プレ悠久物語 第六話
<異質なる者、深く…>



「っざけんじゃねえぞコラァ!」
怒りに任せ、フォシルがセインに切り掛かった。
「ふ…」
 フォシルの剣を余裕で避け、セインが後ろに跳び下がる。
「剣で、俺に挑むのか。貴様に出来るか?」
「じゃかしい!ゲイルの敵討ちや!」
 怒りに任せて打ち込むフォシル。
「そん…!何?」
 それを避けたセインは、わずかな違和感を感じた。
(何だ?今の感覚は)
 先ほどより間合いを離し、セインは左腕を突き出すような構えを取る。
「遊んでやりたいが、貴様の素性がいまだにつかめないんでな。さっさと消えてもらおうか」
 セインのバードカッターが、フォシルに向けて打ち出された。
「やられるかぁ!」
 避けるには早すぎるその矢を、ヴェインスレイで切りつける。
「なっ!」
 セインは、その行動を見て愕然とした。
(魔力の塊の矢を、剣で切り刻めると言うのか?)
 切ったフォシルも、少し意外そうに剣を見つめる。
(あんな事、剣で出来るとは思わんかったんやけど…!)
 刀身の中央に起こった変化を見て、フォシルは顔をしかめた。
(剣に、ひびが入っとるな…これは、そう長くは持たへんか…)
 とにかく、フォシルは剣を構えなおしてセインを睨み付ける。
「今はそんな事気にしとられへん。今はアンタを殺すことが一番や!」
 一足でセインの懐に飛び込み、フォシルが攻撃を仕掛ける。
「月破斬!」
「っ!」
 寸前で避けられたはずの攻撃は、僅かながら左腕をかすめる。
(一体、何だって言うんだ?)
 もう一度フォシルの姿を見て、セインが顔をしかめる。
「なるほど…そういう事か」
 そのまま、次はセインから仕掛ける。
 左掌底を放つが、フォシルは体をスライドさせて回避し、カウンターを放つ。
 次はかすりはしなかったが、やはり体の動きが一瞬鈍ったことは確認できた。
「やはりな…ならば、このまま戦っても思惑通りには行かないか」
 何かを確信したセインは、懐からひとつの水晶を取り出す。
「フォシル。ひとつ面白いものを見せてやろう」
「面白いものやて?んなもん、興味ない!」
 剣を突きつけるフォシルを気にせず、セインが胸の高さに水晶を浮かべた。そこには…
「なっ…!」
 そこに映し出されていたのは、部屋で談笑しているファミナとアリアである。
「セイン…今度は何をする気や!」
 とてつもなく嫌な予感を感じ、フォシルは攻撃をためらってしまう。
 そんなフォシルに薄笑いを向け、セインは右手をかざし、ナイフを使って水晶を血で赤く染める。
「ヤィオ トゥオスティ クゥルル ヤィオディスンルフ バァンム アン スプンエクス バァエティ アエップンムンヅ」
 先ほどの呪いのような言葉と同質のそれを唱え終わったとき、水晶の中に映った二人の体が一瞬ビクンと震える。
 不思議そうに周囲を見渡すが、彼女たちにこちらの出来事が見えるはずもない。
「今、あいつらに呪いを掛けた。ここで起こったことをお前が話せば、自殺するようにな」
「な…!」
 セインの発言に、フォシルは驚きで剣を取り落としそうになってしまう。
「これで貴様は殺人者だな!」
 その隙を突いて繰り出されたセインのナイフを、フォシルはかろうじてはじいた。
「あほぬかせ!誰がんなもん信じるか」
「俺の呪いの力、まだ信じていないのか」
 あざけるようにゆがむその目線を振り払い、フォシルは気力で構える。
「ええ加減にさらせやお前は!」
 すべてを断ち切るその一撃が、セインの体に大きな裂傷を生じさせた。
 そこから溢れ出る血で、フォシルの左半身が赤く染まる。
「ク…クックックック……俺の血を浴びたな。呪いの…力だ!」
 傷など気にした様子も無いセインの、三度目となる詠唱が森を震わせた。
「バァンムンヌンティ ウ ルンティ ヤィオ ヅイ ヤィオ スァエルル アォディティ ヤィオディスンルフ」
 それと共に、フォシルはその場で凍りついたように動きを止めた。
「か、体が…」
「動かんだろうな。どうだ?俺の呪いを信じるか?」
「だ、誰が信じるかっ!」
 余裕の笑みを浮かべるセインは、フォシルの返答を聞いてさも残念そうに首を振った。
「残念だ。ならば、理解してもらわねばな。まずは…左肩」
「は?何を…!」
 フォシルの言葉を無視して、剣が彼の左肩を切り裂いた。『フォシルがにぎるヴェインスレイの刃』が。
「次は、右太ももでも行ってみるか」
「!…ぁっ!」
 セインの言葉に操られるようにして、フォシルの太ももに剣が深々と突き刺された。
 立っていられなくなったフォシルが膝をつき、それと共に体が自由を取り戻す。
「…はぁ…はぁ……っ!」
 左肩を抱くように体を丸めた状態で地面に伏せ、フォシルは視線だけをセインに向ける。
「フ…俺が恐いのか?フォシル」
 身体に斜めの刀傷をつけたまま、亡霊のようにセインが近づいてくる。
「つ、次は何をする気や…?」
 消え入りそうな声で問うフォシルに構わず近づいてきたセインは、地面に放り出されたヴェインスレイを拾い上げた。
「ヴェインスレイ。…黒の魔力を刀身に秘めた、異質の刃。その力、物質としての形を無くしたときにこそ最大の力を振るう」
「…?」
 セインの言葉の意味が理解できず、フォシルが口を開こうとした時。
 (バクン)
「!」
 セインがヴェインスレイをへし折った。
 それと同時に、フォシルの身体に理解不能な何かが流れ込んでくる。
(な、何なんやこれ!?気持ち、悪…ぅ…)
 うずくまった体勢のまま、焦点のうまく合わない目で地面を見つめるフォシル。彼の全身は細かく震え始めている。
「さあ、お前に眠る力を解放して見せろ。そしてその力で…」
 失血のために青白くなっている左手をフォシルの頭に乗せ、セインが囁く。
「俺を、殺せ。…ゲイルのように、な」
「! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 理由が分からない事の恐怖と心臓が止まるかのような悪寒に、フォシルは大きな叫び声を上げ、その体から黒い霧のような何かが溢れ出した。
 溢れ出した黒い霧は周囲を走り、存在するもの全てを破壊していく。
 木、草、森の動物、セイン、そして…ゲイルの死体を巻き込んで。
(ゲイ…ル……)
 フォシルの意識が遠のき、視界が暗転していく。
 そんな中で、まるで脳に直接響いているかのように言葉が聞こえた。
「ハハハハハハハハッ!これでいい。さすがは、黒の魔力に選ばれた者…。これで、あの邪魔な町は亡びを迎えよう…ハーッハッハッハッハッハ……」
 その言葉を最後にセインが息絶えた事に、フォシルが気づけるはずもなかった…

 


☆あとがき☆ 


 はい、と言う事でございまして。久しぶりに一人でお送りするあとがきでございます。
 テイルさん、なかなか終了しなくてごめんなさい。この後の展開は大まかには決定しているんですけど…
 まだ秘密ですからね?

 ということで、フォシル君になにやら不思議なものが憑いてる…もとい、着いてるみたいだな、って所で次回へ続く!です。
 短いですが、それでは〜。

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