『早く来いよ』
 電話が切れ、シュウは携帯をポケットにしまう。
「携帯で連絡取り合ってたわけか、で?他の奴らはどうしてる?」
「アレフさんは分かりません。キャルさんは食堂へ向かってますね。ロフェルさんは既に食堂にいます」
「チッ、遅れを取っちまったな、それじゃ俺達も行くぜ」
 ルシードはドアを乱暴に開いて廊下に出ていった。シュウもそれに付いていく。向かうは、食堂

「アレフ以外は連絡がついた。全員こっちに集まるそうだ」
「アレフ君は大丈夫なの?」
「あいつ悪運は強いから無事だろうと思うけどな」
 嫌な予感がして食堂に向かった俺はヴァネッサと鉢合わせた。
「ヴァネッサ。コレを預かっておいてくれ」
 先ほどの戦利品ショットガンと手榴弾を一つ渡す。ベレッタともう一つの手榴弾は念の為持っていっておこう。
「ほんとキミは手癖悪いわね」
「こっちは命がけなんだぜ。これくらいは持っておかないと」
「それで、キミの事だからこのままみんなを待っておくわけ無いんでしょ」
 さっすが俺の従姉、わかってるねぇ。
「それじゃ、後の事は頼んだぜ。俺に万が一の事が遭っても気にしなくていいから」
「わかってるわよ、そのくらい」
「お前ねえ。普通は可愛い従弟を見捨てるもんですかとか言わない?」
「ほら、さっさと行かないとみんなが来るわよ」
 戻ってきたら覚えておけよテメエ。
 虎穴に入らずんば虎子を得ず。俺の演技力の見せ所だな。
「おばちゃーん。ランチ一つね」
「ロフェル」「ロフェルくん」
 さりげなくおやつを食べに着た学生と言う設定で食堂に入ると。いやー、武装した奴等が6人とパティやアリサさん、トリーシャ等の生徒が十数人人質となっている。
「貴様、何故ここにいる」
「へっ、僕は頭を怪我して今まで保健室に居たんですけどお腹が減って食堂に来たんです。所でコレ何かの撮影ですか?」
「放送を聞いてなかったのか」
「今までぐっすり寝ていたもので。何かあったんですか?」
「もういい。貴様も他の物と一緒に這いつくばっておけ」
「はぃ…」
 グッ。
 なろぅ、何も言わずにいきなり殴りやがった。
「痛いじゃないですか」
「殺されたくなかったら大人しくしておけ」
「は…はい………」
「大丈夫、ロフェルくん」
 ハンカチで殴られた所をふいてくれるアリサさん。
「何バカな事やってるのよ」
 この野郎人の気も知らないで。
「ねえねえ、パティさん。その人誰?」
「ああ、この前うちのクラスに転校してきたロフェルって言うの」
「トリーシャだろ、ヨロシクな」
 トリーシャとはコイツが赤ん坊の頃会った事があるんだが覚えていないだろうな。
「アレ、何で僕の名前知ってるの?」
「リカルドのおっさんと俺のじいさんが知り合いでな。そのおかげで俺も知ってるんだよ」
「ふーん。そうなんだ」
 話しこんでる場合じゃねえな。何の為に入りこんだのかわからねえじゃねえか。
 俺は袖に隠しておいた携帯からヴァネッサ達に電話をかける。
「扉にマシンガンが2人、厨房に同じくマシンガンが2人、左壁に俺達と一緒に1人、厨房となりにリーダーが1人トランクを持っている」
 後はこのまま電話をかけっぱなしにしてと。それにしても通話料幾らになるんだろ……。
「イヤー!」
 声のしたほうを見ると青い髪の女の子が犯人にセクハラを受けている。クソッ、下手に手を出したらこっちの身が危ないし…。
「ちょっとあんた、何するのよ」
 凶暴女パティが女の子を助けようと食いかかる。おいおい…時と場合を考えろよ。
「なんだてめえ。こいつが目に入らないのか?」
 マシンガンの銃口をパティに向ける。
「それがどうしたのよ。そんなもんで人に無理やり言う事を聞かせようなんて最低ね」
 バカ!!それ以上挑発するな。
 ズキューン。
 銃声が食堂中に木霊する。
「イヤーーー!ロフェル」
「ロフェルくん」
「ロフェルさん」

 携帯から銃声が聞こえた。その後にロフェルを呼ぶ声が。まさかロフェルの身に何か!?
「もうみんなを待ってる暇は無いようね」
 私だけでも食堂に入ろうとした時。
「おい、どうしたんだ?」
「ロフェルさんはどうしたんです?」
「あいつ1人で入ったんじゃないだろうな?」
 ルシードくん、シュウくん、キャルくんの3人がやっときた。
「あの子1人で潜入していって。そしたら銃声が…」
「こうしちゃいられねえな。他の奴等を待ってる暇はねえ。俺達だけでかたをつけるぞ」

 バァン!
「いい加減にしろよお前たち!」
 食堂を大きく開け放ち、俺は『1人』食堂に踏み込んだ。
「なんだお前は!」
 間近にいた犯人の1人がこちらに銃口を向ける。
「俺か?俺の名前は……」
 パシュッ!
 俺の後ろに隠れていたルシードの銃が、犯人の銃を跳ね上げる。
「キャレイド・グリアール。覚えておけよ」
 その隙に踏み込んだ俺の警棒が、そいつの腹にめり込んだ。
「てめえっ!」
 扉にいたもう1人がこちらにマシンガンを向けるが、俺が注意をひきつけておいた間に近寄ったルシードの膝蹴りで難なく沈む。
「動くな!それ以上無茶をやるとこいつらが只じゃおかねぇぞ!」
 生徒の横に立っていた犯人がマシンガンをアリサさんに向ける。
「ちっ!」「……」
 俺は警棒を投げ捨て、ルシードさんも犯人を殴る手を止める。
「食堂に侵入者だ。手の空いている奴は全て来い」
 手元に持っていた通信機に連絡を入れた後、リーダーが進み出る。
 俺とルシードを睨みつけながら。
「先ほどから他の奴らを倒していたのはお前たちか。よくもやってくれたな。
 だが、それもここまでだ」
 リーダーの合図で、食堂前の2人がこちらに銃口を向ける。
 …予定通りに。
「せいっ!」
 ザンッ! ドン
「ぐあっ」「ぐっ…」
 密かに自販機横の裏口から侵入していたシュウの竹刀とヴァネッサの銃が、マシンガン男2人を打ち倒す。
「こっ…おまえらぁっ!」
 アリサさんに銃口を向けていた男がシュウに狙いを移した時、
「よくもやってくれたなぁっ!」
 男の足元に倒れていたロフェルが起き上がりざまに男を殴り飛ばす。
「ロフェル!あんた大丈夫なの?」
 駆け寄るパティをロフェルがさえぎる。
「大丈夫なわけ無いだろう。肋骨が何本か折れた」
 胸を左手で押さえて息を荒げているロフェルを、パティが支える。
「無茶言わないでよ!ほら、こっち来て!」
「放せよ!おい、こら!」
「パティさん、みんな。こっちよ!」
 パティに引っ張られて下がるロフェルと生徒たちをヴァネッサが先導して食堂から連れ出す。
「おまえたち、止まれ!」
「止まれと言われて止まる奴がいるか!」
 ルシード、俺、シュウでリーダーの前に立ちはだかる。
「いい加減諦めたらどうだ?」
 シュウが竹刀を構えて言う。
「お前たちのテロ活動もこれまでだな」
 警棒を突きつける俺に、リーダーは不敵な笑みを浮かべる。
「ここまで、だと?」
 リーダーの言葉と共に、俺の視線が突然反転した。
「ぐぁっ!」
 しばしの浮遊感の後叩きつけられた床の感覚で投げ飛ばされたことは分かったが、相手の動きが見えなかった。
 所詮、俺は学生で戦闘のプロを相手にすることは出来ないってことか?
「キャル…がっ!」
 ルシードの声にそちらを向いた俺は眼を見張った。
 どうやったかは分からないが、どうやらルシードは一撃で気絶させられたらしい。
「くっ、そ…」
 起き上がろうともがくが、体に思うように力が入らない。
 …これで、まともに動けるのはシュウだけ、か?
「……」
 俺の場所からは2人の表情を伺うことは出来ないが、きっとリーダーは笑っているんだろう。
 竹刀を構えるシュウの手が少し震えているように見える。
「(くそっ…俺に、何か出来ないのか!)」
 俺が心の中で悪態を吐いた時、意を決してシュウが動いた。
「はっ!」
 振り下ろされる竹刀を避け、頭が1歩下がる。
 それを追いかけるように何度も竹刀を振るうシュウ。
 駄目だ。このまま回避されつづけたら、集中力が切れたところを狙われる!
 俺の考えをよそに、2人は勝手口の辺りまで下がった。その時…
「くらえ!」
 突然勝手口が開き、飛び出してきた男の持った武器が頭の背中を切りつける。
「ぐあぁ!き、貴様ぁ…」
 そちらを振り向いた頭の延髄に、シュウの竹刀が伸びる。
「終わりだっ!」
「がっ…」
 白目をむいて倒れる頭を目で捕らえながら、俺は今入ってきた男に言った。
「その怪我で動くなんて、自殺行為なんじゃないのか?ロフェル」
「俺は、こういうのにも慣れているんでね。問題ない」
 ロフェルは、不敵な笑みと共に刀を鞘にしまった。
「い、いてて……」
 そのまま、その場に座り込んでしまう。
「おいおいロフェル。本当に大丈夫なのかよ?」
 俺は何とか立ち上がってロフェルに肩を貸す。
「うわ!ちょっと見てくださいよこれ!」
 シュウの声にそちらを向くと、リーダーの男が持っていたトランクを大きく開けて中身を見せていた。
「こりゃあ…爆弾だな。危ねぇ……」
 いつの間にか起き上がったルシードがそれを覗き込んでいる。
「ルシード!お前も気を失ってたんじゃ…」
 つい聞いてしまった俺を、ルシードが恐ろしいほどの目つきで睨む。
「ああ?俺を誰だと思ってるんだよ。俺が簡単に倒れるわけ無いだろうが!」

 ルシードがキャルに向かって叫ぶ。とそんな時、シュウは爆弾トランクを一心に見ていた。
「…………」
「あ?どうした?」
「いや、この赤い起爆ボタンらしき物を押したい衝動が」
 バキィッ
 その瞬間、ルシードの拳がシュウの頭に直撃した。痛そうだ
「いたたたた……」
「バカな事考えてんじゃねえよ」
「冗談ですって…(本気で殴らなくても……)」
「ったくよ」
 そんなやり取りがあった時、外からサイレンの音が聞こえてきた。警察が来たらしい。
「人足遅い、と」
 呟くシュウ。爆弾トランクを閉めて制服の下に着ていた防弾チョッキと手榴弾を捨てる。奪った意味は無かったようだ。
「結局使わなかったな」
「ハハ、使わないに越した事は無いでしょう?」
「それもそうだな」
 ルシードもまた奪い取った自動小銃を捨てる。
「奴らの残党は警察の奴らが何とかするだろうな、俺達がやるのはここまでだ」
「まぁ、上出来でしょう」
 しかし、そんな和やかムードな食堂に誰かが近づいてくる。
 その気配を四人は感じ取った。
「……二人、か」
「チッ、まだ居やがったのか」
 そしてその気配の主、ある人物が勢い良く姿を現した。それは…
「悠久学園の貴公子アレフ・コールソン参上!!さぁ、女の子を人質に取ったテロリストども掛かって………あら?」
「一足遅かったみたいだな」
 アレフそしてアルベルトだ。本当に一足遅い登場である。アレフとアルベルトの足がぽんとトランクに当たったがみんな気づいていない。
「何だよ。せっかく俺が悪人をぶちのめして女の子の点数アップをする計画が…」
「てめぇは…」
 本気で落ち込むアレフ。ルシードが今にも殴り掛かりそうだ。そこをキャルの肩を借りているロフェルがフォローする
「まぁ、怪我人は出たが誰一人死人が出なかったわけだし、良かっただろ?」
「そりゃそうだがよ」
「だろ?……ッ、いてて」
 ロフェルの表情が僅かに歪む、無理も無い。肋骨を折り、その状態であの動きをしたのだから。
「大丈夫か?保健室に行くか」
「ああ、悪い」
 そしてキャルはロフェルに肩を貸して食堂を後にし、保健室へと向かった。
「ちょっと待ってください!?」
 急に大声を出すシュウ。
「大声出すんじゃねえよ !……胸に響くだろ」
「あ、すみません。…ってそれ所じゃないですよ」
「なんだ、どうしたんだ?」
 シュウが覗いている物をルシードが覗きこむ。
「あぁ、何で動いてんだよ??」
 先ほどの爆弾がアレフとアルベルトの足が当たったときにスイッチが入ってしまったのだ。
「タイマーが後十分ですよ。どうするんですか?」
「俺に言うな俺に!爆弾を扱った事はねえよ」
「とにかくまずは避難するのが先だろ」
 キャルが最も建設的な意見を述べる。
「それじゃお前達、後は任せた」
「俺達は先生達に知らせてくる」
 アレフとアルベルトは真っ先に逃げ出した。
「ルシード。警察にこの事を」
「わかった。お前達も早く避難しろ」
 ルシードは向かってきている警察の連中に爆弾の事を知らせに行った。
「ロフェルさん、キャルさん。俺達も早く」
「ちょっと待てキャル。俺にそいつを見せろ」
「何考えてるんだお前?」
「爆弾の知識はお前達よりもある。もしかしたら解除できるかも知れねえ」
「本当ですか?」
「いいから早く」
「…仕方ないな」
 キャルはロフェルを爆弾の傍へと連れていく。
「C4かよ。だが、解体できねえ事は無いな……」
 C4とは俗に言うプラスチック爆弾の名称の一つだ。
「……C4って?」
「聞きたいか?」
「いえ、いいです」
「シュウ。ズボンの後ポケットにナイフがあるから出してくれ」
 ロフェルの言うとおりナイフを取り出すシュウ。
「それじゃ頼むぞシュウ。俺がアドバイスするから」
「………俺がやるんですか!?」
 まさか自分がやるとは思ってなかったシュウ。
「だって俺は肋骨やってるから満足に動かせねえし。キャルには俺を支えてもらわなくちゃいけないだろ」
「それじゃ、俺がキャルさんと変わりますよ」
「あのなあシュウ。そんなこと言ってる暇に時間は経っているんだ。死にたくなかったらさっさとやれ」
 時間はすでに5分を切っていた。警察の爆弾処理班も間に合わないだろう。
「まずは一番上の赤いコード。次に白。その次に………」
 ロフェルのアドバイスどおりシュウは振るえる手でコードを次々と切っていく。
 そして残るコードは赤と青の二つだけとなる。残り時間後一分。
「後はどっちを切れば良いんですか?ロフェルさん」
「…………」
「ロフェルさん?」
「無駄だ。気絶している」
 肋骨が折れているのに無理をしていたロフェルだが。無理が祟って痛みのあまり気を失ってしまっていた。
「どうすればいいんですか?」
「ここまできたんだ。最後までお前がやれよ」
「間違ったら俺達全員死ぬんですよ」
「もし間違ったとしても、俺もロフェルもお前を恨みやしないさ」
「……わかりました」
 シュウも腹をくくったようだ。
「赤を切ります」
 今まで以上に震えながら赤いコードを切る。
 タイマーが007で止まった。
「こ…腰が抜けた……」
「よくやったな、シュウ」
 こうして、事件は幕切れを見せた。


 翌日の昼休み、屋上 午前からずっとここにいる人物が一人。
「眠い…」
 それはシュウだ。腕を枕代わりにして屋上に寝転んでいる。
「あんな事があった翌日も普通に授業………って、休みで良いのにな」
 そう呟きながら彼は唐突に右手を自分の目の前に出す。
「……何か足引っ張り、か。もう少しリサ先生に鍛えてもらうか?……」
 そして彼は再び腕を枕代わりにし、目を瞑る。寝る気なのだ、が
「見つけた。駄目だよ授業サボっちゃ」
「んっ?」
 声に気が付き、シュウは体を起こす。そこには…
「トリーシャ……どうしたんだ?」
「『どうした』じゃないってば、駄目だよ授業に出なくちゃ、二年に上がれなくなっちゃうよ?」
「まぁ、その時はその時」
 そんなシュウの言葉に肩を落とすトリーシャ。あまりのやる気の無さに…
「はぁ……昨日はあんなに何ていうか、活動的で、ボクも少し見直したのになぁ」
「見直した?」
「アハハ、だって、シュウくん最近ずっとやる気無いからさ。やる時はやるんだなぁ、ってさ」
「まぁ、昨日みたいな時はやる」
「それ以外の時は?」
「寝る」
「やっぱり………でもさ、昨日のシュウくんは結構、格好良かったんじゃない?」
「ハハそれはどうも」
「もう、やる気無いなぁ、もうちょっと元気を出してよ」
「う〜ん…いやほら慣れない事すると疲れるだろ?っていうか疲れてるし、眠くて眠くて」
「アハハ……」
 この状態の彼には何を言っても無駄なのだろう。この状態が改善されるのはまだ半年以上先の事だ…

 一方の保健室。
 ルシードはベットに座りながら適当に新聞を広げていた。
「あ?『有名私立学園をテロリストが占拠、学園生徒が英雄的行動。犯人は全員逮捕』……ほう、英雄ね」
 そしてルシードの他にもう一人
「なるほどな、俺達は英雄か。マスコミが勝手に書き立ててるんだろうけどな」
 トーヤのいない椅子に座るキャルだ。
「そういゃあよ、朝に学園の前で他校生に声掛けられたな」
「絡まれたのか?(相手がルシードだったら返り討ちだろうが)」
「いや、女だ。写真取らせてくれだとか」
「良いじゃないか。取らせたのか?」
「めんどくせぇよ」
 ルシードはぶっきらぼうにそう言って新聞をたたむとベットから立ち上がり、そのまま外へ出ていく。
「んじゃ俺は食堂でメシ食ってくるぜ」
「ああ」
 そしてルシードは食堂へ行き、保健室にはキャルが残された。
 と、そんな時だった。保健室の扉が静かに開く。
「あの…」
 開いた扉の先にいたのは狐のような耳をした少女、由羅と同じくライシアンと呼ばれる種族。そう、更紗だ。
「更紗どうした?」
「キャル…」
「気分でも悪いのか?」
「違うの。助けてくれて……ありがとう」
 それだけ言って更紗は保健室から姿を消した。
「…更紗らしいな」

 また翌日のアリサの家。
「おはようございます。アリサおばさん」
 朝からパティが来ていた。
「あらパティちゃん。朝早くどうしたの?」
「あのバカどうしてるかなと思いまして」
「ロフェルくんの事。あの子ならまだ寝ているわよ」
 結局事件の後ロフェルはそのまま病院送りとなったのだが。翌日には無理やり退院してきていた。
「うぃ〜……」
「起きなさいよ、ロフェル」
「アリサさん…後5分」
「いつも言っているのだけど、結局5分では起きなくていつも遅刻しちゃうのよね」
「任せてくださいアリサおばさん。あたしが起こしてあげますから」
「そう。ごめんなさいねパティちゃん」
 アリサはロフェルをパティに任せて下へ降りていった。
「ほら、起きなさいよバカ」
「グゥ〜……」
「まったく…」
 誰かが俺の胸を叩いた。
「ぐががががぁ…………!」
 痛みのあまり胸を押さえながら起きるとそこには。
「何するんですか、アリサさん。………なんでお前がここに居る?」
「あんたがアリサさんの家に居候して朝遅刻してばっかりだと聞いたから起こしにきてあげたんじゃない」
「誰も頼んでねえだろそんなの。だいたいなぁ、折れてる肋骨を叩くかぁ?。誰の所為でこうなったと思ってる!」
 ちきしょう。本気でいてえんだぞ。
「良いから早く起きなさい。学校に遅刻するわよ」
 人の言う事聞いてねえし。
「あのなあ、俺は怪我人だぞ。休むに決まってるだろうが」
「だったらちゃんと入院しときなさいよ。無理やり退院したということは元気だって事じゃないの」
 だって病院って退屈なんだもん。家の方が良いもん。
「ほら、さっさと着替えて行くわよ。それともまた叩かれたい?」
 本気で叩きそうだなこいつ。しょうがねえ……大人しく学校に行くか。
 そして登校途中。この前と同じようにシュウと出会う。
「あれ、ロフェルさん。胸の怪我大丈夫なんですか?」
「コイツに無理やり起こされてな。無理やり退院したくせにサボってるんじゃないと言われてさ。サボるんならまた胸を叩くと脅されて……」
「はぁ……」
 気の毒そうな目で俺を見るシュウ。
 俺より付き合いが長いんだ身に染みてるみたいだな。
「2人共…この前は助けてくれてありがと」
「へっ…」
「特にロフェル。あたしを庇って撃たれちゃって、ホントにごめんなさい」
 いきなり謝られてもこっちの気が抜ける。だが、結構可愛いじゃねえか。この前のだってシーラを助けようとして俺を殴ったんだからな。
 そして3人で学校へ向かった。



「あの事件が無かったら、少なくともロフェルさんとキャルさんの接点は無かったでしょうね」
 感慨深げに言うシュウに、ロフェルが軽く同意する。
「そうだな。お前とキャルは、アレが無くてもトリーシャをめぐって顔を合わせていただろうしな」
「ちょ、ロフェルさん!それはどういうことですか!」
「おーおー。顔真っ赤だぞシュウ」
「…あーもー!」
 からかうロフェルを、シュウは睨んでいる。
「ま、俺はあんなことは2度と御免だけどな」
「そりゃそうだろ」
「そうですね。爆弾の解体なんて、もうやりたくないですよ」
 俺の意見に2人が同意した。
 いつの間にか、俺たちは学園の前まで来ていた。
「あれから1年ほど経つんだよな」
 校舎を見上げて俺が呟いた時、
『この学園は我々が占領した!校内に残る生徒はおとなしくしろ!』
 突然、学園のスピーカーがそう告げた。
「なに?またかよ!」
「行きましょう!」
 校舎に向かって走り去る2人を目で追いかけ、俺は小さく呟いた。
「さて。2人とも揃うとは思っていなかったから、何処まで行けるか、だな」
 いつ、あいつらが気が付くのかね?俺の顔には笑いが浮かんでいたことだろう。
「せっかく由羅達に頼み込んで用意したんだから、十分騙されてくれよ」
 今日は4月1日。エイプリルフールだ。

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