<Last Escape>

 暗闇が支配する町並み。一軒の少し大きめの家。その二階の窓に、誰かが腰掛けている。
 闇に解けて消えてしまいそうな浅黒い肌の男。顔を隠すように伸びた水色の髪。着ている服装は至って普通であるが。
 そんな彼に、後ろから声が掛けられる。
「フォシルさん、お待たせしました」
「おし、行くか。ほら、ティセ」
 フォシルが差し出した手にティセがつかまり、一緒に窓の縁に立つ。
「しっかりつかまっとけよ」
 そう言いながらティセを抱きかかえ、フォシルは空中に身を躍らせる。
 そのまま数秒が経過し、音も無く地面に着地するフォシル。
 ちょうど同じ頃。ティセの居た部屋の扉を開けて入ってくる人影があった。
 たまたま帰ってきていた、グロウ・ディアレックである。
「ティセ。さっきから何をゴソゴ…ソ…」
 そこまで言って、彼は気が付いた。
 誰も居ない部屋の中と、夜の空気に開け放たれた窓に。
「!!」
 慌てて駆け寄り、周囲を見渡す。そんな彼の視界の端に、動く人影が二つ映った。
「アイツは…フォシル!」
 走り去る二人の影を確認し、グロウは部屋に取って返す。
 すぐさま色んな装備を装着し、グロウは階段を駆け下りた。
「あら。どうしたのグロウ。こんな遅くに」
 たまたま廊下で顔を合わせた母親に、グロウは
「悪い。ちょっと友人から呼ばれた」
 それだけ言って家を飛び出した。
「相変わらず騒々しい子ね。気をつけて行ってらっしゃい」
 既に閉まりかけている扉に向かってそう言うティセ母。ティセの間延びの仕方は母譲りのようだ。

 家を飛び出したグロウは、フォシルとティセが走っていった方向に走りながら携帯をかける。
『んだよ。こんな夜中に』
 不機嫌極まりない様子で電話に出た男に、グロウが現状を告げる。
「ああ、起きたか。フォシルがティセを連れて逃走した。捕まえるのを手伝ってくれないか?」
『……』
 しばらく沈黙が続いたが、
『分かった。今、何処に居る?』
 次に帰ってきた声は、それだけで人を殺せるのではないかというほど殺気を含んでいるように感じられた。


 その頃。当の二人はというと…
「凄いですぅ〜。フォシルさん運転免許持ってたんですね」
「まあな。免許は前から持っとったんやけど、車買う金が無くってな。かれこれ10年近くペーパードライバーやったんや」
「ほえぇ〜。そうなんですかぁ」
 …ん?ちょっと待て、フォシル!
「何や?」
 君は今18だろう?10年前だと8歳の時にとった事になるんだが…?
「じゃぁかしい。黙っとけば誰も気付かんわ!」
 そうかなぁ?
「ほえ?フォシルさん誰と喋ってるですか?」
「ああ。そこらのユーレイや」
 勝手に幽霊にされたが、まあこの際流してやろう。
「でも、少し運転粗いですぅ」
「そうか?まあ、気にすんな」
「はいですぅ」
(まさか、昔作った偽造免許証の改造やとは言えんわな)
 …コイツ、本当は無免許なのか?
「失礼な。リッドを連れまわした後にちゃんと取ったで!」
「フォシルさん、また幽霊さんですか?」
「ん?ああ、まあな」
 さて。そろそろこいつらは放っておくか。

 一方、合流したルシードとグロウ。彼らはルシードの持っている怪しげな機械を頼りに車を走らせている。
「大丈夫なのか?その機械」
「ああ。あのゼファーがやけに自信を持って勧めた対フォシル兵器だからな」
「兵器…ただの発信機じゃないのか?」
「あのゼファーが作った機械が、ただの発信機のはずが無いだろう?」
 一瞬沈黙したグロウだが、ややあってうなずいた。
「確かに。目からビームくらい出そうだよな」
「いや。それは出んだろう…!反応が止まったぞ!」
「何処だ?」
「ここから20km先の海岸だ」
「分かった。急ぐぞ!」
 グロウはアクセルを踏み込み、スピードアップした。

 その頃。フォシルとティセは夜の海を浜辺で眺めていた。
「キレイですね、フォシルさん」
「せやろ?ここらへんの海はまだ開発とか全然関係ないからな。自然の海そのまんまや」
「そのまんまですぅ」
 砂浜に腰を下ろしているフォシル。その横に座っているティセが、頭をフォシルの肩に預けた。
「フォシルさん。ティセ、今フォシルさんと一緒にいれて幸せです」
「ああ。俺もや。今、ティセとおれる事がメチャ嬉しい」
 ティセの肩に右手を回し、フォシルがつぶやくように言った。
「俺は、いつまでティセと一緒に居れるか分からんからな」
「…え?フォシルさん、どこか行っちゃうですか?」
 心配そうに見上げて聞くティセに、フォシルは微笑んで応えた。
「そういう意味やないけどな。この先何があるか分からんっちゅうこっちゃ」
「そうですか…でも、何があってもティセはフォシルさんの見方ですぅ」
「そか。あんんがとなティセ」
 ティセとフォシルが幸せそうに顔を見合わせている様子を、少し遠くから見つめている瞳が四つ。
「ティセ、本気で幸せそうだな」
「ああ…ティセのあの笑顔は少し前までは俺だけのものだったのに……」
「うるせーぞ、シスコン」
「ううっ……」
 しばらく見ていたルシード達だったが、やがて静かに歩き出した。
「ま、アイツなら任せても大丈夫だろうな」
「ああ…なんだか嫁に行く愛娘を持った父親の気分だな。どうせならお兄ちゃんとか兄上様とか兄君とか色々と呼んでもらえばよかったよぉ…」
「はいはい。勝手に言ってろ。帰るぜ、グロウ」
「分かってるよ」
 背を向けるグロウとルシード。
 その背後には、この幸せが永遠に続いて欲しいと願うフォシルとティセが笑顔を見せ合っていた。

―FIN―


<楽屋裏>

作者:と言う事で。テイルさんリクエストによるはじめてのでぇと第三段。フォシル君とティセさんのでぇとでした!
テイル:今回も短い、と言うか。最近この長さが一般化してきていません?
作者:そうでしょうかね?まあ、フォシル君は自分のキャラクターだけに、全てを知り尽くしているじゃないですか。だから、反対に書きにくい場面もあるんですよね。
テイル:そんなものでしょうか?
作者:少なくとも私は。
 今回も、皆様からのご意見・ご感想をお待ちしております。
テイル:それでは、また。
二人:さようなら〜。

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