プレ悠久物語 第二話
<邪霊族・ジン>


 フォシルとゲイル、二人が装備を整えて城門前に立っている。
 フォシルは背中にヴェインスレイを差し、濃紺のライトアーマーを着込んでいる。
 ゲイルは銀色の胸部鎧と同色の左だけの肩当てとレッグガード、そしてクレセントといった格好である。
「ほな、行って来るわ」
 門の中に向けてフォシルが手を振ると、見送りに来ていたグースとファミナが声を返す。
「二人とも気をつけるんだぞ」
「ゲイル、フォシルが無茶しないように抑えといてよね」
「ああ、わかってる。じゃあな」
 そして、二人の若者が町の外に向かった。


「にしてもさ。なんであんな言い方しか出来へんのかね」
「まあまあ。ファミナなりに俺達を心配してくれてるんじゃないのか」
「ま、せやろうけどな」
 今、彼らはゲイルを先頭にして森を北上していた。
 ゲイルの知っている抜け道とやらに向かうためである。
「フォシル」
 唐突に、ゲイルが足を止めて周囲を見渡す。
「どないした?敵か?」
 問いながら剣に手を伸ばすフォシルに、ゲイルは静かに頷いた。
「僅かだが、押し殺した殺気を感じる。お前にも分かるだろ?」
「…まあ、かすかにやったら、な」
 フォシルは背後を振り返り、ヴェインスレイを抜き放つ。
 そんな彼と背中合わせの状態となったゲイルも、腰のクレセントに手を伸ばして姿勢を低く保つ。
 そのまま、数秒が過ぎただろうか。
「来るぞ!」
 ゲイルの声を合図にしたかのように、二人を左右から挟む形で黒い影が襲い掛かってきた。
 フォシルは迷わず右手側の影に攻撃を仕掛け、ゲイルは申し合わせたように反対側に攻撃を仕掛ける。
 どうやら魔物たちは人間がどちら側を攻撃するか迷うと踏んでいたらしく、一度攻撃を受け止められただけで動きを止めてしまった。
 それは熊を巨大化したような格好をしており、右手の爪だけが異様に長く伸びていた。
「はっ!」
 フォシルは受け止めた爪を弾き、その勢いで魔物熊の脇を抜ける。
 その一瞬で脇腹を深く切り裂かれ、熊がもがきながら倒れていく。
 熊にフォシルがとどめを差す頃。もう一匹の魔物熊はグロウに頚動脈を切り裂かれて既に絶命していた。

 それから幾度か魔物の襲撃を受けたが、それらはどの魔物を取っても二人のコンビネーションに適うものではなかった。

 そしてまもなく、
「着いたぜ。ここが抜け道だ」
 目的地に到着してゲイルが振り返る。
 しかし、その洞窟を見たフォシルはあからさまに顔をしかめてみせた。
 フォシル自身も一度目にしている、とある有名な場所だったからだ。
「おいゲイル。ここって邪霊族(ジン)の洞窟やないか」
 邪霊族。フォシルは未だ出会った事が無かったが、彼らは地下深くに居を構える少数種族の一種で、攻撃魔法を得意とした非常に好戦的な種族であるという話だ。
 フォシルが嫌そうな顔をしているにも関わらず、ゲイルは気楽に説明をする。
「確かに、ここは邪霊族の洞窟だ。だけどな、地上から約三層分には殆ど邪霊族は顔を出さないんだ。で、ここの第二層から向こう岸に繋がってるって訳さ」
「…そうなんか。知らんかったわ」
 フォシルにはゲイルの言葉を否定する要素が思い当たらなかった。
(こいつが自身ありげに言うた時は、大概が正しいねんよな)
 フォシルも前に出て洞窟を覗き込む。
「ほぉ。結構しっかりしとるみたいやな。さすが人工洞窟や」
 天井や壁から、洞窟を支えるための魔力が僅かだが感じられる。
「だろ?さ、行ってみようぜ」
「了解」
 ゲイルを先頭にして、二人は洞窟へと足を踏み入れていった。


 内部に入って少し経った頃。洞窟の奥のほうから誰かの気配が感じられた。
「…何や?俺ら意外にもおるんか?」
「さあ、わかんねえな。とりあえず近寄ってみるか?」
「せやな」
 フォシル達が足音を殺して気配に近づくと、そこには数人が固まって存在していることが見て取れた。
 鋭く尖った耳、抜けるように白い肌、そして灰色の髪。
(…ちっ。なんでこんな所に邪霊族がいるんだよ)
 ゲイルのつぶやきに、フォシルが顔をしかめた。
(やっぱ、こいつらが邪霊族か…)
 そこには数人の若い男が武器を片手に立っており、その視線の向こうに一人の邪霊族の少女がいる事が分かった。


「…で、こいつをどうするんです?親分」
 男の中の一人が、見るもの全てを不快にさせるような笑みを浮かべて聞く。
 その質問に、一番顔の整った男が腕を組んだままの姿勢で答える。
「決まっている。地位を持った奴の娘とはいえ、攻撃魔法の一つも使えないできそこないは我々の種族には必要ない」
 そこで目線を細め、少女を仔細に観察した。
「だが、顔や体形は悪くない。人間種の闇商人にでも売りさばけば少しは金の足しになるな」
「親分、売っちまうのかよ?勿体ねぇ。さっさと犯っちまおうぜ?」
 美形男の斜め後ろにいた男の言葉で、何がおかしいのか取り巻き達が一気に笑った。
 少女は一言も言葉を発することなく、怯えた…いや、ある種諦めの混ざった目つきで男たちを見回している。


(あいつらぁっ!)
 それを岩陰から見ていたフォシルは、今にも飛び出していきそうなほどに体を震わせている。
(抑えろ、フォシル。今飛び出していっても不利だ。時を待て)
 フォシルを何とか抑えながらも、ゲイルの表情にも怒りが浮かんでいる。


 美形男が左手を軽く上げると、それまで笑っていた男たちが静まり返った。
 それを確認してから、美形男が少女に声をかける。
「アリア。何故一言も喋らない?なぜ助けを呼ばん?」
 不機嫌そうに聞く美形男から顔をそらし、アリアと呼ばれた少女がつぶやいた。
「…どうせ、誰も助けに来てくれないもの」
「ほぉ。少しは立場って言う物を理解しているようだな。ならば、売っても屈辱にはならんか」
 美形男は、そのままその場を歩き去る。
「お前ら、好きにして良いぞ」
「待ってました!」
「へっへっへ……」
 美形男が姿を消し、取り巻き男たちの腕が少女に伸ばされた瞬間、
「いい加減にしくされやこの外道が!」
「あ?…な、何だおま…げはっ!」
 背後からかかった声に振り向いた男は、走り込んだフォシルのヴェインスレイで肩口を切りつけられた。
「お前は…エルフか!」
 少し離れたところに立っていた男がフォシルに手を向け、魔法を放とうとしたが、
「おっと、動くと死ぬぜ?」
 背後に回っていたゲイルのクレセントが、男の咽にあてがわれる。
「くっ……」
 悔しげにうめくその男の左手を締め上げ、ゲイルが残りの男を見回す。
「さ、命が惜しければ武器を捨てな」
 ナイフに少し力を込めるが、男たちは武器を下ろす気配は見せなかった。
「ふざけんじゃねえぞ。お前ら人間ごときにびびるかってんだよ!」
「…つまり、命は惜しゅうない、ちゅうこっちゃな?」
 魔法を唱えようとしていた男を目ざとく見つけ、フォシルが切りつける。
 体勢を崩したその男は、次にフォシルの放った掌底で気を失った。
「怪我したい奴からかかって来いや!俺が相手したる!」
 フォシルの言葉に一斉に襲い掛かるが、剣の腕や素早さではフォシルの方が明らかに上だった。男たちの攻撃はフォシルを捉えもしない。
 そのまま数分が経過した頃。その場に立っているのはフォシルとゲイル、そしてゲイルに抑えられている男だけであった。
「お見事、フォシル」
 それを見届け、ゲイルがクレセントの柄で男の後頭部を強打した。
 そのまま沈んだ男を無視して、ゲイルはしゃがんだままの少女に声をかける。
「おい。あんた大丈夫か?」
 声をかけられた少女は、不思議そうにゲイルを見上げる。
「…どうして、あの人たちを倒したの?やっぱり私を売りさばくため?」
「はあ?何言うとるんや。お前を助けるために決まっとるやろうが!」
「え・・・・・・・」
 フォシルが怒ったように言った言葉に、少女は首をかしげた。
「どうして、助けてくれたの?私なんて、邪霊族(みんな)の除け者なのに」
 悲しそうな眼で問う少女の肩を、フォシルが引っ掴んで立たせた。
「んなもん、あんな場面を見て助けへんわけ無いやろ?」
「そうそう。とくにコイツは熱血バカだからな」
「ば、バカは無いやろうがゲイル!」
 横から茶々を入れたゲイルを軽く殴る真似をして、フォシルは少女から手を離した。
「で、アンタ名前は?」
「名前?」
 聞き返した少女に、ゲイルは頷いた。
「そ。名前。俺はゲイル=アッシュ。で、こっちの黒いのがフォシル=ラーハルトだ」
「私は…アリア。アリア=ティーク」
「そっか。アリアか。いい名前だな」
「…ありがとう」
 少女、アリアは初めて名前を褒めてくれたゲイルに笑顔で返した。
「それで、アリア。今から邪霊族の所に帰るんか?」
 わざと何気ない口調で聞いたフォシルに、アリアは悲しそうな顔でうつむいた。
「…ううん、帰れない。私、村を追い出されちゃったから」
「なんでや?」
 素直に聞き返したフォシルに、アリアは悲しい表情のまま理由を話し出した。
「私たちは、基本的に狩猟を行う種族なの。だから、みんなそのための魔法をいっぱい使えるの。でも…」
 アリアは、そこでしゃがみこんでしまった。
「私は、攻撃魔法なんて使えないの。覚えようって努力しても駄目だった。だから、私は家の中でも除け者で、いつもいじめられてたの」
「…そうか。聞いて悪かったな」
 しゃがみながら謝ったゲイルは、アリアが涙をこらえている事に気がついた。
 だが、彼女はその顔でも笑顔を向けた。
 自分を心配してくれている人たちを、少しでも安心させようとして。
「私も、誰かに聞いて欲しかったから。だから、大丈夫だよ」
「そうか……」
 しばらく訪れた沈黙を破ったのは、フォシルの提案であった。
「なあ、何やったらバークランドで暮らさへんか?」
「バークランド?」
「バークランド城城下町。俺達が暮らしている町だ」
 疑問を浮かべるアリアに、ゲイルが簡単な説明を加える。
「つまり、俺らの町に来る、っちゅうのはどうやろうか?って聞いてんけどな」
 理解をするのにしばらく時間を要したようだが、アリアが慌てて聞き返した。
「そ、それってつまり…私、そこになら居ても良いって事なの?」
 その問いに、フォシルは大きく頷いて見せた。
「せや。もし誰かが文句言うても気にすんな。俺とゲイルが命に代えても守ったる」
「そうだな。俺も守る事を約束しよう。どうだいアリア?俺達の町に来ないか?」
 二人の言葉に、アリアの目から大粒の涙がこぼれた。
「ありがとう…本当に、ありがとう」
 今、心の底から自分の事を心配してくれる存在に出会えて。
 彼女は初めて嬉しくても涙が出ることを実感した。

 これが、アリアとフォシル達の出会いであった。

 


★あとがき★

作者:はい、どーも。第二話をお送りいたしましたデジデジでございます。
フォシル:今回でメインの4人が揃ったな。
作者:そうですね。これ以上はオリジナル主人公は出てこないはずですし。
フォシル:ほな、俺とアリアのプロフ、紹介するんか?
作者:してほしいですか?
フォシル:……ま、ちょっとはな。
作者:了解しました。では…


◎フォシル=ラーハルト
年齢:14/種族:ダークエルフ/性別:男/髪:薄い水色の髪を長く伸ばしている。/眼:少し釣り目加減で、色は黒い。
外見イメージ:悠久幻想曲のルシードを、髪をストレートにして耳をとんがらせた感じ。
性格:明るく、少しお調子者。
好きな事:料理、武器集め/嫌いな事:自分の時間が割かれること
特記:母親は、彼が6歳の時に呪文の暴走に巻き込まれて行方不明になっている。父親は町で酒場を切り盛りしている。

◎アリア=ティーク
年齢:12/種族:邪霊族/性別:女/髪:邪霊族にしては珍しい金色で、長い。/眼:邪霊族特有の明るい緑色。
外見イメージ:悠久幻想曲の「更紗」(耳と尻尾無いバージョン)。
性格:思い込んだら周囲が見えなくなるタイプ。ただ、昔の影響かいじけやすい面も持つ。
好きな事:自由、お昼寝/嫌いな事:他人への命令。
特記:攻撃魔法を得意とする邪霊族の中で、唯一攻撃魔法を扱えない境遇にあった少女。町を追い出されたときにフォシルとゲイルに助けられた事から、バークランドに住む事となった。


作者:って感じです。
フォシル:…なんか、アリアだけ長くないか?
作者:そうでしょうか?変わらないと思いますけど。
フォシル:ま、ええか。ほな、いつも通り皆さんからのご意見・ご感想を待っとるわ。
作者:ではでは〜。
 

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