<悠久幻想曲IF・外伝>
橘 更紗のとある日常




 私は、橘更紗。数ヶ月前にこの町…エンフィールドに転がり込んだライシアン。
 更紗、って名前は由羅お姉ちゃんが付けてくれた。
 それまでは、名前なんて無かったから。『ライシアンの娘』、『大事な商売道具』、『お前』。それが私を表す言葉だったから。

 由羅お姉ちゃんは、エンフィールドに住んでいた先輩ライシアン。
 何処かつかみ所が無くて困るけど、本当はとってもやさしいお母さんのような人。
 だから、最初『お母さんって呼んでいい?』って聞いたけど、すぐに『お姉さんが限度よ』と言われてしまった。お母さん、は恥ずかしいそうだ。

 由羅お姉ちゃんはいつも、私や一緒に暮らしているメロディに周囲の事を任せている。
 でも、家事が出来ない訳じゃない。この前、ちょっと体調を崩した時に作ってもらったお粥は、本当に美味しかった。
 お皿洗いの方法も、由羅お姉ちゃんから教わった。
 由羅お姉ちゃんは、良くこんな言葉を口にする。
『私が居なくなった時にね、あなたたちが生活に困らないように色々な事を教えておきたいの』って。
 私は、この言葉は好きじゃない。だって、由羅お姉ちゃんが居なくなるなんて考えたくないから。メロディだってそう思ってる。聞かなくても、目を見れば分かる。由羅お姉ちゃんの事を、どれだけ大切に思っているか。


 今日は、由羅お姉ちゃんからお使いを頼まれた。いつものお酒とかの他に、日常品の買いつけとかも。
 メロディと一緒に、まずはさくら亭に向かう。
 その前にジョートショップの前を通ったのでメロディに待ってもらってジョートを探しに行った。
 もし暇だったら、お買い物をいっしょにしたいと思ったから。
 だけど、ジョートは朝からお仕事らしくて、お店には居なかった。
 …ちっ。荷物持ちは無しか。



 そのとき。何処からか悪寒を感じたジョートは、薬草を取ろうと屈んだ状態から慌てて身を起こした。
 周囲を見まわすも、誰も居ない。
 仕方なく、ジョートは薬草採集の仕事に戻った。



 着いた。さくら亭。ここで、由羅お姉ちゃんのお酒を買うの。
 お姉ちゃんは、よく『少年愛』というお酒を飲んでる。
 パティに聞いたら、結構強いお酒らしい。名前に似合わず、やるな。少年愛。
 どこかに美少女とかって言うお酒は無いのかな?

 それはともかく、お酒の選別はパティに任せている。私やメロディだと、何を買って良いのか分からないから。
 そして、一升瓶を6本、持ってきた布袋に入れてメロディが担いだ。
 メロディは凄い力持ち。見た目に騙されて声をかける旅の人に、凄まじいカウンターパンチをお見舞いしている。
 私は、じっと自分の手を見た。殴られたりした事はあっても、殴った事は無い。
 でも、メロディまでとは行かなくても、もうちょっと力を付けないとダメだと思う。
 目標は、お米(3kg)を一人で運べるようになる事。

 今度は夜鳴鳥雑貨店に行った。
 口の悪いオウムのパロと口の重い店長のおじさん。中々、さまになるコンビだと思う。
 だけど、ここに入るといつもめまいを感じてしまう。
 外観から考えられる広さはそれ程でもないのに、中に入った途端お店が広がったように思えるからだ。
 所狭しと雑多に置かれた品々が、私の感覚を狂わせているのだと思う。
 …そう言えば、少し前にマリアがこんな事を言っていた。
『あのお店、魔法で亜空間と繋がってるからあんなに中が広いんだよ☆』って。
 ふぅ。これだから魔法ヲタクは困る。

 雑貨店で買い物を済ませて外に出ようとして、ふと目に止まったものがあった。
 ショーウィンドウに飾られている、銀色の髪留め。彗星を模したように、小さな宝石が飾られている。綺麗だった。
 値段を見て、とても驚いた。私のお小遣いじゃ到底買えないような値段だった。
 あとで、ジョートに買わせる事に決定。



 またも悪寒を感じたジョートは、本を持ったまま周囲を見渡した。
 しかし、図書館の中でこちらに視線を向けているのは、依頼主のイヴのみである。
 またも仕方なく、ジョートは本棚の整理に戻った。



 次に、私とメロディはマーシャル武器店にやってきた。
 拳法は大して強くないひょろひょろのマーシャルって店長と、がっしりした体格でいかにも格闘家、って雰囲気の店員、エルが居るお店だ。
 …いつも思うけど、この店長と店員は逆だと思う。きっと、エルは店員と言う隠れ蓑を使った裏の店長なんだろう。全ての取り引きとかを行い、ヤバくなった時にはマーシャルを捨て駒にする算段なのだ。
 大人の世界って、恐い。

 あまり知られていない事だけど、由羅お姉ちゃんも武器を持っている。
 ごっつい刃を持ったアーミーナイフ。
『私みたいなか弱い乙女でも、身を守るものくらいは持っておかないとダメなのよ』とは、お姉ちゃんの談。
 だけど、晩ご飯の材料を買い忘れた時に、裏山に行って野生生物を狩って来れるお姉ちゃんのどこが『か弱い乙女』なんだろうか。
 それを聞くと、お姉ちゃんは少し考えてからこう返した。
『まあ、私もここに流れついた口だからね。旅の心得はあるものよ』って。
 きっと、お姉ちゃんも色々と苦労してきたんだろう。そう思い、今では『か弱い乙女』の部分には目をつむる事にしている、ちょっと大人になった私。

 今日はお姉ちゃんのアーミーナイフを砥ぎに出しに来た。
 明日には砥ぎ終えるらしいので、また明日ここに来ようと思う。
 何気なく武器を眺めていると、私も護身用くらいには武器を持っていた方が良いような気がしてきた。
 そう思ってエルに言ってみたけど、笑い飛ばされてしまった。
『この街の中に居る限り、護身用の武器なんぞ必要無いさ』って。
 でもそれって武器屋のセリフじゃないと思う。
 だけど、マーシャルはこそこそと奥から何かを持ってきた。
『更紗さんには、こんなのどうアルか?』と言って差し出されたのは、一本のナイフだった。
 白い持ち手から、白い刀身が伸びた小ぶりのナイフ。マーシャルの説明によると『このホーリーナイフは聖なる不思議な武器で、死霊だろうが神だろうが一刀両断アル!』らしい。
 実際は『このホ…』の辺りでエルに蹴り飛ばされていたけど、これまで何度もこれを他人に売ろうとしている所を知っていたからセリフを覚えてしまった。
 でも、これは間違いだと思う。きっと『死霊⇒資料』。『神⇒紙』なんだろう。
 つまり、これはペーパーナイフ。
 とりあえず、もらえるものは貰っておく、というお姉ちゃんの精神にのっとって、白いペーパーナイフを受け取っておく事にする。
 これで、ジョートが誰か知らない女の人と歩いていても安心。



 3度目の悪寒に、ジョートは間違って自分の指をカナヅチで殴りつけた。
 声もなくもがいている所に通りすがったクリスに治療を受け、礼を言ってから犬小屋の作成に戻った。
 結局、悪寒の主はこの時も判別できなかった。



 やっと帰ってきた。荷物を由羅お姉ちゃんと整理する間に、メロディが部屋のお掃除を終わらせている。

 それから、私は台所に立って料理を始めた。
 まだ由羅お姉ちゃんみたいに上手じゃないけど、お姉ちゃんもメロディも『美味しい』と言って食べてくれる。
 その笑顔が嬉しくて、料理を作るたびに元気が出てくる。
 他人に強要されるでなく必要とされるこの空間が、私はとても好き。
 私は、ここに居ても良い。それを強く確認できる瞬間だから。


 

──fin──


<あとがき>

作:お久しぶりです。キリリク作品です
珠呂:本当に久しぶりだな。
作:えー…今回は、心華さんの30000ヒットキリリクと言う事で。条件が、
『IF』『視点は更紗』『ジョート、珠呂、キャル、咲耶等のオリキャラは出演不可(名前は出しても可。ただし名前だけ。セリフは出しちゃだめ。場面にいるのも不可)』『ホノボノ日常編』
 と言う事で…更紗の視線の時にはジョートが出てないのでぎりぎりでOKかな?と言う作品です。
珠呂:…更紗、中々に良い性格してるな(汗)。
作:本編では不幸の絶えない珠呂さんほどではないですが。
珠呂:誰の所為だ誰の!?
作:さあ?私にはさっぱり(ニヤリ)。
 それはともかく。てっきりジョート氏が来ると思ったんですが。
珠呂:…これをジョートに見せるか?ちと酷だろうが。
作:確かに…。
珠呂:まあ、あとがきを長くしても仕方ないわな。そろそろ終わるか。
作:ですね。
 それでは皆様、本当に久々のキリリク作品。いかがでしたでしょうか。
珠呂:何かあったら、文句でも何でもこのバカ作者に送りつけてやってくれ。
作:バカ…(がーん)
珠呂:それじゃみんな、またな!
作:…あ。そ、それでは〜。


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