<解けない世界>
終の巻 最弱にして最強なる者へ



「行くぜ!」
 その声とともに放った黒剣を、キルマの大剣が受け止める。
「おぬし、我を一人で倒そうというのか?…無謀な」
 あざけるかのようなキルマの声に、リュートは薄い笑みを浮かべて返す。
「一人じゃないぜ。アスも一緒だ。…はぁっ!」
 黒剣を押し付けたままで放った回し蹴りが、ごく浅くであるがキルマを捉えた。
「…面白い。我も全力で向かわせてもらおう!」
 力任せに大剣を振り払うキルマ。
 リュートはその力を殺しながバックステップで間合いを離す。
「秘技・烈火剣!」
 炎につつまれた大剣での連続攻撃を、リュートは僅かに身をそらすだけで回避する。
 反撃として放った黒剣のすくい上げる一撃を、キルマも余裕で回避する。
「やるじゃねえか。あれだけ接近した状態で俺のカウンターを避ける奴がいるとはな」
「ふっ。我が烈火剣を全て回避したのはおぬしが初めてだ」
 拮抗する力を持つ両者の間は、今にも焼ききれそうな緊張感が支配していた。

「潰れろ!グラビトンボム!」
「インファーノ」
「デッドリーウェッジ!」
 ゼルギスに向けて同時に技を放つ三人。
 が、全てが当たる直前で結界のような物に無効化もしくは軽減化されてしまう。
「今度はこちらからですね。ダークネスアロー」
 三人に向かって放たれた暗黒の矢の正面に、アレフが飛び出す。
「ルシードの見よう見真似だ!インフィニティ・ディメンション!」
 暗黒の矢は、その全てがアレフの手のひらに吸い込まれていく。
「喰らえ!連撃!」
 その状態で繰り出した拳が、ゼルギスをかすめる。
「面白い事をしてくれますね。…では、これならばどうですか?…ニュートリノブラスター」
 ゼルギスの杖から高エネルギーを携えた光子の奔流が溢れ出し、7人全員を巻き込んだ。
 とてつもないエネルギーに、世界が白一色で彩られた。
「……ほぅ。この一撃を受け止めましたか」
 ゼルギスは、感心したような口調を示す。
 その先には、ヴァネッサのプロテクションで強化されたルーティの防御結界が出現していたのだ。
「お返しだよ!アブソリュート・ゼロ」
 トリーシャの放った錬金魔法が、ゼルギスの動きを僅かに鈍らせる。

 キルマの蹴りを左小手で受け止め、そこから真横に黒剣を振るう。
 それを回避したキルマは、空いたリュートの胴を狙って大剣を突き出した。
「っ、はっ!」
 とっさに大剣の腹を蹴り上げ軌道をそらし、その間にリュートが倒れこみながら回避する。
「喰らえ!」
「なんの!」
 その体勢から放ったカーマインスプレッドを、キルマは大剣で叩き割る。
 その間に立ち上がったリュートが、そのまま横薙ぎを放った。
 微妙に感じた手応えに、リュートは一度間合いを離す。
 と、それを予測していたように放たれたキルマの炎が、僅かだがリュートをかすめ、過ぎる。
「おぬし…只の人間ではないな」
「へっ。褒め言葉として受け取っておくぜ」
 両者とも、中々決定打を加えられないまま消耗戦となっている。

「サンダーストライク」
「ぐあっ!」
 ゼルギスの発したいかづちが、結界を突き抜けてフォシルを直撃する。
「テメェ!フローネ直伝、コロナ」
「カーマインスプレッド」
 ルシードとアレフのはなった最強クラスの火炎魔法が、ゼルギスの結界にひびを生じさせた。
「いっけぇ!アイシクルストーム」
 そこにトリーシャのアイシクルスピア5連撃が炸裂する。
「くっ、こざかしい!ブレイジングストーム」
 ゼルギスのかざした左手からあふれ出した鎌鼬が、僅かずつ結界を侵食していく。
「こ、これ以上持たないよ!」
「私も、結構きついわね」
 全魔力を掛けて結界を制御しているルーティとヴァネッサが、消え行く結界を見て焦った声を出す。
「……しゃーない、いちかばちか、やってみるか」
 つぶやいたフォシルは、目を閉じて頭上で両手をクロスさせた。
「トリーシャ。次に俺が技を放ったら、全員の力を上げる魔法を。それと同時に結界を解除、ルシードとアルベルト、アレフが同時に最強の技を仕掛けてくれへんか?」
 その状態で周りに言うフォシルに、ルシードが苦笑で返答する。
「また、無茶なことを考えやがるぜ。…いいだろう、乗ってやるよ!」

 その頃。リュートは防戦一方に回っていた。
 キルマの放つ技を寸前で回避または防御し、ひたすら受け流している。
「どうした。既に反撃できぬか?」
 挑発を投げかけるキルマだったが、内心言いようの無い焦りに支配されていた。
 押されている筈のリュートから、先程までよりも強い気が感じられるからだ。
(こやつ…何かの一瞬を待っておるのか…)
 そのまま、連続で攻撃を仕掛けるキルマ。
 その顔に段々と焦りの表情が浮かんできた。
「くそっ!」
 キルマがそうつぶやいたとき、唐突にリュートが動いた。
 キルマは無意識のうちにそうしていたのだろうが、先程から攻撃に集中するあまり下半身ががら空きになっていたのだ。
「必殺・ファイナルストライク改」
 極限まで蓄えられた気を、リュートは一点めがけて解き放つ。
「ガウアァッ!」
 腹にまともに決まった一撃で、キルマの体が壁際まで吹き飛んだ。
「ぬうっ」
「これで最後だ。烈閃剣」
 それでも立ち上がろうとするキルマに、リュートの追い討ちが決まる。
 そのまま、キルマは壁に解けるようにして姿を消していった。
「…ふぅ」
 それを見届けたリュートは、一つ安堵のため息をついて振り返った。
 その先には、ゼルギスの魔法に押されている7人の姿があった。

「消し飛べ!グラビティキャノン!!」
「何っ!」
 フォシルの放った超重力場が鎌鼬全てを相殺し、ひびの入っていたゼルギスの結界を完全に破壊する。
「フィーバーランページ」
 トリーシャの放った魔力に乗って、3人同時に声を上げる。
『3連奥義!ファイナルインファーノウェッジ!!!』
 アレフのファイナルストライク、ルシードのインファーノストライク、アルベルトのデッドリーウェッジが、相手に防御する機会を与えぬまま連続ヒットした。
「ぐっ、ぐわあぁぁぁっ!」
 攻撃を受けたゼルギスの体が弾け飛び、周囲に光を撒き散らした。
 その眩しさに、全員が目をつぶる。



「ん…うーん…」
 トリーシャは、目をこすりながら『ベッド』から起き上がる。
「あれぇ?……なーんだ。夢だったのぉ?」
 残念そうにそうつぶやいた彼女は、一つの大きなあくびと共に一階の居間に向かう。
 そこには、珍しくリカルドがいた。
「あ、おはよ。お父さん」
「おはよう、トリーシャ。今日はずいぶんゆっくりしているな」
「そういうお父さんも。自警団のお仕事は?」
「今日は日曜日だからな。久しぶりに休暇を取らせてもらった」
「ふーん。そうなんだ」
 そんな応対を済ませ、トリーシャの目が時計に向けられる。針は、十二時をさしていた。
「え〜、もうお昼じゃないかぁ…お昼?」
 自分の発した言葉に、不完全に覚醒していた頭脳がやっと本格始動し始める。
「あー!今日はシオンさん達とピクニックに行く約束してたんだ!」
 そう叫ぶと同時に、トリーシャは自室に飛んで帰っていつもの服装に着替え、また居間に戻ってくる。
 この間、5分弱。
「それじゃあ、いってきまーす」
「ああ。気をつけてな」
 飛び出してゆくトリーシャを見送って、リカルドが優しく声を掛ける。

 トリーシャは知るはずも無かった。
 今から数ヵ月後、あの夢を完全に忘れるころにフォシルに始めて出会うことを。

<FIN>


☆あとがき☆

作者:な、長かった…あ、ども、デジデジでございます。
アス:今回のお題は、アサシンさん原案の、アス&リュートが異世界で活躍するお話でしたね。
作者:ええ。書き出しの頃は前後編になるかな、と思っていたんですけど。
アス:途中で書きたい事がいっぱい出てきて溢れかえって来たため上中下に。
作者:それでも足りなくって、全部で四編。私的には気に入った作品となったのですが、いかがでしたでしょうか。
アス:最後の部分は、なぜトリーシャさんなのですか?原案では、『それぞれが夢の形で覚えており…』となっていたはずですが。
作者:うーん…実は、全員その後を書いていると、それだけでページ8枚(大体一編分位)になっちゃうんですよ。なにせ9人も居ますから。
 ですから、ここは代表として始めにアス君と合流したトリーシャさんに閉めてもらいました。
アス:なるほど。
作者:アス君もお疲れ様でした。リュートさんにも伝えておいて下さいね。
アス:ええ、分かってます。
作者:と言う事で、この辺りで失礼させていただきます。皆様、ここまで読んでいただきありがとうございました。
アス:では、また何処かの作品で。

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