<メイトルパの朝>
〜とある日のレシィ君〜



 ここは幻獣界メイトルパ。大自然の中にいくつもの集落が散在する、緑の楽園です。
 ここには、亜人と呼ばれる様々な姿をした人たちが暮らしています。
 今回は、その亜人たちの住む集落の一つ、比較的大きな集落でのお話です。



「レシィ様、レシィ様!」
 一人の青髪の青年が、大きな庭を見渡しながら大声を張り上げています。
 オオカミの亜人、オルフルの青年です。
 その声に呼ばれたように、一人の少年が家の裏手から走ってきました。
「呼びましたか?リック先生」
 その少年は緑の髪をしており、頭に角が折れた痕が見受けられます。
 その少年を前に、リック先生と呼ばれた青年はため息をつきました。
「レシィ様、またレビット達の手伝いですか?」
「うん。だって、モナティさんたちが忙しそうだったから…」
 レシィは裏庭の方を気にしながら返答しました。
 そんな彼の前にしゃがみ、目線を合わせたリックが話し掛けようとしましたが、丁度裏庭から少女が2人、こちらにやって来ました。
「あ、リックさんですの〜」
「こんにちは、リック様」
 少女たちに声をかけられ、リックも慌てて立ち上がりました。
「やあ、モナティにリィナこんにちは」
「はい、こんにちはですのー」
 元気よく返事を返してきたのは背の低い少女で、その横で比較的背の高い少女が微笑んでいます。
 彼女たちはレビットと呼ばれる種族で、争いごとよりも平穏な暮らしを好む種族です。その点では戦闘種族でもあるオルフルのリックとは馬が合わない…と思われていまいがちですが、どうやらそう簡単にはいかないようです。
「先ほどレシィ様をお呼びになっていたのは、やっぱりリック様でしたのね」
「はい。今から訓練があることを、すっかり忘れちゃってて」
 おっとりしたリィナの言葉に頭をかきながら返し、レシィはリックに向き直りました。
「それじゃ、リック先生。先に広場に行っています」
「え、ええ。私もすぐに参りますので」
 そのままレシィが走り去ると、モナティもリィナに話し掛けました。
「それじゃ、お姉ちゃん。モナティは帰ってお夕飯の準備をしますの。遅くならないうちに帰ってきてくださいね」
「あら、それなら私も手伝いますのに…」
 リィナの言葉を最後まで聞かず、モナティも別の方向に走っていってしまいました。そこに残されたのはリックとリィナだけで、リックはなんだか焦っているように見えます。
 因みに、リィナは先ほどと変わらない笑顔を浮かべたままポワワンとしています。
「あ、あの…」
 やがて、何か意を決したリックが口を開こうとした時、新たな人物が現れました。
「おにいちゃーん!」
 その人物は、自分の声と競争しているかのような速さでリックに向かって突進してきました。
「おわっ!」
 真横から体当たりをかまされたリックは一瞬倒れそうになりましたが、すぐに体勢を整えてその少女に声をかけました。
「どうしたんだユエル。また、何かあったのか?」
 走ってきた少女は、ユエル。リックの妹です。
「あのね、また喧嘩なの!クアさんとエルカが!」
「またか…仕方ない、広場だね?」
「うん!早く早く!」
 ユエルに引きずられながら、リックはリィナに向き直りました。
「すみません。用事が出来ましたからまた後ほど」
「はい。お気をつけ下さいね」
 リィナは変わらない笑顔で彼らを見送った後、
「さて。早く帰らないとモナティに怒られてしまいますね」
 そう言いながらモナティと同じ方向に歩いていきました。



 ここは集落の中央に位置する広場。そこに、今は三人の姿があります。
 広場の真ん中でただひたすらにおろおろしているレシィと、彼の前で対峙する2つの影。
 一人はレシィよりもやや低いくらいの身長の、赤髪の少女。彼女の頭には羊の角のようなそれがあり、メトラル族であることを示しています。
 この集落のまとめ役、族長の娘のエルカです。
 もう一人は、先ほどのリックよりも長身の女性です。上半身を青いライトメイルでつつみ、右手には身長ほどもある槍を持っていて、下半身は魚のようになっています。彼女は水中での活動を主とする女性だけの戦士集団ローレライの一員であるようです。
 名前を、クア=ローレライと言います。
「もう一度言ってごらんよ。その命が惜しくなければね」
 クアの低い声に、エルカの高い声が返ってきました。
「何度でも言ってやるわよ。たかがローレライごときが、このメトラルの次期族長を馬鹿にするなんて身分違いも甚だしい、そう言ったのよ!もう忘れちゃったの?」
「…たかがガキのくせに、口だけは達者のようね。お嬢ちゃん」
 壮絶な笑み、そんな形容詞が当てはまるような顔で、クアが槍を構えます。
「上等じゃない。エルカの実力、思い知らせてやるんだから!」
 エルカも拳を固め、腰を低くして構えます。
「あ…あの、お、お2人とも…け、ケンカはよくないですよぉ……」
 その横でレシィがそう言ってはいますが、声が小さすぎ聞こえていないようです。
 やがて、どちらからとも無く一歩を踏み出そうとした時。
「おやめなさい、2人とも!」
 広場に飛んで来たリックを目にして、エルカの動きが一瞬鈍りました。
 そのスキをついてクアが槍を繰り出します。
「危ない!」
 リックはさらに走る速度を上げますが、エルカの目前に迫る槍には追いつけそうもありません。
 エルカも回避しようと動きましたが、間合いが近すぎて絶望的な状態でした。
 槍が彼女の腹部に突き刺さる瞬間――
  (ッキィン!)
 甲高い音を立てて、槍が中央からへし折れました。
「な…!」
 慌てた動作で只の棒と化した槍を引き寄せて間合いを離し、その人物を見やるクア。その表情は驚愕そのものでした。
 エルカも見開いたままで硬直した目をその人物に向けました。
「クアさん、もう…こんな事はやめてください!こんな事で争ったって意味ないですよ!」
 極度の恐怖に耐えながら震える声でそう言って、レシィは左手に握った穂先を投げ捨てました。
「…ちっ。今日のところは引いてやるわ」
 忌々しそうにそう吐き捨て、クアはエルカに目をやりました。
「よかったわね、お嬢ちゃん。このナイト様が居なかったら今ごろ天国行きよ」
「な…ッ!」
 クアのさげすむような言葉に怒って飛びかかろうとしたエルカでしたが、その前にやっと到着したリックに羽交い絞めにされてしまいました。
「落ち着いてくださいエルカ様!」
「放して!放しなさいよこの無礼者!」
 なんとか逃れようともがくエルカですが、リックはびくともしませんでした。
 そのままジタバタしているエルカから目をそらし、クアはレシィを睨みつけます。
「レシィ、今度会ったらただじゃおかないからね。覚悟しておきな」
「……」
 レシィは言葉を発することなくクアを睨みつけています。
 そんな彼に気圧されたのか、クアは足早に広場を後にしました。
「おにいちゃーん!」
 ちょうどそれを待っていたかのタイミングで、ユエルが広場に走ってきました。
 彼女の背後には数人の大人も見受けられます。どうやら、援護を呼んできたらしいのですが…
「あれ?もう終わっちゃった?」
 広場に彼らだけしか居ない事に、ユエルはつまらなさそうに口を尖らせました。
「そんな残念そうな顔をするものじゃないぞ、ユエル。…皆さん、どうもお騒がせしました。ですが、何とか事無きを得たようです。お集まり頂きありがとうございました」
 リックが頭を下げると、集まってきていた大人たちは「いいってことよ」「困った時はお互い様さ」などと言葉をかけながら解散していきました。
 それを見届け、リックがエルカを地面に降ろすと、彼女はすぐさまリックに食って掛かりました。
「どうしてあんなみっともない止め方したのよ!?」
「え?いえ…しかしあの場合ああでもしないとエルカ様が…」
 言い返そうとするリックを無視して、つかみかかるようにエルカが言葉を続けます。
「あんたが邪魔しなけりゃ、クアにとどめさせたんだからね!分かってるの?」
「エルカ!おにいちゃんを悪く言わないでよ!」
 リックとエルカの間に割って入り、ユエルは手を大きく広げました。
「ユエル、よくわかんないけどレシィに助けてもらったんでしょ?だったら先にレシィにありがとうって言わないと」
 ユエルの言葉にチラッとレシィを見てみるエルカでしたが、レシィはクアの去っていった方を向いたまま微動だにしません。
 その事に少々安心しながらも、エルカは苦虫を噛み潰したような顔で言い返しました。
「どうしてエルカが礼を言わなくちゃならないのよ!リックが止めなかったらエルカに隙なんて出来なかったんだもん」
 反省の色全然なしのエルカにユエルがさらに突っかかろうとしましたが、リックに肩をつかまれて思いとどまったようです。
「確かに、私がエルカ様とレシィ様を危険にさらしてしまった事には違いありません。申し訳ありませんでしたエルカ様」
「…ふ、ふん。分かればいいのよ」
 内心では自分が悪い事を自覚していたエルカは、なんとも居心地の悪い表情のままリックの言葉に頷きました。
 彼女の心境を理解しているのか、リックは微笑んだだけで何も言いませんでしたが。
「そして、レシィ様。エルカ様をお助けいただきありがとうございました」
 リックが頭を下げましたが、レシィはむこうを向いたまま動こうとはしませんでした。
「今後は、もっと早く到着できるようにいたしますので…レシィ様?」
 彼の反応が来ない事を不審に思ったリックが顔を上げると、ユエルがレシィに走りよるところでした。
「レシィ、どうしたの?」
 ユエルがレシィの肩に触れると同時に。
 (バタン)
 レシィが仰向けに地面に転がりました。
「レッ、レシィ!」
「レシィ様!」
 皆が慌てて彼に駆け寄りましたが、レシィは…
「は、はにゃぁぁぁぁ……」
 極度の緊張のためか、完全に目を回して気絶していました。
「…いつから気絶なされてたのでしょうか?」
「多分、穂先を放り投げてクアを睨んだ辺りから、じゃない?」
 誰にとも無く聞いたリックの問いに答えてから、エルカは何かを考える仕草をしました。
「…なんて言うか、こんなマヌケに助けられたエルカの立場って、つい考えちゃうわね」
 レシィを見下ろして呟いたエルカの声に首を縦に振りかけ、リックは直前で踏みとどまりました。

こうして、今日もメイトルパでの一日が幕を開けます

To be continued?


☆あとがきにかえて☆

作者:はい、と言う事でテイルさんのサイト移転祝い&8000ヒットオーバー記念と称しまして、サモンナイト世界でメイトルパのお話を書いてみました。
ユエル:ユエルの出番少ないよ!
モナティ:モナティもですのー!
作者:ま、まあまあ。その代わりオリジナルキャラが出場しましたしお許しくださいな。
ルシード:今回、見た目だけでリック役を押し付けられたルシード・アトレーだ。
セリーヌ:リィナ役をやらせてもらった、セリーヌ・ホワイトスノゥです。
バーシア:クア役のバーシア・デュセルよ。あー疲れた。
作者:セリーヌさん、ルシードさん、バーシアさん。今回は駆り出しちゃって申し訳ありませんでした。
ルシード:まあ、あんまり気にすんなよ。
バーシア:なんでアタシだけ悪者扱いするかなぁ?
セリーヌ:まあまあ。私もちょい役でしたけど楽しかったと…思いますよ?
作者:セリーヌさん、今の間は何ですか。
レシィ:それこそ気にしちゃ駄目ですよ。
作者:そうかなぁ?
レシィ:さて、今回はデジデジさんの文章にお付き合いいただきありがとうございました。これからもテイルさん共々デジデジをよろしくお願いしますね。
エルカ:それじゃ、みんな!
全員で:さようならー。

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