<悠久組曲3>番外編
〜ルシード対フォシル 弁当争奪戦!〜

 とある朝。ティセはいつものようにお弁当を持って登校しました。
 ですが、この日はとある事情から二人分しか作れなかったのです。
 ティセの分と、もう一つは……

「ご主人様、フォシルさん、フローネさん。おはようございますぅ」
「おう」
「おはよう、ティセちゃん」
「よお、ティセ。今日も可愛いな」
「えーへへ。ありがとうございますぅ」
「いやー。ティセみたいな娘には、この先どんだけ生きても出会えるこたぁないって位可愛いで」
「朝っぱらからうざってぇー!!」
「ぐあっ!」
 出会い頭にフォシルがティセに喋りかけ、それに怒ったルシードがフォシルを殴り倒す。最近の朝の登校風景である。
 が、そこに異質な言葉が混ざった。
「あ、そうでした。ご主人様、フォシルさん。今日、ティセはお弁当を三つ作れませんでした。ですから…」
 ティセの言葉の途中で、さっきまで倒れていたフォシルが跳ね起きる。
「いやー、あんがとなティセ。ありがたくもろうとくわ」
 当然のごとく弁当を貰おうと手を差し出したフォシルの肩に、ルシードの手が置かれる。
「ちょっと待て、フォシル。何故お前が貰う?ティセは俺に作ってきてくれたんだぜ」
「は?何言うとるんや。先輩はフローネの弁当があるやろうが」
 フォシルが指差した先には、申し訳無さそうにしているフローネがいた。
「ごめんなさい。今日。ちょっと風邪気味で。お弁当作ってこれなかったの」
(なんつータイミングの悪さや…)
 そう心の中でつぶやいたフォシルだが、そのままティセに向き直る。
「っつー訳で。俺が貰うことになったから」
「おいっ!」
 突っ込んだルシードは、そのままフォシルの胸倉を掴み上げた。
「お前には、一度キツイ灸をすえねえとなぁ」
「ヘッ、先輩にはでかい借りがあるからな。ここらで返すのも悪ぅないな」
 フォシルもフォシルで、ルシードを睨み返している。
「あ、あの…えっとー」
「ほ、ほえぇぇ〜」
 二人の雰囲気に圧されたフローネとティセは、意味も無くアタフタとしている。
 そんな二人が目に入らないのか、フォシルとルシードが同時に言った。
『ミッションルームで決着、だな』
 そのまま、つむじ風のごとき勢いで去っていく二人。
 後に残されたのは、うろたえているフローネとティセだけであった。

 そして、ここはミッションルーム。フォシル達の前には一人の先生が立っていた。
「駄目だ。ケンカの決着のためにここを使うなんて許可できん」
 たまたまミッションルームにいた、ラセツ・ブレイド教師。今年で25才になる彼は、只今中等部の外国語教師をしている。
「まあまあ、んな硬い事言わんとさ。ラセツセンセ」
「そうだぜ。俺とアンタは昔からの知り合いじゃねぇかよ」
 二人して子供のような駄々をこねている後輩を前に、ラセツは大きくため息をついた。
「お前ら本当に大学生か?」
 そんな遣り取りを続けていた時、
 (ガラガラ)
「そう言うことならご心配なく!」
「あ?シェールか」
 元気良く扉を開いて、シェールがミッションルームに入ってきた。
「ラセツさん。ちょっと良いかな?」
「ん?あ、おい。ちょっと」
 そして、部屋の隅にラセツを連れて行く。
 なにやらシェールが耳打ちをしている様子を、怪訝な顔で見つめるフォシルとルシード。
 しばらくして…
「仕方が無いな。今回だけだぞ?」
 なにはともあれ納得したようだ。ラセツがミッションルームの使用を許可してくれた。
「っしゃ!先輩、遠慮はいらんで」
「へっ、それはこっちのセリフだ!」
 必要以上に力が入っている二人をよそに、ラセツはシェールに囁いた。
「頼んだぜ、シェール」
「うん。まっかせといて!」
 軽く返答したシェール。一体、何を約束したのだろうか?

 仮想空間で、フォシルとルシードが対峙している。彼らの横には…
『第一回!ティセのお弁当争奪戦!!』
 なぜかメガホンを構えたシェールの姿が。
『勝負は簡単!お二人には、仮想空間であるこの場を借りて、本気で殺しあってもらいます!』
「こ、殺しあうって…」
「密かに恐いで、シェール…」
 引く二人を無視して、シェールが試合設定を説明する。
『特にルールはございません。思う存分暴れてください!』
「無いんかい!」
 思いっきり突っ込んだフォシル。ルシードも苦笑を浮かべている。
『さあ、それでは。試合開始!』
 (カーン)
 何処からとも無く聞こえてきた鐘の音に、ルシードとフォシルがゆっくりと構える。
「さて、そっちから来いよ」
「っしゃ行くで!」
 声と共に切りかかるフォシル。ルシードは、それを簡単に流してカウンターを繰り出す。
「喰らえ!」
「っ、なろぉ!」
 無理に切先を傾け、その剣を受けるフォシル。

「ふむ…」
 そんな戦闘状況を、ラセツは静かに見守っている。
「やはり、剣だけではルシードには勝てないようだな。…そうなると、フォシルの勝機は能力にあり、か……」
 冷静につぶやいたラセツは、何かしらコンピュータを操作している。

 フォシルが幾度めかの剣を弾いた時、ルシードは不意に動きを止めた。
「?…どないしたんや先輩」
 そんなルシードに怪訝な表情を向けて、フォシルが問う。
「お前、何故本気を出さない?」
「は?本気って…何の事や?」
 いぶかしげに聞くフォシルに、ルシードが再度切りかかる。
「お前の重力波のことだ!何故使わない!」
「くっ、それを言うんなら先輩かて魔法使わんやないか!」
「はぁ?じゃあお前は後手にしか回る気がねぇってことか?」
「そう、いう事や!」
 鋭さを増したルシードの攻撃を、必死の思いで回避するフォシル。
「この、馬鹿が!」
「!」
 前振り無しで発生した炎が、フォシルを包み込む。
「本気を出せ、って言ってるだろうが!」
 その炎に叫んで、ルシードは剣を構えなおす。
 それに応えるかのように、炎が一瞬にして消え去った。
 重力波を携えた、フォシルの右手によって。
「分かった。生身の体で出来る、最大限の本気で行かせて貰うで」
 剣を仕舞い、重力を両手に蓄える。
「はっ!」
 短い気合と共に、フォシルが重力波を打ち出す。
 それを回避するために飛び上がったルシードを追ってフォシルも跳躍し、そこから蹴りを繰り出す。
 重力の力を込めた蹴りを何とかガードしたルシードがすれ違いざまに剣をひらめかせる。
 先程の立ち位置と逆になった両者。ルシードは左手に、フォシルは左脇腹にそれぞれ傷を作っている。
「まさか、避けられるとは思うとらんかったわ」
「ふ。俺を誰だと思ってやがるんだよ…アイシクルスピア!」
 ルシードは魔法を放ち、そのままその後を走る。氷を重力で相殺し、フォシルは大きく踏み込んだ。それを予想していたのか、ルシードは眼前でもう一度魔法を解き放つ。
「カーマインスプレッド!!」
「重障壁!」
 それを予見していたのか、フォシルの生み出した障壁が炎を切り離す。カウンターとして繰り出した蹴り上げを上体をそらして回避し、またも間合いが開く。

「二人とも、凄いね」
「ああ」
 ミッションルームではラセツとシェール(暇なので帰ってきた)が二人の戦いを見届けている。
(フォシルに特別な力があることには気付いていたが…いくら魔法の手助けを借りているとはいえ、それと互角に渡り合っているルシードも力を持つ存在なのか?)
 そんな事を考えてみるラセツであったが、目の前の試合にはとりあえず関係が無いことである。

「疾っ!」
「喰らうか!」
 フォシルの放った重力波を、ルシードが魔力で相殺する。
 それを、幾度繰り返したときだろう。
『グルルル…』
「ん?」
 聞きなれない声にふと横を見たルシードが、唐突に動きを止めた。
「?どないしたんや先ぱ……」
 その方向を向いて、フォシルも動きを止める。
「な…なんで魔物がここにおるんや!」
 フォシルの叫び声を皮切りに、突如現れた魔物の群れが二人に襲い掛かってきた。
「おい、ラセツ!これはどう言うことだ!!」
 魔物の爪を捌きながら空に向かって叫ぶルシードに、ラセツの声が返ってきた。
『わるい、ルシード。まだ扱いなれてないものだから要らないシステムを作動させてしまったようだ。そちらで処理できないか?』
「はぁ?…ちっ、仕方ねぇな。何匹出た?」
『確認できるだけで50匹前後だ』
「ごじゅ…マジかいな」
 吐き出された炎を避け、フォシルはルシードと背中を合わせる。
「ま、適当に倒すか」
「せやな。ほな、行くで先輩!」
 気楽に言うルシードに、気楽に応えるフォシル。
 今の彼らの動きは、先程の動きよりもいくらか鋭いものとなっている。

(やはり…相手が魔物だと手加減は無し、か。何処まで強くなるんだあいつら?)
 冷静にそう考えているラセツの横で、シェールは慌てた声で報告する。
「ど、どうしようラセツさん!何処をさわればいいのかわかんないよ」
 そんな彼女に、ラセツは落ち着くように示した。
「大丈夫だ。彼らなら内部で処理してくれる。ここで待っていればケリがつくさ」
「そ、そうかなぁ…?」

 シェールの心配をよそに、フォシルたちは軽々と魔物を倒し終えていった。

「二人ともお疲れさま〜」
 ミッションルームへと帰ってきたルシードたちを迎えた第一声がこれだった。
「ああ、シェールか」
 そっけなく言うルシードに、シェールがいきなり頭を下げる。
「ルシード君、ごめん!」
「何謝っとるんやシェール?」
 理由がわからないで戸惑っている二人に、ラセツが来て説明する。
「いや、悪いのは俺なんだけどね。二人とも、ご苦労だったな」
「まあ、さすがにあんだけの魔物は疲れるわ」
「それは俺も同感だな」
 そんな返答をした二人に、シェールはすまなさそうな顔を上げる。
「いやー、そうじゃなくって。私、昨日ティセにお願いしちゃってさ。明日お弁当作ってきて欲しいって。
 で、ティセの作ってくれたお弁当、朝一で私が食べちゃったの。ごめん」
 数秒、いや数分だったかもしれない。そんな空間が空いた後、
『な、なんじゃそりゃぁ〜!!』
 ミッションルームから絶叫に近い声が木霊したという。
 至って平和な(?)午前の風景であった。


<楽屋裏>

作者:はい。一応出来上がりました。ネコミミさんリクエスト。フォシル君とルシードさんのお弁当争奪戦ストーリーなのですけど…
フォシル:これは、恐らく期待に添えてないんとちゃうか?
作者:はい。そんな気がひしひしとしますね。ごめんなさい。
フォシル:最初はもっとコミカルなもんを考えとったんやけどな。「ハレグウ」みたいな乗りの。
作者:でも、書いているうちに只の真似になっちゃった気がしまして。急遽こんな形になっちゃいました。ごめんなさい。
フォシル:ま、こんな作者やけど見捨てんとってくれたら嬉しいな。
作者:次回のリクエスト時にはもっと期待に添えるよう頑張りますので。
二人:また、次の機会に〜。

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