プレ悠久物語 第一話
<旅の始まり>

 ここは「魔法大陸」と称される、魔道技術の発達した大陸の一角。
 大きな城の下に広がる、規模としてはそこそこの城下町。
 その中にひっそりと立つ建物が一つ。そこに、14才位の少年が入って行く。相当に大きな袋を二つ抱えて。
 この町の名前は、バークランド国城下町『バークランド』。
 今回のお話の出発点である。


「親父、買い出し終わったで」
「おう、ご苦労さんフォシル」
 2つの袋を床に放り出す少年、フォシル=ラーハルトに、厨房のようなところから顔を出した男が声を掛ける。
「ほな、今日のメニューの決定は頼んだで」
 その男、フォシルの父親であるグース=ラーハルトに左手だけあげてそう言い、フォシルは厨房横にある自分の部屋に入って行く。
「あ、せや」
 その途中で思い出したように足を止め、袋を拾いに来たグースに顔を向ける。
「明日からまたちょっと出かけるから」
「またゲイルと遠出か?狩りも良いが危険な事には足を突っ込むなよ」
 二つの袋を片手で担いだグースが少し苦い顔をするが、フォシルは気楽に言い返した。
「大丈夫やって。俺とゲイルがおったらどんなバケモンにも負けへんって」
 そのまま部屋の中に入って行く息子を眺め、グースは小さく嘆息する。
「まったく。誰に似たのか旅好きな奴だな」
 グースの口元には、少し安堵の雰囲気が窺えた。

 部屋に入ったフォシルは、そこにある物入れの扉を開ける。
 それは大きな両開きの扉がついた一般的な形であったが、内部はすさまじい様相を呈していた。
 そう。そこには武器屋が出来るのではないかと思われるほどの武器が格納されていたのである。
 剣にナイフ、刀、鎖鎌、槍、小型ハンマー、斧、杖、ナックル、ボウガン、弓矢。さらに物質大陸で造られたと言う珍しい武器、銃まである。特に刀剣類の種類が豊富なようだ。
「さてと。やっぱこれか?」
 その中から一本の長剣を取り出し、床に座って手入れを始める。
 鞘から取り出したそれは、刀身と柄を合わせて1メートルを越えるほどの長さを有し、片刃の刀身はいぶし銀に輝いている。
 最近狩りに出る時愛用している、魔剣『ヴェインスレイ』である。
 魔剣、と言っても呪われている訳ではない。
 何らかの精霊が宿っている、一般的な魔力剣の名称の一つである。

 そのまま時間が流れ、フォシルがヴェインスレイの手入れを終えた頃。
 (コンコン)
 誰かの扉を叩く音が聞こえた。
「おう。おるで」
 短く答えたフォシルに、扉が勢い良く開け放たれる。
「よお、フォシル」
 入ってきたのは、腰に届くほどの長い紫の髪をうなじ辺りで一つに括った、陽気な表情を浮かべた少年であった。
 年は、フォシルと同じか一つ上だろうか。
「うっす、ゲイル。ま、座れや」
 軽く右手をあげて挨拶した少年、ゲイル=アッシュにフォシルも短く返し、近くの椅子を指し示す。
 その椅子に座りながらも、ゲイルの目線は物入れ、いや武器庫に注がれている。
「しっかし、いつ見ても物騒な部屋だよな、ここ」
「ほっとかんかい。どうせ趣味で集めとるだけやからええやないか」
「ま、俺も武器は好きだしお前の事は言えねえよな」
 そう言ったゲイルは、ベルトに着けられているナイフの柄に軽く触れた。
「せやな。武器マニアな俺も、ゲイルのクレセントほど洗練されたナイフには出会えてないわな」
 ゲイルの獲物は月刀『クレセントナイフ』。三日月形に反った銀色の刀身に、月の光を思わせる象牙の柄を併せ持つ、綺麗なナイフである。
「だろ?このクレセントは俺の相棒だからな。お前にも売ってやんねえぞ」
「うーん…ホンマはコレクションに加えたいねんけどな」
 と、それまで笑顔を浮かべていたゲイルの表情が少し引き締まった。
「なあ、フォシル。明日の狩りの事なんだが」
「ん?どないした?」
 気楽に尋ねるフォシルだが、その目は笑ってはいなかった。
「いつもは町の南側を散策していただろう?今回は北側に行ってみたいんだ」
「北側に?せやけど、町の北にはでっかい谷があるから対岸には行けへんやろ」
 ここバークランドの真北には大きな谷があり、数ヶ月前にそこに架かっていた橋が落ちてしまった事から復旧作業の真っ最中であるのだ。
 が、ゲイルは何やら含み笑いを浮かべている。
「そう思っているだろう?俺さ、谷の北側に行ける秘密通路を知ってるんだぜ」
「秘密通路ぉ?ほんまか?」
 疑わしげに聞くフォシルに、ゲイルはチチチ、と指を振った。
「これは誰にも言ってないけど、俺は谷の向こうの生まれなんだぜ」
「そうなんか?…まあ、ゲイルはこの町の生まれや無いってぇのは知っとるけど」
 ゲイルはフォシルが9歳の時に一人でこの町を訪れ、町の私設自衛団に入団したのだ。
 今では団を抜けて、護衛業という職業をおこなっている。
「と言う事で、北の森に行こうぜ?」
「ま、ええで。俺とゲイルやったら大丈夫やろ」
 フォシルの応えにうなずいて、ゲイルが席を立った。
「よし。じゃあ今から下見に行かないか?」
「んー…悪ぃけど無理やわ。数日家を空けるから、今日は徹底的に酒場を手伝わなあかんねん」
 そう言って、フォシルも立ち上がって武器庫の扉を閉める。
「そっか。ここの酒場って人気あるもんな」
 そのまま、二人で部屋を後にする。


 そして、時刻は夜。酒が進む時刻となっていた。
「フォシル。から揚げ三人分!」
「あいさー!」
 厨房で鍋を見ていたフォシルは、背後からかかった声にこたえ、空いていた鍋に鶏肉をぶつ切りにして放り込む。
「フォシル。コーンスープが出来上がったぞ」
「へえへえ。俺が持ってくんやろ?」
 横でグースが作っていたスープを受け取り、厨房の入り口まで運ぶ。
「ファミナ。頼んだで」
「りょうかーい」
 酒場で雇っているアルバイト、ファミナ=レンテックがスープを運んでいく。
 短く切り揃えた赤い髪を揺らしながら、彼女が皿を運んでいく。
 その様子をしばらく見つめていたフォシルだったが、
「フォシル!肉が焦げるぞ!」
「わかっとるわい!」
 背後から飛んで来たグースの怒声に渋々厨房に引っ込んだ。

「はい、お疲れ様でしたー」
 最後の一人の客を見送り、ファミナが厨房に向けて声をかける。
「おう、お疲れさん」
 そう返してからしばらくして、ようやくフォシルの担当である皿洗いが終わった。
「ふぃー」
 厨房から出てくると、ファミナが酒場の掃き掃除をしていた。
「いつも悪いな、ファミナ」
「なにを遠慮してるのよ。私はこの酒場にアルバイトに来てるんだから掃除くらいしても当然でしょ?」
「そんなもんか?」
「そんなものよ」
 フォシルも、椅子をテーブルの上に乗せる作業を手伝った。

 そして、二人がかりでそう広くない店内の清掃を終え、ファミナは普段着に戻った。
 下は深緑色をしたゆったり目のジーンズで、上は少し大きめの黄色いシャツの下に白地に赤い水玉のキャミソールを着けている。
「じゃ、もう帰るね」
「あ、ちょい待ち、ファミナ」
 そのまま店を出ようとしたファミナだったが、フォシルに呼び止められて不思議そうな顔を見せる。
 そんな彼女から一度目線を外し、フォシルは店の奥に向かって叫んだ。
「親父!ファミナ送ってくるわ」
「分かった。気をつけてな」
 帰ってきた父親の声を待たず、フォシルはファミナと一緒に店を出て行った。

 魔法の明りに照らされた通りを、少年と少女が歩いていく。
「ねえ、フォシル」
「ん?」
「明日、また狩りに出るんだね」
「まあな。ゲイルから聞いたんか?」
「うん」
 ファミナは小さくため息をついて、言葉を続けた。
「あーあ。私もこんな足じゃなかったら一緒に行けるのに」
 彼女の目は、自分の左足に向けられている。
「まあ、人はそれぞれや」
 彼女の視線の先にあるものを知っていたが、いや知っていたからこそ、フォシルは話を続けた。
「ずっと旅を続ける奴もおれば、ずっと文章を書いてる奴もおるし、親父みたいにずっと酒場で働いてる奴もおる。人生、旅に出るだけが楽しむ方法やないで」
「うん。分かっては、いるつもりなんだけどね……」
 弱弱しい笑みで見上げるファミナに、フォシルは笑みを見せてこう言った。
「ほな、俺がファミナの分まで旅してきたるわ。で、その先で起こった事やなんか、全てファミナに話したる」
 その言葉に少し驚いた表情を見せたファミナであったが、やがてフォシルに本当の笑みを見せた。
「ありがと、フォシル。私、あなたが話をしに来てくれるのを待ってる」
「ああ。嫌って言うても絶対聞かせたるからな」
「ふふ。だーれも嫌だなんて言わないわよ」


「ファミナ、か。俺は…どう思うとるんやろうな」
 ファミナを家に送り届けた帰り道、フォシルが一人つぶやいている。
「アイツの足を、俺は不憫に思うとるだけなんやろうか?」
 ファミナは、9才の時家族での旅行の帰りに魔物に襲われ、左足に大きな傷を負ってしまった。そして、その傷は5年経った今も完治してはいない。
 そのため、医師から走る事や激しい運動を禁止されているのだ。
 元来元気な子供で、幼馴染みのフォシルとはよく走り回っていたものであったが、怪我をして数ヶ月は家にとじこもってしまっていたのだ。
 それを強引に外に連れ出したのはフォシルと当時彼と知り合ったばかりのゲイルであり、それ以降少しずつではあるが笑顔を見せてくれるようになっていた。
「ファミナがバイトを続けてくれとるんは…俺が無理言うたからやろうしな」
 ある日、ファミナは酒場でバイトがしたいとフォシルに言った。
 理由は、少しでも多く普通の生活を感じたいから。
 それを受け、フォシルはファミナの両親とグースを説得しにかかった。
 そこでも紆余曲折があったものの、現在の状況に至る、と言うわけだ。
「俺も、アイツとまた走りたいんやけどな」
 そうつぶやいて、フォシルは上空に視線を移した。そして、何も臆することなく瞬いている星たちに宣言した。
「俺は、絶対親友を不幸にはさせとうない。そんためやったら、多少は悪い事でもやる覚悟はあるで」
 星の瞬きを見つめ、フォシルは広場の真ん中で立ち尽くしていた。


★あとがき!★

作者:さあ、やってまいりましたこのシリーズ。
フォ:今回の俺はどこのどいつや?
作者:はい。この設定は雅さんとの合作の4年前、フォシル君がバークランドにいるときからエンフィールドを訪れる前までを題材にしようと発足したものでございます。
フォ:今、雅さんが合作のその後を書いとるし、少々変わった合作になるんかな?
作者:そうかもしれませんね。
フォ:ほな、今回はゲイルとファミナのプロフ紹介やな。
作者:了解しました。

◎ファミナ=レンテック
 年齢:14/種族:人間/性別:女/髪:赤く、短く切りそろえている/眼:髪よりも透明感のある赤。
 外見イメージ:テイルズオブエターニアの「ファラ・エルステッド」。
 性格:正義感が強く、面倒見がよい。
 好きな事:掃除、ゆっくりとした散歩/嫌いな事:劣等感を感じる事柄全般
 特記:過去の理由より、小さくは無いトラウマを抱えている。いつも守ってくれるフォシルを頼もしく思っている様子。

◎ゲイル=アッシュ
 年齢:15/種族:人間/性別:男/髪:腰に届くほどの長い紫の髪をうなじ辺りで一つに括っている/眼:ブルーグレイ。
 外見イメージ:テイルズオブファンタジアの「チェスター・バークライト」。
 性格:竹を割ったような性格で、誰にも物怖じしない方である。
 好きな事:旅、武器の手入れ/嫌いな事:自分の地位を鼻にかけている人間。
 特記:5年前に城下町に流れ着いた冒険者。当時私設自衛団を務めていたが、今は周囲を旅する人間の護衛を主な仕事としている。

作者:といった感じですね。
フォ:ご苦労さん。ほな、はよう続き書いてな。
作者:ええ、分かってます。
 それでは皆さん。ご意見・ご感想をお待ちしております。
フォ:またな!

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