マリアン・テイル



「もー、どこに言ったのよアイツは!今日こそうんって言わせてやるんだから!」
  エンフィールドの町を、1人の少女が歩いている。
  彼女の名前は、マリア・ショート。この町きってのトラブルメーカーである。
  さて。彼女が何に怒っているのかというと…
「あっ!はっけーん!」
  説明しようとしたが、どうやら目標人物を見つけてしまったようだ。

マリア「ねえねえ、ちょっと!」
テイル「はい?…あ、マリアさん」
  呼び止められた青年は、振り向きざま露骨に顔をしかめている。
  彼の名前は、テイル・ムーンライト。細めの碧眼と長い銀髪が特徴的な人物である。
  マリアは、テイルに詰め寄って指を突きつける。
マリア「テイル!今日こそ教えてもらうからね!」
テイル「いや…そんなこと言われてもですね。私自身が使っている訳じゃないんですってば」
レム「そーそー。実際使ってるのは俺なんだぜ」
  困った表情のテイルの肩に乗っかった、小さい影もマリアに喋りかけている。
マリア「五月蝿いわね。マリアは今テイルに頼んでるの!レムは黙ってって」
レム「なんだとぉ!このくそガキが!」
テイル「ま、まあまあレム。落ち着きなさいって」
  額に青筋を立てて怒っているレムと呼ばれた小人を、テイルがなだめる。
レム「大体なー、精霊の使う魔法をおいそれと人間が使えるわけないだろうが」
  そう。先ほど彼を小人、と言ったがそれは正しくない。彼は精霊なのだ。
マリア「そんなの、やってみなくちゃ分からないでしょう?シオンだってきっとそう言うよ!」
  シオンとは、マリアやテイルが臨時で働いているジョートショップという何でも屋に居付いている居候の事である。
  因みにローラの流した情報によれば、彼はマリアかトリーシャと一緒にいる事が多いらしい。
  マリアお得意の「やれば出来る」論に、テイルは苦笑で返した。
テイル「まあ、シオンさんはマリアさんに対して甘いですからね」
レム「そうそう。なんなら、アイツから教えてもらえばいいじゃんかよ。人間のわりには、魔法もソコソコ得意なんだろ?シオンって」
マリア「そ、それは…」
  確かにそれも考えなかったわけではなかった彼女だが、とある理由によりシオンには相談できなかったのである。
マリア「出来ないもん。マリア、最近シオンに嫌われちゃってるから…」
テイル「マリアさん?」
  いきなり落ち込んだマリアの顔を覗きこんだテイルの目に、何か光るものが見えた。
テイル「シオンさんとの間に、何かあったんですか?」
マリア「う、うん。実は……」
  そこからのマリアの話を要約するとこんな感じになる。
  いつもマリアの魔法実験に付き合っては成功しないマリアを怒っているシオンだったが、大概の場合次の日には許してくれる。
  しかし、その時は違ったらしい。いくらマリアが謝っても頑として首を縦に振らず、なおかつ『これ以上失敗したらもう付き合ってやらん!』と言われたらしい。
レム「なるほど。とうとう堪忍袋の緒が切れたって事か」
テイル「レム。黙って」
  軽口を叩くレムをテイルが制している。その前で、マリアはまだ目に涙を浮かべてうつむいている。
マリア「しかもね、最近マリアの方見ると顔をそらすんだよ。
 それに、最近はトリーシャとよく出かけてるみたいだし。
 ローラも言ってたよ。色んなところで買い物をしている二人を見ると、どこから見ても恋人同士だって」
  その言葉に、テイルは眼を細めた。トリーシャ。彼女の顔が、頭に鮮明に浮かんでくる。
  彼女が、シオンと付き合っている…何故だか、テイルの心にそのフレーズがひっかっかっていた。
マリア「もう、マリアの事なんかどうでも良いんだよ、きっと」
  その様子を見ていたテイルは、いかにも仕方なく、といった感じを装って言った。
テイル「仕方ないですね。私でよければお手伝いしますよ」
マリア「本当?」
  嬉しそうに顔を上げたマリアだったが、そこにレムが待ったをかける。
レム「おいおいテイル。魔法を使うのはこの俺だぞ。勝手に決めるなよ!」
マリア「じゃあ…やっぱり、駄目なの?」
  上目遣いに見上げるマリアに、テイルは軽く首を振る。
テイル「一度言ったことを取り下げるつもりはありません。ですが、私は自分では魔法を唱える事が出来ませんからね。誰か、手伝ってくれそうな人を探しましょう。それで良いですね?」
マリア「うん★ありがとうテイル!」

  そんなこんなで場所は自警団事務所に移る。
  事務所の今は使われていない倉庫の壁一面に、テイルがなにやら呪文字を書き込んでいっている。
フィン「なあ、テイル。君の知識を疑っているわけじゃないけど、本当に大丈夫なのか?」
レム「大丈夫だって。アイツの結界は凄いからな。なんせ、魔力を注ぎ込むのが俺様だから」
フィン「まあ、それなら良いんだが…」
  さて。何故ここに来たかと言うと…
フィン「マリアの魔法の実験に自警団事務所を使わせろとは、また無茶なことを頼んできたな」
マリア「ごめんね、フィン」
  …また、説明を取られてしまった。
レム「おう。俺様の魔法で結界を張れば、中でどんなに魔法を使おうとも被害が出ることは無いぜ」
マリア「じゃあ、思いっきり魔法の練習できるのね?」
レム「そういうことだな」
  そんな事を言っていると、額に汗を浮かせたテイルがやってきた。
テイル「ふう。これで結界の準備は整いました。レム、魔法をお願いします」
レム「おう。任せとけ」
  目を閉じてなにやら呟いたレムの力から魔力の流れが走り、部屋の呪文字が淡く光を放ちだした。
レム「よし。マリア、思いっきり魔法の練習をしろ。俺とテイルは横で見ておいてやるさ」
フィン「じゃあ、はじめるか」
マリア「うん。お願いします!」

  それから数時間後。
フィン「よし。これで物理魔法の基礎は終わりだ。大分さまになってきたな」
マリア「本当?」
フィン「ああ。じゃあやってみてくれ」
マリア「うん!えーい、ルーンバレット!」
 (ひゅるるる…ぽす)
  マリアの手から飛び出した炎の玉が、壁に当たってはじける。
テイル「さすがマリアさんですね。数時間練習しただけで一番苦手な物理魔法の基礎をマスターできるなんて」
レム「でも、まだまだ威力は無いけどな」
  横にあるベンチ(テイルが他の部屋から勝手に持って来た物だ)に腰掛けて、テイルとレムが話している。
フィン「次は一つ上の魔法だな」
マリア「アイシクルスピアね?」
フィン「そうだ。マリア、やってみてくれ」
マリア「うん!…アイシクルスピア!」
 (ぽちゃん)
  マリアの手から、一滴の水が床に落ちる。
マリア「あ、あれ?」
フィン「落ち着いて、集中してみるんだ。こんな風にな。…アイシクルスピア!」
 (ぷす)
  しかし、フィンの手からは何も生まれなかった。
フィン「あれ?おかしいな…」
テイル「魔法力が底をつきかけているんじゃないですか?」
フィン「いや、そう言うわけでもないと思うんだけど」
  右手を見て不思議そうにしているフィンにテイルが話し掛けているとき、
 (ばん!)
アルベルト「おいフィン、出動だ!」
  倉庫の扉を開けて、アルベルトが入ってきて慌てた声で言う。
フィン「出動?何があったんだよ、アル」
アルベルト「郊外に魔物の大群が現れた。今、ジョートショップの奴らにも連絡を入れておいた。テイル、マリア。お前らも来てくれ」
テイル「分かりました。行きましょう、レム」
  それを聞いたテイルは、既に刀に手をかけて立ち上がっていた。
フィン「よし。行くぞ、みんな!」
  フィンの声で現場に向かおうとしたが、マリアだけがその場を動こうとしなかった。
テイル「マリアさん?」
マリア「駄目だよ…マリア、行けない」
テイル「…それは、現場にシオンさんが来ているからですか?」
  こちらを覗き込むテイルに、マリアはコクリとうなずいた。
  そんなマリアの前に膝をつき、うつむいた彼女の目を正面から見るようにしてテイルが続ける。
テイル「マリアさん。あなたが魔法を習いたかったと思ったきっかけは何ですか?」
マリア「…魔法が、何でも出来て格好良いと思ったからだよ」
テイル「でしょうね。…でも、今は、何故魔法を習おうとしているんですか?」
マリア「えっ?」
  テイルの言葉の意図がわからず、マリアの顔に疑問符が浮かんだ。
テイル「誰かの役に立ちたい、だから魔法を習うんだって、以前言っていたじゃないですか」
マリア「う、うん…」
  またうつむいてしまったマリアに、テイルは言葉を続ける。
テイル「今、あなたが役に立ちたいと思っている人が危険な仕事に向かっているんですよ。あなたは何もしないで見ているだけで良いのですか?」
  その言葉を聞き、マリアがゆっくりと顔を上げる。
マリア「そうだよね。ここで悩んでてもマリアの魔法が役に立たないものね。マリア、行くよ」
  そう言って、マリアは外に駆け出していった。
  それを見送ったテイルが駆け出すと、部屋の外で待っていたレムが頭に乗ってきた。
レム「なんか、マリアの奴に偉そうに言ってたみたいだけど、人の事言えるのかテイル?」
テイル「なんのことですか?」
  レムの方をちらっと見ただけでまた視線を前に戻したテイルに、レムが話し掛ける。
レム「お前、トリーシャがシオンと付き合ってるって聞いたとき、本気で嫉妬してただろ?」
  その言葉に一瞬こけそうになったが、テイルは表面上は平然と返した。
テイル「……さあ?私には分からないですね」
レム「ま、別にいいけどな俺は」

  テイルが現場に到着した時、まさにそこは戦場の様相を呈していた。
リカルド「第一部隊はそのまま魔物の討伐を続けろ!
 第三部隊は町の防衛に専念するんだ!」
  第一部隊隊長でもあるリカルドの指示により、魔物は町に近づくことが出来ないでいる。
テイル「それでも、この数だといずれ突破されるかもしれませんね…」
  テイルはシオンやマリアを見つけて合流する。
シオン「テイル!お前どこに行ってたんだよ」
テイル「すみませんシオンさん。ちょっと野暮用で」
  シオンに一言謝って、テイルは腰の刀”夕凪”を抜き、魔物たちに構える。
テイル「あなたたちに恨みがあるわけではありませんが、この町を護るためです」
シオン「二手に分かれよう。リサ、エル、アレフ、ピート、クリスはここから東側を、俺とテイル、パティ、シーラ、マリアで前を叩くぞ!」
一同『了解!』

  それから数時間後。ようやく魔物を追い払ったジョートショップの面々は、日の当たる丘公園に集まって談笑している。
ピート「もーあの時のクリスの顔といったら…」
クリス「もう!その話はしないでって言ったでしょうピート君!アレフ君からも何とか言ってよ!」
アレフ「ああ。確かにあのクリスの反応は面白かったな」
  そんなこんなでめいめいが話しているとき、芝生に座るシオンの横に誰かの影が落ちた。
シオン「ん?…ああ。マリアか」
  そちらを見上げたシオンは、しごく普通にマリアの名前を言った。
マリア「ね、ねえシオン。この前の事、許して…」
  マリアが誤ろうとした時、シオンが立ち上がってマリアの頭に手を置いた。
シオン「もう、あの時の事は言うなよ。…俺も悪かったんだしな」
マリア「シオン……じゃあ、許してくれるの?」
シオン「まあな。…あ、そうだ。マリア、左手出してみろよ」
マリア「え?…うん」
  マリアが差し出した左手を取り、シオンが何かを彼女の指に通す。
マリア「えっ?これって…」
  驚いた表情のマリアの指には、シンプルながらも美しい指輪がはめられていた。
シオン「お前、明日誕生日だろう?
 本当は俺一人で選びたかったんだが、指輪の事なんて良く分からなかったからな。トリーシャに手伝ってもらって決めたんだ」
  シオンは、顔を赤くしながら、わざとぶっきらぼうに言った。
マリア「ありがとうシオン!マリア、シオンの事大好きだよ!」
シオン「ああ。俺もだよ」
  抱きつくマリアに、軽く受け止めるシオン。そんな彼らを優しい目で見ていたテイルは、こちらに近づいてくる人物に軽く手を振った。
  それに気がついたらしく、その人物がまっすぐにテイルに向かってきた。
トリーシャ「テイルくーん!」
テイル「やあ、トリーシャ。どうしました?」
トリーシャ「『どうしました?』じゃないよ。もー!」
  のんきな対応をするテイルに対して、トリーシャは何か怒っているように見える。
トリーシャ「学校が終わってからジョートショップに遊びに行ったら、アリサおばさんに魔物退治に行ったって聞いたから、心配してたんだよ」
テイル「心配…私を?」
  意外そうな顔のテイルに、トリーシャはさらに怒ったように聞いてくる。
トリーシャ「何だよー。ボクが心配したら可笑しいって言うの?」
  その様子がどう見ても照れ隠しをしているとしか思えなかったので、テイルは嬉しそうに言った。
テイル「そんなことありませんよ。心配してくれてありがとうございますトリーシャ」
トリーシャ「さあ、もう帰ろう?」
テイル「そうですね…それじゃあ皆さん、私は先に失礼させていただきます」
  そう言ってみんなの方を向いたテイルに、笑みの形をした4対の眼が向けられていた。
アレフ「いやー、おあついねお二人さん」
パティ「途中でリカルドおじ様に見つからないようにね」
マリア「テイル、アンタも結構やるじゃないの」
シオン「明日の仕事には出てきてくれよ、テイル」
  その他の人も、その向こうで笑いながらこちらを見ている。
テイル「ハ、ハハハハ……」
  ひとしきりから笑いを上げたテイルは、トリーシャの手を握って走り出した。
テイル「それじゃあ皆さん。また明日にでも〜」
トリーシャ「ちょ、ちょっとテイル君!あんまり引っ張らないでよ!」
  公園からとてつもない速さで遠ざかっていくテイルとトリーシャを見ながら、レムが呟いた。
レム「あいつ…俺様を置いて行きやがったな」
  まあ、何はともあれ。エンフィールドに平和な日常が帰ってきたのであった。


あとがき!

作者:と言うことで、リクエストに頂いたテイル君のお話が完成しました!ゲストはもちろん、テイル・ムーンライトさんです!
テイル:どうも。…ところでデジデジさん。
作者:何でしょうか?
テイル:この台本って、半分はマリアさんが主体じゃないんですか?
作者:う…そこを突かれると…痛いですね。じゃあ。ボロが出ないうちに終わりましょう。それでは。
テイル:あの、まだ聞きたい事があるんですけど…聞いてくれます?
作者:わ、分かった。聞く、聞きますから腰の月影に手を添えないで下さい〜!
テイル:では。まず最初に題名についてですが。これはやはり『マリア&テイル』でしょうか?
作者:そうです。その通りなんですよねこれが。なかなか良い名前が思いつかなくって。
テイル:なるほど、じゃあ次に…レムの出番が少ないですね。動かしきれていなかったのでは?
作者:は、はうぅ〜ごめんなさいです。テイルさんとレムさんは書きなれないものでまだまだ未熟でごんす〜!
 これから、もっと書いていってメインキャラとして動かせるくらいになりたいと考えているんですけどね。
テイル:そうなんですか。じゃあ、もう私から言うことは特にありませんね。
作者:で、では。今度こそ。
作者&テイル:さようなら〜。

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