ひとりぼっちの君に

 ここはシープクレスト。大きな海に面している近代的な港町である。
 その港の近くに、とある事情でとても有名なお店がある。
 そのお店の名前は、『ミッシュベーゼン』
 ミッシュが有名な理由は大きく分けて三つある。
 一つは、店長であるジラ・ボーランジェの気風のよさである。豪快な物腰と、誰に対しても分け隔ての無い、まさに下町女将と言った風格の持ち主である彼女は、旧市街の顔のような存在と言っても過言ではない。
 二つは、ミッシュにしかない地酒の豊富さであろう。古くから店を開いているだけあって、この酒場には数多くの地酒が揃っている。噂を真に受けるならば、保安局の中にも常連客は多いらしい。
 そして、三つは…

「ただいま、かあさん」
 季節は冬。時刻は朝の七時ごろ。
 入り口の扉を開けて、赤いコートと白いマフラーを着けた少女が入ってきた。絶世の美少女、と言った感じを受けるその少女は、人間ではないようだ。
 頭に生えた狐耳、コートを脱いだ服のすそからはみ出している尻尾。彼女はライシアンだった。
「お帰り、更紗。お買い物ご苦労様」
 店の奥から、食材の仕上げに入っていたジラが顔を出す。
「かあさん。食材、何処に置いておく?」
 かなり大量の荷物を両手に持ち、更紗は危なげない足取りで厨房へと向かう。
「そうだね。きのこはすぐに使うからこちらにおくれ。魚とお肉は、いつもの場所にしまっておいてもらおうかねぇ」
「分かった。ジュースは、冷蔵庫だね?」
「ああ。頼んだよ、更紗」
 荷物を手馴れた手つきで分配し、言われた通りにしまっていく。

 そんな、平和な日の出来事であった。

「更紗、これを三番テーブルに持っていっておくれ」
「うん」
 時刻は、酒場が一番忙しくなる頃となっていた。
 様々な人が思い思いの話題と共に酒を酌み交わしている中、更紗はお盆に料理を載せて目的のテーブルを目指す。
「お待たせしました」
「おっ、いつもありがとうな更紗ちゃん」
 常連である町の青年は、更紗から料理を受け取って笑いかける。
「ごゆっくりどうぞ」
 更紗も笑顔で返し、厨房に戻ろうとした。
 が、ふと入り口のほうから視線を感じて振り返る。
 そこには、ここらでは見かけたことの無い顔の少年が立っていた。
 年の頃で言うと…更紗より二つほど下であろうか。
 薄紫の髪をショートカットにし、大きな瞳は薄茶色をしている。着ている服は少し昔チックだった。
「どうしたの?」
 なんだか気になった更紗は、少年に近寄って声をかける。
「・・・・・・・」
 少年は警戒しているのか、それともひとみしりしているだけなのか。だまってうつむいてしまう。
「お父さんかお母さんと一緒に来たの?」
 今度は違う質問をした更紗に、その少年はつぶやくように返してきた。
「パパも、ママもいないんだ」
「え……」
 その少年の表情から、そうではない事は分かった。が、それでも更紗は一縷の望みをかけて聞いてみた。
「…迷子になっちゃったの?」
 更紗の問いに、少年は静かに首を振った。
「昔一緒に住んでたおじいちゃんは、『遠いところにお出かけしている』って言ってたけど…」
 更紗の危惧は当たってしまったようだ。この少年の両親は、何らかの原因で亡くなってしまった。大人たちはそれを隠しているが、少年は気付いているのだ。もう、両親に会うことはできないのだ、と。
 更紗は、黙ってうつむいてしまった。自分の事を考える。親の顔は覚えてはいなかった。気が付いた時には彼ら、旅芸人一座と一緒にいた。
 ……檻に入れられて。
「ボク、やっぱりひとりぼっちなのかな?」
 気が付けば、少年の目には大粒の涙が浮かんでいた。
(私に、何かしてあげられる事は無いのかな……)
 そう考えていた更紗は、その少年の肩に手を置いて、できるだけ明るく言った。
「じゃあ、私がお母さんの代わりに…は無理だけど、お友達になるよ」
「え…?」
 涙を浮かべたまま、少年がうつむいていた顔を上げる。
「私は、更紗。…あなたは?」
「ヨルド。ヨルド・ストラクス」
「そう。よろしくね、ヨルド」
 笑みを向ける更紗に、ヨルドも安心した顔を見せる。
「…うん。ありがとう、更紗ねーちゃん。ちょっと、元気出た」
「そう。良かった」
 更紗とヨルドが笑みを交わしていたとき、
「更紗〜、そろそろ注文いいかな?」
 近くの席にいた女が、遠慮がちに声を掛けてきた。
「あっ、はい。すみません」
 そう言ってテーブルに行こうとして、更紗は一度ヨルドを振り返った。
「ヨルド。もう夜も遅いから早くお家に帰りなさい。私、何時でもここに居るから」
「うん、分かった。また明日来るよ。またね、更紗ねーちゃん」
 ヨルドは安心したように手を振って、酒場の外へと消えていった。
 それを更紗と一緒に見送っていた女が、更紗に声をかける。
「可愛い子ね、何処の子?」
「分からない。今日初めて会ったの。でも、私の友達だよ」
「そう。優しいわね更紗。…あ、ジラお勧めの酒、お願いね」
「うん。…でも、バーシア。酔いつぶれてルシードに迷惑かけないでね」
 そう言って遠ざかっていく更紗を見送り、バーシア・デュセルは苦笑を浮かべた。
「…あの子も、大分ここに馴染んで来たわね」
 その声には、多分に安堵の感が込められていた。

「おはようございます」
『おはようございまーす』
 次の日の朝。ブルーフェザーの食堂に、朝のミーティングのため皆が集まった。
 各自今日の予定を言い、残りはメルフィだけとなったのだが…
(ジリリリ…ジリリリ…)
 事務所の電話がけたたましく鳴り響いた。
「もう。こんな朝っぱらから何なのよ〜」
 そうバーシアが言ったがもちろん動く様子もなく、メルフィが電話に出るために席を立った。
「みんな、今日の予定を始めておいて頂戴。多分そんなに大切な用事じゃないと思うから」
「よし。じゃあ解散。しっかりやれよ」
「へーい」
「あーかったるぅ〜」
「ねえフローネ、一緒に攻撃魔法の特訓しない?」
「ごめんねルーティちゃん。私、今から写本をしないといけないから」
「ふむ。ティセ、この茶は何処の物だ?」
「あう〜、ティセ、わからないですぅ。お茶は、メルフィさんにお任せしていますから」
 ルシードの声に、各人が様々な場所へと散っていく。
 そんな折、食堂に留まって皿洗いをしていたルシードの耳に、扉を開ける音が聞こえた。どうやら、メルフィの電話が終わったようだ。
「ルシードさん、通報よ」
 ルシードを見つけ、メルフィがこちらにやってくる。
 それを目だけで確認し、ルシードは手元に意識を戻した。
「場所は?」
「旧市街の赤髭横丁から学生街にかけてで、最近夜になると妙な影を目撃する人が増えているの」
「妙な人影ぇ?まさか、またピースクラフトのオッサンじゃあねえだろうな?」
 最後の一枚を洗い終え、ルシードは手を拭きながら確認する。
「いいえ、違うわ。その人影は、コウモリのような翼を持って空を飛んでいるの。いくらなんでも、ピースクラフト先生に空は飛べないでしょう?」
 ……確かに。ルシードは内心うなずいてしまった。
「で、その調査をしろ、ってか?」
「ええ、そうなの。特にたいした被害が出ているわけではないから、安心できると思うのだけれど」
 ルシードは食堂の椅子に腰掛けてなにやら考え込んでいる。
(コウモリの翼…まさかとは思うが…)
 しばらくして、彼は横にいたメルフィに声をかける。
「メルフィ。たいした被害は、と言ったな。どれくらいの被害が出てるんだ?」
「自転車に乗っているときにその人影を目撃した学生さんが壁に正面衝突、人影に驚いたおばあさんのぎっくり腰がひどくなって、数時間動けなくなった。こんな感じよ」
 平然と言ってくるメルフィに、ルシードは右手を頭に当てて嘆息した。
「それって、人影とは関係ねえじゃねえか」
 そのまましばらく動きを止めていたルシードだが、間もなくして口を開いた。
「…そうだな。今日の夜のミーティングの時にでもみんなに知らせてやれ。で、バーシア以外で夜の見回りでもすっか」
「ええ。分かったわ。バーシアさんが文句を言いそうだけど」
 それだけ言葉を交わし、メルフィは二階、ルシードは訓練室に脚を向けた。

 その日の夕方。ミーティングの際にその話をすると、案の定バーシアが怒り出した。
「どうしてアタシだけ行っちゃいけないのよ!」
 そんなバーシアに、ルシードが言い返す。
「赤髭横丁には、ミッシュベーゼンがあるもんな。そりゃ行きたいよな」
「うっ…」
 怯んだバーシアに、メルフィが追い討ちをかける。
「バーシアさんは、絶対にサボるに決まってます。違いますか?」
「くっ…みんなしてアタシの行動を阻止しようってぇの!冗談じゃないわよ。アタシだって保安局の職員よ。誰が仕事中にお酒なんか飲みに行くもんですか!」
「説得力がカケラほども無いな…」
 ボソッと言ったゼファーの声に、一同がうなずく。
「あーっもう!分かったわよ!事務所で待機してれば良いんでしょう?」
 そう言って、バーシアは二階へと上がっていってしまった。
「あ、おいバーシ…ま、いっか。…さて。とりあえず今日の見回りはルーティと俺…いや、ビセットが行ってくれ」
「あれ、ルシード来ないの?」
 少し意外そうに訊ねるビセットに、ルシードは「少しな」とだけ返した。
「二人とも、通信機を忘れないでね」
「うん、分かってるってフローネ。じゃ、行ってきまーす」
「あ、待てよルーティ!」
 マフラーを片手に元気よく飛び出していくルーティと、その後を追うようにコートを引っ掴んで走るビセット。彼らを見送ってから、ルシードは席を立った。
「さて。ちょっと調べ物がある。ゼファー、手伝ってくれないか?」
「分かった。すぐ行こう」
 ルシードの表情から何かを感じ取ったのか、ゼファーは一足先に資料室に向かった。
「フローネとメルフィはここで待機。ビセット達から連絡があり次第俺に伝えてくれ」
「分かりました、センパイ」「分かったわ」
 それだけ言ってから、ルシードは真横にいたティセに顔を向ける。
「ティセ。お前はルーティ達のために何か温かいもんでも作っておいてやれ。外は冷えるしな」
「了解ですぅ〜、ご主人様」
 そして、ルシードも資料室へと向かった。

 その頃。更紗はヨルドの話し相手をしていた。
 珍しくお客が少ない日で、ゆっくりと話をすることができた。
「…ふーん。ヨルド、そんなに遠くから来たんだ」
「うん。でも、海ってすっごいよね。ボク、この町で初めて見るもん」
「うん。海、おっきいよね」
 そんな二人の会話風景を、ジラはグラスを拭く手を休めて眺めている。
「どうしたんです女将さん。すごく安心した顔をしてますけど」
 常連であり、今居る唯一の客である男の質問に、ジラは笑顔で答える。
「いやー、嬉しいねぇ。更紗は外見にコンプレックスを持ってるから、中々友達を作ろうとしないんだよ。そんなあの子があんなに仲良くしてるなんてねぇ」
「そうですね。更紗ちゃん、同年代の友達ってあんまり居ないって言ってましたもんね」
 自称更紗ファンのその男も、少し嬉しそうにうなずいた。
「あ、それなら私も知ってる」
「えっ、本当?あれって結構知られてないんだよ」
 そんなこんなで、更紗もヨルドも時間を忘れるほどお話をしていたところ、ミッシュに新たな人物が入ってきた。
「ちわーっす」
「こんばんは、ジラさん、更紗」
 見回り途中のビセットとルーティだった。
「あ、いらっしゃいませ」
「おや、いらっしゃい二人とも。なんだいデートかい?」
「ええっ、で、デートぉ?」
 赤くなっているルーティをよそに、ビセットは軽く肩をすくめた。
「残念だけどそんなんじゃないんだよね。少し通報があったから見回りだよ」
「通報?何かあったのかい?」
 心配そうに訊ねるジラに、ビセットが状況を説明し、その間にルーティは店の中を見回した。
 そんな彼女の視線が、更紗とヨルドに止まる(というか、すでに客は誰もいなくなっていたのだが)
「こんばんは。君、あまり見ない子だね?」
「あ、うん。この子はヨルド・ストラクス。私の友達だよ」
 下を向いたまま答えようとしないヨルドに代わって、更紗が紹介する。
「ふーん、ヨルド君か。あたしはルーティ。よろしくね」
「…う、うん」
 小さくでも返事を返してくれた事にルーティが満足した時、ビセットも話を終えたようだ。
「じゃあ、そろそろ行きます。何かあったら連絡くださいね」
「ああ、分かってるよ。もう夜も遅いんだし気をつけてね」
「大丈夫ですよ。オレ達、これでもブルーフェザーですから。……それじゃ」
 そう言ってミッシュを出ようとするビセットに付いていこうとしたルーティは、途中で更紗を振り返る。
「二人とも、ケンカせずに仲良くしなよ」
「え……」
 真っ赤になって動きを止めてしまった更紗を視界に納め、ルーティもミッシュを出て行った。
 更紗の横では、ヨルドが悲しそうな表情でうつむいていた。

 ミッシュを出てすぐ。ルーティは通信機のスイッチをオンにする。
「あれ?何連絡するんだルーティ?」
「ん。ちょっとね」
 ビセットに適当に返し、ルシードに回線を繋ぐ。
『こちらルシード。…俺に直接回さなくても事務所にかけりゃあいいじゃねえか』
「あ、ごめんねルシード。ちょっと、気になる事があってさ」
『何か、あったのか?』
「うん。実は、さっきまでミッシュにいたんだけど…」

「…そうか、分かった。もう帰ってきていいぞ。お前らのためにティセが鍋うどん用意して待ってる」
『うん、分かった。すぐ戻るね』
 ルーティからの通信を切り、ルシードは正面を向いた。
 そこには、なんだかんだ言って手伝ってくれていたバーシアとゼファーが居る。
「……悪い。ヒットした」
 面倒そうに告げ、ルシードは一枚の用紙を手に取る。
「…あの子が?本当に?」
 一度出会った事があるのだろう。バーシアは信じられないといった表情をしている。
「ああ。まず間違いなくそうだな」
「では、俺がここを片付けておこう。ルシードとバーシアはメルフィ達に説明を頼む」
 様々な本が乱舞している資料室を見渡して、ゼファーが言った。
「悪いな。先に下りてるぜ」
「じゃ。頑張ってね〜」
 ルシードは少し辛そうに、バーシアは極力明るそうに返答して、資料室をあとにした。
「……辛いな、ルシード」
 一人残って片付けているゼファーのつぶやきは、誰にも気づかれる事はなかった。

 そして、ルーティとビセットが帰ってきて一息ついたところで、ルシードが説明を開始した。
「そんな…あの子が?ウソだろルシード!」
「更紗、すっごく楽しそうだったのにね」
 ビセットが驚きの声を上げ、ルーティが力なくうなだれる。
「辛いでしょうけど、更紗さんに伝えないといけないわね」
「そうですね」
 直接会ったわけではないメルフィとフローネも、説明を聞いて悲しそうにしている。
「・・・・・・・」
 バーシアは一人無表情でタバコを吸っていたが、内心いらだっている事は見て取れた。
 ティセも、何となくであろうが事情を察して心配そうにルシードを見ている。
「…ともかく、明日ミッシュに俺たち5人で出向く。その後どうするかは…また明日だ。解散」
 ルシードの声に、ブルーフェザーの面々は自室へと引き上げて行った。
 ルシードは一人だけ訓練室に行き、ルームランナーのスイッチを入れた。
 最速のスピードでドラムを回転させ、ひたすらに走る。嫌な事があったときは体を動かして忘れる。最近の彼の気分転換の方法だった。
 数十分の全力疾走の後、ルシードは台所に帰ってくる。
 そこには、ゼファーがお茶をすすっていた。
「明日、だな」
「…ああ」
 短い問いに、短く答える。そんなルシードの前に、湯気の立った湯飲みが置かれる。
「心を落ち着かせるには、美味い茶を飲むのも一つの手だぞ」
「ハッ、それもいいかもな」
 ルシードも茶をすすり、時刻が明日へと変わろうとしていた。

 次の日。ジラが買い出しに行って、更紗が店の掃除をしていた頃。
「更紗ねーちゃん」
「あ、ヨルド。今日は早いね」
「うん。ちょっとね」
 二日間、夜にしか顔を出さなかったヨルドが昼間のミッシュを訪れていた。
「どうしたの?」
 更紗は笑顔でヨルドの元に走ってきた。普段見せるはにかんだような笑顔ではなく、心の底から湧き出てくるような笑顔だ。
 そんな更紗を綺麗だと思いながら、ヨルドは言葉を紡ぐ。
「もう、ここに来れるのはこれで最後だと思うから」
「……え?どうして?」
 一瞬にして不安そうな顔になった更紗に、ヨルドは弱弱しい笑顔を向ける。
「ボクの、これのせいなんだ」
 そう言って、ヨルドは背中の『翼』を広げて見せた。
 それは、夜中の目撃証言にあった、コウモリの翼、である。
「…何?それ」
 不思議そうに訊ねる更紗に、ヨルドが声をあげようとしたところ、別の声が返ってきた。
「その昔、魔道実験と称した人体実験が横行していた時代があった」
「…ルシード、それにみんな」
 ブルーフェザーの5人が、各々の武器を持って現れたのだ。
「その時代。とある王侯貴族の長が、大々的な魔道実験を施したんだ。
 まだ、10才になったばかりの自分の息子に」
「…な、何、言ってるの?」
 ルシードの声に更紗は戸惑い、ヨルドは辛そうにうつむく。
「そして、その魔道実験は成功した。
 少年に、不老不死という望んでもいない力と、魔族というレッテルを押し付けて」
 ルシードから引き継いだバーシアが、淡々と喋る。
「その子の名前は…」
 さすがに言いよどんでしまったバーシアに、ヨルドが笑みを向けた。
「ヨルド・ストラクス。ボクの、事です」
「…ヨルドまで。…あ。私を驚かそうとしてる?」
 現実を否定しようとしている更紗に、ヨルドは悲しい目を向けた。
「ごめん、更紗ねーちゃん。これは本当の事なんだ」
「そ…」
 口を半開きにしたまま止まってしまった更紗に、ルーティが声をかける。
「あたし達は、S級危険種族の彼を、このまま見過ごすわけには行かないのよ」
「オレだって嫌なんだけどさ、こんな役目。でも、これがオレの仕事だから」
 ルーティの横に立って、ビセットが口を尖らせながら言った。
「ヨルド君、私たちの指示に従ってくださいね。私は、誰も傷つけたくないんです」
 杖を構えて、フローネが前に出ようとしたとき、
「ダメッ!絶対、駄目!!」
 更紗とは思えないほどの大声で叫んで、更紗はヨルドとフローネの間に入った。
「ヨルドが何をしたの?翼があるから何なの!?それじゃあ私だって充分変だよ!」
「更紗ねーちゃん…」
 ヨルドは更紗の事を良く知らない。なにせ、出会ったのは3日前だ。
 それでも、更紗がこんなにも大きな声を出す事があるとは思いもよらなかった。
「私、初めて出会う人に言われる、『めずらしいな』って言葉がキライだった!その言葉を言われるたびに、私はひとりぼっちなんだって痛感させられるから。だけど、ヨルドは…ヨルドは、何も言わなかったんだよ!この耳を見ても、尻尾に気付いても!」
 フローネに食ってかかりそうな勢いの更紗の前に、ルシードがしゃがみ込む。
「更紗。お前の気持ちは良く分かる…いや、分かってるつもりだ」
 ルシードの優しい感情がこもった言葉に、更紗は口を閉ざした。これまであまり大きな声を出していなかったためであろう。平時より少し荒い息をしている。
「更紗。俺たちは何もヨルドを殺しに来たんじゃねえ。話をつけに来たんだ」
「……本当に?」
 こちらを見上げる更紗に、ルシードは深くうなずいた。
「ああ、本当だ。俺が更紗に嘘を吐いた事があったか?」
 その言葉に、更紗はブンブンと顔を横に振る。
「なら、ヨルドと話させてもらってかまわねぇな?」
「…分かった」
 渋々ルシードに道を譲った更紗にうなずいて、ルシードはヨルドを見る。
「ヨルド。お前と一対一で話をしたい。ちょっと厨房まで来てくれねえか?」
「はい。ボクは良いですよ」
「よし。じゃあ行くか」
 そう言ってルシードが厨房に向かおうとした時、
「悪いけど、アタシも立ち合わせて貰うわよ。可愛い弟君が暴走しないようにね」
「…ああ、構わねぇぜ」
 何気ない口調で口を挟んだバーシアに、ルシードは苦笑で返した。
「じゃあ…ビセット、アンタ公保のアルバートをつかまえて来て裏口に呼んで。ルーティとフローネは更紗と一緒にここで待機。いいわね?」
『了解!』
 ルシードを追い越して厨房へと向かったバーシアに、ルシードは苦笑を浮かべたままつぶやいた。
「…やっぱ、姉貴には隠せねぇ、か」

 厨房に入った三人は、手近にあった椅子に腰を下ろした。
「さて、ヨルド。俺はまどろっこしいのは嫌いだ。だから、完結に言うぞ。お前の選択できる道はいくつかある。
 一つは、この町を出て、誰にも見つからないところでひっそりと暮らす。
 二つ目、この町に住む事を主張して、俺達ブルーフェザーと戦う。
 そして三つ目。これが大事だ」

 しばらくして、厨房からルシードだけが出てきた。
「ルシード、ヨルドは?」
 訊ねる更紗に、ルシードはできるだけ悔しそうな顔を作って言った。
「だめだ、逃げられた。アイツ思ったよりもすばしっこくてさ」
「逃げ、た…?」
「そ、逃げた」
 呆然と聞く更紗にルシードが短く答え、次にフローネ達の方に言った。
「っつーわけだ。この事件は未解決。始末書を山ほど書かなきゃならねえんだからもう帰るぞ」
「始末書は良いけどさ…バーシアは?」
 当然のことを聞くビセットに、ルシードはそっけなく「先に帰った」とだけ答えた。
「さあ、お前らもう帰るぞ!…更紗、邪魔したな」
「う、うん…」
 ルシードの言葉に促され、ミッシュベーゼンを出て行くフローネ達。後には、少し混乱した様子の更紗が残されていた。

 後日。アルバートがブルーフェザーに『ルシードの親戚』と称して『ヨルド・アトレー』なる少年を連れてきて事務所に住み着く事になるが、これは、また、別のお話。


<あとがき>

作者:と言う事で、アサシンさんの3000ヒットありがとう作品、完成いたしました!
アス:今回のアサシンさんのリクエストは、「ブルーフェザーのお話を」という事でしたよね、確か。
作者:はい。久しぶりに更紗さんを書けたので超嬉しかったです。
アス:ああ。最近は更紗さんを出せない話ばかり書いてるって、作者さん自分に怒ってましたもんね。
作者:まあね。今回は更紗さん主体のお話にしようと思って始めたこのお話でしたので。
アス:ただ、最後が知りきれトンボっぽい感じになってしまっているのが惜しいですね。
作者:そうですね。まあ、でもとりあえず完成したという事で、いかがでしたでしょうか?
アス:皆様のご感想やご意見をお待ちしております。では。
作者:ばいばいっすー!
アス:ところで作者さん。作品中に自分の分身をまんまで出すのは止めましょうね。
作者:シーッ!言わなきゃ気付かないんだから黙っててくださいよアス君!

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