<スクープを追い求め>


  悠久学園の職員室に、二人の生徒と一人の教師だけが居る。
  教師の名はバーシア・デュセル。彼女は、自分の席に座っている。
  生徒の名は、高等部2−Bのリッド・ランフォードと大学1回生理学部のフォシル・ラーハルト。彼らは、バーシアの前に並んで立たされていた。
バーシア「二人とも、何故呼び出されたのか分かっているわね?」
  普段の彼女からは想像できないほどに険しい表情で聞くバーシアに、フォシルが返答する。
フォシル「悪いんは俺や。煽ったのも俺やし、実行したのも俺。コイツは手伝っただけやで」
リッド「な、何言い出すんだよフォシル!元はといえばアレはアイツが原因じゃないか!」
フォシル「じゃかしい。黙っとれ!」
  抗議するリッドを怒鳴りつけ、フォシルはバーシアに向き直った。
フォシル「っちゅーわけや。コイツは関係ないから帰してやってくれへんか?バーシア先生」
  バーシアは大きくため息をついて、面倒くさそうに首を振った。
バーシア「全く。あんた等もうちょっと後の事を考えて行動しなよ。電話を受けたのがアタシじゃなくハメットだったらどんなことになってたか分かったもんじゃないわよ」
  それだけ言って、バーシアは職員室入り口を指差した。
バーシア「ハイ、厳重注意終わり。さあ、帰った帰った」
  その態度は、既にいつもの彼女に戻っていた。
フォシル「ああ。感謝するわ、先生。ほなな」
リッド「失礼しました」
  フォシルとリッドが外に出ると、一人の女生徒が待っていた。
  レナ・ルーベック。高等部3−D所属の元気な少女である。が…
レナ「あ。リッド、フォシル先輩…ごめんなさい」
  いまのレナはいつもの彼女からは結びつかないほどに落ち込んだ声だった。
フォシル「んなに謝んなって。まるでアンタが悪いように感じるやろ?」
  気楽に言うフォシルの声で少し表情を和らげたレナだったが、続くリッドの言葉でまた沈みかける。
リッド「毎回そうだろうが。大抵、レナがいらねえ事に首突っ込むからこうなるんだろう?」
レナ「そう…だよね。ごめんね」
  何故、こんな状況なのかというと……


  事の起りは、今から一週間前の祝日。レナが新聞部のネタ探しを街中で行っていた時である。
レナ「さってー。スクープは転がってないかなぁ〜」
  上機嫌で歩くレナの首からは、小型のデジカメが一台ぶら下がっている。
レナ「あら?」
  ふと、彼女の目に何かが留まった。
  とある5階建てのビルの下に集まった、人だかりの山。
  そのビルを伝っていった視線の先には、屋上のフェンスに捕まって、今にも飛び降りそうな人が一人。
レナ「あら。まるで飛び降り自殺ね」
  いや、まるっきりそうだと思うが。
  まあ、そんなことはさておき、彼女はそのビルの裏口に回りこんでいった。一体、何をする気なのだろうか?

  屋上までたどり着いたレナの前では、数人の大人が説得を試みているところだった。
男A「な、そんなことは止めろよカツオ。死んでも何も解決しやしないんだぞ」
カツオ「うるさい!俺は、俺はもう生きる意味なんて無いんだー!」
男B「そ、そんな事言うなよ。な、帰ろうぜ」
カツオ「来るな!近づいたら飛び降りるぞ!」
  そんな光景を半眼で眺めていた彼女は、普通に歩くスピードで自殺志望者に近づいていった。
男A「あ、こら!近づいちゃだめだ!」
男B「…ん?誰だ、あの子?」
男A「え?…そう言えば…誰だ?」
  男たちの会話を無視して、レナはカツオさんとやらに話し掛ける。
レナ「ねえ、そんなに死にたいんなら押してあげましょうか?簡単に落ちるわよ」
カツオ「なっ…!」
レナ「そうねぇ。痛みは無いわ。途中で意識を失うから。ま、下手をすれば追突寸前に意識戻っちゃったりして。そしたら痛いわねぇ〜」
  そんな事をさも楽しそうに話すレナに、屋上にいた全員が動きを止めている。
レナ「ほら。近づいたら落ちるんでしょう?落ちないの?」
カツオ「く、来るなぁ……」
  笑顔で近づいてくるレナを目にして、カツオさんは完全に怯えていた。
レナ「ほぉーら。指を一本一本外していってね」
  そう言いながら、レナは本気でフェンスを握る手を離していく。
カツオ「ひ……」
  恐怖で何も考えられていなさそうなカツオさんの指が、全部離れた。
レナ「フッフッフッフ………バァーン!」
カツオ「ぎゃっ!」
  いきなりの大声に驚いたカツオさんの体が後ろに傾く。
  何の支えも無くなったカツオさんの体が、宙に放り出された。
カツオ「あ…」
男A&B『カツオっ!』
  慌てて男たちが駆け寄るが、間に合わなかった。
  そのまま、カツオさんの体は一階部分まで落ちて行き……
  いつの間にか用意されていたマットに沈んだ。
レナ「どう?飛び降りた感想は。面白い顔ありがとうねぇ〜」
  マットの上で目を回しているカツオさんにデジカメを振って見せて、レナは意気揚々とその場を後にした。

  その後もネタ探しに奔走していた彼女は、気がつけば埠頭のあたりまで来ていた。
レナ「んー、暗くなってきたわね。そろそろ潮時かしら?」
  そう呟いた彼女の視線に、またしても何かが引っかかった。
レナ「!…あれは……」
  慌てて物陰に隠れた先には、暴走族らしきガラの悪そうな男たちが多数集まっていた。
  彼らが輪を作っている内側には、サラリーマン風の背広男が数人。腰を抜かして座り込んでいる。
レナ「今時、親父狩り?…時代遅れねぇ」
  そう呟いたレナは、そこから携帯を取り出してとある人に電話をかけようとした。
  が、
見張り「おい。姉ちゃん。何やってるんだよ」
レナ「え…?」
  声のしたほうを振り返ると、暴走族の下っ端であると思われる男が数人、こちらを見下ろしていた。
レナ「やば…」

  その頃のリッドはというと…
由羅「ねえねえリッド君。次は何処に連れてってくれるの?」
リッド「知るか。行き先はフォシルに任せてる」
フォシル「まあそうとんがんな、リッド」
  何故か由羅を連れてフォシルの車に乗っていたりする。
  実は、最近免許を取ったフォシルが学内の誰かを連れまわしてみたいと考えていたところに、彼らが映ったのである。
リッド「…んな理由で初心者の運転する車に乗せられるなんてな、ハハハ…」
  嫌なら断れば良かったものを…
  と、そんな状況のリッドの携帯が音を立てて光りだした。
リッド「…なんだ、レナ」
レナ『あ、リッドー。やほー。今ね、私第三埠頭のDブロック204に居るんだけどさぁ』
  唐突にそんな事を言ってくるレナに、また取材手伝いだと予想したリッドが断ろうと口を開いた。
レナ『目の前で親父狩りしようとしてる暴走族がいてさぁ。警察に電話しようと思ったら見つかっちゃってね。今逃げてるの』
  口を開いたリッドの、今度は目も大きく見開かれる。
フォシル「ん?どないしたんやリッド?」
  ルームミラーでリッドの顔を見たフォシルは、怪訝そうな顔で訊ねる。
レナ『ねぇー、リッドぉ。助けに来てぇ〜』
  助けて。その言葉で、リッドの時が動き出した。
リッド「分かった。できるだけ動かずにそこにいろ。今からすぐに行く!」
  携帯を切ったリッドは、フォシルに向かって叫んだ。
リッド「フォシル!第三埠頭に向かってくれ!レナが暴走族に追いかけられてるらしいんだ!」
由羅「ええっ!レナちゃんが?」
フォシル「分かった。かっ飛ばすぞ」
  驚く由羅とは対照的に冷静に呟いたフォシルは、唐突に車を反転させる。
フォシル「っしゃ行けー!」
由羅「おー!ゴーゴー!」
リッド「って言うか交通規則は守ってくれー!」
  リッドの絶叫を残して、車は豪快に逆走を始めた。

  その頃、レナは…
族A「くそっ、散々てこずらせやがって!」
レナ「痛い痛い、痛いってばー!」
族B「うるさい!おとなしくしやがれ!」
  とうとう、暴走族に捕まってしまていった。
  暴走族員A&Bに連行される形で、少し年かさの男の前に引き出されるレナ。
族A「リーダー!さっきからちょこまかしてた怪しい女を捕まえやした!」
リーダー「お嬢さん。さっきから何をしてるのかなぁ?俺達、目障りで仕方なかったんだけどさ」
  少しねちっこい口調で喋るリーダーらしき男の後ろでは、先ほどの背広たちがボコボコに殴られて転がっていた。
レナ「うわ…」
  今更ながら状況を理解したレナが焦ったように呟くと、リーダーが嬉しそうな声を上げる。
リーダー「ああそうか。お嬢さんはあのオッサンのお仲間に入れて欲しかったんだな。だったら早く言ってくれれば良かったのにさ」
レナ「だっ、誰もそんなこと頼んでません!」
  レナに叫ばれてムッとした表情を見せたリーダーだったが、すぐに笑みを浮かべて族員に命令した。
リーダー「まあいい。せいぜい騒いでくれよお嬢さん。…お前ら、好きにしろ」
  リーダーの声に、全員が一斉に動こうとした時、
声「てめーら!いい加減にしろよ!」
  大声と共に、誰かが走ってきた。
族D「ん?…な、ぐはっ!」
  一番近場にいた族を蹴り倒し、走ってきた男が名乗りをあげる。
リッド「俺のいとこに手を出すようなクソ外道は、このリッド・ランフォード様がぶっ殺してやる!」
リーダー「誰だか知らんが、お前にはこれが見えねえようだな。ん?」
  リーダーは、レナを片手で抱え上げてナイフを取り出した。
リッド「あっ、てめー!きたねえぞ!」
リーダー「うるせぇ。ケンカに汚いも何もあるか!お前ら、やっちまえ」
族『おう!』
  族たちが、一斉にリッドに押し寄せた瞬間、
声・パート2「まったく。なんも考えんと突っ込んでいくからこうなるんやで?」
  唐突に、背後からした声にリーダーが振り向いた。
リーダー「なっ…お、お前は!」
  驚いた表情のリーダーを、現れた男がいきなり殴り倒す。
  その拍子に開放されたレナは、フォシルの後ろに隠れた。
フォシル「へっ、ちょっと見ない間に、ずいぶん偉くなったな。トオル」
リーダー「くっ…なぜお前がここに居るフォシル!」
  起き上がったリーダーの挙げた名前に、周囲の族たちにざわめきが走る。
フォシル「俺は何処にでも来てやるで。可愛い後輩をいじめるような奴の前には、な!」
  手加減なしに再度殴り倒されたリーダーは、そのまま気絶してしまった。
族C「げっ、リ、リーダー!」
フォシル「どうした?お前らは来ねえのか?」
  周囲を見渡して聞くフォシルに、族は一斉に逃げ出した。
  気絶した人員を数名背負って。
フォシル「おー。ええ逃げっぷりやなあいつら」
  それを楽しそうに見送ったフォシルは、背後のレナに話し掛けた。
フォシル「大丈夫か、レナ?」
レナ「は、はい…ありがとうございました」
  そこに、少し離れた位置に立っていたリッドもやってくる。
リッド「おい、レナ。こういう危険なことに首を突っ込むのは止めろ。さもなくば、新聞部を潰せ!」
レナ「ちょっとリッド!そんな言い方は無いんじゃない?私はただ、あのオジサン達を助けたかっただけで…」
  反論しようとしたレナの言葉を最後まで聞かず、リッドが叩きつけるように言った。
リッド「結局、お前も危ないとこだったじゃねぇか!」
レナ「そ、そうだけど……」
  なんだか重くなった雰囲気の中で、フォシルがボソッとつぶやいた。
フォシル「ま、つまりアレやな。リッドはレナが心配なだけなんやな」
レナ「そう…なの?」
リッド「ああ、そうだよ。何か文句でもあるのか?」
  少し憮然とした表情で肯定するリッドに、レナが頭を下げた。
レナ「リッド、心配かけてごめんなさい。それと、助けに来てくれてありがとう」
リッド「な、何だよ。そんなに改まるなよな。それにフォシルも来てくれたから助かったんだぜ?」
  赤面しながらそう返したリッドに、レナはうれしそうな笑みを向け、フォシルの方に向いた。
レナ「フォシル先輩、助けてくれてありがとうございました」
フォシル「いや、なに。俺はただ後輩の頼みを聞いてやっただけやからな」


  こうして、この事件は終わりを迎えた。ハズであったが、リーダーがとある良家のボンボンだったらしく、学園に苦情の電話が来て、それをバーシアが受けたらしい。
  ここで、冒頭に繋がるわけだ。
フォシル「ま、これに懲りたらあまり危ないことに首を突っ込まんようにな。レナ」
レナ「はい。そうします」
リッド「よし!じゃあ今から何か食べに行くか?」
フォシル「せやな。どうせやったらもう2〜3人誘うか?」
リッド「それも良いかもな。レナ、お前も来るだろう?」
レナ「ええ、もちろん!」
  こうして、やっと一つの事件が幕を閉じた。

  それから数週間後に、レナがまた大騒動に巻き込まれるが、それはまた、別のお話。


<あとがき>

作者:はい、にいたかさんリクエスト第二段、「リッドとレナのSSパート2」、いかがでしたでしょうか。
 今回は、勝手に一年後(私のところでは組曲3)の出来事、とさせていただきました。
リッド:前回と極端な差があるな。
レナ:前回の書いてた時は半分潰れてたわよね。
作者:って言うか、前回がお笑い傾向が強かったので今回はシリアスを、と思いまして。
リッド:それでこうなった訳か。そーいえば、この前「他の人のオリキャラは、ギャグバージョンの方が扱いやすい」って言ってたな。
作者:ええ。少なくとも、私は。
 一度も動かしたことの無いキャラクターは、まだ頭の中でイメージングが終わってないんですよね。ですから、少々設定を誇大解釈してもいいキャグバージョンの方が書きやすいんですよ。
リッド:なるほどね。分かるような分からんような…だな。
レナ:あ、そうだ作者さん。今回のSSで、言っておかないといけない事があったんじゃないですか?
作者:あ、そうでした。「今回のSSは、オリジナルキャラクターしか出てきません。よって、悠久らしさがでていませんがご了承ください」ですね。
レナ:どうして出さなかったの?
作者:なんとなく。……いや、そこでキックの体勢取らないで下さい、レナさん。
 正直に話すと、書き始めたときからどうなるのか全然予想がつかなかったんですよね。
レナ:だから、悠久キャラは出しにくかった、と?
作者:そんなところです。
 さて、そんな訳で。今回のSSは、いかがでしたでしょうか?出来れば、ご意見・ご感想をお送りください。では。
3人で:さよーならー!

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