<気がつけばそこに…>

 放課後、校門の前。石柱に背を預けて一人の男子学生が立っている。
 茶色い髪で、結構整った顔立ちをしている彼は、先程から一人の人物を待っていた。
 その人とは今から買い物に付き合う約束をしていたからだ。
 手持ち無沙汰に鞄をいじっていると、誰かが駆けて来る足音が聞こえる。聞きなれた、彼女特有の走り方で。
 静かに石柱から身を離した頃、その人物が声をかけてきた。
「ごめんね、シュウ君。ちょっと部活の中で揉め事が起こっちゃって」
「いや、大丈夫だよトリーシャ。俺の剣道部もさっき終わったばかりだから」
 八尾月シュウとトリーシャ・フォスター。悠久バカップルの一端を担う彼らは、今から買い物に行くらしい。
 まったく、下校途中には寄り道せずに帰る事、ってのを守らないんだね君たちは。
「それじゃ、行こうシュウ君。」
「ああ」
 笑顔を見せ合い、校門を出る二人。
 そんな彼らを、少し離れた茂みから見守る団体が居た。
「娘に付く悪い虫は排除せねばならんな」
「同感ですね。校内の風紀を守るという意味でもお手伝いしましょう」
 トリーシャの父親であり国語教師のリカルド・フォスター。物理学教師で学園一の変わり者のゼファー・ボルティ。彼らは事前にシュウの行動を入手しており、彼らの妨害に当たる事に決定したのだ。そして…
「けっ。どうせお前が気になるだけなんだろゼファー」
 何故か、ゼファーの横には無理矢理引っ張り出されたルシードもいた。

 世界最凶の妨害作戦が開始された事など露知らず、道を歩くトリーシャとシュウ。今歩いているのは少し狭い路地のような場所である。
「この近道使うの、何年ぶりかなぁ?」
「懐かしい?昔、ここ通って商店街の方に抜けてたもんな」
「うん。あの時はよく一緒に遊んでたよね」
 そんな会話を交わしている時。
 (ゴォッ ガシャン)
「ぎゃっ!」
 突然、後ろから突風が吹き、シュウの前方路地から顔を出した見知らぬスーツ男の頭に植木鉢が直撃する。
「うわ、痛そう」
「ありゃ痛いな」
 顔をしかめるトリーシャに頷いて、男を無視して路地を歩くシュウ。
 トリーシャも、すぐに会話を再開した。
 そんな彼らの過ぎた後。3人の影が路地に落ちる。
「ダメだなルシード。この距離で植木蜂を当て損ねるか」
「うるせえ。俺はちゃんと投げたぜ」
「フム。突風を予測できないとはルシード君もまだまだだね」
「んだよ。ならオッサンが投げりゃ良いじゃねえか!」
 そんな言葉を交わしながらも、3人はうずくまる男を無視して通り過ぎていった。
「い、一体、何なんだよ…」
 それはこっちが聞きたいくらいです。通りすがりの人よ。

 そして、次は建設中のビルの横を通る二人。
「あ、ここの公園つぶしちゃったんだね」
「やっぱ、自分の知ってる光景が変えられるのは少し寂しいよな」
 そのビルを、トリーシャとシュウが見上げている。そして…
「なんで俺達はここにいるんだろうな」
 何故か、ルシードたちは建設途中のビルの屋上にいた。
 そして、ルシードの眼前で繰り広げられている光景を、彼は疑問を浮かべながら見守っている。
「リカルドさん、これなんてどうでしょうか」
「うむ、それで行きましょう」
 大きな鉄柱を拾ってきたゼファーと、それを見て何かを了解するリカルド。そのリカルドが鉄柱を受け取り、おもむろに担いだ。
 そこまでルシードが理解した途端、
「ぬん!」
 リカルドがその鉄柱を力任せに投げ捨てた。
「なっ…!」
 慌てて屋上の淵に走り寄ったルシードの眼には、歩き出したシュウに超高速で迫る死の鉄柱が映った。
「シュウっ!」
 死に逝く後輩の名を叫ぶルシード。
 だが、シュウはいきなり立ち止まって靴紐を結んだ。
 ちょうど、彼が立ち上がろうとしたとき、
 (ズゥ…ン)
「な…!」
 いきなり眼前に降ってきた鉄柱に、シュウは驚愕の表情を禁じえない様子だった。
「な、何なんだよこれ!」
 横を歩いていたトリーシャも、あまりにも唐突過ぎる事態について行けないようだ。
 彼らは、自然と建設中のビルを見上げる。
 が、ここからでは誰かがいることを確認できなかった。

 それから間もなく、トリーシャたちは洋服店に入っていった。
「ほぉ。やっぱあそこか」
「確か、数日前にオープンしたばかりだったな」
「・・・・・・・」
 ルシードとゼファーの会話を聞くともなしに聞いていたリカルドは、一人小さく頷いた。
 そして、ゼファーに向き直る。
「ゼファー先生、頼みます」
 何を頼むのかルシードには全然検討が付かなかったが、ゼファーには伝わったらしい。
「分かりました。やりましょう」
「…っておい!ゼファー!」
 リカルドに笑みを向けて歩き出すゼファー。彼の手に収まっているものを理解してルシードが呼び止めた。
「何だルシード。早く済ませてしまいたいんだが」
 普通に会話をするように返したゼファーの襟首を掴み、ルシードはがくがくと揺さぶった。
「お前何をする気だ!手に持ってるのは地雷じゃねえか!」
「だからそれがどうした?」
 揺さぶっているのに無表情のゼファーに、今度は指を突きつけるルシード。
「どうしたじゃねえ!ゼファー、危険物所持の現行犯で逮捕されっぞ!」
「大丈夫だルシード。俺は危険物処理責任免許を取得している」
「って、そんな問題じゃねえ!ってよりも免許持ってるならそれに見合った常識ってもんをだ……」
 ルシードが、唐突に言葉を切って動きも止める。
 彼の首を、リカルドの手が後ろから捉えていた。
「ルシード君。この国で伝えられる格言を知っているかね?」
 授業をしている時の口調で(ただし、手からは人を殺せると思えるほどの殺気を放ちながら)リカルドが静かに問う。
「か、格言?今この状況に何の関係があるんだよ」
 脂汗をたらしながら聞くルシード。彼の視界には遠ざかっていくゼファーの背中が映っていた。もちろん、地雷を埋めに行っているのだ。
 何とか動こうと試みたが、リカルドの腕は微動だにしなかった。
 やがて、静かにリカルドが言った。
「犠牲無くして勝利はありえない、昔の人はこう言ったものだ」
「はぁ?それが何だって言うんだよ」
 目線の後ろに居るリカルドを心の中で睨みつけながら聞いたルシードに、やはり静かな声でリカルドが返した。
「これは、言い換えると『結果よければ全て良し』ともなる」
 それを耳にして、ルシードは全身から力が抜けていくのを実感していた。
(ダメだ。こいつらには何を言っても無駄だ…)
 やたらと絶望を感じて座り込んだルシードと、彼の首から腕を離して何故か仁王立ちのリカルド。
 彼らの前では、ちょうどゼファーが地雷を仕込み終わったときであった。
 そして、その場に立ち上がった途端、
「おっす、ゼファー先生!何やっとるんや?」
 たまたま通りかかったフォシルがゼファーの背中を押し、その反動で彼が一歩踏み出した。
 (カチ)
「あ…」
 ルシードの耳に、何かのスイッチが入る音とゼファーの声が入ってきた。
 が、それを理解するより早く、周囲を閃光と轟音が支配した。

「あのー、生きてますかルシードさん」
 次にルシードの視界に入ってきたのは、こちらを覗き込むシュウの姿であった。
「…あ?シュウか?」
「ええ、そうですけど。あ、立てますか?」
 差し出された手を掴んで立ち上がり、ルシードは辺りを見渡す。
 そして、目に飛び込んできたものは…
「いったい、何を仕掛けやがった…」
 半径十数cmに渡って溶解して沸騰しているアスファルトと、新築したばかりなのに半分ほどが倒壊してしまった洋服店。
 そして、その壁に頭から突き刺さっているフォシルであった。
「酷いですよね。俺、あの店の中でトリーシャと買い物の途中だったんですよ」
(知ってるよ。俺見てたもん)
 そんなことを考えつつも、ルシードは思った事を聞いてみた。
「そう言えば、トリーシャは無事か?」
「ええ。今お店で支払いしてます」
(こんな状態でも買い物を続けるとは…さすがだなトリーシャ)
「でも、何だか俺ついてないって言うか何と言うか、誰かに命を狙われている気がひしひしとするんですけど。さっき、建設中のビルから鉄柱降ってきたし」
「ほ、ほぉ。それは大変だったな」
(だから、俺そこにいたんだよ)
 ルシードが冷や汗を浮かべていると、半分つぶれたお店からトリーシャが出てきた。
 周囲を見回した後、こちらに走ってくる。
「お待たせ、シュウ君。…あ、ルシードさんこんにちは」
「よ、よおトリーシャ。こんな所で会うなんて奇遇だな」
 あからさまに引きつった声だったが、奇跡的に二人が気づく事は無かった。
「それじゃあ、ボクたちもう帰らないといけないから」
「おう、そうだな。早く帰れよ」
「はい。それじゃあ」
 遠ざかっていく二人を、ルシードが複雑な気持ちで見送っていると、唐突に声が聞こえた。
「ふむ。あれくらいでは死なないか」
「そうですね。もう少し改良の余地があります」
「ゼファー、オッサン。あんたらどこに行って…て…え?」
 ルシードが声の方を向いたが、そこには建物のレンガ壁があるだけで、他には何も見受けられなかった。
「お、おいあんた等。どこにいるんだよ……」
 少し不安そうに周囲を見回すルシードの前で、レンガ壁が動いた。
 いや、めくれた。
 そして、その奥には、ゼファーとリカルドの姿が。
「……ってちょっと待て!ゼファー!お前その手に持ってるものは何だ!」
「ん?隠れ蓑だが」
 平然と返され、ルシードはその場に膝をついた。
「もう、嫌だ…こいつらといるのは……」
 おや。なんだかマジ泣きしてるようで。
 そんなルシードを無視して、リカルドとゼファーが会話を開始する。
「これから帰るとは言っていたものの、やはり心配だな」
「そうですね。途中で何かやましい事をしないとも限りませんし」
 そこで同時に頷き、同時にルシードに視線を送る。
『と言う訳で、今から三人で追跡を再開しよう』
 そしてまたも同時にルシードの襟を掴んだ。
「い、嫌だぁぁぁっ!俺は普通の暮らしがしたいんだぁぁぁ・・・・・・・・」
 魂の叫びを残し、ルシードが連れ去られていく。

 一方、そこから家に帰るまでの数十分。
 シュウに様々な妨害が行われるが、奇跡的な運でそれらをことごとく回避していったという。


<あとがき?>

作者:は、はははは……
シュウ:ハハハハハ…作者さん?
作者:ご、ごめんなさい。一応、秀様からは『シュウとトリーシャの学校帰りの買い物、それを妨害するリカルド&ゼファー&ルシード』との事でしたが…
トリーシャ:ボクたちは脇役ぅ?
作者:すみませんでした。
シュウ:まあ、俺は平和で終わって嬉しかったけど。
作者:そうでしょう?じゃあいいじゃ…
ルシード:・・・・・・・・・・・・
作者:う……
 で、では皆さん。ご意見・ご感想をお待ちしております。
ルシード:…誰でもいい。こいつに誹謗中傷メールでも送ってやれ。
シュウ:そ、それじゃあ皆さん。
3人:さようならー。
ルシード:…今に見てろよ作者。

フォシル:おい!俺はどないなったんや?
作者:あ、フォシルさん。大丈夫ですよ。あなたは半分不死身ですから。

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