<月明かりの夜に>

 ここはシーククレスト。という事は舞台はミッシュベーゼン…もとい、ブルーフェザー事務所である。
「あーっと、今日はメルフィが業務日誌当番だったな」
「ええ。分かったわ」
「よし。じゃあ解散」
 朝のミーティングを終えて、各自が思い思いの場所に散っていく。
 それを見届け、ルシードも動いた。
 フローネの向かったであろう資料室に。


「あれ?フローネいねえのか?」
 どうやら当てが外れたらしい。多分、ここに居ると思ったんだが…
「いや、今日はまだ来ていないな。何か用事か?」
 室内で本の整理をしていたゼファーがそう返してくる。まあ、用事って言えば用事なんだが…
「急ぐもんでもないし、いつも通り見回りをしながら見つけるさ」
 そう言って俺が資料室を出ようとしたが、
「ルシード」
 ゼファーに呼び止められた。
「んだよ。雑用ならやんねえぞ」
 俺が顔だけ向けてそう言ったが、あいつは静かに首を振ってこう言いやがった。
「見回りもいいがなルシード。自分の訓練もきちんとこなせよ」
「わーってるよんな事ぐらい。ここに着てから何ヶ月経ったと思ってるんだ?」
「フッ。それもそうだな。悪かったな引き止めて」
「いや、別に構いやしねえさ。じゃあな」

 資料室を出た俺は、その足で特殊訓練室に向かう。一歩入ったところで…
「ブラスト!」
「うわっ!」
 いきなり目の前を走り抜けた魔法に、俺は思わず部屋の外まで飛びのいてしまった。
 その後を追うようにして、一つの顔が扉から覗く。
「あ、ルシード。いきなり入ってこないでよ。当てちゃう所だったじゃん」
「あ?俺が悪いってか?何度も言ってるだろうがルーティ!部屋ん中で本気で魔法使うなって!」
 本気で怒鳴った俺に、ルーティは反対に怒った顔になった。
「なによぉ。そんなに怒鳴んなくても良いじゃない!ルシードのバカ!」
「な…」
 (バタン)
 反論しようとした俺を無視して、ルーティがわざと大きな音を立てて扉を閉める。
「何なんだよアイツは!」
 俺は文句を言うために扉に手をかけたが、
「スカーレット!!」
 (ドゴォォン)
 思い直してその場を後にした。
 直感が、『今入っていけば確実に灰になる』と告げていたからだ。

 で、次はフローネの部屋を覗いてから作業室の扉を開ける。
「あら、ルシードさん。見回り?」
「まあな。メルフィ、フローネ見なかったか?」
「フローネさん?確か、さっきクーロンヌに行って貰ったけれど」
「クーロンヌ?訓練時間中にか?」
 この言い方だと、メルフィが頼んだようだが…
「なんでクーロンヌなんだ?」
「え?それは…あっ!」
 俺の疑問に答えようとして、メルフィが慌てて声を上げた。
「ち、ちょっと用事があって。ルシードさんには関係ないことだから」
「?…まあ、良いけどよ」
 あからさまに何かを隠してやがるな。ま、そのうち教えてくれるか。

 その後、俺は半日を実験室で過ごし、そろそろティセが夕飯を知らせに来る頃となった。
「ま、今日くらいは早く行って手伝ってやるか」
 いつも食事の用意を任せっきりだしな。
 そう思って扉の前に立ったが。先に開かれてしまった。そしてその先には、
「センパイ、晩御飯の用意が出来ましたよ」
「お、おう。……珍しいな。お前が呼びに来るなんて」
「そうですね。今日は特別な日ですから。さ、センパイ。早く食堂に来てください」
 扉を開けたフローネは、何か嬉しそうなしぐさをして手招きした。
 少し疑問が残った俺だったが、まあ付いて行っても殺されはせんだろうな。

 フローネに促されて俺が扉を開けたとき、
 (パァン パァン)
『ルシード、誕生日めでとー!』
 クラッカーとその声に、俺は驚いて動きを止めてしまった。
「…もう、そんな時期か」
 何とか出た声は、滑稽だったがそれだけだった。

「しかし。まさかフローネがケーキの買い出しに言ってくれていたとはな。どうりでメルフィが言いよどむはずだな」
「すみませんセンパイ。訓練を途中で抜け出してしまって」
「きにすんな。バーシアなんか、しょっちゅう飲みに行ってて平然としてるじゃねえか。悪い事をしたわけじゃねえんだ堂々としてろ」
「そうですよね」
 今、俺はフローネと二人で食事の後片付けをしている。
 本当は俺からの感謝の気持ちの一端として俺一人でやるつもりだったんだが、フローネが手伝うといって聞かなかったからだ。
「よし。こっちは粗方終わったな。フローネ。お前の方は片付いたか?」
「ええ。私の方ももうすぐ終わります」
 片づけを終え、俺は自分の椅子に座っていた。
 すぐに、フローネも片付けを終えて俺の横に座る。
「センパイ。本当にありがとうございます」
「あ?礼を言うのはこっちだろう。今日はありがとうなフローネ」
 それがそう言うと、フローネは静かに首を振って見せた。
「私、ここにセンパイが居なかったらきっとここを辞めていたと思うんです」
「何でそう思う?」
「私、意地っ張りで周りに合わせる事が苦手で。それに体力も無いからみんなの足手まといになって…」
 フローネは、少し微笑んで見せながら続けた。
「センパイに叱られながら色んな事を学んで、私の事を庇ってくれるあなたがいて。
 私にとって、センパイの存在はかけがえ無いものなんです」
「フローネ…」
「だから、ずっと私と一緒に居てくださいね」
「ああ、分かってる。お前を置いてどっかに行ったりなんてするかよ」
 俺が真剣に言うと、フローネの目にうっすらと光るものが見えた。
「センパイ…」
「フローネ…」
 そのまま、俺とフローネは口付けを交わした。

 思えば、アレが初めてのキス…だったかな?
 は、恥ずかしいこと言わせるんじゃねえぞ!


<あとがき>

作者:はい、と言うわけでテイルさんリクエスト「はじめてのでぇと」シリーズ第4弾。いかがでしたでしょうか。
テイル:作者さん。これはでぇとじゃあないんじゃないですか?
作者:それは言わないで下さい。お願いします。
テイル:何故ですか?
作者:…えっとですね。この二人ってカップルとして決まりすぎてて書きにくいんですよ。
 1st君や2nd君ならある程度自分で左右できるじゃないですか。でも、ルシードさんは完成されているんですよね。イメージが。
テイル:だから、書きにくかったと?
作者:そうなんです。
テイル:ただ単に、次の「はじめてのでぇと」に早く取り掛かりたかったからじゃないですか?
作者:いえ、それはありません。次のお二人のものもまだ企画段階で固まっていませんから。
テイル:あ、それとですね。題名と全然関係ないんじゃないですか?
作者:そうなんですよねぇ。やはり私は題名から入るのは苦手なようです。
テイル:そうなんですか。じゃあ、そろそろお開きにしましょうか。
作者:そうですね。皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
二人:さようなら〜。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送