<レナ・ルーベック 恐怖の一日>

 今、悠久学園では文化祭の前日としてお決まりの校内祭が行われていた。
 ルシード達バンドのメンバーはリハーサルに没頭しており、フォシルは射撃部の出し物をほっぽり出してバドミントン部主催クレープ屋に入り浸っている。
 そんな中、とある出し物の前に集まって、拳を出し合っているメンツが6人ほど。
 リッド、レナ、マリア、更紗、ビセット、ピート、そしてそれを見守るゼファーである。
 6人は、真剣な顔で声を揃えて言った。
『じゃーんけん、ポン。あーいこーで、しょ!』
 何かを決めるじゃんけんのようだが、なかなか決着がつかないらしい。やがて……
「うそぉ〜」
「やったぜ!」
「いえーい」
 各自の叫び声が廊下に響いた。
 結果を見てみると、レナだけがグー、後の5人はパー、と言うことである。
「これで俺達はフリーだな。行こうぜマリア」
「うん★じゃあ頑張ってね〜。レナ」
「私、リオ探さないと…」
「更紗。それより料理研究部放っておいて良いのか?」
「そだな。俺も手伝うから早くリオ捜して料理研究部行こうぜ」
 硬直したまま、全身白くなっているレナ。
 彼女の肩に、ゼファーが静かに手を置いた。
「よし。では将棋部作成、新体験お化け屋敷の初挑戦者はレナだな」
「うっ…うぅぅぅぅ……」
 動けなくなったレナを、ゼファーが後ろの教室に引きずり込んでいった。


 次にレナが正気に戻ると、廃屋のような場所に一人で立たされていた。
 背後には大きな鉄の扉がある。どうやらそこから入ってきたらしいのだが…
「ぜんっぜん、記憶に無い…」
 お化け屋敷の恐怖とは違った恐怖に、レナが小さく呟いた。
 扉を開けようと頑張っていたレナだったが、押しても引いてもびくともしなかった。
「ま、まあ所詮は作り物よね。奥に進めば出口があるし」
 レナがそう割り切って一歩を踏み出した時、
 (ふわぁ〜)
 目の前に、火の玉が現れてレナの前で停止する。
「も、もぉ〜。どうせ糸で吊った発光球か何かでしょう?」
 そう言いながら火の玉の上に手をもっていき、そのまま思考が停止する。
「糸が…ない?」
 しかも、手から伝わってくる熱さは間違いなく炎の熱さである。
 そのまま思考を停止していると、次に気がついた時には火の玉はどこかに消え去っていた。
「ま、まさか…本、物……?
 そ、そんなわけ…な、無いわよ、ね、ねぇ…ハハ、ハハハハ……」
 引きつった笑みを浮かべ、レナは何とか次の一歩を踏み出した。


 どれくらい歩いたのだろうか。気がつけば周囲には墓石が林立している。
「って、ここって教室じゃないの…?」
 さすがゼファー作、とでも言おうか。空を見上げるレナの目には、満天の星空が映っている。
「どうなってるのかしら…?」
 疑問に思いつつも、レナはとりあえず歩みを進める。
 すると突然、
 (トントン)
「ひゃっ!」
 誰かに肩を叩かれ、レナは数十センチ飛び上がった。
「だ、誰…です、か?」
 恐くて後ろを振り向けないレナの問いかけに、背後の人物は黙して語らなかった。
 恐る恐る、背後を確認するレナ。彼女の視線がそれを捕らえた途端…
「きゃあああああっ!」
 あらん限りの悲鳴を上げて、レナは一目散に走り去った。
 一人取り残された『動く白骨死体』は、静かにレナを追って移動を開始した。

「はぁ…はぁ…はぁ…」
 白骨死体からダッシュで逃げ出したレナは、小さな小屋の壁に背を預けて荒い息を繰り返していた。
「な、なんなのよここは?」
 改めて周囲を見渡し、レナは不安そうな顔になる。
 今立っているのは荒野に立てられた小屋のまん前。見渡す限り、彼女の視線をさえぎるものは何も無い。加えて、空は真っ暗=真夜中である。
「一体、何処をどう走ったらこんな所に…え?」
 ふと、彼女は恐怖のあまり忘れていた事実を思い出した。
 彼女は、今教室の中にいる筈なのである。どう少なく見積もっても、荒野のように開けた教室などあるはずも無かった。
「私、帰れるのかなぁ?」
 呟いたレナに、荒野を吹きぬける風だけが答えを返した。

 結局、レナは小屋の中に入ってみることにした。
 そこには、一つのベッドと小さなテーブルのようなものが置いてあるだけであった。
「まるで、小休止してくださいって言わんばかりの場所ね」
 いぶかしげにベッドを見つめていたレナだったが、恐怖の連続で疲労していたのは事実なのでベッドに腰掛ける。
「はぁ。これからどうなっちゃうんだろ」
 不安だらけの表情を浮かべ、体育座りのように両足を抱える。
「せめて誰か側に居てくれたらなぁ…」
 そんな事を考えて、はじめに頭に浮かぶ顔は…
「リッド…」
 なんだか無性にやるせない気持ちになってしまったレナ。うつむいたまま動きを止めてしまった。


 一時間程して、ベッドに倒れていたレナが起き上がる。
「やだ。私、寝てた?」
 慌てて起き上がって、窓から外を眺めてみる。相変わらず夜の空気が辺りを支配し、物陰一つ見当たらない。
「どうしよう。このまま、ここで朝になるのを待って…って」
 そこまで口に出して、レナは苦笑で中断した。
「ここって、ゼファー先生の作ったお化け屋敷の中なんだよね。さっさと出ないと、みんなが心配するかしら?」
 レナは扉に手を掛けて半分ほど開き、また勢い良く閉めた。
「…えっと…今のは?」
 扉の向こうに見えた景色を理解できなかったレナが後ろを振り返ると…
「あ、あれ?」
 そこは部屋の中でも何でもなく、明らかに洞窟の中だった。
「ど、どうなってるのよこの部屋は!」
 周囲に向けて絶叫したレナの耳に、
 (かしゃん かしゃん)
 背後から、軽いものが幾つも叩き合わされる音が聞こえてきた。
「もしかして…」
 こわごわと後ろを振り向いた彼女の先には…
「うわ、やっぱり……」
 洞窟を埋め尽くすほどのスケルトンが出現していた。
 もちろん(?)、既に扉も姿を消している。
「じょ、冗談じゃないわよ!」
 スケルトンの群れから逃れるために走ろうとしたレナだったが、何かに足をつかまれてその場でこけそうになった。
「な、何が…っ!」
 足元を見た彼女の視線。その先には…
 生々しい血を滴らせた腕が、地面から生えて彼女の足にしがみついていた。
「い…いやぁぁぁぁぁっ!」
 レナが絶叫し、スケルトンの群れが彼女に迫り来る。
「てめえらそこを動くな!」
 そんな場面に、いきなり声が響き渡った。
 その声と共に現れた一つの人影は、スケルトンの群れの目の前で跳躍して骸骨群のど真ん中に、一体のスケルトンを踏み壊して着地する。
「奥義・鳳凰天昇の舞!」
 人影の放った炎の攻撃で、骸骨たちの大半が崩れ去る。
 その人物は…
「レナ、正気か?」
「リ、リッドぉ…」
 愛用のバルバロスでレナを束縛している腕を切り飛ばしたリッドに、レナが飛びつく。
「お、おい!レナ!」
 リッドにしがみついたレナの身体は、小刻みに震えていた。
「遅いわよ…一体、何処に行ってたのよ……」
「………」
 涙声でそう訴えるレナをとりあえず身体から引き剥がし、リッドは彼女の目を覗き込む。
「レナ。今の状況、理解してるか?」
「状、況…?」
 きょとんとした表情で返したレナに、リッドは苦笑を向け、続いて…
「ゼファー、レナを見つけたぜ。引き上げてくれ」
 天井に向かって声をかけた。
『了解。今からサルベージを開始する』
 リッドの声に、帰ってきたゼファーの声。
「え?えっと…もしかして…」
 今になって何かに気がついたレナであったが、次の瞬間目の前に広がった光に目を瞑ってしまった。



 次に目を空けた彼女は、周囲を見回して状況を確認する。
「ここは…ミッションルーム?」
「そうだ。今回、ミッションルームを使用した疑似体験幽霊屋敷を作成していたのだが、途中でデータにバグが生じていてな。こちらの手違いだ」
「ゼファー先せ…ぶっ!」
 真横から掛かった声にそちらを振り向いたレナだったが、ゼファーの顔を見るなり小さく噴き出した。
「ど、どーしたんですかその顔?」
 彼の右目の周りに、まるで漫画のように青アザが出来ていたのだ。
「ああ、これは…」
 その場に手を当ててゼファーが苦笑した時。
「俺がぶん殴ってやたんだよ」
 ミッション端末の一つから立ち上がり、リッドがゼファーの横に並ぶ。
「リッドが?どうして?」
 少しよろめきながら立ち上がったレナに手を差し出しながら、リッドが不機嫌な声で答える。
「マリアと一緒に出店を回ってたら、いきなりゼファーから呼び出し喰らってな。慌てて来て見たら、お前をコンピュータ内で見失ったって聞いてさ。つい、手が出ちまったんだよ」
「じゃ、じゃあ、私のことを心配してくれてたんだ?」
「…悪いかよ、心配して。お前は俺の従姉だろ?」
 少し嬉しそうに聞くレナに、リッドはぶっきらぼうに返した。
「リッド…ありがとう。それと、ごめんね」
 少し嬉しそうに、そしてちょっと恥ずかしそうに言葉を紡ぐレナを見て、ゼファーが小さく呟いた。
「まあ、何はともあれ一件落着だな」
『って、張本人のあんたがしめるなぁー!!』
「ふむ。今日も晴れているな。良い日になりそうだ」
 リッドとレナの突っ込みに、ゼファーは何処吹く風でミッションルームを後にした。


☆あとがき、です☆

作者:はい、と言うわけで完成いたしました、にいたか様リクエスト、リッド&レナストーリー第七話。少し変わったお話を…と思っていたら変わり過ぎて収拾つかなくなって結局ふつうっぽいお話になってしまいました〜。
レナ:で、申し訳ないと思っているの?
作者:はい。特にレナさんごめんなさい。今回は怖かったですか?
レナ:恐くなんてないわよ、あれくらい。だって魔物相手と変わんないじゃない。
リッド:そのわりには、悲鳴上げてたよな?
レナ:あ、アレは作品上仕方なくよ!リッド、からかう気ならさっさと帰って。
リッド:へーへー、悪かったよ。…にしてもさ、お前の書く作品って、俺の扱い軽すぎる感じがするんだけど。
作者:そうでしょうか?…まあ、リッド君には組曲3の方にも出てもらう予定ですし、それでチャラ、と言う事で。
リッド:まあ、今回はそれで引いてやるか。
レナ:さて。今回のデジデジは皆様からの批判を受ける覚悟が出来ているようなので、どしどし批判の文章を送ってくださいね。
作者:…さらっと、酷い事言ってません?
レナ:まあまあ、気にしない気にしない。
 それでは皆さん、またお会いしましょう。
3人:さようなら〜。

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