<平凡な一日?>


 毎日、同じ時間だけが過ぎていく。そのことに何の変わりもない。長いやら短いというのは、個人の感覚の違いだ。
 そんな毎日を、一生懸命に生きる。そのことはどれだけ素晴らしく、どれほど難しいことか。
 そのようなことは殆どの人が感じていないだろう。それでいいのだ。気にしなくてもいいことだ。幸せで暮らしていることが一番大切なのだから。
  シープクレストと言う名前の街にある、一軒の酒場なのだが、雰囲気は酒場と定食店の中間のような店。
「更紗、ちょっときておくれ」
「…わかった」
 この店の女将である少々太めの女性が、奥にいた自分の娘を呼びつける。
 女将の前に現われたのは、少々小柄で可愛らしい少女だった。特徴はその耳と控えめなお尻にあるだろう。
 少女には耳とふさふさの尻尾があるのだ。つまり、この少女は希少種族でライシアンの証でもある。
 しかし、女将にはそのようなものはない普通の人間である。実際のところ、この『ミッシュベーゼン』の女将、ジラと更紗は実の親子ではない。わけあって、二人は親子なのだ。だが、二人の愛情の深さは本当の親子以上に深いものがある。
 カウンターを挟んで、二人は互いに顔を合わせる。
「実は、ちょっと頼みたいことがあるんだよ」
「…何、かあさん?」
「悪いんだけど、ちょっと材料を買い忘れてね。それでお使いに出てくれるかい?」
 少々困ったような笑顔を浮かべて、ジラは更紗に用件を伝える。更紗にとって、嫌ではなかった。それでころか、頼られている感覚があって寧ろ嬉しいくらいだ。
「いいよ…何を買ってくればいいの?」
 ほんの少しだけ、更紗は笑顔を浮かべてジラの頼みを受けることを告げる。
「じゃあ、買ってくるものはこの紙に書いてあるから。よろしく頼むよ」
 更紗はジラから青いメモ用紙を受け取ると、買い物リストを確認した。買い忘れたという割にはかなりの量がある。
 ここで更紗は思い出した。今さっきまで自分は食器の片づけをしていた。そして、まだ全部終わってないことに。更紗は悩んだ。
「…まだ、食器の片づけが終わってないけど」
 ポツリと更紗の唇から零れた言葉は、ジラの耳に届き、ジラは優しい笑みを浮かべる。
「それならアタシがやっておくから。更紗は買い物のほうをお願いね」
「…ありがとう、かあさん…いってきます」
 更紗はジラのお言葉に甘え、買い物のほうを優先させた。
「むー、むにゃむにゃぁ」
 カウンターに突っ伏しながら、酒瓶を持って一人の女の人がくだを巻いてました。
 朝からここにいる女性の名前はバーシア。第四捜査室、通称『ブルーフェザー』で働いている。そして、愛煙家で酒豪、よくここに足を運んでくれる常連。
 バーシアは、さっきからずっとこんな感じで寝ていた。そのバーシアを素通りして、更紗は店の入り口をくぐった。
 そんなことが知ろうはずもなく、バーシアは快眠を貪っていた。数分が経過しても、バーシアに変化が一向に見られないので、ジラはバーシアの肩をゆすって起こすことにした。
「ふにゃ?」
「バーシア、いいのかい?更紗はもういっちまったよ」
「…それホント?参ったな〜でも、ま、アイツらが何とかしてくれるわよ」
「楽天的だね。そりゃみんな頼りになるけどさ」
「でしょ〜。だからアタシがへましたって大丈夫ってことよ。でね、もう一杯ついでくんない?」
 ジラの前に空のウィスキーグラスを出す。
「溜まったツケを払ってくれるんならいくらでもつぐんだけどね?」
「あはははは…」
 ミッシュベーゼンにはバーシアの引きつったような乾いた笑い声が、自分の懐を明らかにするべく虚しく響いた。

「あら、更紗ちゃんこんにちは」
「…こんにちは」
 更紗が最初に向かったのはケーキが評判の『クーロンヌ』だった。
「今日はどんなケーキを捜してるの?」
 この店のパテシエであるリーゼは優しく更紗に尋ねる。ここのケーキは殆どがリーゼの作品であり、結構高い人気がある。
「えっと…」
 更紗はもう一度、ジラから貰った青いメモ用紙に眼を移す。

(あれ、何で更紗がいるんだよ。バーシア、またサボったな)
 クーロンヌからは見えない物陰に、目立つ色を基調とした少年が様子を覗っていた。
 その少年はおもむろに通信機を取り出す。
「…あ、ルシード、スクランブルだよ。バーシアのヤツがへましちゃったみたいでさ」
『何っ!?…バーシア、あれほど言っておいたのに』
「どうする?このまま実行する?」
『…そうだな。仕方がない。ビセット、お前はバーシアみたいにへまするんじゃないぞ』
「わかってるって。もう少し信用してよ」
 そこで通信は途絶えた。
「さて、ちょっと面倒だけどやるしかないよね」
 何やら要らないような覚悟を決めて、ビセットは足取りをクーロンヌへと決めた。

「こんにちは、リーゼさんに更紗」
「あら、こんにちは、ビセットくん」
「…こんにちは、ビセット…」
「今日も来てくれるなんて嬉しいわ。それで、今日はどんなケーキにするの?」
「えっと、そうですね…」
 優しく微笑むリーゼさんに、ビセットは焦っているように更紗には見えた。いつもなら絶対にありえない焦り方だった。普段でも焦っているときはあるのだが、それは複雑な感情のせいであって、今回は冷や汗を浮かべるような焦りだった。
「…ビセット、どうしたの?」
「あ、いや、何でもないよ、うん。それよりも更紗こそどうするの?」
 端から見ればすぐにバレそうな話の変え方だったが、更紗もリーゼさんも奇跡的に気づかれなかった。そのことにビセットは内心神に感謝し、バーシアを恨んだ。
「…これ、2つ」
 更紗が指差す先には美味しそうなケーキが並べられていた。
「あ、それって結構美味しいんだよね。一昨日食べたからよく知ってるよ。リーゼさんがつくるから当たり前なんだけどね」
「ありがとうビセットくん。そういってもらえると嬉しいわ」
「はい、どうぞ」
 代金と引き換えにケーキを入れられた箱を受け取ると、更紗はペコっと一礼してそさそさと行ってしまった。まだ、買い物は色々とあるのだ。
「それで、ビセットくんはどうするの?」
「じゃあ、更紗と同じヤツを20個お願いします」
「20個も。珍しく多いわね」
「あ、オレだけが食べるわけじゃないですよ。実は…」
 ビセットは幾分かリーゼに近寄って、耳元で事情を説明した。
「それなら、是非お伺いするわ。だったら、あのケーキの大きいものを焼いた方がいいわね」
「あ、そうしてくれるんならお願いします。やっぱリーゼさんは優しいな」
「フフ、きっと驚くわよね」

『…あ、ルシード、スクランブルだよ。バーシアのヤツがへましちゃったみたいでさ』
「何っ!?…バーシア、あれほど言っておいたのに」
『どうする?このまま実行する?』
「…そうだな。仕方がない。ビセット、お前はバーシアみたいにへまするんじゃないぞ」
『わかってるって。もう少し信用してよ』
 そのビセットの言葉を信用して、ルシードは通信を切った。
 ここはブルーフェザーの事務室兼生活空間だ。そこにはルシードの他にもフローネ、ルーティ、ゼファーにメルフィ、そしてティセがいた。
「ったく、やっぱバーシアに任せるんじゃなかったぜ。ビセットもへまをしなきゃいいんだが」
「ルシード、少しは落ちついたらどうだ。過ぎてしまったことを言っても仕方がない…これからをどうするか考えなければ」
 最年長者のゼファーがルシードを窘める。しかし、まだ全ての怒りが消えたわけではない。
「そうですよ、センパイ。まだ失敗したわけじゃないんですから」
「そうそう。バーシアだってきっと反省してるって」
「…あのバーシアさんが反省しているなら、どれほど楽なことかしら」
 ルーティの言葉に真実を込めたメルフィの突っ込み。この言葉に反論が出るはずもなかった。
「ご主人様〜、ティセもがんばりますから〜」
「…ああ、そうだな。じゃ、これから作戦通りに…」
 ルシードの言葉を遮るように唸るサイレン。いつ来ても嫌な音だ。
「…よりによってこんなときに」
 ギリギリと歯噛みが聞こえてきそうなほどルシードの怒りは増加していくばかりだ。そんなルシードにティセとフローネはオドオドしている。
「ルシードさん、新市街で事件発生よ」
「なら、ビセットとバーシアに連絡をいれて先に向かわせてくれ。おそらくビセットのほうももう終わっているはずだからな」
「わかったわ」
「よし、それじゃ行くぞ!」
「待て、ルシード」
「っ!?何だよゼファー!今時間がないんだろうがっ!」
「だからこそ待てと言ったのだ。今回は俺が出る」
「…は?お前、足は?」
 ゼファーの言葉を理解するのに数秒の時間がかかったが、理解してみれば驚くべき内容だった。ゼファーは足が原因で第一線を退いたのだから。
「問題ない。今回はそれほど強い魔法能力者でもない。それに、俺一人が戦うわけではないからな…」
 余裕のある笑み。この表情を見ていたら、理屈抜きで任せられる。そんな雰囲気をゼファーは纏っていた。
「…だから、ルシード、お前はフローネ、メルフィとティセを連れて先に「ミッシュベーゼン」へ行け」
「…わかった。だけど無茶だけはすんじゃねえぞ」
 有無を言わせないゼファーに対して、ルシードはそんなことしか言えなかった。
「わかっている。俺も自分の体のことはよくわかっているからな。では、そちらを頼んだぞ…ルーティ、先を急ぐぞ」
「うん、ゼファーこそおくれ…ない…」
 ルーティが「送れないでね」と言おうとした瞬間には、ゼファーは神速の歩行で先に行っている。
「ちょっと待てぇっ!!!!」
「…なんだ、ルシード。時間はあまりないんだぞ」
 また神速の歩行でゼファーは戻ってきた。本当に何でもないことのように。
「お前、なんだその速度は!?走れなかったんじゃないのか!?」
「だから歩いているんだ」
 平然とゼファーは言ってのけた。これほどのことすら、ゼファーにとって当たり前の行動なのだろうか?
「どこに走るより早い…いや、歩いて世界記録並の速度が出せるんだ!」
「それなら簡単だ。前に出した足に体重がかかる前に、次の足を前に出す。この繰り返しをしているだけだ。その気になれば水面だって歩けるぞ」
「…もういい、だからさっさと行け」
「わかった。お前のほうもぬかるなよ、ルシード」
 そういってゼファーは神速でこの場からいなくなり、ブルフェザー最速を誇っていたルーティがゼファーを見失わないように一生懸命走っていった。
「………………さて、オレ達も行くか」
「センパイ、大丈夫ですか?」
「ルシードさん、顔色が優れないようだけど」
「………大丈夫だ。それよりも、更紗が帰ってくる前にやるぞ」

 後日、皆は語る。ルーティ曰く「ゼファーって絶対何か隠してるよ、現場に向かうとき何か電話してたもん。良く聞こえなかったけど、『私が戦います』とか『街を破壊するな』とか『犯人を殺すな』とか色々と聞こえてきたんだもん」
ビセット曰く「ゼファーって強かったんだね。オレが到着したころには既に解決してたんだから」
バーシア曰く「へぇ、まだ現役のときから衰えてないじゃん。こりゃルシードに席を譲ったのは楽をしたかったからだね。アタシもそうしたいな〜」
犯人曰く「…俺が悪かった……だから…頼むから殺してくれ……なぁ、頼むよ……」

「おや、いらっしゃい」
 ジラの活気溢れる声に、ルシード達は歓迎された。
「バーシアならさっき連絡がきて行っちゃったけど、アンタらは大丈夫なのかい?」
「それなら問題ないさ。ところで、更紗は?」
「まだ帰っちゃいないよ。色々と頼んだからね。更紗には少々、悪いことをしたねえ」
「そんなことないですよ。本当に必要だって思ったからあんなに頼んだんでしょう」
 ジラが少々罪悪感を出して言うので、フローネが咄嗟にフォローをいれる。
「じゃあ、皆さん、急ぎましょうか。ゼファーさん達なら問題ないですけど、更紗さんが帰って来る前に終わらせませんと」
「そうだな。よし、みんな頑張るぞ!」
 そうルシードがみんなに気合を入れてから、十数分後に、リーゼとシェールの二人がミッシュベーゼンを訪れた。
「やっほー。みんな頑張ってる?」
「みりゃわかるだろ。お前も手伝え」
「もちろんそのつもりだよ」
「こんにちは、ジラさん。これ、ビセットくんに頼まれたものです」
「おや、ありがとうね」
 ジラはリーゼから大きな白い箱を受け取ると、大切にカウンターの上へとおいた。
「もう少しだからな。手を休めるんじゃないぞ」
 ルシードが激を飛ばし、一気に準備は完成していく。

 更紗は市場に来ていた。青いメモ用紙に書かれていた物が、ここでは一番多く手に入るからだ。
 いつもこの市場は賑わっている。だけど、今日はいつもとは違うざわめきが広がっていた。近くにいた人に聞くと、何でも事件が発生したそうで、ブルーフェザーのメンバーが解決したらしいのだ。それも先ほど。
「あ、更紗」
 いきなり声をかけられて、振りかえるとそこにはバーシアがいた。
「え、更紗?どこどこ?」
 そのすぐ後にビセットとルーティ、そしてゼファーが姿を現した。
「…珍しい組み合わせだね」
 率直に思ったことが自然と口から出た。
「そうだよね。ゼファーが現場にいるんだもんね」
 更紗の意見にルーティが同調する。
「フ…たまにはこんな日があってもいいだろう」
 ゼファーは微笑を浮かべてそう言っただけだ。
「そういえばさ、更紗はお使いは終わったの?」
「…ううん、あとちょっと」
「なら、。オレ達も一緒にまわってあげるよ。どうせミッシュベーゼンに行く用事があるから」
 そうビセットが言うと、更紗が重そうに抱えていた袋を持つ。
「…ありがとう」
 そして、5人はお使いを終わらせると、ミッシュベーゼンへと帰路を辿った。

 パーンッ!!
 ほんの僅かずれているが、複数のクラッカーの音に更紗は驚いた。何時の間にか一緒にいたビセット達もクラッカーを一緒に鳴らしていた。
「……なに、これ?」
 ミッシュベーゼンの中は明るく飾られており、テーブルには所狭しと料理が置かれている。その中心には、今日更紗が選んだ種類と同じケーキがある。
 そして、大きな看板が掲げられていた。その看板に書かれた文字は…
「更紗、1周年おめでとう」とかかれていた。
「今日が更紗がここに来てから1年がたっただろ?そのお祝いだ」
 ルシードが何故か照れ臭そうに言う。他の皆も笑顔を浮かべている。
「みんな、ありがとう」
 自然と更紗の顔にも笑顔が浮かんでいた。

<FIN>


後書きらしきもの

ここまで読んで頂きまして、真にありがとうございます。(深々)
ハッキリいまして、何を書きたかったのか私にもわかりません。(超爆殺)
しかも、DigiDigi様が仰られた設定がどれほど生かされておりますか見当もつきません。(汗)
これ以上は敢えて何も述べません。(滝汗)
これがDigiDigi様の『1010HIT』のお祝いになりましたら本当に嬉しく思います。
では、以上で失礼いたします。

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