<Stand up Half moon!>




 私は目を覚ました。周囲を見まわすと、目に入ってくるのは緑でまとめ上げられた部屋の様子。いつも寝起きしている、私の部屋。
「む〜〜〜」
 頭を軽く掻きながら、ベッドから降りようと蠢き──
「・・・・・・・・・え?」
 手に当たったものに、硬直した。
 ベッドの中にある手に触れるのは、暖かい『何か』。
『何か』は、まるで呼吸でもしているかの様にゆったりと揺れている。
 恐る恐る、私は掛け布団をめくってみる。そこには───(汗
「すー・・・すー・・・」
 見知らぬ少年、しかも犬の耳がついた少年が眠っていた。



 洗面所に立った私は、昨日の出来事を思い出してみた。昨日は、ゼミ主催の新人コンパだったはずだ。飲み慣れない場所で、飲み慣れないタイプのアルコールを飲んだことは認める。認めるけど…
「おーい。水出たまんまやで、有美」
「!!」
 背中から掛かった声に、私は滑稽なほど大げさな動き付きで振り返った。そこに居たのは、先程の少年ではない。
「? どないしたんや?」
 そこに立っていたのは、私の兄。
「もー。驚かさないでよみっちゃん」
 わたしの声に、みっちゃんが顔をしかめた。
「あのなぁ。前から言うとるやろうが。その『みっちゃん』はやめぃ」
「だって、国光って硬いじゃん?」
 私の反論に、みっちゃんこと『国光』兄さんは平然とこう言った。
「有美がええんなら、オレんことは『お兄様』とでも…」
「呼ばん!」
「なんや連れないな〜」
「呼ばないって言ったら呼ばないの!じゃあね」
 戯言をのたまう兄貴を無視し、私は自分の部屋に戻った。
 扉を開け、
「あ、おはようお姉ちゃん」
 また閉めた。
 今度は、ゆっくり開けてみる。
「…何してるの?お姉ちゃん」
 ゆっくり見た所で、ベッドの上からこちらを見ている少年が消える訳ではなかった。
 金色の、月のように輝く瞳。スカイブルーの光沢を保った、綺麗な短髪。
「………あんた、誰?」
 私の率直な疑問に、少年は頬を赤らめて視線を逸らした。
「ヤだなぁ。昨日はあんなに激しい事までしたのに」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 寺島有美、20才。どこにでも居る平凡な女子大生。ですが神様、私は何時の間に、こんないたいけな少年に手を出していたのでしょうか?
 アルコールに流されたとは言え、私はなんて大罪を・・・・・・

「な〜んて、冗談だよ。ビックリした?」
 少年は、咲き誇る花の様に明るい笑みを浮かべた。
「…ふふっ」
 私はその表情に笑みを返し、ゆっくりと室内に入っていって少年の前に立つ。
「あ、まだ自己紹介がまだだっ…」
  ──ガツン──
 私は、有無を言わさず少年の頭を殴りたおした。


「ひどいよ〜。いきなり殴るなんてさ」
「うっさい黙れ。乙女の純情をたぶらかしおってからに」
 頭を押さえてぶーたれる少年を睨みつけて、私はもう一度疑問を口にした。
「それで、あんた誰な訳? なんで、私のベッドの中に入ってたのよ?」
「それは、ボクがお姉ちゃんの体の恋人──」
「ほほぉ?」
「ああっ!う、ウソウソ!!ホントのこと言う!言うからそれは勘弁!!」
 ちっ。私はあからさまに舌打ちして鉄製ハンマーを机の上に置いた。
「あのね、ボクは……」


「…はぁ」
  ──ゴン──
「い…ったーい!ホントのこと言ったのにどうして殴るの!?」
「こんなの、信じられると思う?普通に考えて」
「だって…事実なんだから仕方ないじゃん」
 不機嫌極まりない私の前で、少年が耳をしゅんとさせて反論する。
「む〜…」
 とりあえず、少年の言った事を整理してみようと思う。
『この少年は"自立型汎用戦闘アンドロイドRCA−00010獣人タイプ"だそうだ』
 こっからして妖しさ大爆発。
『遠い未来では、宇宙人の侵入を防ぐ為に大きな戦争が起こっているらしい』
『その未来で、人間側の最終兵器とも言える少年達を作り上げたのが、私の子孫だそうだ』
『そして、その技術を作らせ無い為に、宇宙人側が過去の私を殺してしまおうと刺客を送った』
『それを察知した地球軍は、それに対抗する為に少年を私の時代に転送させた』
 …この話の、どこを信じろと?

「な…そうなんや!」
 信じてるしこの男はぁ!?
 判断に迷った私は、とりあえずみっちゃんに意見を求めてみた。それに対する第一声がこれだ。
「ちょっとみっちゃん!信じてるのこんな事?」
「せやかてやなぁ…」
 みっちゃんは顔をしかめて、少年を見た。
「こんないたいけな少年が、そこまで大きなホラ吹いてまで愛しい女性のとこに夜這いに来てんで。信じたらなかわいそうやろうが」
「………(怒)」
  ──スパカーン──
「さて、それじゃあとりあえずは信じてあげるわ」
「いや、あのお兄ちゃんが…」
「ともかく!」
 私は頭から床にめり込んでいるバカを無視して、少年の手を取った。
「まずは警察に行きましょうね〜」
「…それって信じてないんじゃないの?」
「はいはい。いーからいーから」
 少年の手を取って玄関まで来て、ふと少年の格好を見た。
 薄いブルーのTシャツに、灰色がかった白い短パン。白のニーソックスに、黒いスニーカー。
 で、犬の耳と尻尾。
「…目立つわね。特に耳と尻尾。取っちゃいなさいよ」
「だ、だから取れないんだってば!これは元から付いているんだからさ。何度も言ったでしょ?」
「はいはい。とりあえず…これかぶっておきなさい」
 玄関に置いたままだったみっちゃんのキャスケットを強引に被らせ、玄関を出た。

 今日は日曜日だ。住宅街になっているこの場所を、昼時に歩いている人は少ない。みんな、家族でどこかに出かけたりしているんだろう。
「ねえ、お姉ちゃん」
「何?少年」
 私の手を振り解くことも無く大人しく付いて来ていた少年の問いに、私は明るく返した。
「お姉ちゃんの家、お父さんとお母さんは?」
「あー……居ないわ」
「そうなの?」
 驚いた様子の少年に、私は苦笑を見せて言った。
「父さんは私が3才の時に車の事故で他界、母さんは子供二人を一人で育てる事に嫌気が差して私が6才の時に家出。今はみっちゃん…兄さんと二人っきりだよ」
「そう、なんだ。……ボクと似てるね」
「え?」
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声に、私の耳は反応した。
「あなたのお父さんやお母さんは?」
「ボクの親は…」
 少年は、少し遠い目をして呟いた。
「顔も見た事が無いんだ。ラボの人たちは、ボクをモノ扱いしかしてくれなくて、唯一優しくしてくれたのが、メカニックのおねーさんだけだったんだ」
「少年…」
 少年の発言はともかく、親がいない事は本当だろう。表情に、みっちゃんが時々見せる寂しさと同じものがよぎったから。…多分、私も同じ表情をしている事があるんだと思う。
「…ねえ、お姉ちゃん。まだ、ボクのこと信じてくれない?」
「未来から来たって事はね。でも、あんたが独りぼっちだって事は解ったわ」
 少年の問いにそう返すと、少年は顔を僅かに緊張させた。
「出来れば、こう言う事態になる前に信じて欲しかったんだけど…」
「ほえ?」
 首をかしげる私は突然翳った太陽に疑問を感じて上を仰ぎ見た。そこには…
『フシュウウウウウウ・・・・・・』
 蒸気を噴き出さんばかりに変な音を立てる、2階建ての家よりも大きなムカデの姿があった。
「お姉ちゃん、下がってて」
 少年はそう言って、そのムカデに走っていった。
 一跳躍でムカデの顔面まで飛びあがり…
「ライトニングネイル!」
 雷光を伴う爪で、ムカデを三枚に下ろした。
 それと同時に、消えていくムカデ。
「…ふぅ」
 少年は一息をついて、背後の私を振り返った。
「お姉ちゃんが信じようと信じまいと、命を狙われている事は事実なんだ。だから、ボクはお姉ちゃんを守りに来たんだし」

 …さすがに、今のを見せられては信じざるを得なかった。

 そして、私は目的地を変更した。
「さ、少年。好きな服選んで」
「で、でも…」
 服屋の中で、少年は戸惑った様に周囲を見回した。
「バイト代入ったばっかりだからお金は気にしないで良いわよ。これから一緒に暮らすんだから、服ぐらい揃えておかなきゃ」
「いや、だから…」
「あっ!これなんて良いんじゃない?ねえねえ少年、着てみてよ」
 私の差し出した服を見て、少年の顔が歪む。
「だから、なんで女の子の服なの?」
「キミが可愛いから、こういう服装が似合うかな〜、と」
 私は、手に持ったピンクのフリヒラドレスを少年に渡した。
「ま、一着くらいこういうのを持ってても良いでしょ?」
「要らないと思…」
  ──ガン──
「お姉ちゃんの言う事が聞けないのかしら〜?」
「…あい。ありがたく戴きます(涙)」
「よろしい」
 私は嬉しさのあまり涙する少年の頭を、優しく撫でてやった。


「…って訳だから。これから少年も一緒に暮らす。OK?」
「おう。家族が増える事は嬉しい限りやしな。オレは大賛成や。しっかし…」
 家に帰って来た私の意見を聞いて、みっちゃんは軽く苦笑を浮かべた。
「なんかターミネーターみたいやな」
「ター…?何それ」
「未来から来た少年が、主人公を狙う未来の機械と戦う、20世紀にあった映画や」
「ふーん」
 そう言えば、みっちゃんは昔の映画とかに詳しいんだっけ。
「それで、少年。お前の名前は?」
「名前?ボクは"RC…"」
「ルーナだよ」
 少年の声を遮って、私が答えた。
「月みたいに綺麗な透き通った目をしているから、ルーナ」
 驚いていた少年は、やがて大きく頷いた。
「うん!ボクはルーナ。この名前、気に入ったよ♪」

 こうして、寺島家に新しい住人が出来た。寺島ルーナ。私の弟で、ボディーガード。不思議な関係だけど、上手くやって行けると思う。だって、ルーナはすっごく素直で可愛いから。

〜to be continued?〜


<楽屋裏>

作:えー、まずは最初に。大空へさん、サイト開設1周年おめでとうございます。
有美:おめでとうございます〜。
作:そして、性懲りも無く続きそうで読み切りのお話でゴメンナサイ。
国光:続かんのか!?
作:えーと。どうしてこんなお話にしたかといいますと…。
ルーナ:作者さんが少年を書いてみたくなったから、だよね?
作:う…
有美:しかも、またもや内容とは殆ど関係無い題名だし。
作:ぐはっ!
国光:つまり…行き当りばったり、やな?
作:ははっ。どうせそうですよ…(涙)
有美:ま、それはそれとして。ルーナは何時までこっちに居るの?
ルーナ:ずっとだよ。お姉ちゃんが寂しがらないように、ずっと…。
有美:ルーナ…良い子ね〜(なでなで)
ルーナ:えへへ(照)
国光:……結末は二人の結婚でハッピーエンドか?
有美:あら、それも良いかもね♪
ルーナ:そ、それは無いよぉ(汗汗)
有美:あら、顔真っ赤にしちゃって。可愛いわね〜ルーナは。
ルーナ:…もしかして、二人してボクをからかってる?
有&国:もちろん♪


作:さて、そんなこんなでいかがでしたでしょうか?
ルーナ:最後にもう一度。
  大空へさん、開設1周年おめでとうございます。これからも頑張って下さいね。
作:それでは、また…。飼い猫でした。


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