ここはキャル・クレメンツ率いる『クレメンツ武装商船団』旗艦、静かなる貴婦人号。
小さな港に停泊したその船から、1人の少年が降りて来た。

その少年は短くそろえられた黒髪に、黒と見間違うほどの濃さを持ったダークグリーンの瞳をしている。
少年の服装は年齢をうかがわせるように動きやすいラフなものだった。

そして、その左腰には、温和そうな少年の表情には多少場違いな物がぶら下がっていた。
二振りの、黒い鞘に収まった刀。
彼の相棒でもある、『蒼天雷雨』と『妖刀昂露』。

彼の名前は、如月翠。今回の話の主人公となる少年である。

<メルヴェイユを求めて・番外編>
〜物語の合い間に〜

 その日、僕はたまたま立ち寄った小さな港町の武器屋を訪れていた。
 自分で言うのも何だけど、陸に居た頃は刀鍛冶屋に弟子入りしていただけあって、刀を見る目はあるつもりだ。
 だけど…
「うーん…やっぱり無いなぁ……」
 僕は小さくうめきながら店を出てきた。僕の持つ刀に匹敵する業物を探していたんだけど…これほどの物は何処にも見当たらなかった。
 実は、僕の持つ2本の刀は、両方とも自分で見つけた刀じゃないんだ。
 1本は、船上で刀の師匠をして下さっている人に戴いたもの。
 もう1本は、機関士の先輩からフリーマーケットで購入したもの。
 元来負けん気が強い僕は、それに匹敵するだけの刀を自力で探し出したいと思っているんだけど…無いね、やっぱり。


 結局、この町の数少ない武器屋を回ったけど良い品は見当たらなくて、そのまま船に帰る事にした時。
「…あれ?」
 目の前を、あからさまに不自然な二人組みが過ぎ去っていった。
 先を歩くのは、何処か刃物を思わせる鋭い目つきの、背中に大剣を背負った赤装束の男。
 その後ろから、上半身を殆どさらけ出した筋骨隆々の大男が、大きな布袋を抱えて運んでいっている。
 それだけなら『この町に居付く盗賊のアジトか何かに物資を運搬中』なのかと思っただけだったんだけど…
 布袋の端から、綺麗な翡翠色をした髪がはみ出していたんだ。
「これはもしかして…誘拐現場に出くわしちゃったのかな」
 ついつい苦笑を浮かべそうになった僕は無理に真面目な顔を作り、その男達を静かに追いかけた。



 だけど、裏路地に入ってそう経たない内にピンチな状態になってしまった。
「おい小僧、さっきからちょろちょろとウザッテェな」
 先頭を歩いていた男が、突然に立ち止まって振りかえりもせずに声をかけてくる。
 一瞬飛びあがりそうなほどにビックリした僕は、できるだけ平静を装って家の影から路地に歩み出た。
 まあ、尾行なんて得意な訳じゃ無いんだし、すぐにばれるとは思っていたんだけどね。
「あぁ?なんだくそガキ!俺たちに何の用だ?」
 袋を担いでいた大男が、不機嫌そのものといった表情で僕を睨みつけて来た。
「あなたに…というか、あなたたちのしようとしている事に、口を挟みたいんですよ、僕は。誘拐か何かなんじゃいですか?」
「…だったら、どうしようって言うんだ?小僧」
 大男をにらみ返しながら言う僕を、赤い男がはじめて振り返った。
 赤い男の瞳は不機嫌・・・というよりは楽しそうにゆがんでいる。…僕なんて、敵でもないと言わんばかりに。
(まあ、実際そうだろうけど…)
 自分の考えに内心で突っ込んでから、僕は腰の刀に手をかけ、姿勢を幾分屈める。
「僕は、そういうあくどい事は許せない性質なんです。その袋に入っている人を置いて、去ってくれませんか?」
 赤い男は相変わらず楽しそうな表情を浮かべていたが、大男の方がキレたらしい。
「ナマイキ言ってんじゃねぇぞ、このくそガキが!そんなにノされてぇのか!」
 大男は、思いっきり袋を投げ捨てた。…って、袋の中身は人間でしょ?(汗)
 それはともかく、さらに少し腰を下げながら、僕は不適な笑みを浮かべて見せた。
「シャレにならない境界線、越えてみますか?」
「ふざけんな!」
 大男は、その体からは考えられないほどのスピードで僕に殴りかかってくる。
 その大ぶりを屈んで避けた僕は、それまで腰を下げていた分も含めて一気に飛び上がった。
 大男の左肩の上を飛び越える形で背後に回った僕は、すぐに振りかえって刀を1本抜き放った。
  ─ガスッ─
 硬い物を殴った感覚が柄から伝わり、間もなくして地面に着地する。
 それと同時に。後頭部を峰打ちされた大男が地面に沈んだ。
「ひゅ〜。やるじゃねぇか、小僧」
 手を出さずに傍観していた赤い男は、僕に向かって軽く賛辞を述べた。
 それに対し、僕は刀を構え直す。
「すぐに、手を引いて下さいませんか?」
 刀を握る手が汗ばむのを感じながら、僕は赤い男を見据えた。
「…良いだろう。軽く相手をしてやるよ」
 赤い男はそう言って、軽く足を開いた。それだけで、伝わってくるプレッシャーが数倍になったように感じる。
「…ほう。お前は船乗りだな」
「え…」
 言い当てられて少し驚いたけど、確かに一月以上船の上にいたし…分かる人には分かるのかもしれない、そう思い直して一つうなずいて見せた。
「で、名前と所属艦は?」
「…如月翠。クレメンツ商船団に乗せて頂いています」
 今更ながらに力量の差を感じつつ正直に応えた僕に、赤い男は野生の狼を思わせる笑みを浮かべた。
 次の瞬間、赤い男の姿が消えた。
 そう思った直後、僕の腹部に何かが勢い良くめり込んで来たようだ。
「俺はラーヴェイル・ロードス。意識があったら覚えておけよ」
 何が起こったのか分からないまま、世界が暗転した。



 次に目を覚ますと、先ほどの路地裏だった。刀を拾い上げながら周囲を見まわしたけど、あの二人の姿は見えない。
 僕が気を失っている内に立ち去ったのだろうか?
 そして…
「あ。」
 地面に放置されたままの布袋を見つけて、僕は慌てて駆け寄った。
 荒く縛られた袋をほどいて見ると、中から現れたのは僕より1つか2つ年上と思われる女の人だった。
 とりあえず猿轡を外し、後ろ手に縛られた腕を解いた。
「大丈夫ですか?意識、ありますか?」
 声を掛けて見るけど、これと言った反応を示してくれない。
「これは、急いだ方が良いのかもしれない」
 その女の人が死んじゃっているんじゃないかなどと思いつつ、僕はその人を抱え上げた。
 幸い、僕でも運べるほどに軽い。そして、触れる腕から暖かさが伝わってくる。
(…とりあえず、病院に運ぼう)
 そう決めた僕は、記憶をたどって島の診療所を目指した。


<お邪魔します・パート2!>

飼い猫:はい、どーも。飼い猫でございます。
翠:飼い猫のキャラクター、如月翠です。
飼い猫:今回のこれは、私のサイトで連載している物の中間のお話に当たるんですけど…掲載許可は下りるでしょうか?
翠:下りなかったらどうするの?
飼い猫:その時は、仕方が無いからあきらめる。
翠:あ、そ。…でも、これを他の人が読んでくれているということは、とりあえず許可が下りたみたいだね。
 管理人のかる様、ありがとうございました。
飼い猫:さて、実はこのお話はここで終わりではなく、もうちょっと続くのですが…後半に続きます。
翠:少しでも楽しみにしてらっしゃる方が居られる限り、飼い猫も頑張りますので。
飼い猫:と言う事で、近い内にお会いできる事を祈って。
翠:波のかけらの導きのままに…。

<後編へ>

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