OPERETTA EXTRACTION



 ふとしたきっかけから旅に出ることとなったテイルとレムとフォシル。彼らは最初の町で新しい仲間と出会った。
  このお話は、そんな彼らの外伝である。



 旅仲間が4人になった日から2日。彼らは始まりの町『ジャーニータウン』を出発……していなかった。
「あ〜。ヒマやぁ〜」
 宿屋『カントリーホーム』の一室、ベッドの上で色黒のエルフの少年が愚痴っている。
「くそー。何かやることないんか?なあ、テイル」
 そう言葉を投げかけた先には、椅子に座って本を読む銀髪の少年、テイル=ムーンライトの姿があった。
「静かにしてください、フォシルさん。私、読書の邪魔をされることは好きじゃないんですよ?」
 テイルは少し面倒そうにそう返し、ベッドの上の少年、フォシル=ラーハルトを見やる。
「それに、動けないのはフォシルさんのせいじゃないですか」
 テイルの目線は、フォシルの右足に向けられている。
「せやかてなぁ。俺だって必死やってんからな」
 フォシルも右足に目線を向けてため息をついた。
「まったく。あれしきのところから飛び降りたくらいで捻挫するなんて。鍛え方が足りないんじゃないですか?フォシルさん」
「いや、っつーか…普通少なくとも足の骨折るで」
 呆れ顔のテイルにフォシルが突っ込んだ時。部屋の扉が開いて新しい人物が入ってきた。
「フォシルさん、ご飯お持ちしましたよ」
「世話が焼けるよなお前は」
 その人物は料理を載せたお盆を持った衛似で濃緑髪の美少女(雅さん談)と、その横に浮かんでいる小人の大きさほどの精霊である。
「おお、いつも悪いなアンリ」
 嬉しそうにお盆を受け取り、早速食事にかかるフォシル。
 そんな彼を見ていたテイルだったが、やがて静かに席を立った。
「それじゃあ、私たちも食べてきましょうか。レム、行きましょう」
「おう!飯だ飯だ〜!」
 テイルの声で精霊のレムが彼の頭に座る。
「アンリさんはどうしますか?」
 先ほどお盆を持ってきた少女、アンリ=アディールに尋ねるテイルだったが、
「あ、わたしはフォシルさんの分を作りながらつまんでたので、もう十分です」
「そうですか。それでは、ここをお願いしますね」
 それだけ会話を交わして部屋を後にした。


 テイルが頭の上にレムを乗せたまま部屋を出て行ってしばらくして、フォシルが食べ終わった。
「ふー。ごちそうさん、アンリ。美味かったで」
「いえ、お粗末さまです」
 受け取ったお盆を隣りの小物置き場に置いたアンリに、フォシルが声をかけた。
「せやけど、いちいち作ってもらわんでもどっかで買ってきてくれるだけで十分やねんけどな」
「でも、フォシルさんが怪我をしちゃったのは、元はといえばわたしの所為なんですから」
 まじめな顔でそう告げるアンリに、フォシルは苦笑で返した。
「いや、まあ…どっちかって言うと、テイルのせいなんやけどな」
 さて。なぜフォシルが捻挫することになってしまったかというと、その起こりは2日前に遡る。



 その日、テイル達はジャーニータウンで一番高い建物を訪れていた。
「ここは、ジャーニータウンのシンボルでもある時計塔だ。この町の創設者が造った塔で、この時計塔をもう一度見る事を目標にして旅立つ旅人も居るくらいらしいぜ」
 昼飯3品追加で情報収集を買って出たレムの案内で、ジャーニータウンを周っているのだ。
「ほー。確かに高いな」
「そうですね。凄いです」
 見上げるフォシルとアンリに、テイルも相槌を打った。
「そうですね。これを建てるのは結構な金額がかかっているようですからね」
「いや、その高いとちゃうから。テイル」
「あ、あはは・・・・・・・」
 手でビシッと音が出るようなポーズでテイルに突っ込んだフォシル。
 アンリは少し辛そうに笑い、テイルとレムは平然とした顔をしている。
「まあ、それはそれとしてだ。上まで登ってみねーか?」
「そうですね。そうしましょう!」
 レムの言葉にアンリは嬉しそうに同意し、フォシルとテイルも軽くうなずいた。


「うわぁ〜!凄い!見てよレムくん!町の端っこまで見渡せるよ!」
「だろ?」
 で、今彼らは時塔の最上階にいる。アンリの言葉どおり、そう小さくは無いジャーニータウンの隅から隅まで見渡せるほどの高さである。
「確かに、ええ眺めやな」
「そうですね。落ち着きます」
 最上階の見晴台になっている場所の柵にしがみついてはしゃいでいるアンリと、彼女の横に浮かんでいるレム。
 フォシルとテイルは少し離れたところで椅子に座っている。
 そのままはしゃいでいるアンリを眺めていたテイルだったが、さて、と声をかけて立ち上がった。
「私は、今の内に道具類を買い込んできます。アンリさんとレムのことお願いしますね」
「あ、それなら俺が行ってくるわ。アンリはともかく、レムの世話はアンタの方が向いとるやろうし。それに値切り交渉は俺の役目やろ?」
 自分も立ち上がり声を掛けたフォシルに、テイルは少し迷った後返した。
「うーん・・・それじゃあ、お願いしましょうか」
「おう。買って来なあかんもんは・・・普通の用意やな?」
「ええ、お願いします。……っと、そうだ。フォシルさん、これを」
 その場を離れようとしたフォシルは、振り返ってテイルが差し出した小さな箱を見つめた。
「何や?これ」
 受け取ったフォシルはしげしげと見てみるが、真ん中辺りに赤白二つのボタンがあり、両端に小さく細い横穴が空いている事がわかった程度だった。
 追記、片方の端っこに金属製の細長い出っ張りがある。
「これはトランシーバと言って、遠くの人と話が出来る機械です」
「機械…また物質大陸か?」
 複雑そうな顔で聞くフォシルに、テイルは一言、そうですよ、と言って同じ物をもう一つ取り出した。
「何かあったら、その赤いボタンを一度押してこうやって喋りかけてください。すぐに私が応対に出ますから。
 私から用事があるときは本体が振動しますので、白いボタンを一度押してから同じように耳に当ててくれればオーケーです」
「はあ…ま、一応分かったわ」
 テイルの説明を怪訝な表情で見ていたフォシルだったが、とりあえず理解した様子で階段を降りていった。

 フォシルが階段を下りていくのを見送っていると、アンリとレムがやって来た。
「あれ?フォシルさんは?」
「まさか、一人で飯食いに行ったのか?」
 焦った様子のレムに、テイルは小さく手を振った。
「違いますよ、フォシルさんは一人で買い物に行ったんです。アンリさんがここの眺めに夢中でしたからね」
「あ、じゃあわたしの所為ですよね。ごめんなさい」
 先ほどまで明るかった顔を曇らせてしまったアンリに、テイルはあわてて言い直した。
「あ、いえ。別にアンリさんが悪いわけでは無いですから。強いて言えば買い物を頼んだ私が悪いんですから」
「でも・・・」
 やはり少し責任を感じているアンリに、レムが声をかける。
「まあいいじゃねぇか。フォシルは放っておいてこの町の観光を楽しもうぜ」
「良いこと言いますね、レム。さ、アンリさん。今からどうします?」
 テイルとレムに聞かれ、アンリの顔にもやっと笑顔が戻ってくる。
「それじゃあ、もうちょっとここに居てもいいですか?」
「よし。決まりだな」
「じゃあ、私はおこでもう少し本を読んでいますね」
 アンリの笑顔に、テイルもレムも笑顔を返した。



「さて。これで終わりやな」
 大きめの紙袋を抱えたフォシルが店から出てきたのは、それから数十分後の事だった。
 少し袋の中をのぞいてみると、薬草の類を中心として武器の手入れのための道具や乾物のような食料などである。
「あいつらは、今何処に居るんやろうな?」
 そう呟いたフォシルは、一度荷物を地面においてトランシーバとか言う機械を取り出した。そして・・・
「・・・・・・で、これってどうやって使うんやったっけ?」
 おいおい。
 そのままその場で考え込んでいたフォシルだったが、
「・・・ま、えっか。とりあえず荷物をカントリーハウスに置いて、時計塔に向かうか」
 荷物を持ち上げて歩みを再開した。
 しかし、荷物を置いて時計塔がはっきりと見える位置まで進んだフォシルの顔が驚きの表情になる。
「な…何だありゃ?」
 フォシルが見上げる先。そこには半分ほどまで炎に包まれた巨大な時計塔があったのだ。
 慌てて足元まで走っていくと、そこには黒山の人だかりが出来ていた。
「おい!何があったんや?」
 近場の見物人の一人を捕まえて訊ねるフォシルに、その男が答えた。
「なんでも、塔の真ん中辺りでボヤがあったらしい。で、燃え広がってこのザマだよ」
「ボヤ…そんでここまで燃え広がってるっちゅう事は、俺が出てすぐ位からか?」
 フォシルがそう呟いたとき、他の住人の声が聞こえた。
「まだ上のほうに二人ほど居るらしいな」
「ああ。他の奴は逃げられたんだけど」
「二人…?まさか!」
 無性に嫌な予感を覚えたフォシルは、人ごみを掻き分けて塔を駆け上がり始めた。


 そのころ、テイルたちは…
「いやー。燃えてますねぇ」
「そうだな。ここまで燃えていると通り抜けるのは無理だろうな」
 時計塔の最上階から下の様子を見下ろし、平然と話している。
「そっ、そんな事を言っている場合じゃないですよ!どうやって降りるんですか?」
 彼らの後ろに立ったアンリは、アタフタと慌てている。
 …というか、彼女の反応が普通の反応だろう。
 そんな彼女に、テイルは落ち着くように手で示した。
「まあまあ、アンリさん。大丈夫ですから」
「で、でもそんな事言ったって…」
 どうしようもなくうろたえているアンリの手を、テイルが唐突に握った。
「それじゃ、レム。行きましょうか」
「よし!」



 そして、フォシルは時計塔の中ほどまでたどり着いていた。内部に螺旋階段が設置されていてそれを駆け上がっているのだが…
 (ブルブル…)
 フォシルのポケットに突っ込んでいたトランシーバが震えだした。
「あ?えーと・・・・・・おお、白いボタンやったかな?」
 トランシーバを取り出して耳に当てると、テイルの声が聞こえてきた。
『フォシルさん、どうしてこんな所に居るんですか?』
「こんなところ?近くにおるんか?」
 塔の内部を見渡すが、人影らしきものは見受けられなかった。では、何処に居るのか?
『フォシルさん、後ろですよ、後ろ』
「後ろ?んなもん、窓しかな・・・い・・・・・・」
 振り返ったその先には。
『どうも』
 窓の外にふよふよと浮遊しているテイルとアンリであった。
 レムはテイルの頭の上に乗っており、テイルは軽い笑顔で、アンリは少し引きつった顔でこちらを見ている。
「な・・・なにしてんねん!」
 つい突っ込みついでに窓を壊してしまったフォシルだったが、この際どうでも良いだろう。
「テイル!なんで浮いてるんや!?」
 窓枠にしがみついて体を乗り出すフォシルに、テイルはさも当然のごとく返した。
「それは、企業秘密ですよ」
「何の企業や!」
 すかさず返すフォシルの耳に、何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
「ま、まさか・・・・・・」
 おそるおそる後ろを振り返ると、そこから大半の床が消え去っていた。
「おや。この分だとすぐに崩れますね」
「そこ!他人事のように言わない!」
 まるで明日の天気でも言うかのような口調で言ったテイルに、フォシルが指を突きつける。
「まあまあ、フォシルさん。頑張ってくださいね」
 そのまま、ゆっくりと降りてゆくテイルたち。
「・・・は?え、ちょ、ちょっとテイル!」
「何ですか?フォシルさん」
 こちらを見上げる形になっているテイルに、フォシルが疑問を投げかける。
「俺は・・・連れてってくれへんのか?」
 その疑問に少しの間首をかしげていたテイルは、やがて笑顔を返した。
「定員オーバーですしもう時間がありませんから。それじゃ、がんばってください」
「テぇ〜イ〜ル〜〜!!」
 力の限り叫ぶフォシルを目にし、アンリがテイルを見上げる。
「テイルさん・・・フォシルさん大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。フォシルさんはああ見えて中々底を見せない人ですからね」
「はあ・・・?」
 テイルの言いたかったことがいまいち分からなかったアンリが首をかしげたとき、ちょうど足の裏に地面の感触が伝わってきた。


「あーんのトサカ頭がぁ〜!」
 塔の中腹に取り残されたフォシルは、今の現状を思い出して怒りを静めた。
「どないすっかなぁ?方法として、無いことも無いんやけど・・・・・・」
 先ほど壊した窓から地面を見渡し、フォシルはなにやら考え込んでしまった。
 数秒で考えをまとめ終え、フォシルはトランシーバを取り出して赤いボタンを押した。
『・・・はいはい。どうしましたか?』
「テイル。今降りた近くにでかい噴水があるやろ?」
 すぐに返ってきたテイルの声に、フォシルもすぐに返した。
『ちょっと待ってくださいね。・・・・・・ええ、ありますね。周囲に結構な人がいます』
 テイルの返答に、見えていないとは知りつつも大きくうなずきながら言葉を発するフォシル。
「ほな、いますぐにそこの人たちを噴水から遠ざけさせてくれへんか?」
『分かりました。一分お待ちください』
 理由も聞かずに了承したテイルの声を聞いて、フォシルは窓の周囲を小烏で切り落とした。
 そうやって大きくした窓を向いたまま、フォシルは無事な距離ぎりぎりであとずさって構える。
 まもなく、
『フォシルさん、良いですよ』
「了解。フォローよろしく」
 返って来たテイルの声にそれだけ答え、フォシルは数メートルの距離を助走板として窓から飛び降りた。

 落下していく最中、フォシルは地上のとある一点のみを凝視している。
(間違いなくアソコに着水できる。あとは・・・インパクト寸前の一瞬や!)

 噴水から数メートル離れたところで見ていたテイルは、飛び降りてきたフォシルが着水する寸前、まるで何か大きな力によって水面が押さえつけられる様をはっきりと捕らえていた。
 その数瞬後。
 (バッシャーン)
 盛大な音を立ててフォシルが着水した。


 この着水時の衝撃があまりにも大きかったため、先に触れていた右足を盛大に痛めてしまったのである。



「ったく。俺が重力制御を出来たからあんなマネできてんねんで。そうでなかったらどないするつもりやったんや?テイル」
 今は近場の飯屋で昼飯を食べている少年に愚痴りながら、フォシルはゴロンと寝転がった。
 アンリは、今食器を洗いに行っている。
「でも、まああのテイルやしな。俺が黙っとっても俺の能力に気づいとったんかもしれんへんな」


 テイルたちがジャーニータウンに到着してから2日。
 滞在は、もう少し伸びそうである。

<おわり>


★あとがき★

デジ:はい、と言う訳で雅さまホームページ開設記念SS、『OPERETTA EXTRACTION』をお送りいたしましたデジデジでございます。
フォ:ここの場所に借り出された、デジデジの持ちキャラ『フォシル』や。
テイル:同じく借り出された、雅さん持ちキャラの『テイル』と、
レム:『レム』さまと、
アンリ:アンリです。

デジ:さて。今回は雅さまのホームページ開設記念と称しまして・・・
レム:ケッ。カウンターがもう700以上回ってるのに開設記念もねーだろうが。
デジ:そこ!口を挟まない!
 ・・・えーまあ、そんなわけでして今回は雅さまが私のHPで連載されている『OPERETTA』というお話の番外編として書いてみました。
テイル:その割には、作品の雰囲気が大分違う気がするのは私だけでしょうかね?
デジ:まあ、あまり突っ込まないで。
フォ:しかも、俺やテイルやレムのことはデジデジのHPか悠久公式ページ見とかんと分からんし、アンリに至ってはデジデジのHPにしかおらんやないか。
デジ:(無視)と、とにかく。とんだ開設記念となってしまいましたが、どうかお受け取りください。
 それでは、さようなら〜。

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