ここはシープクレスト。近代的な町並みと、少し古風な町並みが半々で両立している町である。
そんな中の、ちょうど真ん中に位置する川の中州。そこにある建物が今回の舞台である。
そう。保安局刑事調査部第四捜査室、通称ブルーフェザーの事務所だ。
まだ太陽も昇りきっていない頃。ブルーフェザーのリーダーを務めるルシード・アトレーが目を覚ました。
「ふわぁ〜ぁあ。…ねみぃ」
少し目をこすりながら目覚まし時計を見て、彼が小さくうめいた。
「今…5時、か。中途半端だな」
そしてそのままパジャマから普段着に着替え、部屋を出て行った。
「ま、体動かしてればすぐに時間になるな」
そして、そのまま誰も居ない食堂を突っ切り、訓練室の扉に手をかけた。
「…ん?」
取っ手に手を伸ばしたままで動きを止め、耳を澄ます。
聞こえたのだ。ルームランナーが駆動しているモーター音が。
「誰かが、もう起きてるみたいだな。ビセットか久遠あたりか?」
そう思いつつ扉を開けて中に入るルシード。
中は明りが殆ど消えていたが、ルームランナーの周囲だけがスポットライトのように照らし出されていた。
そのままそちらに足を向けたルシードが、走っている人物を見て凍りつく。
ルシードがそのまま動けないでいる間に、その人物は一周し終わってルシードに気が付いた。
「あら、ルシードじゃない。どうしたのこんな朝っぱらに」
全力疾走の直後で息が上がっているが、きちんと挨拶をする彼女。
「お、お、おおおおおおおおお」
「ハァ?アンタ何言ってるのよ」
その人物が顔をしかめてルシードの眼前まで来た時、やっとルシードの脳が動き出したようだ。
「おいバーシア!お前がんな朝っぱらから訓練してるなんて…何があったんだ!」
先程まで走っていた彼女、バーシア・デュセルが何処からか取り出したタバコに火を点けながらさらりと言った。
「ま、アタシもこうやって影では鍛えてるわけよ。見直した?」
「あ、ああ」
曖昧にうなずくルシードを横目に、バーシアはベンチに腰掛けながら言葉を紡ぐ。
「さあ。アタシは少し休憩するから、アンタが走る?」
「…そうだな。どうせそのつもりだったしな」
そう言いながらルームランナーの初期位置に立つルシード。
(いつも訓練をサボってばかりだと思っていたのに…こんな所で訓練していたんだな)
そう思いながら送った視線の先では、バーシアが悠然とタバコを吹かしている。
(ま、なんだかんだ言って。負けず嫌いだからなバーシアは)
本人に直接言うと絶対否定する事を頭の中で考え、ルシードが地を蹴った。
「はぁ…はぁ…」
「なぁーに?もう上がり?なっさけないわねぇ」
数十秒後。ルームランナーの出口辺りでしゃがみ込んでいるルシードの頭を軽く小突く。
「う、うるせぇ」
殴り返そうとルシードが手を上げるが、それはバーシアに届く前に払いのけられてしまう。
「だいたい、一体設定速度をいくらにしてるんだ?あれじゃあルーティでも息上がるぞ!」
「そうかしら?」
「そうだぜ」
バーシアはそれだけ言って、ルームランナーのスタート地点に立った。
「見てなさいよ」
そして、そのまま走り出すバーシア。
「・・・・・・・」
「ね?」
数十秒後。走り終えたバーシアは平然とした顔でルシードの前に立つ。
「すげーな、お前」
「ありがと」
先程の走り方は、もしかするとルーティと互角なのではないだろうか?そう思えるほどの速さであった。
「…なあ、バーシア」
「ん?なーに?」
ベンチに座ろうとしたバーシアに、ルシードが考え込むような格好で声をかける。
「お前、その実力を何故実戦でださないんだ?」
「失礼な!出してるわよ」
少し怒ったような口調で言って、その直後に小さく付け加える。
「…まあ、少し手は抜いてるけどさ」
「あ、ルシードとバーシアおっはよー」
「よお、ルーティ」
「おはよ。アンタ元気ねぇ」
訓練を終えて食堂に戻ると、食器を並べているルーティ、料理をしているティセと葵がいた。
どうやら葵は料理当番の日のようだ。
「珍しいねバーシア。こんな朝早くから訓練室にいたなんて」
「まあね。ちょっとルシードに付き合ってたのよ」
「休憩を?」
「そう言うこと」
ルーティとバーシアの会話を聞きながら、ルシードは声を出さずにつぶやく。
(コイツ、自分がはじめに訓練していた事を隠したいんだな。まったく)
そんな朝の風景が過ぎ。ミーティングの時間となる。
「あーっと、おはようございます」
『おはようございます』
「今日は魔法登録の日だな。行くぜ」
「ああ。行ってこい」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
「魔法登録、ね。俺はいらねぇしな」
「私も。まあ、事務所で留守番してるわ」
「ああ、そうしてくれ。じゃあな」
「さて。ちゃっちゃと登録を終わらせるか」
「そうね。みんな、登録用紙よ」
メルフィが各自に登録用紙を配り終えた時、フローネが話し掛けてきた。
「あの、センパイ。私攻撃魔法を覚えようと思うんですけど…」
「あ?あー、そうだな。フローネ、もうデスバレイを覚えてるんだよな」
「ええ」
「じゃあ…フラッド、覚えてみるか?」
「え?でも、センパイにしか適性が無かったんじゃないですか?」
「ま、あの適性表はあくまで目安だ。お前くらい魔力が高ければ何でも覚えられるだろうな」
「はい!了解です、センパイ!」
その遣り取りを、少し遠くから見ていたバーシア。
「アンタは立派なリーダーね。…ほんと、一年前とは比べ物にならないわよ」
魔法登録が終わって、バーシアは一人町を歩いている。
東駅に向けて旧市街をぶらぶらしていると、ふと目に留まった光景があった。
野盗のような男たちが、数人で若者一人を囲んでいるのである。
「…日曜だってのに、なんとまあお仕事熱心だ事」
呆れるようにそうつぶやき、バーシアは足を踏み出した。
「だから金目のもん出せば許してやるって言ってるだろ?」
「ほらほら。さっさと出せよ」
「いや、だからマジで金欠なんですってば!」
「ああ?ふざけた事言ってんじゃねぇぞこら!お前が銀行から大金下ろしてきた事は割れてんだぜ!」
「そ、そんなぁ…」
若者が完全にすくみあがってしまった頃。
「はいはい。あんた達いい加減にしなよ」
腰に手を当てて、バーシアが歩いてきた。
「誰だお前?」
リーダー格らしき大男の声に、バーシアは手帳を掲げて返した。
「保安局刑事調査部第四捜査室、通称ブルーフェザーよ」
その声と手帳に、野盗たちはあきらかに一歩下がった。
「ブ、ブルーフェザーだと?あのバケモノ部署の奴が何でこんな所に!」
大男のその言葉に、明らかにバーシアの目が釣りあがる。
「バケモノ部署ぉ?アンタ、いい度胸してるじゃない。恐喝の現行犯に公務執行妨害も付けてあげましょうか?」
「ふ、ふざけるんじゃねえ!てめえら、やっちまえ!」
『おう!』
大男の怒声に、少々腰の引きかけていた野盗達がバーシアに殺到してきた。
二人は素手で、他がナイフを持っている。
「ったく。バカの集まりね」
対するバーシアは、槍を事務所に置いてきてしまったために素手で構えている。
数十分が経過しただろうか。
「よいしょっと」
「ぐあっ!」
バーシアの掌底を腹に喰らい、何人目かが倒れた。既に何人かは数えていなかったが。
ちなみに、若者は既に姿を消している。
「さ、まだ来る?」
余裕の笑みを浮かべるバーシアに、大男は苦笑で返した。
「けっ。女だからと思って甘く見すぎたか。だが…」
大男が動くと、残っていた全員も同時に動いた。
彼らの手には、冷たい光を放つ拳銃が握られている。
「もう手加減は無用だ!殺っちまえ!」
「っ!」
一斉にほえた数個の拳銃から、バーシアは真横に飛んで回避する。
が、完全には避けきれなかった一発が、左太ももを捕らえていた。
「へっへっへ。これで終わりだな」
勝ち誇ったように大男が言い、その銃口がバーシアの頭に押し当てられる。
「あーあ。ざまぁ無いわね」
諦めたのか、バーシアは銃痕に左手を当てて微笑む。
「臨時収入が出るでも無いのに、こう言う現場を見ると放って置けないのよ」
「そうか。立派な警官魂ってか?あばよ」
大男が指に力を入れようとしたその瞬間、
「俺のバーシアに手ぇ出すんじゃねぇぞこらぁ!」
突如現れた津波が、さして広くない路地を駆け抜ける。
「うわっ!」「な、何だこりゃ〜!」
「な、何なんだ一体……ん?」
流されていく部下を呆然と見送った大男は、今更ながら一つの気配に気が付いてそちらを見やる。
そこには、怒気一色で剣を構えたルシードが立っていた。
「てめぇはゆるさねぇ!死んで償いやがれ!」
剣からあふれかえった炎が、リーダーを声を出す間もなく炎につつむ。
炎は一瞬でおさまったが、リーダーが気絶するには充分すぎる熱量であったようだ。少なめだった髪は、ちりぢりのパンチパーマのようになってしまっている。
それを確認して大男に手錠をかけ、ルシードがバーシアの前にしゃがみ込む。
「ふぅ。大丈夫かバーシア?」
「まぁね。助かったわルシード」
左足を放り出して座っているバーシアに、ルシードが怒ったように言った。
「ったく!無茶しやがって。死んだらどうする気だったんだよ」
「御免ね。…にしても、どうしてここが分かったのよ?」
最もな疑問を問うバーシアに、ルシードは彼女の背後を指差した。
「あいつが通報してくれたんだよ。ヤバい連中に囲まれていたところを助けに来てくれたお前に、応援がいるかもしれないからってな」
「あいつ?」
肩越しにバーシアが振り向くと、そこには先程の若者が立っていた。
「ああ、さっきの。どっかで見たと思ったらミッシュの常連さんじゃない」
「どうも。勝手な判断かと思いましたけど、相手が銃を持っていることに気付きましたから」
「そう。ありがとね報せてくれて」
「い、いえ。私は通報しただけで、助けられたのはルシードさんの力のおかげですから。では、私はこれで」
そのまま去っていく若者に手を振って、バーシアは手招きでルシードを呼ぶ。
「ちょっと、ルシード。肩貸して」
「あ?無理するな。俺が背負っていってやる」
「え?い、良いわよ。そんなに痛いわけじゃなっ!……」
言葉の途中でルシードが傷に触れると、それだけでバーシアは言葉を止めてうずくまってしまった。
「無理すんな。頼れる時は頼ってくれよ。お前は俺の大事な仲間なんだからよ」
「…そうね。お願い」
「よし、じゃあ行くか。こっからだと事務所よりも病院の方が近いしな」
ルシードに背負われ、道を行くバーシアの通信機がいきなり鳴り響いた。
「…はいはい。どなた〜?」
右手でルシードにつかまって、左手だけで出たバーシアに、今となっては既に聞きなれた声が返ってきた。
『あ、こちら葵。バーシア大丈夫?』
「あ、だいじょーぶだいじょーぶ。今ルシードに負ぶってもらって病院に向かってるから」
『そう。とりあえず津波で流れてきた雑魚、全員左足を打ち抜いといたけど、どうする?』
「打ち抜いたって…相変わらず無茶やるな葵」
通信機から漏れてきた声にそう突っ込んだルシードの意を理解し、バーシアがルシードの顔のところに通信機を近づける。
「葵、こちらルシードだ。全員捕まえて保安局本部まで連行しておいてくれ。近くに久遠やビセット達もいるんだろ?罪状は恐喝の現行犯に公務執行妨害でも付けといてやれ」
『りょーかい。ルシード、後で特別手当でも払ってよね』
「はいはい。考えとくよ」
そこで通信機を自分のところに持ってきて、バーシアが締めくくった。
「じゃあ、アタシは病院に寄ってから事務所に戻るから。皆にもそう伝えておいて」
『分かった。じゃあ、また後でね』
通信を終えたバーシアに、ルシードが声をかける。
「よく、俺が喋りたいって分かったな」
「まあね。伊達に相棒をしてるわけじゃないわよ」
「そうだよな。これからもよろしくな、姉貴」
「ええ。よろしくね、弟クン」
日が沈む頃。ちょうどそんな時間帯の出来事であった。
――FIN――
<楽屋裏★>
作者:はい。と言う事で。Centaurさんリクエストの、『バーシアさんの物語』でした。
葵:リクエストではギャグが本命と言った感じだったと思ってたけど、まさかこんな感じになるとはねぇ。
作者:一応、パペチューでバーシアさんとのエンディングを迎えた後、と言う感じでした。
葵:それはそうと作者。アンタ、途中までわたしと久遠の事忘れてたでしょ。
作者:ぐはっ! そ、そんなわけ無いじゃないですか。まだきちんとかけそうに無いから出にくかった、それだけですよ。
葵:本当に?
作者:はい。
葵:ま、私は良いんだけどね。久遠がすねてたわよ。一言しか喋れなかったって。
作者:そうですね。次回はもっと目立てれたら良いですね。
葵:アンタが書くんだからアンタが頑張れば良いだけよ。
作者:…まったくもってその通りでございます。
さて。今回はどのようなご意見をいただけるのでしょうか。
葵:皆様からのご意見・ご感想をお待ちしています。
二人:さようなら〜。
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