<再来する恐怖…マジ?>

 ここは悠久学園近くの少し小高い丘。
 そこの頂上に立って、一人の男がつぶやいた。
「…また、ここに帰ってきたな」
 その男は、この町ではあまり見慣れない…いや、既に見慣れたというべきか?
 まあ、そんなこんなで。彼は銀髪のポニーテイルを翻して第一の目的地へと向かった。

 そして、ここはラセツ・ブレイド宅。
 とは言っても自宅ではなく、ラセツが学園に通うために借りているマンションの部屋である。
 (コンコン)
 その扉を、朝っぱらから叩いている近所迷惑な男が一人。
「おーい、ラセツ。いないのか?」
 (ガンガンガン)
 今度は思いっきり叩いてみる。
 しばらくして、扉が開かれた。
「何なんだよ、こんな朝っぱらから」
 不機嫌そうに対応するラセツ。そりゃそうだ。朝3時に起こされたら大抵の人が不機嫌になるであろう。
「よ、ラセツ。3〜4日、泊めてもらうから」
 軽い口調でそう言い、男は堂々と部屋の中に入って行く。
「……ん?」
 ラセツも、やっと頭が動き出したらしい。慌てて扉を閉めて部屋の中に戻った。

「で、どうしてここに来たんだ?グロウ」
 勝手に部屋に上がりこんでお茶をすすっているグロウに、ラセツはため息混じりに聞いてみた。
「いや、な。今俺ん会社横領してたらしくて休業中なんだよ、これが。で、この際だから帰ってきてフォシルについてもっと探ろうと思ってな」
「フォシルについて?……そう言えば、一ヶ月前くらいに帰ってきたときは毎日襲ってたよな」
 ラセツの言い回しに、グロウは渋い顔をした。
「おいおい。そんな変な表現するなよ。俺は男と寝る趣味はねえぞ」
「誰もそんな事は思ってないよ。フォシル君に付いてなら、ティセちゃんから聞けるんじゃないのか?」
 グロウの横に座りながら言ったラセツだったが、グロウからの返答が帰ってこなかった。
「…グロウ?」
 少し心配になってそちらを向くと、彼は少し難しい表情を作って答えた。
「この前聞いたんだよ。そしたら、
『フォシルさんですかぁ?…そうですね。強くって、格好よくって、ちょっとおっちょこちょいで、側にいると安心できますぅ』
 ってな具合で…?どうしたラセツ?」
「わ、分かったからその声でティセちゃんの真似は止めてくれ。聞くに堪えん」
 何故かうずくまってしまったラセツは、心底疲れた声で返した。
「ま、そんなわけで。フォシルについて詳しく知ってそうな奴を紹介して欲しい訳よ。お前、顔広いし知ってるだろ?」
「まあ、知ってる事は知ってるが…」
 ラセツの脳裏に。情報通の後輩が数人浮かんできた。その中で…
「そうだな。フォシル君について詳しそうなのは、新聞部部長のレナ、かな」
「新聞部?そんな部活、いつ出来たんだ?」
 一応学園卒のグロウであったが、その頃には無かった部活だ。
「さあ?旅から帰ってきたら出来てたしな。たしか、レナが作ったって話だが」
「ほー。新聞部のレナ、ね。分かった、今日訊ねてみるか」
 それだけ言って、グロウはその場に寝転がった。
「あ、それと。今回帰ってきてるのはティセには内緒だから、俺家に帰れないんだよ。っつー訳で。ここに泊めてもらうからな」
「は?…て、おいグロウ!」
 ラセツに了承を告げる間も与えず、すでにグロウは熟睡モードに入ってしまっていた。
「ったく、コイツは……はぁ」
 何かと文句を言いながらも、結局ラセツは短期間の居候を受け入れてしまった。

 そして、学校の授業が終わる頃。新聞部の部室ではレナが一人でパソコンをいじっていた。
「まぁーったく!リッドったら真っ先に逃げてくんだから!」
 どうやら、今日はリッドを確保し損ねたらしい。という事は、リッドは今ごろマリアに追い掛け回されているのであろう。合唱。
 と、そこに…
 (コンコン)
「あ、はーい。どなたですか?」
 叩かれた扉をレナが開けると、そこには…
「レナ・ルーベック…だね?」
 いきなり名前を聞かれて動きを止めたレナだったが、相手が誰かを思い出して言葉を返した。
「そうですけど、何か御用でしょうか?」
「ああ。ちょっとフォシルについての情報を集めていてな」
 そう聞いたレナは、やっぱり、といった表情を浮かべた後に、無言で部室の中を指差した。

 で、その部室の中、ちょっとした応接設備に腰を下ろしたグロウに、開口一番レナが訊ねた。
 因みに、手には一つのファイルを持っている。
「それで、フォシルさんの何を知りたいんですか?グロウさん」
「は?何故俺の名前を知ってるんだ?」
「まあ、私の情報網に引っかからない事はありませんから」
 そう言って開いて見せたファイルには、グロウの年齢、生年月日などと一緒に数枚の隠し撮り写真が貼り付けられていた。
(なるほど。このお嬢ちゃんはそうとう情報通だな)
 苦笑しながらもそれを確認し、グロウも早速本題に入った。
「まずは、詳しいプロフィールだな。できればこの学園に来るまでの物も欲しいんだが」
「うーん…この学園に来る前のフォシルさんについては全然情報が無いんですよね。まあ、知っている範囲で…」
 別のファイルを持ってきて、それを開きながら様々な事柄を告げるレナ。まさに情報の鬼、といった感じである。
(まあ、情報を聞く限りでは、やはり悪人では無さそうだな)
 そう思ったグロウだったが、レナの最後の言葉に首をかしげた。
「…最後に、未確認ながら人外の能力を有しているらしく、最近巷で噂となっている化物騒ぎに何らかの形で関わっているとの情報もあります」
「人外の能力?そんなもの持ってる奴なんか…」
 居ない、そう言おうとして、彼の頭に一人の男が浮かんできた。
 ラセツ・ブレイド。
 昔からの知り合いでもあるグロウは、ある程度であれば彼の力についても聞き及んでいる。
 そのため、以前フォシルと戦った時にも彼の行動にそれほど疑問を挟まなかったのだ。
(確かに、何かしら大きな力を持っているらしいな…)
 そう考えて、レナに確認を取ってみるグロウ。
「つまり、レナちゃんは…」
「あ、レナで良いですよ。この歳でちゃん付けは恥ずかしいですから」
「そっか。なら…レナは、まだフォシルが人外の力とやらを使った現場を押さえた事は無いんだな?」
「ええ、そうですね。取れれば凄いスクープになると思うんですけど」
「じゃあ、こんなのはどうだ?」
「え?」
 顔を近づけて耳打ちするグロウに、それに聞き入るレナ。
 彼女の顔に、悪魔の笑みが浮かんだ(ように見えた)。
「分かりました。じゃあ、狙いは明日ですね。日曜日、ティセちゃんとフォシルさんが遊園地に行くって言う情報をゲットしてますから」
「よし。それまでに俺のほうも用意しておこう。遊園地の場所は?」
「学園から北に1キロほど行った所にある遊園地です」
「ああ、そこならティセと行った事あるから大丈夫だ。じゃあ、現地で…」
 そう言いながら立ち上がろうとしたが、レナに呼び止められてしまった。
「あ、グロウさん。私車とかバイクとか持ってないんで、出来れば乗っけて行ってくれますか?」
「ん?俺は別にいいけど…なら、明日の朝に校門前に車を着けよう」
「分かりました。じゃあ、また明日」
「じゃ」

「ってなわけで、明日車借りるぞ」
「…は?」
 夕食を食べる手を止めて、ラセツが怪訝そうな顔をする。
「いったい、何がどうなって、『ってなわけで』なんだ?」
「明日、フォシルとティセが遊園地に行くらしいって情報があったからな。車が必要だ」
 ラセツは冷たい目線でグロウを見て、夕飯を再開する。
「…知るか。明日は車使うんだよ」
「使うのか?…ああ、愛しのリーゼちゃんとデートか」
 (ブーッ)
 そんな擬音語を発しそうな勢いで、ラセツが夕飯を吐き出した。
「な、何を茶化すような事を……まあ、その通りだが」
 ブツブツ言いながら食事を再開したラセツの横で、グロウは大きなため息をついた。
「そうか。仕方ねえな。…じゃあ、俺の車使うか」
(あるんだったらそれ使えよ…)
 横で平然と夕食を食べだしたグロウに、ラセツは心の中でつぶやいた。

 日曜の朝。レナは校門前で立っている。それなりにおしゃれをしてきたらしい格好で、左手には何かの包みを下げている。
 と、そこに…
「よお、レナ」
「あ、グロウさ…」
 後ろからかけられた声にレナが振り返って…
「そ、それあなたの車ですか?」
「ん?そうだけど」
 平然と左手を置いているその車を見て、レナは少なからず驚いているようだ。
「そうだけどって…それ、カウンタックじゃないですか!」
「まあな。俺の相棒だ」
 グロウは愛車…ランボルギーニ・カウンタック(因みに真っ赤)の屋根をなでながら答える。
「ま、今はそんな事関係ねえな。さっさと行こうぜ」
「あ、は、はい!」
(私、実際に乗ってる人初めて見た…)

 そして、ここは某遊園地。フォシルとティセが笑顔を浮かべて歩いていた。
 が、
「…ん?」
 ふと、後ろから感じた視線に振り返り、
「げっ!」
 天国でケルベロスに出会った悪魔(?)のような声を出して、フォシルは慌てて前に視線を移す。
「ほえ?フォシルさんどうしたですか?」
「あ、いや。なんでもない、なんでもないで。ハハハ……」
「そうですか。じゃあ、次はあれに乗りたいですぅ」
「よっしゃ、行こか」
 フォシルはティセに手を引かれて歩き出そうとしたが、突然目の前に現れた人物に顔をしかめる。
「お前がフォシルか」
「何を考えてんねんなグロ…」
「おっと、その名を呼ぶな!」
 こめかみに怒りマークを浮かべたフォシルの言葉を、何故かマスクを被ったグロウが遮る。
「俺の名前は正義の使者『ミスター・G』!フォシル・ラーハルト、勝負を申し込む!」
「…アホかこいつ…」
 無視して歩き出そうとしたが、ティセの視線に気が付いて足を止めた。
「どないしたんやティセ?」
「フォシルさん、正義の味方ですぅ。格好いいですぅ」
「…あっそ……」
 大きく息をして、フォシルはミスターGとやらに背を向けた。
「あ、こら!お前俺を無視する気か?」
「じゃかしい。誰が相手なんかするか。行くでティセ…ティセ?」
 フォシルがティセの方を向くと、そこには何故か涙を溜めた瞳でこちらを見ている彼女がいた。
「フォシルさん、戦ってくれないですか?ティセ、フォシルさんの格好良い所見たいですぅ」
「う…いや、しかしやなぁ」
 フォシルは何かをためらうように、自分の背後を気にしている。
 そこには、先程発見した、デジカメを抱えたレナが茂みに隠れているのだ。
(あいつの前で重力場使うわけにもいかんからなぁ…きついけど、ティセのためか)
 意を決し、フォシルは右肩を後ろに下げて腰を落とした。
「分かった。受けて立ってやろうやないか!ティセ。危ないから下がっとき」
「はいですぅ。フォシルさん、頑張ってくださいね」
「おう。俺があんな変な奴に負け…!」
 言葉の途中で飛来したエネルギー弾のようなものを跳躍して回避したフォシル。彼が先程まで立っていた場所には、アスファルトが沸騰して黒い水溜りを作り出していた。
 それを見たフォシルは、ミスターG(以降はグロウと呼ぼう)を指差して叫んだ。
「お前何やっとんじゃ!あんなもん当ったらどんな頑丈な奴でも死ぬで!」
 が、当のグロウはエネルギー弾を発射した『それ』をいじりながらつぶやいている。
「思ったよりも制御が難しいな。慣れるまでは威力を1つ落とすか」
「あかん。聞いとらへん。……にしても、あんなもんどっから持って来たんや?」
 フォシルはグロウが右肩に担いでいる『それ』を見て、小さくつぶやいた。
 『それ』とは、やたらとゴテゴテした造りの単発式ロケットランチャーのような物体で、全体の色はダークブルー。
 本体の右横には漢字で「荷電粒子砲」と記されている。

 その光景を、少し離れた所から見ている2つの影があった。
 この遊園地にデートに来ていた、ラセツとリーゼであった。
「グロウの奴…あの武器を見つけたのか?」
「あの武器は、ラセツさんの物なんですか?」
「ああ。それも、秘密兵器として隠しておいたのに、まさかあの箱を見つけるとは…」

 そして、粒子砲を乱射するグロウから、フォシルはかろうじて身を交わし続けていた。
「どうしたフォシル。お得意のアレは使わないのか?」
「っ…使える訳無いやろうが!」
 フォシルは何とか接近しようとしているが、攻撃から攻撃の変化が早すぎて懐にもぐりこめない状態なのだ。
(せやけど、こんまま避け続けとったら相手の電力がすぐに上がるやろ)
 そう踏んでいた彼だったが、相当高性能だったらしくエネルギーが弱まる気配すら見せていない。

 で、こちらは茂みに隠れてシャッターチャンスを狙っているレナ。
「なんで避けてばっかりなのよフォシルさん。反撃するか何とかして見せてよね!」
 まあ、レナに秘密を握られたら終わり、とか言う噂すらある始末だからね。

「そろそろ落ちろー!」
「ぬかせやぁ!」
 粒子砲を紙一重の位置で回避し、フォシルは一気に間合いを詰める。
「させるか!」
 荷電粒子砲の銃口を、的確にフォシルの体にポイントするグロウ。
 それに構わず、フォシルはそのまま突き進んだ。
「はぁぁぁっ!」
 一時的に重力場を真下に放ち、フォシルは瞬時に真上に飛び上がる。
「な…!」
 そちらに慌ててポイントしなおすが、その時にはフォシルは既に眼前まで落下してきていた。
「フィニーッシュ!!」
 フォシルの飛び蹴りがグロウの顎をとらえ、横回転を加えて吹っ飛ばした。
 (ゴン ドサ…)
 そのまま、近場の木に体を打ち付け、グロウが地面に沈んだ。
「…ふぅ」
 グロウが完全に沈黙した事を確認し、フォシルが大きく息をついた。
「フォシルさん凄いですぅ。やっぱりフォシルさんは強いですね」
「ま、な。さ、ティセ。さっき言っとった乗りもんに行こうか」
「はいですぅ」
 そのまま、グロウを残して遠ざかるフォシル達。
 それからまもなく、グロウを覗き込むようにして一人の人物が立っていた。
「グロウさん、生きてます?」
「…な、何とか。アイツ、全力で蹴り入れやがったな」
「でも、グロウさんって弱いんですね」
 何気なくレナがそう言ったとき、グロウが勢い良く起き上がった。
「違う!俺は少なくとも弱くない。これでも学生時代は剣道部主将だったんだぞ」
 一生懸命主張するグロウを、レナは疑わしげな眼差しで見ている。
「本当ですかぁ?……まあ、フォシルさんが何かしら力を持っていることは確定しましたから良いですけど」
「うう…なんだか無性に悔しいなぁ」
 涙を浮かべるグロウに、新しい影が落ちた。
「?……あ。」
 そこには、笑顔を浮かべたラセツと、心配顔のリーゼが。
「よぉ、グロウ。お前、あの荷電粒子砲どこから引っ張り出してきたんだ?」
「ああ。お前の部屋」
「…って、勝手に持ち出すなー!」
 臆面も無く返したグロウの顔に、ラセツのストレートが見事に決まった。

 今日も、静かな(?)日曜の風景であった。


<あとがき>

作者:と言う事で、ネコミミさんリクエスト。グロウ&レナチーム対フォシルと言う事で。
 頂いたのは17日。結局10日かかっちゃいました。これって遅いんでしょうか?
フォシル:俺に聞かれてもなぁ。
ラセツ:とにかく、お疲れさん。
フォシル:マジ疲れたわ。
レナ:フォシルさん、もっと具体的に見せてくださいよぉ。
フォシル:アホ。誰が見せるか。
グロウ:モテモテだね、フォシル。
フォシル:うっさいんじゃ!もう帰って来んな言うたやろうが!
作者:さて。盛り上がっていますねぇ。
リーゼ:今回は、登場人物も多かったですしね。私は、またチョイ役でしたけど。
作者:ごめんなさいねリーゼさん。私があなたを書くとすさまじいお方になっちゃうんですよ。ですから、主役格は難しいかと。
リーゼ:ええ。あなたに書いてもらおうとは思っていませんから。
作者:そ、そうっすかぁ…?(ちょっち涙)
ティセ:さて、今回の作者さんの文章はいかがでしたでしょうか。皆さんからのご意見・ご感想をお待ちしていますぅ。
作者:さようなら〜。

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