時刻は、ちょうど今日と明日の境目。
今は誰も来る者とて居ない夜の旧校舎を静かに歩く、2つの影があった。
唐突に、2つの影が立ち止まる。
「なあ、レナ。もうやめようぜ」
「何言ってるのよ!今更恐くなったって言うの?」
「いや、恐いっつーか……眠いんだよ」
半分呆れ顔のリッドと、何か熱い炎を瞳に宿すレナであった。
「あら、いいのよ恐がっても。この私が守ってあげますからね」
「…はいはい」
レナの言葉に、つい苦笑を浮かべてしまったリッド。
彼は気がついていた。彼女の足が少し震えている事に。
(ったく。やせ我慢もいい加減にしろよな)
さて。何故彼らがこんなところに居るのかというと…
一週間ほど前。レナが情報収集のために校内を歩き回っていた時のお話である。
「絶対に見たんだってばー!」
「はいはい。居るわけ無いじゃない」
「あれ?あれは……」
食堂を通りかかった彼女は、中から聞こえてきた会話と人物に釣られて足を向ける。
「こんにちはー、皆。何を話してるの?」
「あら、レナちゃん。こんにちわ」
そこに居た三人が、口々に挨拶をする。シェール、ローラ、アリサであった。
そして、挨拶が済んですぐにローラがレナに話し掛ける。
「ねえ、聞いてよレナ。私、この前園芸部の仕事で帰りが夜遅くになっちゃった事があったんだけどね」
そこでローラの声を遮り、続きをシェールが言った。
「ローラってばさぁ、旧校舎の二階の窓に歩いてる人影を見たって言うんだよ」
「人影?…夜遅くの、しかも使用されてない旧校舎に?」
受けたレナも、まゆをひそめてしまう。
「私は居るわけないって言ってるんだけどさ、ローラがしつこくって」
「もー、本当だってば!レナ、あなたは信じてくれるよね?」
「うーん…」
一瞬考え込んでしまったレナは、ふととある噂を思い出した。
「…旧校舎の人影……学園七不思議の一つ、か」
「あら。学園の七不思議。まだあるのねそんな噂が」
それまで黙って話を聞いていたアリサが、懐かしそうに言った。
「あれ?アリサさんの母校でもそんな噂があったんですか?」
少し意外そうに聞くレナに、アリサは瞳を向けて言った。
「ええ。何処にでもこう言った噂は付き物よ」
「そうなんだ。あっ、ねえアリサさん。一番恐い七不思議、教えてくれないかな?」
好奇心でそんな事を問うシェールに、アリサは困ったような顔を向ける。
「一番恐い、って言っても…私が知っている七不思議は食堂に関するもの一つだけだけど…それで良いの?」
「あ、私も聞きたーい!」
「私も興味有ります」
賛成したローラとレナを見比べてから、ゆっくりとアリサがうなずいた。
「それじゃあ、話すわね」
真面目な声でそう言われ、自然と黙り込む三人であった。
「それは私がこの学園に来る前にいた場所でのお話だったとおもうのだけれど。
そこの食堂も、ここと同じ雰囲気を持っていたわ。
でも、その食堂には一つの言い伝えがあったの。
その日、生徒会長であるA.C.君は、生徒会の会議が長引いて帰りが遅くなったの。
そんな時、食堂の前を通った彼の耳に、何か刃物を研ぐような音が聞こえてきたのよ。
シャーコ シャーコ …
どう聞いても食堂の方から聞こえてくるその音を不審に思って、彼は食堂の前に立ったの。
けれど、既に明りは全部消えていて、人が居る感じも一切しなかった。
シャーコ シャーコ …
それでも響いているその音に、彼は恐くなって家に逃げ帰ったそうよ。
そのことを、次の日になってL.A.君という友人に伝えると、彼はそんなモノ幻聴だって言い張ったのよ。
そして、その夜。彼らは確かめるためにもう一度食堂に行って見る事にしたの。
すると……
シャーコ シャーコ …
誰も居ないはずの食堂から、やはり漏れてくる刃物を研ぐ音。
帰ろうと言った生徒会長を無視して、友人が食堂の入り口を開け放ったの。
そして次の瞬間、彼らの顔を恐怖が支配したのよ。
次の日。食堂に一番乗りした生徒は、有り得もしないものを目にする事になったの。
首を跳ねられ、死んでいる二人の学生の姿を。
それでも、周囲には一切血が飛び散っていなかった。
まるで、すべての血液を吸い取られたかのごとく。
そして、食堂の壁には血で濡れた大きな鎌が立掛けられていた、と言う話よ」
「・・・・・・・・・」
聞き終わった3人の顔は、とある一点に向けられていた。
昔から壁に立掛けてある、やけに刃の輝いた大きな鎌に。
「まあ、大体こんなお話ね」
「そ、そうなんですか…」
何とかそれだけ言葉を発し、レナはぎこちない動きでアリサに向き直る。
「ね、ねえアリサさん…」
「何かしらローラちゃん」
ローラは、恐る恐るといった感じでアリサに声をかける。
「そ、そのお話って、ここじゃあ無いんだよね?」
そんなローラに、アリサは首を傾げて見せた。
「さぁ…?もしかしたら、ここだったかも知れないわね」
(ここだ…絶対ここだ……!)
アリサの口に一瞬冷たい笑みを見たようで、ローラは言葉も無く黙り込んでしまった。
「も、もー!皆なんで深刻になってるの?どうせ学園にまつわる只の噂でしょう?」
そう言ってはいるものの、彼女も冷や汗を流している。
と、そんな時。
「さあ。もうすぐ二時間目が始まるわ。みんな、急いで帰ったほうが良いんじゃないかしら」
「そ、そうですね。それじゃあ、私はこれで失礼します」
「あ、じゃあ私も教室に戻んないと」
「それじゃあ、アリサさん。また後で」
「ええ。お勉強頑張ってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれたアリサに各々挨拶をして食堂を出たとき、レナがつぶやいた。
「アリサさんのあの話、七不思議って言うよりも…」
「都市伝説?」
「あ、私もそう思った」
言葉を受けたシェールに、ローラが同意して、はたと気が付いたようだ。
「ねえ、私の見た人影の件は?」
「ああ、そんなのもあったっけね」
「アリサさんの話がリアルすぎて、直前の会話が記憶から消えてたね」
そして、数秒の間を置いてレナが言った。
「よし!じゃあその人影、新聞部が総力をあげて解明してあげましょう!」
「え?本当?やったー。さすがレナ。頼りになるぅ〜」
そして、現在に繋がるわけだ。
(まったく。俺も紅茶の一杯でこれに付き合わされるとはね)
内心苦笑しながらも、リッドはレナのすぐ後ろを付いていく。
「一階はこれで全部周ったわね。次は…」
懐中電灯を握る手に力を込め、二階に続く階段を照らすレナ。
「とうとう、二階、ね」
「そうだな。ま、何も出ねぇとは思うが、行って見るか」
そう言って階段に足をかけようとしたところ、リッドは腕を強く握られた。
もちろん、横に居るレナに、である。
「ね、ねえ…リッド」
「何だよレナ」
面倒そうな感じを装って問い返しはしたが、レナは本気で恐がっているようだ。
「も、もし、よ。相手が凶悪な幽霊とかだったら助けてよ」
「分かってるよ。その為に俺を呼んだんだろ?」
「う、うん。お願いね…」
ここまで弱気な彼女は珍しい。これは、そうとうアリサさんの話が恐かったということなのだろう。
(俺、その場に居なくて良かったぜ)
内心そんな事を思いながらも、リッドは左手にレナをぶら下げて旧校舎の階段を上がった。
そして、問題の二階に到着した二人。
まず、上がって右手(すぐ行き止まりになっている)を照らし、何も居ない事を確かめてから左手方向に光を移した時、
「お前たち、何をしている?」
「うわぁっ!」
「きゃあああっ!」
いきなりライトに入ってきた人物とその声に、二人同時に悲鳴を上げてしまった。
一秒もしないうちに、リッドの右手にバルバロスが滑るように収まり、構える。
(くそっ!全然気配が感じられなかったぞ!)
それから遅れること暫し。レナがそこを再度照らし出すと、そこにはとある人物が立っていた。
「ゼ、ゼファー先生!」
「何やってるんだよこんな所で!」
そう。そこに立っていたのは紛れも無くゼファー・ボルティであった。
「何をしている、だと?それはこちらのセリフだ。人の居住区域に勝手に入り込んできているじゃないか、お前たちは」
「居、居住区域って…」
「ここ、立派な学校の敷地内じゃないですか!」
その反応を見て、ゼファーは何故か納得したようだ。
「ああ。お前たちには伝わっていなかったか。今、ミッション授業のネタに煮詰まっていてな。最近ランディさんと交代で泊り込み作業をしている」
「ああ。それをローラが見て幽霊か何かと勘違いしたんだな」
「なんだ〜。がっかり」
張り詰めていた緊張を解いて、リッドとレナが階段を下りていく。
「もう夜も遅い。気をつけて帰れよ」
「へーい」
「ゼファー先生さよーならー」
二人の生徒が帰っていくのを見届け、ゼファーが後ろを振り返った。
「もう大丈夫だ。これからは見られないように気をつけろよ」
廊下に向けて言うゼファーの前には、誰も居なかった…はずだ。多分。
<終わり>
<あとがき!>
作者:はい。と言う事でデジデジがお届けするレナ主体のストーリー。出来るだけシリアスに偏らないようにと頑張ってみました。
リッド:今回、俺の出番少なかったな。
作者:そうですね。何故か、殆ど喋ってませんよね。
レナ:良いじゃない。リクエストは私のSSだったんだから。
リッド:ま、俺もその間マリアと一緒に居れるからな。その方が良いか。
作者:そうですね。それも良いかも知れませんね。
リッド:と言う事で、皆からの意見・感想待ってるぜ!
三人:またねー!
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