<真実のために…?>

 ここは悠久学園の近くにある住宅街の一角。そこを一組の男女が歩いている。
 男のほうは肌が浅黒く、薄い水色の髪と対照的な感覚を受ける。
 女のほうは透明な白い肌に薄ピンクの髪の毛。そして両者共に耳がとんがっている。
 学生である彼らの通学風景なのだが、談笑をしていた男のほうが、唐突に立ち止まって後ろを振り向いた。
「どうかしましたか、フォシルさん」
「ん?あ、や。何でもないんや。ティセ」
「そうですかぁ?フォシルさん、なんだか焦ってますぅ」
「せやから何でもないって言うとるやろう?何か人の視線を感じただけやって」
「人の視線、ですか。…でも、誰もいないですよ」
 フォシルが見ていた方をティセも見回したが、人影すら見受けられなかった。
「きっと気のせいですぅ。それよりフォシルさん、早く行かないと授業に遅れちゃいますよ」
「ん?せやな。ちょい急ぐか」
 そう言うと、フォシルは早足で歩き出した。
「あ、待ってくださいよフォシルさん」
 ティセもその後をついて歩みを再開した。
 そんな彼らを、少し後方から見送る影があった。
 その影は片手にメモ帳、片手にペンを握って彼らの行動を書き留めている。
 そして、そのあからさまに怪しい人影の向こうに、もう一つの人影が。その人物は、あくび交じりに前の人影に話し掛ける。
「なあ、レナ。もう止めようぜ」
 そう。誰もが予想した通り、リッドとレナであった。
「何言ってるのよリッド!新聞部員として真実の究明に命をささげることを約束したばかりじゃない!」
「でもさ。どうしてフォシルの尾行が真実究明に繋がるんだよ」
 いかにも面倒臭そうなリッドに、レナはもう一度だけ言うわよ、と前置きして話し出した。
「あの人は何か隠してるわよ!私の勘がそう告げてるの」
「だからそれがわかんねえんだよ」
 ため息と共にそう言うリッドに、レナもいい加減頭に来た様子だ。
「もういいわ!リッドには頼まない。私一人でもやり遂げてみせる!」
 その上から見下したような言い方に、リッドも腹が立ってきた。
「ああそうかい!分かったよ。勝手にやってろ」
 そのまま、学校へと向かうリッド。
 レナはレナで、フォシルを追いかけようとしている。
 が、リッドは足を止めてレナに声を掛ける。
「レナ。とりあえず、学校には急いだほうが良いんじゃねえの?」
「……それもそうね。じゃあ、追跡はまた放課後にしましょ」
 普通に歩き出したレナについていきながら、リッドが愚痴るように言った。
「言っておくけどな、今回は俺は手伝わないからな」
「ええ。それで結構よ」
 平然と返すレナに少し物足りなさを感じないではないリッドだったが、とにかく今日の授業開始まで残り十分を切っていた。

 そして放課後。フォシルは今一人で歩いていた。
「やっぱ、誰かに尾行されとるな。…まさか、組織か?」
 一瞬そう考えたフォシルだったが、それを自分で否定して早足でティセの元を訪れた。
「ティセ」
「あ、フォシルさん」
「やっほーフォシル君」
 ティセの横には、同じクラスのシェールがいた。
「おっす、シェール。二人とも、今日は部活あるんか?」
 フォシルの問いに、二人が同時にうなずいた。
「はい。バドミントン部は今日もお仕事ですぅ」
「アタシはバレー部のエースだしね。サボるわけにもいかなし」
 フォシルはそれを聞き、少し残念そうに言った。
「そか。ほな、今日は帰り一人やな。ま、ええか。…ほな、ティセ、シェール。また明日な」
「はい。さようならですフォシルさん」
「またねー、フォシル君」

 そして帰り道。フォシルはわざと近くの公園に立ち寄った。
 すぐに茂みに隠れたフォシルを追って、公園に入ってくる人影が一つ。
 その正体を見て、フォシルは苦笑を浮かべた。

 一方、レナは公園に入ったところでフォシルを見失ってしまい、周囲をキョロキョロしている。
 そんな彼女に、背後の茂みから声が掛けられた。
「何やってんねんな、レナ」
「うわっ!」
 慌てて180度体を回転すると、そこには苦笑を浮かべたフォシルがいた。
「フォ、フォシルさん…奇遇ですね、こんな所で会うなんて」
 平静を保とうとして苦労しているレナに、フォシルは意地の悪そうな笑みを向けている。
「ホンマ、奇遇やな。まるで後を尾けとったみたいに奇遇や」
「あ、あははは。本当ですね」
 笑みを浮かべたまま、レナはゆっくりと後退しだした。
「そ、それじゃあ私はこれで」
「おう。またな」
 フォシルに正体を知られてしまったからには、とりあえず今日のところは退散するしか無さそうであった。

 それからしばらく後。新聞部の部室にて。
 レナが秘密ノートを広げてその内容をつぶやいている。
「フォシル・ラーハルト。年齢18才、男。8月6日生まれ、ダークエルフ。二年前に新設された理学部所属、部活は射撃部。
 去年の六月頃に学園に転校して来たが、それ以前の経歴は闇の中。人間外の力を持ち、その力で異界の魔物を退治しているという噂がまことしやかに囁かれている、かぁ……」
「結局、一週間追っかけまわして収穫なしか?」
 なぜか横にいたリッドが口を挟む。
「意外とガードが固いのよねぇ。私のエージェントに依頼をして失敗したのはロフェル先輩以来ね」
「…エージェントって何なんだよ…」
 さらっと言ったレナの発言に、リッドは顔を引きつらせている。
「よし。明日こそは何かを掴んで見せるわよ〜!」
「懲りないな、お前も」
 無意味に思えるほど元気があふれているいとこを見て、リッドは小さなため息をついた。

 次の日の夕方頃。商店街の辺りを歩いていたフォシルは、なんだか嫌な予感がして一方向に向かっていた。
(この感じは…また魔物か。ここ数日えらい多いな)
 そんな事を心でぼやきつつ歩を進めていると、横から出てきたリッドと出会った。
「よお、フォシル」
「…おう」
 短い挨拶の後、二人は同じ方向に向かいだした。
 その途中で、リッドがつぶやくように言う。
「フォシル、尾行されてるぞ」
「は?今日は誰にも尾けられとらんはずやで?」
 そう返したフォシルに、リッドは小さく苦笑で返し、後方のとある一点を指差す。
 そちらの方を向いて、フォシルは驚きの表情になった。確かに一瞬見えた人影はレナに違いなかったのだが…
「全然、気配が感じられんかった」
「あいつ、こう言う事は得意だからな」
(得意っちゅうても…素人やろうが)
 そう突っ込みたかったフォシルだが、それは口に出さずにリッドとは違う方向に歩き出した。
「ほな、今日は頼むわ」
「おう。じゃあな」
 そのまま、リッドは商店街を突き進み、フォシルは横道から違う場所へと向かいだした。

 それを背後で見ていたレナは一瞬迷ったが、結局フォシルの後を追った。

 それからしばらくして、フォシルが急に立ち止まった。
「こんな道のど真ん中で立ち止まって…なにするのかしら?」
 そう思ってレナが眺めていると、不意にフォシルの姿が消えた。
「あ、あれ?」
 慌てて周りを見渡すレナ。そんな彼女に、後ろから声が掛かる。
「おんやぁ〜。レナ。なんでこないな所に居るんやろうなぁ」
 その声の主は、間違いなくフォシルだった。
「え?フォシルさんいつのまに後ろに?」
 ついそう言ってしまって、レナは慌てて手で口を押さえた。
「後ろに?っつーことは、レナは俺の事ずっと尾行しとったととってええんやな?」
「え、ええまあ」
 目線をそらしながら答えるレナを見下ろして、フォシルは唐突に目を細め、顔から笑顔を消した。
「なんで、俺の後を付いて来たんや?」
「そ、それは…その……」
 その表情にレナは戸惑っているようだったが、やがてポツリと言った。
「フォシルさんにこの前助けてもらってから、ずっとフォシルさんの事が気になってしょうがなかったんです」
「気になった、ねえ。何で?」
 相変わらず冷たい印象を受ける顔でそう尋ねられ、レナは先程よりも小さな声で詰まりながら言った。
「そ、それは…あの、フォ、フォシルさんのこと…す………です」
「…ちょい待て、今何て言うた?」
 なぜか冷や汗を浮かべているフォシルに、レナはもう一度、今度は相手の目を見てはっきりと言った。
「私は、フォシルさんがスクープの塊にしか見えないんです!」
(ドカシャァ)
 横にあったゴミ箱を巻き込み、盛大にこけるフォシル。
 その前で、レナは両手を握り締めて言葉を続けている。
「この周辺ではあまり見かけない褐色の肌、そして変な方言。絶対何かを隠しているに違いない、そうレナレーダーが叫んでるんです!」
「は、はははは……」
 なんとか復活したフォシルはただただ苦笑を浮かべるしかなかった。

 そして次の日の放課後。フォシルの後をレナが付いて来ている。
「まだあきらめんのか。しつこいなお前も」
「当然です!フォシルさんがスクープを起こすまで付いて行きますからね」
「勘弁してくれや。お前に付きまとわれとったらティセと一緒におられんやないか」
 そうフォシルがつぶやいたとき、レナの足が止まった。
 その事に気付いて振り向くと、フォシルの視線の先には涙を浮かべたレナの姿が。
「フォシルさん…あの時の事はただの遊びだったんですか?」
「ってちょい待て!その発言はどっから繋がるんや!」
 全力でそう叫んだフォシルは、違うところから来る視線に真横を向く。そこには…
「フォシルさん、ティセの事嫌いになっちゃったですか?」
 涙を浮かべたティセが居た。
「ティ、ティセ。ちゃうんや、誤解や。これはレナが勝手に言うとるだけでやな…」
 そうフォシルが説明しようとした時。
(ヒュン)
 突如飛来したナイフを、フォシルが慌てて回避する。
「ぐはっ、でございますぅ…」
 その先で通りすがりのハメットに刺さっていたりするが、今は構っていられる状態ではない。なぜなら…
「フォシル。ティセを泣かせるとはいい度胸だな」
「ち、ちょい待ち先輩!とりあえず話聞いてくれへんか?」
 ナイフを構えて壮絶な笑みを浮かべるルシードに、フォシルは少しずつ後ろに下がっていく。
「問答無用!これが神罰だー!」
「か、勘弁してーな、もぉ〜!」
 凄い勢いで去っていくフォシルとルシードを見送り、後に残されたレナは横で泣いているティセに声を掛ける。
「ティセちゃん、ほら元気出して。私がとっておきのチョコレートのお店教えてあげるから。ね?」
 その一言で、ティセの涙がピタリと止まった。
「ええっ!チョコですかぁ?」
「ええ。ティセちゃんの好きそうなミルクチョコレートもあったわよ。今から行く?」
「はい。行くですぅ!」
 元気一杯にうなずくティセ。既に先程のフォシルの事は頭から出て行ってしまったようだ。
(フォシルさん、近いうちに絶対真実を突きとめて見せますからね!)
 心の中でそう付け加えるレナ。
 フォシルの苦悩はまだまだ続きそうである。


<あとがき>

作者:ふう。こんにちは、デジデジでございます。
リッド:今回は、確実にリクエストに応えてないな。これのどこがレナ主役の話だ!
作者:だ、だって…最初は推理ものにしようと思ってたんだけど私の力不足で書けなくて…
リッド:それに、一番出番が多いのが俺でもレナでもなくって、フォシルだってぇのはどう言い訳するつもりだ?
作者:ごめんなさい。言い訳のしようもありません。にいたかさん、いえにいたか様、申し訳ありませんでした。
 こんな作者ですが、できれば見捨てないでいてやって下さい。
リッド:ま、今考えてるのはフォシルの出番を少なく…っていうか、出さない予定らしいし。その時に書く、って事だな?
作者:え、ええまあ。まだ全然ネタとして使用できる段階ではないですけど。
 まあ、そんなこんなで苦情、いくらでも受け付けます。では。
リッド:できれば、またな。

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