<月夜に響く奇跡の光>
運命の出逢い



  0.
 ここはリィンバウムの聖王都ゼラム、召喚師集団『蒼の派閥』本部の一室。
 夜の闇が周囲を支配するそんな時刻に、廊下を歩く1人の青年がいた。
 綺麗な銀色の長髪に緑色の瞳をし、黒を基調とした動きやすいローブに身を包んでいる。
 彼は一つの室内に入り、中で待つ人物に声をかけた。
「蒼の派閥召喚師見習い、テイル・ムーンライト。只今参りました」

 

これは、将来リィンバウムを旅することとなる、とある青年の物語である。



「テイル、よく来たな。今日の試験に見事合格すれば、晴れて一人前の召喚師を名乗ることが出来る。応援しているぞ」
「はい、師範!」
 テイルは師範の声に敬礼で答え、彼の前に移動する。
「まず、ここに用意したサモナイト石でお前を手助けしてくれる護衛獣を召喚するのだ」
「……」
 5色のサモナイト石が並ぶ中、テイルは赤いサモナイト石を手に取った。
「むぅ…シルターン、か。しかし、テイル。お前に一番相性の良いのはサプレスでは無かったか?」
 師範の言葉の通り、テイルの最も得意とする属性は霊属性・サプレスである。
 しかし、テイルは静かに答えた。
「確かに、これまでの経験から行くと私はサプレスの召喚獣との相性は最高のようです。ですが、だからこそシルターンの住人に私の扱えない属性をサポートをして欲しいんです」
 赤い光を右手に構え、テイルは静かに目を閉じた。
「テイルよ。分かっておるであろうが、一度失敗すると試験は次回まで待たねばならんぞ?」
 師範の彼を気遣う言葉に静かにうなずいて、テイルは目を開き、声を解き放った。
「古き地の流れと気高き血の流れの元に、ここに新たな誓約を望む
 我が名を糧に、望むは異界の強き意志」
 テイルの声が響き渡り、それに伴って彼の手にある赤い光が一層強力に周囲を染め上げる。
 その光を目を細めて眺め、テイルは次の言葉を口にした。
「月夜に響きしムーンライト家の名において、テイルが命じる
 呼びかけに応えよ、異界の朋友(とも)よ!」
 さらに強く響くテイルの声に導かれるように光が集約していき、天を貫く1本の赤い道を作り出した。
 やがて、その光の道を通って、テイルの護衛獣となるべき存在が降臨した。
「な…!」「まさか…」
 しかし、その人物を見て、テイルも師範も呆然とした表情になった。
 その人物は、パジャマ姿の1人の少女だったのだ。
 光の柱の中、茶色の短い髪を揺らしながら地面に降り立つと同時に赤い光も消え、少女が閉じていた瞳を開く。
「………」
 少しの間周囲を見まわしていた少女は、テイルの姿を見つけて声をかけてきた。
「あれ?あにぃ……ここ、何処?」
「え?…あっ!」
 少女の声で我に返ったテイルは、自分でも可笑しくなるほど引きつった声を一度上げてから、少しは落ち着いた様子で説明し始めた。
「あ、えと…ここはリィンバウムです。シルターンの力を借りるために私があなたを召喚したのです。私の名前は、テイル・ムーンライトと言います」
「りぃん…ばうむ?…しるたーん……?」
 どうやら向こうの世界で先ほどまで寝ていたらしく、少女はいまいちはっきりとしない表情で何かを考えていたようですが…
「あ、あの…お分かりになられますか?出来れば、あなたのお名前をお教え頂きたいんですけど」
 そう言いながらテイルが近づくと、急に少女がテイルにもたれかかってきた。
「えっ…ちょ……!」
 少女の体を受け止めてうろたえているテイルに、少女の規則正しい息遣いが聞こえてきた。
 その平和そうな寝息を黙って聞いていたが、テイルは苦笑を浮かべて少女を抱きかかえた。
「師範、召喚の儀式はどうやら失敗のようです。とりあえず、彼女を何処かで休ませますので、今晩はこれで失礼させていただきます」
「う…うむ。致し方あるまいな。送還の儀式は今晩執り行うこととなるであろうから、それまでにその娘に説明しておくのじゃぞ」
「はい、承知しています師範。それでは」
 少女の体を傾けないように気を付けながら一礼をして、テイルは部屋を出て自室へと向かった。



 次の日の朝。テイルは首の痛みを感じて頭を起こした。
 彼は誤って召喚してしまった少女に自分のベッドを譲り、自分は横に置かれた椅子で一夜を過ごしたのだ。
(そうだ、あの子は?)
 完全に覚醒したテイルがベッドの方を見ると、上体を起こした少女が丁度こちらを向く所だった。
「やあ、目がさめたかい?」
 少女が自分を凝視していることに気づいたテイルは、軽く右手を上げて挨拶をした。


「…あれ?…えーと…」
 半分眠ったままの頭で周囲を見渡し、少女は昨晩の夢を思い出していた。
(あにぃにそっくりで銀髪の人がいて、もう1人男の人がいた夢だったような…)
 少女の顔が、その人物で止まる。
「あ…あにぃ?」
(違う。この人銀髪だもん。…じゃあ、まだ夢の中?)
 小さく呟いた声が聞こえたのか、その人はこちらに軽く手を上げて挨拶してきた。
「やあ、目がさめたかい?」
「え?…あ、うん。何とか」
 少女が慌ててベッドから下りると、テイルも彼女に近づいてきた。
「昨晩は済まないことをしてしまったね。何も知らないのに呼び出してしまって」
「…呼び出す?誰を?それと…ここは何処なの?」
 怪訝そうな表情をする少女を見て、テイルはようやく彼女の立場を理解した。
(そうか、リィンバウムから説明した方が良いかな?)
 そう考えたテイルは、ひとまずベッドを指差した。
「とりあえず、説明するからそこにでも腰掛けてくれないかな?」
「…うん」
 少女にそう言って、自分は先ほどまで座っていた椅子を引っ張って少女と向かい合った。
「まずは、自己紹介しておこうかな。私はテイル・ムーンライト。この世界で召喚師見習いをしているんだ」
「あ、ボクは衛だよ」


 互いの名前を確認して、テイルは衛に説明を開始した。
 リィンバウムのこと、召喚師のこと、護衛獣のこと、昨晩の召喚失敗のこと。
 そして、元の世界に送り戻す送還の儀式の用意には夜まで待たなければいけないことなどを。


「それじゃあ、ボクが呼ばれちゃったせいでその儀式が失敗しちゃったんだね」
「いや、そう言うわけじゃないんだ。あれが失敗したのは、私の未熟さゆえ、衛さんのせいじゃないよ」
 テイルのその言葉で、衛が少し難しそうな顔になった。
「んー…ボクの事は、『衛』で良いよ。その代わり、テイルさんの事をあにぃって呼ばせて欲しいんだけど」
 衛としては、元の世界での自分の兄と同じ顔をした人物から『衛さん』などと呼ばれるのはどうも落ち着かないのだ。
「あ、あにぃ…ですか?」
「うん、そう。テイルさんボクのあにぃと同じ顔してるから、敬語なんか使われるとヘンな気分なんだもん」
「!…そう、なんですか」
 何だかためらっているようだったテイルは、やがて笑顔でうなずいた。
「分かりました。送還の儀式が整うまでの時間ですけど、よろしくね、衛」
「うん!よろしく、あにぃ!」


 それから1時間ほどして、場所は商店街の洋服売り場。
『せっかくここに来て1日過ごすんだし、ずっとパジャマっていうのはちょっと…』
 と言うことで、ここへ来たのだが…
「衛、これなんてどうかな?」
「どれ?…えー、あにぃキツいよそれ」
 テイルの持ってきた服を見て、衛はちょっと顔をしかめた。
「そ、そうかな?似合うと思うけど」
 多少残念そうにしながらも、ハンガーを戻すテイル。
 …まあ、作者的にも羽根付き天使装束は少しイメージが違うだろうとも思うのだが。


 結局、店を出てきたときの衛の格好は、卵色のホットパンツにオレンジのTシャツ、その上から薄手の白いロングコートといった動きやすい格好だった。
「んー。やっぱりこう言う格好の方がボクって感じするよね、あにぃ?」
「そうだね。元気な衛にはとても良く似合っているよ」
「えへへ。あにぃにそう言ってもらえたら凄く嬉しいな」
 心から嬉しそうに笑う衛を見て、テイルの顔にも自然と笑顔が浮かんでくる。
「それじゃあ、ここらで一番美味しい軽食屋さんを紹介しましょうか」
「ホント?ボクもちょっとお腹空いちゃって…」
「そっか。それじゃ、行こうか?衛」
「うん!」
 商店街の真ん中を衛と手を繋いで歩くテイル。そんな彼は、向かいから来る人物に気づいて声をかけた。
「あ、パッフェルさんおはようございます」
「はい?…あらら、テイルさんじゃないですか。はい、おはようございます」
 ウェイトレス姿をしたパッフェルは、手に下げていた籠を持ち直してから挨拶を返し、テイルの横に立つ衛に目を移した。
「あら、可愛い娘さんとご一緒ですね。もしかしてテイルさんのカノジョ?」
「ちっ、違いますよ!」
 パッフェルの質問で顔を真っ赤にして、テイルが事情を説明する。
「はーなるほど。じゃあ衛さんは異世界の方なんですね?」
「うん。そうみたい」
「そうなんですかー」
 1人で何やらうなずいていたパッフェルは、唐突に衛に尋ねてきた。
「衛さん、リィンバウムの印象はどうですか?」
「え?…うん、好きだよ。住んでる人の表情がとっても明るいし、それにあにぃが居るもん」
「衛…」
 衛の言葉に、テイルは何だか感動を覚え、言葉に詰まってしまっている。
 その様子を楽しそうな表情で眺めていたパッフェルだったが、「それじゃ、邪魔者は退散いたしますね」と言って走り去っていった。


 その後二人は王都中を歩き回って様々な場所を見物していき、刻はあっという間に走り去っていった。



 天空に無数の星が瞬く頃、派閥の一室に3人の姿がある。
「もう良いのじゃな?テイル」
「はい。私の準備は出来ています」
 神妙な表情で問うた師範に、テイルは静かにうなずいて見せた。
 衛も、彼の横で真剣な表情になっている。
「では、送還の儀式を執り行う。異界より来たりし少女よ、こちらへ」
「あ、はい」
 師範に手招きされ、衛は地面に描かれた六亡星の魔法陣の中央に立った。
 それを見届けて、テイルが詠唱の為に衛の正面に移動して目を閉じる。
「異界よりの来訪者よ。汝の存在は此方にあるべからず、本来あるべき地を思い浮かべよ
 我が名を求めて現れ出でしそなたの意志を、今自由の元に解き放たん」
 テイルの声に応じて魔法陣から光があふれ出て、天空を示す光の帯となる。
 光の中に不安げに立つ衛に、テイルは優しい笑顔を向けた。
「月夜の召喚師一族ムーンライト家の名において、テイルが命じる
 衛、1日と言う短い時間だったけど、楽しかったよ」
「うん。ボクも楽しかった」
 笑顔を返してくれた衛に小さくうなずいて、最後の言葉を口にする。
「我が願うは、汝の健やかなる生。異界へと戻りし朋友、衛よ、さ…」
 さらば、と言おうとしたテイルは一度口を閉じ、再度開いた。
「衛、またね」
「うん。またね、テイルあにぃ」
 笑顔のままで、衛の姿が光の中に消えていった。
「・・・・・・」
 テイルは彼女が消えていった空間を眺め、少し寂しい表情になる。
「テイル。辛いな」
「いえ。…正直、ちょっと寂しく感じています」
 師匠の言葉を否定しようとしたテイルだが、やはり無理のようだった。
「そうか。あの姿は、私も驚いたからな」
「…ええ、そうですね」
 衛には一言も言わなかったが、彼女の姿はテイルの妹にそっくりだったのだ。
「ティアラ…」
 小さい頃、天使にあこがれていたティアラ・ムーンライト。
 生まれつき体の弱かった少女は、幼くしてその命を天に返すこととなってしまった。
「今でも、ティアラが生きていてくれたら…そう願わないときはありませんから」
「……」
 かける言葉が見つからずに沈黙を守っていた師匠に、テイルの声が聞こえた。
「もしかすると…」
「ん?」
 師匠が短く問うと、テイルは少し恥ずかしそうに頭を掻きながら続けた。
「いえ…もしかすると、衛は私の為にエルゴが遣わされた天使だったのかな、と」
「成る程…そうかもしれんな」


 こうして、異界の少女は本来の場所に戻って行き、テイルは改めて行った召喚の儀式で正式な召喚師と認められた。
 この先、彼らが再開することは無いのかもしれない。それでも、お互いの胸の中にこの日の出来事が鮮やかに残っていることを祈って。

 

―Fin―
 


<あとがき>

作者:ごめんなさい、テイルさん。
テイル(注:作品中のテイル君です):いきなり謝っていますけど…まあ、謝りたい気持ちは分からないでもないですね。
作者:あぅ…。テイルさんへのお祝いで送った作品は、全て微妙に暴走しちゃってますから。
テイル:加えて、原作を知らないと付いて来れないことが多い、と。
作者:はい。今回はサモ○ナ○ト&妹姫さんですね。
 しかも、SNの方はゲーム本編とは90%以上関係ありませんしね(苦笑)
テイル:まあ、両者ともある程度有名ですし…大丈夫でしょう。
作者:ええ。コンセプトはプレゼント先の管理人さんに分かる物を、ですから。
テイル:…本当に、そんなコンセプトで大丈夫なんですか?
作者:大丈夫ですよ。…多分。
 さて、何はともあれ今回は10000ヒットオーバーおめでとうございます!
テイル:毎度毎度ご迷惑をお掛けしますが、どうかこれからもよろしくお願いいたします。
作者:それでは、今回はこの辺りで。
テイル:さようなら〜

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