<2つの心の繋がりを>


 その日は、たまたま二人だけで仕事をした帰りでした。
『なあ、次の日曜日…暇かな?』
 普通に会話をする感じで切り出したあの人の言葉。それは、私が望んでいた、でも望んではいけない事だったのかもしれません。
『ええ。その日はピアノの練習もないし、一日空いているわ』
 気が付けば、私はそう返していました。
『そうか。じゃあ、明日の10時くらいに家に迎えに行くよ。良いかな?』
『私は、良いわよ』
 そう言うと、あの人はとても嬉しそうな顔をしました。私が大好きな、心からの笑顔で。
『よし。じゃあまた明日な』
『うん。さようなら』
 あの人の背中を笑顔で見送りながら、私は心の中で謝っていたのかもしれません。

 私は、親友と同じ人を好きになってしまったのかもしれないのだから。


 日曜日の朝。心を落ち着けるためにピアノを弾いていました。
「お嬢様。珠呂様がお見えになられましたよ」
 部屋をノックして入ってきたジュディが、あの人が来た事を伝えてくれました。
「ありがとうジュディ。すぐに行くから待ってもらえるように伝えてくれる?」
 私がそう返すと、ジュディは嬉しそうな顔になってこう言ったのです。
「ええ、分かってます。お嬢様、頑張ってくださいね」
「もう、ジュディ!」
 私が瞬時に赤くなってしまった顔でわざと怒って見せると、ジュディは部屋をそそくさと出て行きました。
 私は扉にもたれ、大きく深呼吸をして心を落ち着けようとしました。
「ふ、普通にしていれば良いのよ、ね?」
 鏡の中の自分に言って、私は扉を開けたのです。

 俺が玄関で待っていると、ジュディが一人で下りてきた。
「珠呂様。もうしばらくお待ちください。ただいまお嬢様はご用意をなさっておりますので」
「ああ、分かってる。ここで待ってるよ」
 俺はジュディにうなずいて返し、そのまま玄関に突っ立って待っていた。
 一言目は、どう言えば良いんだろうか。
『無理に連れ出してごめんね』…いや、これじゃ俺がシーラの事をただの友達としか思っていないと取られるかもしれないな。
『今日の君の瞳は、一段と輝いているよ』…アレフじゃあるまいし。これは俺には似合わないな。
『お待ち申しておりました、姫。私と一曲踊っていただけませんか?』…いや、誰だよ俺。何処の世界に一言目でそんな事を言う奴が居る。
 そんな馬鹿らしい討論が頭の中で投げ交わされていたとき、
「あ、お嬢様」
 ジュディの声で現世に帰ってくる。
 見ると、シーラが階段を下りてくる所だった。
 下りてきたシーラを目にして、俺の言葉はすべて綺麗に流れ去った。
 そりゃもうナイアガラの滝のごときスピードで。
「やあ、シーラ」
 唯一出てきたその言葉に、シーラは「こんにちは」とだけ答えて微笑んだ。
 今日の彼女は、いつもと同じ格好をしている。これと言って緊張している様子でもなく、屈託ない笑みを浮かべている。
 そんな彼女を見て、俺の心もいくらか落ち着いたようだ。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
 俺はシーラの手を取って屋敷から踏み出す。
「まずは、リヴェティス劇場に行こうか。ちょうど演劇のチケットも手に入ったし。」
「そうね」
 俺も普通通りに接しないとな。

 内心、私の心臓は飛び上がりそうに高鳴っていました。
 ジョートショップを手伝っている時と同じように、横に珠呂君がいる。ただ、それだけなのに。
「そう言えば、そろそろ腹減ったな。ラ・ルナに行くか?」
「でも、ここからだとさくら亭の方が近いと思……」
 私は、自分で言った事に驚いてしまいました。
 でも、それに珠呂君が気付いた様子は見せません。
「でも、まあ折角のデートだしな。ラ・ルナに行こうぜ」
「え、ええ。そうね」
 できるだけ平静を保とうと努力してるけど、早く移動を開始しないと取り乱しそうになっていました。

 ラ・ルナを出て、夜鳴屋雑貨店へやってきた。
「ここって、本当に何でも売っているのよね」
「だな。特売品の缶詰の真横に文房具、そしてその向かいには宝飾品だもんな。これはスーパーなんて何のその、ってな品揃えだな」
「スーパー?」
 そう言えば、この町を離れた事のないシーラは知らないか。
「ああ、色んな日用品や食料品を一所に集めたお店のことだよ。故郷にはあったんでね。ふと思い出したんだ」
「ふーん。そうなんだ」
 俺にはアレフに流してもらった情報があるから、宝石やアクセサリを見る目には結構自信を持っている。
 その中でも、シーラに一番似合うと思ったアクセサリを購入した。
 薄いピンク色の真珠がプラチナで出来た貝の中に入っている、そんな感じのネックレスだ。

 夜鳴屋雑貨店を出た頃には、辺りは既に薄暗くなっていました。
「もうこんな時間か…そろそろ帰らないとな」
「ええ…そうね」
 私は、本当は帰りたくありませんでした。けれど、それが只のわがままだと分かっていましたから。
 取り留めもない会話を交わしながら歩いていると、私の家まではすぐそこでした。
 家の前まで来て、私は珠呂君を振り返りました。
「それじゃあ、ここで。珠呂君、今日は本当にありがとう」
「いや、こちらこそ。今日はシーラと一緒に過ごせて嬉しかったよ」
「そうかしら?」
「そうだよ」
 そう言って、珠呂君は笑顔を見せてくれました。
 私はその笑顔に安心感を覚え、ゆっくり珠呂君に近づいていきました。
「ねえ、珠呂君…」
「ん?」
 首をかしげる珠呂君に、私は小さく手招きをしました。
「どうしたんだよシーラ」
 それに釣られて、珠呂君が前かがみになった時…
「ありがとう」
「あ……」
 私は珠呂君の右頬に軽くキスをしました。
 そのまま、私は軽い足取りで家の中に向かいました。
 扉を開ける前に、珠呂君を振り返って言いました。
「また明日ね、珠呂君」
「あ、ああ。またな」
 私は扉を閉め、急いで自分の部屋に向かいました。
 今になって、心臓が飛び上がりそうなほど高鳴っています。
 それにしても、さっきの珠呂君の顔って言ったら…
「ふふ、クスクス……」
 思い出したら、笑いがこみ上げてきました。

「また明日ね、珠呂君」
「あ、ああ。またな」
 屋敷の中に入って行くシーラを見送っていた俺は、無意識の内に右頬に触れていた。
 シーラの…唇の感触が……
 そのまま少しボーっとしていると、
「ん?どうしたんだよ珠呂」
「え?ああ、アレフ」
 デート帰り、といった感じのアレフが声をかけていた。
「お〜?ここはシーラのお家ではないですか。なーにをやっていたのかなぁ?」
「え、い、いや…アハハハハハ……じゃあな!」
 俺はアレフに背を向け、思いっきり疾走した。
「あっ、コラ珠呂!教えて行けよー!!」
「また今度教えてやるよ。じゃあなー」
 俺は緩まる頬を意識しながら、ジョートショップへと帰りを急いだ。

<FIN そして、ここがOPENING?>


☆あとがき!!☆

作者:と言うわけで。テイルさんリクエストで、1st君とシーラのデートでした!
珠呂:短いな。
シーラ:短かったわね。
作者:し、仕方が無いじゃないですか!彼女いない暦20年以上の私にはこれ以上は無理ですよぉ〜。
テイル:はいはい。分かりましたから泣かないでください。…珠呂さん、シーラさん。今回はお疲れ様でした。
珠呂:まあな。
シーラ:お疲れさまでした。
テイル:今回はテイルさんのリクエストなのでシオンさんを書くのかと思っていたんですけどね。
作者:それも考えましたけど、この形になりました。何故かは聞かないでください。珠呂君に本物の主人公らしい事をさせたかったなんて勝手なことは書けませんから。
珠呂:言ってるじゃねーか。
作者:あ、しまったぁぁぁ!
シーラ:作者さん。もうちょっと頭を使って生きないといけないわよ。
作者:がーん………
テイル:では、馬鹿作者が黙ったところで。今回はどうだったでしょうか。皆様からの感想も苦情もお待ちしています。
珠呂:それじゃあ、
シーラ:またね。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送