プレ悠久物語 第三話
<安らぎの日々を>



 アリアと出会ったフォシル達は、その足でバークランドに取って返して来た。
 そして、今三人はファミナの家の前に来ていた。
「…ってな訳でな、ファミナの所に置いてやって欲しいんやけど。あかんか?」
「んー……」
 全て話し終えたフォシルがファミナに頼むが、彼女は考え込んだまま中々返答をしようとしなかった。
「やっぱり、俺の家で良いんじゃないのか?」
 そう聞くゲイルに、フォシルは一瞥だけ送ってすぐにファミナに向き直った。
「まあ、ゲイルはああ言うとるけど女の子を野郎一人で暮らしてるところに預けるのは色々とヤバいやろうし。ファミナに頼めへんかな?」
「でも…」
 ファミナは、視線をアリアに向ける。
 それまでうつむいていた彼女は、ファミナの視線を感じて顔を上げた。
「あなたは、私のところで良いの?」
「え…あ、はい。私、新しい所で暮らしたいと思っていますけど、それ以上は何も分かりませんから」
「そっか」
 アリアの返答を聞いて、ファミナが小さく頷いた。
「分かった。これからよろしくね、アリア」
「はい!よろしくお願いしますファミナさん!」
 元気よく返事するアリアに、ファミナは照れたような笑みで言った。
「ファミナ、で良いわよ。年もそんなに離れてる訳じゃないし、私も照れくさいしね」
「そうですか?…じゃあ、よろしくお願いします、ファミナ」


 そして、その後の事をファミナに任せ、フォシルとゲイルはフォシルの家に向かった。
「ただいま〜」
「おお。今回は早かったな」
 いつも、夕方前のこの時間帯には酒を飲みに来る客は少ない。この日も、手持ち無沙汰に机を指で叩いているグース一人だけであった。
「で、今回の獲物は?」
「えっと、その事やけどな」
 グースがそう聞いたが、フォシルは気まずそうに頭を掻く。となりのゲイルもばつが悪そうな顔をしている。
「ん?何も獲れなかったのか。珍しいな」
 気楽にそう言うグースに、フォシルが答えた。
「実は…」

 フォシルの話を黙って聞いていたグースは、聞き終えてあっさりと言った。
「つまり、今回は獲物を取ってこないで人命救助をして来たということか。それはそれで良い事じゃないか」
「そ、そか。親父がそう言うんならそれでええんやけど…」
 毎回フォシルたちの狩って来る獣肉は、この店の食料として充てていたのだ。そのためフォシルは、グースの希望を大きく裏切った事になってしまった、と思っていたのだ。
「本当に、すみませんでした親父さん。俺が要らないことを言わなかったら、きちんと獲物も持って帰れたでしょうに」
 ゲイルが頭を下げるがそんな彼にグースは軽く手を振った。
「そんな頭を下げられるような事じゃないぞ、ゲイル。正しい事をした時は胸を張って行け」
「はい!」
 一人で暮らしているゲイルにとって、フォシルの父であるグースは自分の父のように慕っている人物の一人であった。


 そして、こちらはファミナの家。家の中を一通り案内したファミナは、寝室にアリアを通した。
「とまあ、ここが私の家。気に入ってくれた?」
「ええ、とっても。こうやって窓から空が見える事が凄く不思議です」
「ああ。そう言えば最近まで地下に住んでいたんだものね」
 そんな話をしながらファミナがベッドに座り、アリアは近場の椅子に座る。
「あの、ファミナ。少し聞いたい事があるんですけど」
「あ、はいはい。何?」
 少しためらいがちに聞くアリアを、ファミナが笑顔で促す。
「あの…ご両親は?」
「あー…そのことね」
 ファミナの表情が沈んだ事を悟って、アリアが慌てだす。
「ご、御免なさいファミナ。私、とっても失礼な事を聞いちゃったのね」
「ううん、違うんだけど…一緒に生活するなら知りたいよね?」
 寂しげな表情を浮かべながら聞いたファミナに、アリアは遠慮がちに頷いた。
 それを見て、ファミナが笑みを浮かべた。
「死んじゃったの。二年前にね」
「え…!」
 目を見張るアリアから一度視線を離し、当時のことをファミナが話す。
「私、9歳の時に家族で国の外に旅行に出かけたんだ。その帰りに、たまたま馬車が魔物に襲われちゃってね。私たち三人は大怪我を負わされちゃったの。
 父さんは左眼を失って、母さんは右腕が動かなくなっちゃって、私は…」
 そこで、ファミナはゆったりしたズボンの左裾をまくって見せた。
「あ……」
 そこにあるものを見て、アリアは小さく声を上げる。が、目を逸らそうとはしなかった。
 ファミナの左足には、未だに生々しい一筋の爪の後が、膝から足首まで大きくついていた。
「私は、左足をこんなにしちゃった」
 ズボンを戻しながら、いささか寂しそうにファミナが言う。
「それで、そのとき襲ってきた魔物の一匹が猛毒を持っていたらしいの。私の父さんも母さんも、二人とも三年越しで死んじゃって」
「そう…だったのですか。御免なさい、私ったら……」
 謝るアリアに、ファミナが優しい笑みを向けた。
「ありがとう、アリア」
「えっ?」
 その言葉が以外だったのか、アリアが顔を上げてファミナの目を見る。
「さっき、傷を見せたときに目を逸らさないでくれたでしょう?それが嬉しかったんだ、私」
「ファミナ……」
 ファミナは、普段はあまり感じさせないようにしているが左足の事をずいぶんと気にしているのだ。そのことにフォシルもゲイルも気がついてはいるが、彼らにも見守るしか出来ない事柄であった。
「私ね、あの時からスカート穿けないんだ。傷を見るたびに、みんなが目線を逸らすから。フォシルやゲイルは違ったけど、ね」
 そこまで言って、ファミナは唐突に両手を打ち鳴らした。
「はいはい。湿っぽいお話はお終い。今日はもう寝ましょう?」
「あ、はい」
 アリアは頷いて、そのまま床に寝転がる。
「あ、あのー。アリアさん?」
「…はい?何でしょうか」
 何も疑問に思っていないような顔で起き上がったアリアに、ファミナは布団を指し示す。
「ここで一緒に寝よ。それでなくても、そこの長いすとかさ」
「え、でも…私、家ではずっと床で寝てましたけど」
 ファミナの意見に心底驚いた表情を返すアリア。
 ファミナはしばらく、ポリポリと頭を掻いていたが、
「ま、いっか。さ、アリア。一緒に寝よ?明日には新しいベッド作るからさ」
 アリアの手を引いてベッドにもぐりこむ。
 そのベッドは元々両親のものだったため、小柄な少女二人でも十分に眠れる広さだった。
「おやすみ、アリア」
「おやすみなさい、ファミナ」
 笑顔を見せ合って、少女たちは眠りについた。


 それからどれくらい時間が経っただろうか。
 ふと目を覚ましたアリアは、横にファミナが居ない事に気がついた。
「…ファミナ?」
 起き上がって辺りを見渡すが、部屋の中には誰もいないようだ。
 不安になったアリアが部屋を出ると、階段の上から物音が聞こえた。
(この上は…屋上?)
 ファミナの家は少々変わった造りをしている、と言うかファミナの提案でフォシルとゲイルが造り直したのだ。
 二階の内壁を全てぶち抜いて一つの大部屋にし、南北に大きな窓をつけた。
 なぜそうしたかの理由を、フォシルは今でも教えてはもらっていないが。
 その簡易屋上を思い出したアリアは、少し不安になりながらも階段を上った。

 案の定、そこにはファミナがいた。動きやすい格好をし、瞑想をしている。
 なんだか声を掛け難くなってしまって、そのままアリアが眺めていると、ファミナが静かに動き出した。
 その動きは、格闘術の基礎となる動きであったが、アリアには分からなかったようだ。
 ファミナはそのまま、一つ一つ型を決めていく。出来るだけ、左足に負担がかからないようにアレンジをしているものの、その動きは身体に染み付いているように流暢であった。
 彼女が一通りの型を決め終え、また静かに目を閉じた時、
「凄い…」
 つい発してしまったアリアの声で、息を切らしたファミナが階段を振り返る。
「あ。アリア…いつからそこに?」
「ご、ごめんなさい。私、夜中に目がさめてファミナの姿が見当たらなかったから心配になってそれで…」
 必死に謝るアリアに、ファミナが苦笑で返す。
「そんなに謝んないでよ。別に悪い事してるわけじゃないしさ。さ、座って」
 近くに立て付けられたベンチに腰掛け、アリアも横に座る事を促す。
 そのまま、別に反対する理由も無かったのでベンチに座るアリア。
「あ、あの。ファミナ、足は大丈夫なの?」
 遠慮がちに聞くアリアに、ファミナは苦笑を返した。
「痛いよ。でも、動かさないと身体が落ち着かないの。怪我をするまではフォシルに対抗して町の道場に通ってたし」
 そう言いながら、ファミナは静かに左足に触れる。
「ここで訓練してる事は、誰にも話してないの。もちろん、フォシルにもね」
「どうしてですか?」
 理由がわからずに聞き返してきたアリアに、ファミナはあっさりとこう返した。
「私の足を看てくれているドクターにね、激しい動きをすれば一生足が動かなくなるぞ、って言われてるんだ。実は」
「そうなんですか。……って、それってこんなに運動しちゃいけないって事なんじゃないですか!」
「そう、なんだけどね」
 苦笑を浮かべて肯定したファミナは、左手を傷跡に動かす。
「心配なのよ。フォシルもゲイルも、自由に外を出回って。私一人が、ここに取り残されてる感じが、しちゃって……」
「ファミナ……」
 アリアは、ファミナの顔を見て言葉に詰まってしまった。
 彼女の、涙を目にして。
「あ、ごめんね泣いちゃって。アリアに愚痴言っても仕方ないんだし。ところで…」
 無理に明るく笑みを浮かべ、ファミナがアリアに視線を注ぐ。
「アリア。あなた、ゲイルに一目惚れしたでしょ?」
「は…え、ええっ!」
 言葉を返そうとしたアリアは、問われた内容を数秒遅れで理解して大声を上げる。
「ど、どうしてそうなるんですか?私はただ…」
「ただ、何?」
 やたらと楽しそうな顔で聞くファミナから、アリアは顔をそらした。
「た、確かに私の名前を綺麗だって言ってくれた事は嬉しかったですけど。
 でも、それが恋なのかは…分からないんです」
 顔を上げずにそう言ったアリアに、ファミナはやさしい顔を向けている。
「ま、他人から見てわかる事も本人たちの間では分かんない、って事もあるかもね」
 そう言って、ファミナは視線を天井に向ける。
「…私ね、フォシルのことを頼もしく思ってる。出来る事ならずっと側にいたい。人によっては、これを恋だって言う人もいるでしょうね。でもね、」
 そこで一度言葉を区切り、小さな嘆息を交えてファミナが続けた。
「自由に動けるフォシルに嫉妬してる自分確かにもいるのよ。だから、私が本心からフォシルに恋心を抱いているって言える状態なのか……いまいち自信無いのよ」
 ファミナは寂しそうな表情を浮かべている。そんな彼女に、アリアはかけられる言葉が見つからずにいた。

 太陽が昇る数刻前。ベンチに腰掛けてファミナは明るくなりかけている星空を見上げた。
(フォシルに直接聞けたら、どんなに楽なんだろう)
 そんなことを考えながら。

 


☆あとがき☆


作者:と言う事で、第三話をお送りいたしました。いかがでしたでしょうか。
アリ:今回は、フォシルさんに上の言葉を聞かせたくないとファミナが言っていたのであとがきでも私です。
作者:アリアさん、人間の町の印象はどうでしたか?
アリ:一言で言って…暑かったです。
作者:ああ。これまでひんやりした洞窟生活でしたもんね。まあ、それはこれから慣れて行けるでしょう。
アリ:そうですね。
作者:さて、今回はキャラクター紹介が無いのであとがきは短めで。皆様からのご意見やご感想をお待ち申し上げております。
アリ:それでは、また次回にお会いしましょうね。
二人:さようなら〜。

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